「自称保護者VS自称婚約者!?」
それからそれから?


別荘の広間では。
さながら野戦病院の様相を呈していた。

「ううっ・・・兄貴ぃ・・・いて〜よ〜・・・・。」
「我慢しろ、ランツ。これくらいでネを上げてたら、リナと一緒に旅なんかできねーぞ。」
「お・・・・俺・・・できなくていい・・・。」
「ミワンさん、大丈夫ですか?」
「ええ。咄嗟に逃げましたから。それよりハルさんを診てあげて下さい。」
「ったく・・・。いくら腹がたったからって、いきなり魔法でふっとばすなど・・・。」
「うぅるさいわね、ゼル。済んだことをいつまでもグチグチと言わないの!」
「何が済んだことだ。こんなにケガ人まで出して・・・・。」
「ケガって、ランツしかしてないぢゃん。」
「いや・・・ガウリイもかなりくらってたけど・・・復活したからな・・・。」
「ハルさん、ハルさん、大丈夫ですか?」
気を失ったままのハルを運んできたのはガウリイだった。
アメリアがゆすってみると、ううん、とうめいて目を開けた。
「はっ!?こ、ここわっ!?」
「別荘です。ハルさん、気を失っていたんですよ。」

アメリアに助けられ、身を起こしたハルは辺りを見回し、ほお、とため息をついた。
「ああ。なるほど。そういうことでしたか。」
「って。ハルさん、驚かないんですか?あなた、リナさんの魔法で飛ばされたんですよ?」
アメリアが説明すると、意外なことにハルはにっこりと笑った。
「わかってます。これが初めてじゃありませんし。」
「えええっ。」


「・・・なるほど。つまり、小さい時からリナさんて、きょ〜ぼ〜なせ〜かくだったんですね・・・・。」
じとっとアメリアに見られ、リナが顔を赤くして怒る。
「ちょっとハムハムっ!あんた、アメリアにどーいう教え方したのよっ!」
「え?だって。よく魔法の研究とかって、僕、つきあわされたじゃないか。一度なんか、君の憶えたての魔法で飛ばされて、一晩中、家の屋根の上にいた時があったよ。」

じっと〜〜〜〜。
今や呆れた視線はアメリアのものだけではなかった。

ゼルガディスがハルの隣に腰掛ける。
「なあ。お前、あれでもリナを嫁に欲しいか。」
「え?」
「ちっちゃい時からそーいう粗暴な性格だったらしいが。今のリナは、きっとそれに輪をかけて凄いと思うぞ。」
ゼルの隣に、ランツが腰掛ける。
「思い起こせば、俺があの嬢ちゃんと初めて会った時も、凄かったぜ。ちょおっとその、親愛の情を示しただけなのに、あの嬢ちゃんときたら、いきなり食器トレーの角で俺の頭をぶんなぐったんだぜ。」
「はあ。」
反対側にアメリアがしゃがみこむ。
「そ〜ですよ。リナさんはドラマタ、ロバーズキラー、生きとし生けるものの天敵、などと二つ名どころかたくさん呼び名を持つ、悪名高い人です。ただの人なら、そんなにたくさん名前を貰ったりしません。私なんか、今だに印篭を返してもらってないんですよお。」
「・・印篭?」
「さあ。」
「さあ。」
「さあ。」
ゼル、ランツ、アメリアがハルを囲む。
『これでもまだ、リナさんと結婚したいか?(ですか?)』


ハルは目を閉じると、ぽつりと言った。
「食い意地が張ってて・・・。」
うんうん、と三人が頷く。
「強情っぱりで、言い出したらきかなくて・・・。」
うんうん。
「やることなすこと、突拍子もなくて・・・。」
うんうん。
「世の中のジョ〜シキを無視しまくって、やりたい放題・・・。」
うんうん。

ハルはぽっと頬を赤らめた。
そこが好きなんですよね・・・・(はぁと)」

ずべべべべべべべっ。

磨かれてよく滑りそうな木の床の上で、リナも含めて四人が盛大にスべった。









とりあえず、戦いは一時中断となった。
明日のことは明日考えようと、全員は揃って夕食を取った。
黙々と食事は進み。
各自、部屋に戻って身体を休めることに。



こんこん!

ハルの部屋をノックしたのは、リナだった。

「あれ。リナちゃん!僕に会いに来てくれたんだねっ!!」
飛びつこうとするハルをするりと躱し、リナはずかずかと部屋に入ると、ばたん、とドアを閉めた。
唐突に話を切り出す。
「ちょっとハムハム・・・。あんた、本気?」
「え?」
「いいなづけとか、結婚とかの話よ。」
「ああ。」
ハルはベッドに腰を降ろすと、リナに椅子を勧めた。
が、リナはそれを断わり、ドアの前で腕を組んで立つ。

「リナちゃんは覚えてないんだね・・・。僕と結婚の約束をしたこと。」
「あのね。あんたが引越したのは、もう10年以上も前のことでしょ。そんな子供の頃のことなんて、覚えちゃいないわよ。」
「リナちゃんの方から、僕に結婚を迫ったくせに。」
「うそっ。」
「ホント。」
「・・・ねえハル。冗談なら、今のうちにやめておいたほ〜がいいわよ。」
「・・・・。」

ハルがベッドから立ち上がった。
リナに近付く。
思わず2,3歩下がりかけたリナは、後がないことに気付いた。
ハルの片手が、リナの頭の横を通って、ドアに辿り着く。

「リナちゃん。僕は本気だよ?」
どきん。
「昔のことが思いだせないなら・・・・今の僕を見て、決めてくれないかな。幼馴染みとかじゃなく。一人の、男として。」
「ハムハム・・・。」
「ハル。僕の名前は、ハル、だよ。」

どきんどきん。
急に鳴り出した心臓と、背中に吹き出てきた冷汗とに、リナはとまどう。

こんこんっ!!

その時。二人の背後のドアを外側からノックする音がした。
続いて声が。
「お〜〜〜い、風呂があいたから、先に入っていいぞ〜。」
ガウリイの声だった。
一瞬、リナとハルの視線がぶつかる。

ふっと笑ったハルが、先に降参した。
手をドアから離し、中からがちゃりとドアを開けた。
リナがバランスを崩す。
「・・・っと。あれ?リナ?」
廊下に立っていたガウリイが受け止める。
「お風呂ですね。ありがとうございます。仕度したら、すぐ入ります。」
ガウリイににこりと笑いかけると、ハルは二人の前でばたんとドアを閉めた。




「お前さん、ドアのとこで何してたんだ?」
リナを立たせながら、ガウリイが普段と変わらない口調で尋ねた。
リナは、どぎまぎと言い訳する。
「べ、別に。ちょ、ちょうど出ようと思ってたとこだっただけ。」
「そうか。」
「そ、よ。」

こつこつ。
長い廊下を、二人の靴音だけが響いていく。

「ガウリイさ・・・。」
「ん?」
「なんで、この勝負引き受けたわけ。自称婚約者対自称保護者、なんて・・・。」
「ああ。ったく、なんでだろうなあ。オレは別にって言ったんだけど、アメリアとランツがムキになっちまって。リナが結婚したらどうするんだとかなんとか。」
「・・・・。」
「無理矢理叩き起こされて、ぼ〜〜〜っとしてるところへ来て、それだ。気がつくと椅子に座らされてて、何が何やら。お前には呪文で吹っ飛ばされるし。」

その時。
廊下を歩きながら、ガウリイがくすり、と笑った。
リナが?という顔になる。

「なに?」
「いや。でも、わかるよ。」
「だから、何が。」

きょとんとして立ち止まったリナ。
ガウリイは振り向くと笑顔で、その頭をわしわしと撫でた。
「お前さんは景品でも何でもないし。お前さんをかけて戦うなんて、バカバカしいよな。お前が怒るのも、無理なかったと思うぜ。」
わしわし。

とくん。

ハルの部屋で感じたのとは、違う心臓の鼓動が、リナの耳の中で谺していた。




すいません(笑)まだ続きます〜(笑)