「タマシイという名のゆーれひ。」


 
「へくしゅっ」

夕食の席だった。
ガウリイが大きなくしゃみをひとつしたのだ。
その日、泊まることに決めた宿屋の、向いに位置している食堂の中である。
 
「げ。きったな〜!あんたね、くしゃみすんならあっち向いてやってよ!」
思わず皿を抱えて逃げたリナが文句をたれた。
「わりいわりい。」
鼻をすすりながらガウリイが素直に謝る。
「ガウリイさん、風邪引いたんじゃないですか?」
アメリアが言うと、リナとゼルガディスがさっと青ざめた。
「ガ、ガウリイが風邪を引くなんて・・・!」
「バカは風邪引かないはずなのに・・・!」
カルチャーショック受けてどーするゼル。

「あ、あのなあ、お前らあ・・・・」
「そーですよ、ガウリイさんだって風邪くらい引きますよ、いくらバカだからって。」
「アメリア・・・それぢゃフォローになってないってι」
リナが思わず突っ込むと、アメリアが真顔でちろりと横目を送った。
「リナさん・・・大体、リナさんがガウリイさんの風邪の原因を作ったんじゃないですか?」
「あ、あたしっ!?な、なんでえ?」
「だって。今日の昼間。川を渡るのに、橋まで行くのメンドーだからってレイ・ウィングで上を飛んだでしょ?」
「うん。だって橋が遠かったんだもん。」
きょとん、とリナ。
「でもその真中でガウリイさんを川におっことしたの、リナさんでしょ。」
あう。
「そ・・・そおいう事実もあったかもしんない。わはは。」
「わははじゃない。あの川は雪解け水の流れる川だ。水温はかなり低かったと思うぞ。」
冷静な観察ありがとうゼル(笑)
「だ、だって、あっちの岸にやたらとやぶ蚊がいたっしょ?あちこち刺されてめーわくしてたでしょ〜が、あんた達も。」
「そりゃあそうですが、リナさんかなり呪文で吹っ飛ばしてたじゃないですか。」
「そ、それに・・・・・・。」
口ごもるリナ。こころなしか顔が赤い。
「それにガウリイが・・」
 
「へ?オレ、なんかしたっけか。」
ごにょごにょと言い訳を始めたリナの顔をガウリイが覗き込む。
「べ、べ、別にっ。何でもないわよっ。」
アメリアがぱかぱかと揚げたてのコロッケを口に運びながら言う。
「とにかく。今日のところは早く寝た方がいいですよ。ガウリイさん。さっきからあんまり食べてないじゃないですか。顔色も悪いし。明日になったら、お医者様に見てもらいましょう。」
「そうするといい。鬼の霍乱てこともあるしな。」
「・・・・なんだかわからんが、わかった。」
ぽりぽりと頭をかきながらガウリイが席を立った。
その背中を見送る三人。
 
「しっかしあのガウリイが川に落っこちたくらいで風邪引くとはねえ。」と、リナ。
「まったくだ。リナのファイアーボールでもディルブランドでもくらっても生きてた男が。」
「ひどい目に遭ってますよね、ガウリイさん。」
「あ〜め〜り〜あ〜・・・・なんか言った。」
い、いえっ!?あ、あたしは何もっ!ゼ、ゼルガディスさんが何か言ったんですよ、ね?ね?」
「何故俺を巻き込む・・・・」
 
 
 




わを〜〜〜〜〜〜ん。
わんわんっ。


夜中。
喉が乾いて目が覚めたリナは、マントを羽織りそっと部屋を出た。
「う〜〜〜さむ。」
隣の部屋のドアにちらっと視線をやる。
「ホントに風邪かしらね、あのバカ・・・」

するとそのドアが、きぃぃぃぃぃぃっ・・・と開いたのである。
げ?
開いたドアの向こうには、真っ暗な部屋。
中央に人影らしきものが見える。

「ガウリイ・・・?」
そうっとリナが覗き込む。
見慣れたシルエットは確かにガウリイだった。
 
「あんた、何やってんの?か、風邪引いたんなら、寝てた方がいいんと違う?」
何も言わず、暗闇でじっと立っているガウリイに、リナがおそるおそる言う。
何だかいつもと様子が違った。

「・・・・リナ。」
ガウリイが口を開いた。
「ちょっと来てくれ。」
「・・・・・は?」

一瞬躊躇したが、リナがとことことドアの中に入った時だ。
ガウリイの腕が伸びてきて、くいっとリナを引き寄せた。
「ガッ!?ガガガガガウリイっ!?」
途端に慌てるリナ。
「・・・・・リナ・・・・・・」
リナを抱き寄せたガウリイは、長身を折るようにして身を屈め・・・・
 
 






「きゃあああああっっ!!」
づどごがどばきしっ!!
 

「なっ、何だ!」
「どうしたんですか、リナさんっ!」

両隣の部屋から、アメリアと剣を持ったゼルガディスが飛び出してきた。
「今の悲鳴はっ!?」
廊下で顔を見合わせた二人は、開けっ放しのガウリイの部屋に気がついた。
「ガウリイっ?」
「リナさんっ?」



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