「タマシイという名のゆーれひ。」


「ガ、ガウリイっ!!」
びびびびくううっ!!

リナはぴょこんと立ち上がると、さっとアメリアの影に隠れた。
がたがたと震えている。

「リナさん、何をそんなに怯えてるんです・・・?」
「やれやれ、ガウリイのダンナも苦労するぜ・・・。」
ゼルガディスが男同士の同情を披瀝する脇を、ガウリイがゆっくりとしたペースで通り過ぎる。
「リナ・・・・。」
あああアメリアっ!た、たすっ、たすけっ・・・」
「ほらほらリナさん、照れてる場合じゃないですよ。きちんとガウリイさんの気持ちを聞いてあげるべきです。」
背後に隠れたリナを、ぐいっと前に突き出すアメリア。
立ち止まったガウリイと、目に見えて青ざめたリナが対面。
「リナ・・・・・・」
「ガ・・・・・・ガ・・・・・」
「リナ・・・・・・。
今宵の君は、あの月も恥じらうほどに美しい・・・・・。」
 




づるっ!!
ガッターーーーーンッ!!!
ぐさっ!
 
アメリアとゼルガディスが、思いきり床にノビた。

「い・・・・・・・・今のは一体・・・・・・」
顔を床に叩き付けたまま、アメリアが呟いた。
髪の毛を床に突き刺したまま、ゼルガディスがぼやいた。
「な・・・・・なるほど、こういうことか・・・・。」
 

二人にかまわず、ガウリイのポエムは展開していた。
めくあのよりも、んだはこののどんなにもる。月明りにかぶ(かんばせ)は、薔薇もそののくれないこそ似つかわしい。
そしてよりもしいは、まるで天上める女神のようだ・・・・・。」





っっっし〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・


ガクゼンとした二人。
ボーゼンとしたリナ。

そのリナの腰を、くいっとガウリイが引き寄せる。
かしき乙女よ、やかなるくちづけ嘉納するびをえたまえ・・・・・。」
その細い首に、ガウリイの顔が近付く。
 



「ぎゃああああああっ!!」
ばしばしばしっ!!

パニックに陥ったリナの、痛烈な往復ビンタがガウリイを襲う。
せっかくの美形台無し!
頬がまるで◯ー◯ンのように腫れ上がる。

イヤ〜〜〜〜〜〜っっ!!
だから言ったでしょおおっ!!!???」
ばきいっ!
今度は肘鉄砲発射っ。
ぐらりと揺れた長身の背中にタックルっ!
床にビッターンとノビたガウリイの上に乗り、腕を逆手に取ってキメる。

「こっ、こんなの、ガウリイじゃないわよおおおおおっっっ!!

カンカンカンカンっ!

(どこからかゴングの音)












ふがふが。もがもが。

「ふう。これでよし、と。」

「おい・・・・。何もベッドに縛り付けなくても・・・・。」
ロープをぎゅうぎゅう引っ張っているリナにゼルが声をかけたが、返ってきたのはアクマのよ〜な三角の目の視線だけだった。
「猿ぐつわまで・・・・。」
体をベッドに固定され、ハンカチで口まで覆われたガウリイを気の毒そ〜に見守るアメリア。
「ならアメリア、もっかいあの背筋も凍りそ〜なガウリイのセリフ、聞きたい?」
「い・・・・いえ・・・・・・。遠慮しときます・・・・。」

「しかし、あれがガウリイの口から出たセリフでなければ、ただの浮ついたくどき文句にしか聞こえないが・・・。」とゼルガディス。
「ええ・・・。あのガウリイさんが口にすると、何かうそ寒いものを感じますよね・・・。」
こわごわと、ガウリイの様子を伺う二人。
「一体何がどうしちゃったんでしょうねえ。」
「う〜〜〜む。」
リナの部屋のテーブルを囲んで、三人が顔を寄せ合う。
 

アメリアがぽん、と手を叩いた。
「そうだ!ガウリイさん、風邪引いてましたよねっ!?」
「・・・・まあ、そうだが・・・。だから何だ?」
「だから、鬼の霍乱ですよ!熱が出たか何かのせいで、頭の中の回路に異常をきたしたとかっ!」
「なるほど・・・・。」
 
「違うわ。」
きっぱりとリナが言い放った。
「えっ、どうして違うと思うんです?」
「それはね。」
ふふふふふ、と肩で自信あり気に笑うリナ。
「異常をきたしてあんな芸当ができるよ〜な複雑な回路は、もともとガウリイの頭の中にないからよっ!」
ををををっ!なるほどっ、穿ったご意見っ!」
「おめーら・・・・・ちったあ真剣に考えろ・・・・・。」
「何よ。ゼルだってさっき鬼の霍乱で納得したくせに・・・」
「忘れろ。」
 
「ともかく、これにはちゃんとした根拠があるのよ。だって・・・。」
ぽっとリナが顔を赤くする。
「ひ、昼間。川にガウリイをおっことしたのは、アレが原因だったんだもん。」
「えええっ。そうだったんですかっ?」
「いつものよ〜に、ガウリイがあたしにしがみついてレイ・ウィングで飛んでたでしょ。したらいきなり、耳もとでさっきみたいなこと言い出して・・・・。」
「で、思わず川に落っことしたって訳か。」
リナがこくりと頷く。
「それっきり、夕食の時はふつーだったから、言わないでおいたけど・・・。あの時は熱を出してなかったんだから、違うでしょ?」
「なるほど、な。」
「じゃあ一体、何が原因なんでしょう・・・・・。」
 


ぷちぷちっ!
 

「なにっ!?」
「えええっ!?」


ロープがちぎれるような音に驚いた三人が目をやると、ガウリイがベッドの上に直立して立っていた。
足元に、確かに厳重にリナがゆわえたはずのロープの切れ端が。

自由になった手でするりとハンカチを外すと、ガウリイはゆらりとベッドから降りた。
「・・・・リナ。」

うわあああああっ。
あ、アメリアっ、ぜ、ゼルっ!なっ、なんとかしてえっ!」
「な、なんとかって言われてもっ・・・・!」
「お、落ち着け、ガウリイ!お前の気持ちはよ〜〜〜〜くわかったっ!お、俺が責任持って仲を取り持つから、この場は一旦納めてくれっ。」
「ちょっとゼルっ!何勝手な約束してんのよっ!」
「お前が何とかしろとゆ〜ただろ〜がっ!」

「・・・・リナ。」
「ガ、ガウリイさんっ、り、リナさんはほら、照れているだけですからっ。じ、時間をかければきっと、素直になってくれますよっ。だ、だからねっ、こ、事を急がなくてもっ。」
「アメリアもっ!勝手に話をそっちの方向に持って行かないでよぉっ!!」

「ガウリイ。」
「ガウリイさん。」
二人がガウリイの腕を取り押さえようとした時だ。
ぶわっっ!!
いきなり風が巻き起こり、二人はそれぞれ、壁まで吹っ飛ばされてしまった!
 

「・・・・・リナ。」

なおも近付くガウリイ。
後ずさるリナ。
「・・・・・リナ。」
「こっ、来ないでよぅっ!」
さすがに宿屋の中、派手な呪文は使えないリナが躊躇する。
その一瞬の隙を捉えて、またもガウリイがリナを強引に抱き寄せる。
「ちょっ!?」
「・・・・・・リナ。」
ガウリイってばっ!!
ア〜〜メ〜〜リ〜〜ア〜〜〜っっ!!」
 

「・・・・仕方ありません・・・。」
おでこをさすりながら、アメリアが立ち上がり呪文を詠唱。

『眠り!(スリーピング)
 

「・・・・・・あれ?」

呪文は発動しなかった。
いや、発動したが、ガウリイには効かなかった。

「ア・・・アメリア、あんたね・・・・・。」
代わりにリナにかかってしまい、リナがくたりとガウリイの腕の中に倒れ込む。
そのままくーくー眠ってしまった。
「うわきゃあああっ!?」
「アメリア・・・・事態を複雑にしてど〜する・・・・!ど〜やって収拾をつける気だ・・・・ぐー・・・・・・。」
「あああっ、ゼルガディスさんまでっ!」

アメリア、絶体絶命。
かたや無敵のガウリイ、頼りのゼルガディスは熟睡。リナも意識がない。

「リナ・・・・・。」

再びガウリイがリナの首筋に顔を近付ける。
かぐわしき血乾杯。」



「どえええええっ!?」
 
 

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