学園スレイヤーズ!!
第一限「学園スレイヤーズ!」

私立「ソレイヤ」学園は、とんでもない学校だった。
 
所在地は富士山麓のふもと、悪名高い樹海のすぐご近所だ。
なぜこんな立地条件なのかと言うと。
‥‥‥‥土地が安かったからじゃないよ(笑)
 
 



「ファイア〜ボ〜ル!!」
「まだまだ甘ぁい!!もっと全力で行けえ!!」
「はい、先生!」
「フリーズアロ〜!!」
「うむ。なかなか上達したな。」
「ありがとうございます!先生!!」
「よおし、1班から3班は引き続きファイア〜ボ〜ル30本!4班から6班は今から先生がフレアアローノックをする!一人3回ずつ受けるように!
7班から9班は、フリーズアローを練習。始め!!」
 
学園の校庭では、高等部の2年生女子の体育が行われていた。
胸からホイッスルとストップウォッチを下げ、くたびれたジャージを着込んだ体育の先生は、普通の学校と何ら変わるところはない。
授業内容を除けば、だが(笑)

女生徒達は、よく想像されるところのブルマ姿ではなく。
揃いの白い防護服を着ている。
呪的に保護されている服で、万が一にも自分の失敗した魔法を浴びても効力を消すことができるとされている。
 
校庭に面した学び舎では、各種授業が行われている。
黒魔法。白魔法。精霊魔術。
世界の構成を学ぶ社会。
混沌の言葉を習う国語。
呪文の効力を瞬時に計算するための数学。
呪文の相似効果を習う物理。
亜種の生物に対する知識を得る生物。
薬草の取り扱い方や、タリスマンなどの呪符の作り方などの講義もある。
 
つまり。
「ソレイヤ学園」とは、魔法を教える学校なのだ。
 
 
 
 
ぼがああああああああん!!
 
「きゃああああああああ!!」
「な、なになに!?」
「なんだ、どうした!!
2年B組のリナ=インバース!!またおまえか!!」
「ちゃは。まあたやりすぎちった。てへへ…」
「てへへじゃない!!」

ファイアーボールの練習をしていた班の一人が、とんでもなく広い校庭をつっきり、天まで届くかと思われる塀をぶち壊し。
樹海のはじっこをちょっぴり焼いてしまっていたのである。

「7班!!行って消してこおおおおおい!!」
「は、はい!!」
先生の掛け声で、フリーズアローを練習していた班の全員が駆けつける。
ぱちぱちと燃えている木立を、何とか消し止める。

「リナ=インバース!!ちょっと来い!!」
「はあ〜〜〜い。」
頭をぽりぽりとかきながら出てきたのは、ひときわ小柄な女生徒。
大きな目と、艶やかな栗色の髪が特徴的だ。
「〜〜おまえは!!この間も言っただろうが!
何回学校の塀をぶち壊せば気が済むんだ。ちっとはセーブせい!次やったら両親呼び出すぞ!」
「うええ。わ、わかりました〜〜。もーしません。」
「以後、気をつけるように!」

びし、と先生に釘をさされ。
たはは、と冷や汗をかきながら班に戻るリナ。
「まあた怒られちゃったよ。てへ♪」
「お〜ほほほほ。いつものことじゃない♪」
口に手の平をあてて高らかに笑う隣の女子生徒を、リナは半目開きで振り返る。
「あんたに言われたくないわよ。マルチナ。
あんたこそ、また服装検査にひっかかったでしょ。」
「お〜ほほほ。わたくしのセンスがわからないのよ。先生方には♪」
「センスとか言うモンダイか、あれが…?」
「お〜ほほほ。」
 
リナと同じクラス。
しかも席が後ろのマルチナは、某国の王女という噂だがその真偽は明らかではない。
派手なグリーンの髪は、顔の横でくるくるの縦ロールになっていて、派手なこときわまりない。
だがその髪型よりも。
今朝風紀委員の服装検査にひっかかった服装よりも。
その性格が一番派手で不可思議かも知れなかった。
寮でも同じ部屋のリナは、夜中に目がさめたことがある。
蝋燭をたった一本立てたその前で、ルームメイトであるそのマルチナが。
何をしているかと思えば、一心に自作の偶像(かなりブキミ)に向かって祈りをささげていたのだった。
………以来、こいつには深く関わるまいと、思ってはいるのだ。
 
 




さて。次の授業は生物だった。

「次は、マンドラゴラについてですが。皆さんご存知の通り、マンドラゴラの根は、魔法薬を作るうえでもっとも重要な材料のひとつなんですね。ただ、これを取るときには注意が必要です。」

教壇では、分厚い教科書を片手にしたにこやかな先生が、黒板を指し示していた。
 
「ねえ。」後ろの席から、こっそりとマルチナが声を掛ける。
「ん〜?」教科書をにらみながら、リナ。
「最近、学校を休む子、多くない?」
「あ〜。インフルエンザ流行ってるからね。」
興味のなさそうな調子でリナが答える。
「それだけかしら。」意味深そうな声のマルチナ。
 
「どうしてかっていうとですねえ。マンドラゴラの根には、オスとメスがあるんですが、メスのマンドラゴラはヒトの形をしてるんですねえ、これが。」
 
「だって、休むのは通いの子ばっかりなのよ。寮生は少ないじゃない。」
「う〜〜ん。寮で流行ったらあたし達も気をつけなくちゃね。」
「そうじゃなくて…」マルチナの声はじれったげだ。
 
「引き抜くときに、マンドラゴラはこの世の終わりのような悲鳴を上げます。それは、側にいる人間を殺しちゃうくらいすごいんですよ。ですから、抜いたときにはその人間は死んじゃうんです。怖いですねえ♪」
 
「何日も休んでる子の家に、お見舞いに行った子がいるのよ。
そしたら、なぜか会わせてくれないんだって。」
「そりゃ、インフルエンザがうつるからでしょ。」
「それが、両親がまるで泣きはらしたみたいに目が真っ赤で、様子もおかしいって。」
「ふうん?」
 
「ところでそこのお二人さん。僕はとても刺激的な授業を心がけてるんですが。僕の話よりもっと刺激的なお話をされてるのかな?」

「げ。ゼロスせんせ…・」
にっこりと腕を組んでこちらを見ているのは、生物のゼロス教諭。
肩で切りそろえたおかっぱ頭の、童顔の教師である。
いつもにこにことしており、怒ったり取り乱したりした顔は、誰も見たことがない。
「ゼロス先生〜〜〜。
リナさんが前の席から話し掛けてくるんですう。わたくし、困ってたんですわあ♪」
「ま、マルチナ…あんたね。」
「僕の授業が物足りないなら、後で特別講習をしてあげますが?」
「うっ…」
 
ゼロス先生の特別講習ほど、学生の間で謎とされているものはない。
その内容は、参加した者から訊くことができないので今もって不明だが。
特別講習とやらを受けた生徒はまるで魂が抜けたようにぼ〜〜っとして。
まるで廃人のように、使い物にならない状態が少なくとも一週間は続くのだ。
………恐るべし。ゼロス講習。

「なら、おしゃべりはやめて。しっかり訊いててくださいね♪」
「は、はい…」
 
マルチナとリナの、生徒の集団欠席の話はここでいったん立ち消えた。
 


次のページに進む。