「しあわせのカタチ。」


それはあたしが、この世界に還ってきて、しばらくしてからのこと。
とある町の、とある小屋の中で、あたしは窓から夕陽を眺めていた。

ぱたん、と軽い音がして、ガウリイが部屋に戻ってきた。
「・・・寝ちゃったみたいだな。」
「うん。」
テーブルに突っ伏すように、あたし達の子供が寝ていた。
昔話をしているうちに、眠ってしまったのだ。



よいしょ、とガウリイが小さなガウリイを持ち上げる。
「・・・ずいぶん重くなったと思ったのに、寝顔はまだ幼いな。」
三つあるベッドの端に息子を寝かせ、布団をかけてやりながら呟くガウリイ。
「そうか、な。」
あいまいな返事を返すあたしに、ガウリイはふっと笑う。
「・・・でも、あっという間だろうな。
こいつが大きくなって、誰かと一緒に旅をして、
いつか、好きな女の子ができてさ。
オレ達の許から、飛び立って行くのは。」
「・・・そうか、な。」
「そうだ、よ。」

あたしも立ち上がり、ベッドの脇にガウリイと並んで立つ。
「・・・この子も、旅に出ると思う?」
「ああ。」
「どうして、そう言い切れるの?」
「言い切ってるわけじゃないけど。
ただ、なんとなく、な。」
「ふうん。そういうもんかしら。」
「さあね。そういうもんじゃないのか?」
「・・・・・。」

手を伸ばし、ほとんどズレていない毛布の端を、ちょこっと直すあたし。
「・・・この子の、寝顔。
この目で見たのはあかんぼの時以来だから・・・・。」
「あ・・・・。ああ、そ・・・か。」
ガウリイが、ぽりっと頬をかく。
顔は小さなガウリイに向けたまま、あたしはガウリイに向って言う。
「心の一部はつながってても、ずっと傍で全部を見ていたわけじゃないのよ。
感覚として、一緒にいたっていうか。
・・・うまく・・・言えないけど・・・。」
「ああ。」

こういう時のガウリイは。
普段よりずっと、ものわかりがいい。
言葉を並べてくどくどしく説明するより。
言葉にするより先に。
わかってくれることがある。

「ああ。って・・・。
あんた、わかってるの?」
「わかってるって、なにが?」
「・・・・だから・・・・・。」
「リナが。オレの中にいたってことか?
そんなの、最初からわかってたよ。」
何を今さら、とガウリイが柔らかく笑う。
あたしはあっけに取られ。
・・・いや、なかばほとんど、わかってはいたのだが。
「わかってた・・・?最初から?ホントに?」
と尋ねる。
ガウリイの目は深い。
「ウソじゃないさ。
ずっと・・・。
声が聞こえてた。」
「声?」
「そう。ここに。」

ガウリイは、自分の胸をとんとん、と叩いた。
「胸に・・・?どんな声・・・・?」
「そりゃあ、リナの声だろ。」
「そうじゃなくて・・。あたし、なんて言ってた?」
「そりゃあ♪『ガウリイ、アイシテル♪』って♪」
「あ、あのねええええ!」
「し〜〜〜〜っ。」

赤くなって憤慨しているあたしの手をぱっと握ると、ガウリイは反対側の手の人さし指を口にあてる。
「せっかく寝たんだ、寝かせておけよ。」
「そうじゃなくってええ!
あ、あたしがなんて言ってたのか、きいただけでしょっ?」
「だから。」
「ジョ〜ダンじゃなくって、マジメに。」
「はいはい。」
「・・・うわきゃっ!?」

ガウリイは、握っていたあたしの手をくいっと引っ張った。
すっぽりとガウリイの胸に、あたしは納まってしまう。
その胸の中で、ガウリイが囁きが聞こえた。

「ずっと聞こえてたよ。お前さんの声が。
『ここに、いるよ』って。」

「・・・・・・。」
(かああああああ。)


ガ・・・ガウリイと。
そーいうコトになって、んで、こ・・・・子供産んでも。
今だに照れが入る、あたしの癖は変わってない。
じたばたもがもがと暴れそうなあたしをしっかりと押えつけて、ガウリイはなおも言う。
「還ってきてくれて、ありがとう。リナ。」
どきん。
「なっ・・・・なによ、改まって・・・。」
「ホントに、ありがとうな。リナ。」
「れっ・・・礼を言われるなんて、なんかヘン・・・・。」
素直じゃないあたし。

10年経っても。
たぶん、20年経っても。
あたしはあたしで、本質はきっと変わらないのだろう。
「ヘン?」
「そっ・・・そうよ・・・・。だって・・・。」
「だって?」

・・・・そう。
ウソじゃなく、ジョーダンでもなく。
一つにはこの声を聞くために、あたしは還ってきた。

「だって・・・・。
あたしは・・・・一番還りたかったところに、還ってきただけなんだから・・・。」
「・・・・そうか。」
頭の上で、ガウリイが微笑んだ気配がして。
彼は嬉しそうに、あたしをぎゅっと抱きしめた。


こうやって少しずつ。
あたしは、あたしの世界へ還ってきたことを。
肌で感じるように、確かめて行くだろう。





「・・・ところでお前さんには、何か聞こえたか?」
唐突に、ガウリイが言った。
「・・・・え?」
そしらぬ振りのあたし。
「聞こえたかなあ・・・。ガウリイの声が?」
「えええ。」
ちょっと残念そうなガウリイの声。
くすくすと笑いながら、あたしは最後まで教えてあげなかった。


だって、その言葉は。
生身の声で、繰り返し言って欲しい言葉だったから。




































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親子、読破御礼(笑)
最後まで読んで下さった方に捧げます♪10年分の痛みは、10年分の幸せがドカンと返ってきて、おまけに利息までついていると銀行よりかなりお・と・くですよね♪しあわせの、ほんのおすそわけ。二人のラブラブぶりやちびガウの戸惑いは目に浮かぶのですが、なかなか文字列になりませんでした(笑)ただの幸せって、実は一番難しいのかも知れない(爆笑)
そだ、リナちゃんに聞こえていたガウリイの言葉は、親子シリーズのどっかで出てます♪
では、しあわせを四晩お届けします。連チャンできなかったらごめんなさい(汗)さて、どこまでがんばれるやら♪

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