「4 for Four」
きーぷおんしゃいにんしゃいにんしゃいにんおん♪


「ふふふふふ。」

わだかまる闇の中、怪しげに響き渡る声。
「そろそろ観念したらどうだ。」



足元にまとわりつく、紫色の霧を踏み付けて。
姿無き敵に向い立ちはだかる、一人の小柄な少女。

不敵に肩を聳やかし、耳にかかる栗色の髪を指で払うと、ふふんと笑う。
「それはこっちのセリフよ。」

声が谺する天井から、ききき、と生き物の声。
ばさばさとうごめくカビくさい翼の群れ。
そんなことには一切構わず、リナは相手に向って一歩を踏み出す。
「こんなところにあたし一人閉じこめたくらいで、どうにかなると思ってるの?」

「・・・強がりを言うな。お前の仲間は全て引き離した。今頃は迷宮の奥を彷徨っている頃だ。・・・・お前は孤立無援なのだ。」


じゃり、とリナのブーツが砂利のような床を踏む。
「迷宮、と言ったわね。何をしたの。」
「・・・素直に答えが返ってくると思うのか?」
「・・・さあね。もしかしたら、ってこともあるんじゃない。何でも、やってみなくちゃダメかできるかわかんないってもんよ。」
「・・・・。」
闇からため息のような声。

「お主には恐怖の感情はないのか。狭い洞窟の中、使える呪文も限られてくるだろう。ましてやお前の仲間もこの洞窟の中で彷徨っておる。派手な呪文でも使えば仲間もろともに粉微塵だ。」
「・・・・悪いけど。」
リナは腰に手を当て、無い胸を張る。
「あたし、まだ負けるなんて思ってないの。」
「なんだと?」
「だってあたし一人でもあんたなんかじゅ〜ぶん倒せるけど、もうすぐ仲間までやってくるもんでね。全然、恐くなんてないんですけど。」
「・・・・・。」


ばさばさばさっ。
数匹の蝙蝠が飛び立つ。
姿無き敵は姿を現わす。
それは黒いマントに身を包んだ、大柄の男。
頭が洞窟の天井に届きそうだ。
いまだ影から出てこようとしないので、見えるものはシルエットのようなものだ。

「よいか。この迷宮に入った時点で、お前達は私の仕掛けたトラップに入りこんでいたのだ。」
「ふうん。ま、そんなとこでしょうね。」と、リナ。
「宝が隠してあると噂を流させたのも私だ。少々子供じみた手だったが、お前達には十分通用したようだな。」
「ほっといてちょーだい。」
「まあよい。私の仕掛けたトラップとは、異世界の地から伝わりし呪法。お主らがわからなかったのも無理はない。触媒を使い、結界を生じ、術者の思う通りの異空間を作り出し、それに誘い込まれた敵を閉じ込めるのだ。」
「ほうほう。」
「・・・何をしておる。」
「んや?いやあ、今後の参考にメモしてんの。気にしないで続けて。」
「・・・まだわかっておらんようだな。お主に今後がないということを。」

影はばさりとマントを広げる。

「お主の仲間の情報は集めてあった。それぞれの弱点もな。」
「じゃ、弱点っ!?
リナの声がひっくり返る。
影はやっと自慢げに笑うことができた。

だがそれも束の間。
「それっ!あいつらが来る前に、あたしにこっそり教えてっ!

ずるうっ。

コケかけた影は、危うくバランスを取り戻す。
「お・・・・お主には緊張感というものがないのか・・・・。」
「ふっ。あるわよ。特に、最後の肉ダンゴをガウリイと争う時なんかね。」
「・・・・・・。」
「で、皆の弱点ってっ!?」
「・・・もおいい・・・・。と、とにかく、私は考えに考えてトラップを仕掛けたのだ。お主の仲間が迷宮の奥深く彷徨うようにな。」
「へえ・・・?」
「信用しとらんようだな。」
「いいえええ。ただ、純粋なきょーみがあるだけ。」
「・・・・。強がりを言うのも程ほどにしたまえ・・・。私の仕掛けたトラップは完璧だ。誰も、あの迷宮に自ら彷徨い混むに違いない。」
「・・・・・。」

黙り込むリナを見て、影はやっと溜飲を下げたのか、ふっと笑う。

「ここまでだ、リナ=インバース。さあ、今まで溜めたお宝の数々、隠し場所を吐いてもらおうか。」
うつむいたリナが、小さな声で答える。
「・・・それが目的だったのね。」
「そうだ。盗賊キラーとして名高いお主、さぞかし財宝を溜め込んでいるだろう。持ち歩くには邪魔だろうし、どこかに隠してあるに違いない。素直に教えれば、命までは取らないと約束しよう。」
・・・・・やだ。
「??お主・・・今、何と言った。」
だから。やだ。
「聞こえんぞ。」

すうっと息を吸い込んで、リナは言い切った。
やだ、って言ったのよ、あたしはね!」
「な、なんだと!」
「第一、人様にプレゼントするほど財宝なんかないわ。魔道の研究にみんな使っちゃったもん。でもあったとしても、やんない。」
「こ、この小娘ぇっ。」
影がゆらりと揺らめき、リナに向って印を組もうとした時だ。
突然リナの背後から声が聞こえた。

「振動弾(ダム・ブラス)!」


しゅごおおおおおおおっ!!

リナの左後方から、壁が崩れる轟音。
もうもうと舞い上がる埃。

腰に手を当て、リナは影を見上げてウィンクする。
「言ったでしょ。もうすぐ仲間が来るって。」
マントで顔を庇い、さらに奥へと後退する影。
「お、お前は!私の術が効かなかったと言うのか!」

埃の中で、魔法がかけられた刃がきらりと赤く光った。
続いて現れたのは、フードを目深にかぶった白装束の男。
振り返りもせずにリナは男に向って言う。
「遅かったじゃない、ゼル。」

片手でフードを降ろしたゼルガディスは、油断なく影に目を配りながら答える。
「ああ。場所は思った通りだったが、道が入り組んでいたからな。」
「・・・・。」
リナとゼルの会話に、うろたえる影。
「どういうことだ。クレアバイブルが欲しくなかったのか・・・。」
ゼルは剣を両手で構えると、リナの左隣に並ぶ。
「ああ。あんたが仕掛けたトラップだったな。欲しかったさ。だが、もっと大事な用があったんでな。」
「・・・なんだと・・・。」

対峙する三人の耳に、微かな悲鳴が聞こえてきた。
「な、なんだ?」と、影。

「きゃあああああああ。恐いですううううううっ!」

ゼルの壊した壁から、両腕で頭を覆った小柄な姿が走り出てきた。
「コーモリがいるんですぅっ!恐いですうううっ!」
どっしん!

走り込んで来た者は、ゼルの背中にぶつかると跳ね返ってしりもちをついた。
「いったぁ。」
「・・・何やってんのよ、アメリア。」脱力するリナ。
「・・・立てるか。」お尻をさするアメリアに、ゼルが手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます。だって、コーモリがいたんですよお。」
「洞窟に蝙蝠がいたって、別に不思議じゃないでしょ。」
「だってだって。苦手なんです〜〜〜。」

ど、ど、ど・・・・。
動揺し、声も心なしか震える影。
「お、お主には、確か悪の秘密結社の本部を教えてやったのに・・・。」
アメリアは埃のついた服をぱんぱんと払いながら、リナの前に出る。
「あなた!ね!」

ずどおっ。
影、コケる。

「そ・・・・そういうことかっ!?」
「そういえば、途中に変な看板がありました。こっちが悪の組織の本部だって書いてありましたが・・・。あっ!あれは、罠だったんですねっ!?ああ、良かった〜♪」
「な、何故そっちに行かなかったのだ!」
問いただす影に、アメリア、てへへと笑う。
「悪の組織を潰すのも魅力的でしたが、もっと大事な用があったものですから。」
「・・・・お主もか・・・・?」とまどう影。

「うおりゃあああああっ!」
今度はゼルガディスが壊した壁の反対側の壁から、気合いの入った声が響く。
「オラオラオラオラオラオラっ!」

ががががががが。
細かく振動する岩室。
「な、なんだ、なんなのだ、一体っ!」
リナはぽりぽりと頭をかく。
「来たのよ。」
「来たって・・・・まさか?」
「そのまさか。あんたの術に一番ひっかかりそーな、スライム頭のやつが、来たのよ。」
「そ、そんなバカな・・・・。」

「オラっ!!」
がらがらがらがらっ!

崩れた壁の向こうから、背の高い男が姿を現わす。
「ふう。」
額の汗を拭うと、ガウリイは陽気に声をかけた。
「よ。リナ。こんなとこにいたのか。」
「まあね。」
「お、ゼル。それにアメリアも。なんだ、皆でここにいたのか。」
瓦礫をざっくざっくと超えて、長剣を片手にガウリイが入ってきた。
もはや影は、より深く闇の中に姿を隠そうと後じさりしている。
ガウリイはリナのやや後方へ辿り着いた。
そして一言。
「なあ。こいつ・・・・なんなんだ?敵か?」

ずるうり。
影も含め、他の三人もコケる。

「あ、当ったり前でしょ!このじょーきょーが見えんのかぁっ!」
すぱあああんっ!
まずは出合い頭のリナの攻撃。
「いやオレ、来たばっかりだし。」
頭をかきかき、すぐに復活するガウリイ。

「な・・・何故だ・・・。」呟く影。
「その男には魔法剣のありかを教えてやったのに・・・。お前までが・・・。何故、お前達は私の術にかからなかったのだ・・・。」

「かからなかった訳じゃない。もっと大事なことがあったからさ。」とゼル。
「そうです。悪を成敗するのも正義ですが、もっと大事なことがあったのです!」とアメリア。
「え?術だったのか、あれ?」とガウリイ。

ずいっと前に出たリナは、手のひらの間に光球を生み出しながら。
影に向い、最後のセリフを投げる。

「だから言ったでしょ。あたし一人でもじゅ〜ぶんだけど。
仲間が、来るってね!」
「ひいいいいいいいっ。」




ぐわらわらわらわらっ。

「ふぃ〜〜〜。危なかったぁ。」
「・・・おひ。」ゼル、肩を震わせる。
「危なかった、じゃない。あんな洞窟の中で、特大のファイヤーボールをぶっぱなすやつがあるか。」
「てへっ。」
「本当ですよ、リナさん。わたしとゼルガディスさんが風の結界を張らなかったら、皆が今頃は瓦礫の下敷きですよ。」
「それにガウリイが退路を作ってくれたからな。」
「ま、皆が無事だったから、いいじゃねーか。」

崩れ落ちた洞窟の入口の前で、四人は顔を合わせる。
にっと笑い合う。
「来てくれると思ってたわ。」
「まあな。」
「当然です。」
「ま、そーゆーことだ。」
「大した相手でもなかったけど、やっぱ、持つべき物は仲間よねっ♪」
「ごほん。」
「友情こそ、正義の源です!」
「ま、そーいうこと。」
「・・・それにしても、よく皆、あいつの術とやらに引っ掛からなかったわね。」
リナが感心した顔できくと、残りの三人は渋い顔で答えた。
そりゃあな。
ええ。
まったくだ。」頷き合う三人。
「な、なによなによ。」

アメリア、両手を広げ、深々とため息。
「だってリナさん一人にしておいたら、いつ勝手に洞窟を壊されるかわかりませんし。」
「んなに!?」
「リナ一人に戦わせておいたら、後で何もしなかったと責められるしな。」
「あ・・・・あんたたちね・・・・。」
「ま、オレは。」
ガウリイはぽん、とリナの頭の上に手を置く。
「な、なによ。」
「魔法剣よりリナの方が心配だったし。剣はリナと一緒に探せるけど、リナはリナと一緒に探せないからなあ。」と、にこり。
ぼっと赤くなったリナは、照れ隠しにくるりと背を向け、外の空気を思いきり吸い込む。
すうはあ。
うん、気持ちいい。

「さてと!じゃあ出発するわよっ!」
いきなり駆け出すリナ。

「おいっ?!」
「ま、待って下さいっ。」
慌てて後を追い掛けるアメリアとゼル。
「ったく、しょうがないなあ。」
笑いながら、やはり後を追いかけて走り出すガウリイ。

「出発って、次はどこへ行くつもりだ。」
「そんなの、わかんな〜〜〜い♪」
「リナさん、待って下さいよ〜っ」
「い・や〜♪」
「おおいリナぁ、どこまで走る気なんだあ?」


振り返ったリナは、楽しそうに付け加えた。

「どこまでも、よ!」





















====================end.

はいです(笑)あまし説明はいらないですね(笑)
スレイヤーズベストCDの2枚目の15曲目「Slayers 4 for the Future」です。仕事しながらずっと聞いてまして。
ああ、こんな話が書きたいなと思っておりました。
ガウリナでも何でもないですが。この四人組がいつまでも、どこまでも、走り続けて行って欲しいと願っております。
(あ、あと一つ、マンガねたが入ってます(笑)<オラオラ
それから罠は鬼門●●八陣の図・・・笑)
では、読んで下さったお客様に愛を込めて。皆様がいつまでも輝きますように。
そーらがお送りしました♪

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