「まるで子供のように」



ガウリイの手を払い、リナは身体を起こした。
「・・・・リナ?」
「・・・あたしは・・・・。」
言いにくそうに言葉を繋ぐリナ。

「あたしは、あんたと逆。
言葉には言葉で返したり、理屈をこねくり回して、そっから真実を見つける方が得意よ。
・・・だから、言いたいことをはっきり言う方が難しい時もある。」
「・・・・。」
「変だね・・・おかしいよね。
盗賊相手とか、悪人とか、他の誰かとか。
そういう相手なら、何でも思ったことははっきり言った方が楽だし、現にそうしてるつもり。
・・・なのに。」
リナは自分の手で自分の肩を抱きしめた。
言いづらそうな言葉が、小さな囁き声となって続く。
「・・・あんたにはダメなの。
はっきり言えなくて、何となく遠回しにしちゃったり。
あんたの言ってることに、もっと深い奥があるんじゃないかって。
考えてみたりしちゃう時がある。
・・・・だから、仮定の話しかできなかった。
ホントのところをどう聞けばいいのか。
自分は何がホントに知りたいのか、わからないから・・・・。」

「・・・・・・。」
ガウリイは黙って跪いた。
リナに向かって手を伸ばすが、その手をどこへ置こうか迷う。
迷ったあげく、頭にではなく。
肩に置いた。
その肩を抱きしめている、リナの手の上から。

「・・・・ごめんな。驚かせちまったよな。」
リナがこくりと頷いた。
「ただ、考えちゃったのよ。
あたし以外の誰かが、あんたにこうやって無防備な姿を見せていたら。
あんたはどうしただろうって。
あたしにしたみたいに、親切に防具とか外してやって、そのままおやすみって言うのかしらって。
それとも、相手があたしだからそうしただけで、他の人だったら違うのかなって。
・・・あんたが、誰でも相手にするようなヤツじゃないことは、わかってるんだけど・・・。」
「・・・・・。」
「だから、あんたの言った言葉が気になっちゃったの。
『他の男にはするな』って。
もし、あたしが・・・」
あ、とリナは口をつぐんだ。
仮定の話はするな、と言われたのを思いだして。
ガウリイは穏やかな顔で首を軽く振った。
「もし?」
「もし・・・あたしが、好きな人ができて、その人の前でわざと無防備になる時。
その時もガウリイは言うのかしらって。
『他の男にはするな』って。
それとも、言わないのかな、言ってくれないのかなって・・・・・」
「・・・・・・・」

リナは口を閉じた。
自分で自分の理屈をこねくり回して。
真実にたどり着きそうになったからだ。
ガウリイだって気づかない訳ない。

つまり自分は、知りたくなっただけなのだと。
ガウリイが心配しているのが、単に自分の事を思ってのためだけなのか。
それとも。
彼自身のためにも、心配しているのかと。
つまり。
・・・・つまり・・・。

真っ赤な顔で、リナは決然とガウリイを見据えた。
「じゃあ、単刀直入にきくわ。・・・いい?!」
「えっ・・・・・あ、ああ。」
いささかとまどった顔で、ガウリイがこくりと頷く。
「あたしがどういう意味で無防備にしてるか、あんたはわかるって言ったわよね!」
「・・・あ、ああ。」
発言の意味が理解できず、ガウリイが覚束なげに首を縦に振る。
「じゃあ、あたしが『誘ってる』かどうか、わかるわね?」
「えっ!?あ・・・・ええと・・・おい・・・・」
「あたしはっ・・・」
気づいた気持ちは、今、告げないと。
逃げ出してしまいそうだった。
ひるんで、二度と口に出せなさそうで。

「一度しかきかないから!」
挑戦的な目が、ガウリイに向けられていた。
「あんたの答えがどっちでも、あたしは明日の朝、笑って朝食の席に出るから!」
「・・・え?」
「つまり、今まで通りにするから!忘れるから!」
「・・・・ええ?」
「だから、ちゃんと答えて!
子供扱いは、絶対にしないで!」
「・・・リナ?」
リナは自分の肩を抱きしめている手に、ぎゅっと力を込めた。
それを外そうにも、まだガウリイの手が上から押さえているからだ。
振り解くことは、今はしたくなかった。
「『他の男にはするな』って。
あたしだから言ったの?・・・それとも、誰にでも言うの?」
「・・・・・・!」





ガウリイがリナの肩から両手を外した。
その片手で顔を覆う。
反応を見守っていたリナの前で、彼は盛大にため息をついた。

リナの胸が騒ぐ。
やはりこの男は、永遠にあたしを子供扱いするつもりなのだろうか?

長い指の隙き間から、開いたガウリイの目が見えた。
彼は再びため息をつき、その手で前髪をかきあげた。
わしわし。
しばし無言で、かきあげた髪を押さえている。
「リナ・・・・・あのなあ。」

心なしか、いや、気のせいじゃないかも知れない。
ガウリイが顔を赤らめていた。
珍しい光景に、リナが硬直する。
「言っただろ、自信ないって。
こんな時に、こんな場所で。
お前にそんなこと言われたら、ホントにオレ、自信ないぞ。」
「・・・え・・・」
空いた片手の人さし指が、ちょこんと、リナの鼻をつついた。
「いつまでお前を子供扱いしていられるか、
自信がないって言ったんだ。」
「・・・・・えっ・・・・?」


面くらっているリナを、大きな腕が抱き寄せた。
埋めた胸が、ガウリイの胸で。
それがドキドキと早い鼓動を繰り返しているのを知って。
リナはますます硬直の度合を深めた。
・・・もはや木彫りのクマにも等しい。

ぴくりとも動かないリナの頭の上で、ガウリイが呟いた。
「だから、オレ以外の男に、言うなよ。」
「・・・・へっ・・・・」
我ながら、気が抜けまくった声だなと情けなくなりながら。
リナは目をぱちくりとさせていた。
勿論、顔は紅い果実よりさらに赤く。
両腕はどうしていいかわからずに、体の脇で硬直したままだったが。

手がさしこまれて、顔がくいっと持ち上げられた。
ガウリイの顔がまだ少し赤味を帯びているのを知って、さらにリナが赤くなる。
自分の質問が招くかも知れない、この事態を。
リナは全く予想していなかったのだ。
「・・・それで?」
「・・・へ・・・?」
「オレがどんな答えを返そうと、明日の朝食の席には笑って出るって。
お前さんは言ったよな。」
「え・・・・えと・・・・。」
「それで、リナが誘ってるとわかったオレは?」
「へっ!?」
「お前さんを子供扱いしなくていいんだな?」
「はい?」
「そ〜ゆ〜ことだろ。
リナの言ったこと全部、合わせると。」
「え・・・・・・△■●×÷▼!?」




パニックに陥ったリナの顔を、ガウリイはじっと見つめていた。
リナはぱくぱくと魚のように口を開いたり、閉じたり。
その頭の中を、いろんなことがグルグル回っているだろうことが。
おかしいほどにわかった。
「・・・え・・・・え・・・・ええええええ?
まだわかっていそうにない。
怒ったり、呆れたり、驚いたり、慌てたり。
いつまで見ていても飽きないほどに、くるくる変わるから。
今を逃したくない。
その気持ちは、ガウリイも同じだった。


おとがいに手をかけたまま。
ゆっくりと顔を近付けて。
何かを言い出しそうな唇を塞いだ。
柔らかな唇だった。
だが、口の中でもぐもぐと文句を言いそうだ。
何度か場所を変えてついばみ、リナの反応を確かめる。
真っ赤な顔が、目を閉じて震えているのがわかった。

 

 


ガウリイはようやく自分の手に降りて来た、気まぐれな幸運に感謝していた。
リナをふわりと抱きしめて、軽く揺する。
これからどうしてやろうかと。
返ってくるダイレクトな反応を楽しみつつ。

子供扱いされて、腹を立てていた彼女の。
本当の理由を知って、胸を暖めながら。




























=======================おわり。

じれった〜い、じれったい・・・と、昔の歌にありましたが。
このじれっっったい状況がまさしくガウリナの醍醐味なのだと(笑)思うのであります(笑)気持ちが通じ合うまでのドキドキが、書いてて一番楽しいのであります(笑)いやあ、通じあっちゃってからも楽しそうですが(マテ)特にこの二人は、思わずセリフの端々に見ている方が反応してしまうほどですよね(笑)
ガウリイが『他の男』と言った時点で、ほぼ告白に近いとそーらは見ているのですが、やはりリナちんにははっきりと言わねばダメでしょう(笑)『男の前でするな』と言えばいいものを、『他の』ってところが独占欲の顕われなのよ、リナちん(笑)

いまいち掘り下げの足りない話でいろいろと心残りなのですが(汗)時間切れです(おひ)

では、ここまで読んで下さったお客様に愛を込めて。
個人的に、細かいのとか、しつこいのは願い下げだと思うのですが(笑)さりげな〜〜〜いヤキモチだったら、焼かれると嬉しいですか?
そーらがお送りしました♪





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