「いつでも、そこに。」

 
ずざしゃああっ!!
 
背後に大きなモノの気配を感じ、あたしは振り返る。
人間の背丈の倍以上はありそうな、角の生えた怪物。
半魔族、レッサーデーモン。
一頭二頭ならまだしも、数が多いとやっかいな相手だ。
「氷の矢!」
詠唱時間の短い魔法を唱え、あたしは難を逃れる。
ここは深い森の中。
うっかり炎系の呪文を放つ訳にはいかないのだ。
 
「リナっ!」
鋭い声が飛ぶ。
あたしは何も問い返さず、その場に身をかがめた。
確認するまでもなく、別のレッサーデーモンが放った衝撃波が、髪一重をかすめる。
立ち上がると、すでに鋼鉄の刃がそれを一断していた。
「サンキュー、ガウリイっ!」
ウィンクを一つ送ると、ガウリイがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
あたし達は背中を合わせ、周囲に残る怪物を数える。
「リナ、大丈夫か。」
背中からガウリイの声がする。
彼は油断なくデーモン達に注意を配っている。
 
文字どおり背中を合わせた訳ではない。
ぴったりとくっついていたら邪魔だし、第一、あたしとガウリイでは背丈が全然違う。
お互いの死角を補いあう。
そういう意味だ。
 
ふと、あたし達の旅はそれに似ていると思った。
得意とする分野は、二人とも全く違う。
 
でも、だからこそ補える。
だからこそ、背中を預けられる。
 
「きりがないわね。」
「数が多いからな。」
「一角を吹き飛ばして、出口を作るわ。」
「わかった。なら、オレはリナの後から掩護する。」
「遅れないでよ。」
「お前さんも、あんまり一人でつっ走るんじゃないぞ。」
 
短い会話ののち。
背中からふっとガウリイの気配が消え、彼が前方のデーモンに斬り掛かかる。
その隙に、あたしは連続して呪文を詠唱し、増幅をかけた風を呼び起こす。
「風魔咆烈弾!」
 
しゅごおおおおっっっ!
 
並の風では吹き飛ばないような巨体も、さすがに増幅をかけた呪文の効力には勝てなかった。
まとめて三体が輪を崩す。
「行くわよっ!」
風が吹き抜けた道をあたしは疾走する。
「!」
脇からデーモンが飛び出してくる。
「黒妖陣!」
何もない空間から現れた小さな黒い球体が広がり、対象を飲み込む。
効果を確かめる暇もなく、あたしは駆け抜ける。
さらに一匹、右手の視界をかすめた。
と、思った瞬間に炎球がその口から吐かれた。
「!」

じゅっ!ばちばちっ!!
 
目標に当たって初めて爆裂する炎の塊を、空中で破裂させたやつがいる。
言うまでもない、ガウリイだ。
途端に生まれる閃光と煙に相手が気を取られている間。
その一瞬で、彼はたどり着く。
相変わらず、早くて正確な剣さばき。
どうっ!
地面に倒れる怪物の、地を揺るがす音が聞こえたような気がした。
「行けっ、リナっ!走れっ!」
あたしに先を促すと、彼は背中を向ける。
後方から追ってくるデーモンをそこで食い止めようとするのだ。
「深追いはダメよっ!」
「わかってる!」
あたし達は頷きあうと、それぞれの前方に向けて視線を戻す。
 
一度、行動を決めたら。
時は簡単に待ってくれない。
決断を迫られるのは、いつもギリギリ。
走り出したら止まらない。
けれどどこかで立ち止まって、考えることもしなければならない。
誰も進んだことのない道を、あたし達は歩く。
時にはそこに、一人で乗り越えられない壁も現れる。
考えすぎて、一歩を踏み出せない夜もある。
だからこそ。
あたし達は背中を預け。
時として、同じ方向を向いて。
旅を続けて行くのだ。
 
 
森は突然途絶えた。
視界を遮っていた高い木々が失せ、だだっぴろい草原が広がっていた。
その向こうには山が。
右手には川が陽光にきらめき。
左手には街らしき建物の群れ。
悩もうと悩むまいと、世界は存続している。
その中で、あたし達は自分達の道を進むしかないのだ。
 
がさっがさっがさっ。
背後に足音。
 
振り返れば、いつでもそこに。
変わらないものがある。
それだけのことが、あたしをさらに強くする。
それだけのことが、あたし達の道を前へと広げてゆく。
「ガウリイ。」
呼びかけて。
「お待たせ。」
答える声があることが。
「どうやら、振り切ったみたいだな。」
「走ったおかげで、お腹ぺこぺこよ。」
「んじゃ、早くあの街まで行こうぜ。腹が減ったのはオレも同じだ。」
肩を並べ、同じものを見て。
二人の髪を、同じ風が揺らす。
いつでもそこに、不思議なくらいに。
あなたがいた。
 
「・・・ガウリイ。」
「ん?」
「行くわよ。」
「・・・おう。」

そしていつでも、そこに。
あたしがいる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 









 
 
 
 
 
 
-----------------------おしまい♪
 
らぶらぶ〜んもなんもないですが(笑)ちょっと基本に帰ってみようと思いまして(笑)基本は、いつでもそこに二人がいることなんですよね(笑)
ではこんな短編を読んで下さったお客様に、愛をこめて♪
いつでもそこにあることを、再確認したものってありますか?
そーらがお送りしました♪
 

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