「しあわせのカタチ。とらい。」


・・・・・か。
か・・・か・・・・か・・・・。
かきくけこ。
かあ・・・・かあ・・・・
かあかあ。

・・・・・・・・はあ。
最初の時は、あんなに簡単に出たのに。
どうして今は、こんなにキンチョーするんだろう?





「お♪お茶のお代わりもらってきてくれたのか?」
父さんがテーブルからにこやかに振り返った。
「う、うん。」
ポットを持って、おずおずと近付くぼく。
差し出される空のカップに、お茶を注ぐぼく。
・・・・さて。
問題は、次だ。

母さんは、テーブルの反対側で静かにお茶を飲んでいた。
声をかけようかどうしようか、戸惑うぼく。
だって。
まだ、うまく言えなくて。
『母さん。』って。

母さんが目をあげた。
ぼくと目があった。
ぼくは、自分が真っ赤になっているような気がしてしょうがなかった。
「ああ、あたしにもお代わり注いでくれる?」
言って、母さんが空のカップをひらひらさせた。
・・・・助かった。
「うん。」

テーブルの周りを回って、母さんの後からカップにお茶を注ぐ。
「さんきゅ♪」
母さんが振り向いて、にこっと笑った。
どきっ!
途端に心臓がどきんと跳ね上がった。
なんだか最近、ぼくはおかしい。
最近、というか。
ここ何日か、なんだけど。


「・・・で、この先どうする?リナ。」
「・・・・なにが?」
「だから。オレは、もう少し身体を休めた方がいいと思うんだ。
もう何日か泊まって、それから出掛けた方が・・・・。」
父さんが言いかけた時だ。
「あ・・・・・あのねええええ。」
カップを持った母さんが、ぷるぷると震えた。
「毎朝、毎朝っ!!
おんなしことばっか、きかないでよねっ!?」
「え・・・えええっ。」

あ・・・・。
言われた。父さん。
言われると、ぼくも思ったけど・・・。

何だか、母さんが帰ってきてから。
父さんのイメージがかなり変わってきたのは、気のせいなんだろうか?
父さんって。
・・・こんなに、スキだらけの人だったかなあ?

「そ、そうだったかあ?」
「そうだったか、じゃなああいっ!」
「・・・で、なんて言ったんだっけ・・・?」
「・・・・・・。」
母さんがテーブルに突っ伏した。
これもここ最近でわかったことだけど。
母さんて、りあくしょんの激しい人、だとぼくは思う。
「昨日のことは忘れてるってことは・・・。あたしの言ったことも忘れてるってことよね・・・。うかつだったわ・・・・。」
「はっはっは。オレがそういうヤツだってこと、お前さんだって忘れてるじゃないか♪」
爽やかに笑う父さんに、母さんががばりと跳ね起きる。
「はっはっは、じゃ、ないってのおおおっ!
ったく、身体を心配してくれるのは有り難いけど、ほとんども〜だいじょーぶよっ。
だから一昨日、あと二晩したら出かけようって、言ったじゃないっ。」
「えっ・・・・。
一昨日、あと二晩・・・?
ってことは・・・・・・えええっ!?
明日出発かあっ!?」
「ちっがあああああううう!!」


うわっ!!
母さんが父さんの後に回って、首をぎゅうぎゅう締めてるっ!
どっ、どうしようっ!?

「こ、こらこらっ!ちび助が驚いてるだろうがっ!」
「えっ・・・」
慌てて父さんから離れる母さん。
その顔は真っ赤だ。
「ちっ・・・違うのよ、これはね?あの、その・・ね?」
「フツー、母親が父親の首締めてたら、驚くって・・・。」
父さんのツッコミが入った。
「あいてええっ!」
次の瞬間、父さんが何故かブーツの足先を押さえて飛び上がった。
ぷぷぷ、と母さんは笑っているけど。

母さんて。
母さんて。
母さんて。
まだ・・・・・・・よく、わからないけど。

「元はと言えば、あんたがけ〜さんもできないクラゲ頭だからでしょっ。」
席に戻った母さんが言う。
「一昨日、あと二晩って言ったのよ、あたしは。
だから、出発は今日でしょ?」
「ええええっ!?」
声を合わせて驚くぼくと父さん。
だって母さんが還ってきて、まだ一週間とたってないのに。

「ちょ、ちょっと待てよ、リナ。
だってお前、身体は・・」
「さっきだいじょーぶって言ったでしょっ!
おっちゃあ〜〜ん♪おあいそっ♪」
「あいよっ♪」
「んじゃ、これとこれで払ってねっ♪」
「えっって、ちょ、こら待て、リナっ!荷物はっ!」
「ほとんどないでしょーがっ。
勿論、街で買物してから出かけるわよっ!」
「リナ〜〜〜〜〜」
「へっへ〜〜〜ん。ぐずぐずしてたら置いて行くからねっ♪」


なんだかばたばたと慌ただしい、ぼく達三人親子の朝。
母さんは、ぼくにウィンクをすると手を差し出した。

「行こう、ガウリイ。
あんたにどうしても見せたい場所があんのよ。」
「・・・えっ・・」
ぼくの手をぎゅっと握って、ぐいぐい引っ張る母さん。
ぼくと身長はそれほど変わらないのに、凄い力だった。
「ぼくに、見せたい場所って・・・?」
「着くまでナイショ。
ほら!行くわよっ!」
駆け出して行く母さん。


ぼくはまだ、慣れない。
この人を、母さんと呼ぶのも。
この人が、ぼくをガウリイと呼ぶのも。
そして、この人と、一緒に走って行くのも。
ずっと父さんと二人の旅だったのに。
いつのまにか、母さんが先頭を切って走っている気がする。

・・・でも。
おかしな事かも知れないけど、何故だかぼくはそれをちっとも変だとは思わなかった。

それは、たぶん。
父さんが、ずっとにこにこしているから。
母さんにスリッパではたかれても。
頭ごなしに怒られても。
ずっと、にこにこしているからだと、ぼくは思う。


ぼくの手を引っ張って、朝の光の中に駆け出して行く母さんは。
すごく眩しかった。

くるくるくるくる表情の変わる人。
元気になった途端、全然じっとしてない人。
ちっちゃい身体なのに、何故か父さんよりパワーがある人。
話す時、目がきらきらしてる人。
からかわれたりすると。
ぽっと赤くなったりする人。

ぼくはもっと。
この人のことを知りたい。
父さんが、あんなにも嬉しそうに。
そして、大事そうに。
見ている人のことを。
どうして自分が。
母さんから目が離せないのか、その理由を知りたいから。


「行くわよ、ガウリイ!」
「ま、待ってよ・・・・・・・・母さん。」


























==========================end.

スレイヤーズTVシリーズを、『無印』『NEXT』『TRY』と呼びますが、もし次のシリーズが始まるとしたら、どんなサブタイトルがつくんでしょうね♪
個人的にいくつか考えてみましたが、あんまり難しい単語じゃわかりにくいし(しかも思いつかない・笑)長いとロゴが大変だし(笑)皆さんだったら、どんな単語を思い浮かばれるでしょうか。さて、次回はちょびっとしりあすちっくになる予定のお話で、またお会いしましょう♪

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