「彼女のユーウツ」


最近、あたしのユーウツなこと。
・・・それは。

「お待たせしました〜〜っ♪」
めちゃめちゃ明るい声で、大量の食事を軽々と運んできたウェートレスのおねえさん。
手際よくテーブルの上に、あたし達の夕ご飯を並べたまでは、よしとしよう。
そのあと、きょときょととあたしとガウリイを見比べ。
「あの〜〜〜〜。お二人って・・・兄妹なんですか?」

・・・ああ。またか。(ため息)

見事にからっと上がった小魚のフライを。ひょいっと一つつまんだガウリイが几帳面にも返事をする。
「何で?」
ほっときゃいーのよ。ほっときゃ。
あたしは聞こえないフリ。
付け合わせの赤い実に塩を振り、フォークとナイフを取り上げて、たっぷりのグレイヴィーソースにまみれたステーキを端から・・・
「いえ、ご兄妹なら、あんまり似てらっしゃらないなあって思って。」
人さし指を頬にあて、くいっと小首をかしげるおねえさん。
あたしは聞こえないフリ、聞こえないフリ。
ステーキを端から・・・・
「いや、兄妹じゃないけど?」
こう答えるガウリイの声に、思わずナイフを持つ手に力が入った。
・・・お願いだから・・・そこでやめといて欲しひ・・・・。
「えっ・・・でも・・・・」
おねーさん。お皿置いたら、とっとと仕事に戻れっつの。
「お二人・・・・お部屋が一緒でしたよね・・・?」

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。



・・・・・ここ、最近のことのことである。
訪ねる町の宿屋で、必ず一度は起こるこの会話。

そしてガウリイは飽きもせず、次の一言を繰り返す。
・・・しごく、にこやかに。
「ああ。こいつ、オレの嫁さんだから。」

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。

おねーさんはその場でコーチョク。
聞き耳を立てていたらしい、食堂の他の客達も同様の反応。
下手をすると、厨房から立て続けに皿が落ちて、賑やかにぱりんぱりん割れる音がしたり。
・・・・外に繋がれた馬が、何故か一斉にいななきだしたりする。

しくしくしく・・・・・・・。
いつまで続くの、このじょーきょ〜・・・・・・。








・・・・つまり・・・・だ。
その・・・いつのまにか、あたしとガウリイはそ〜ゆ〜状況に陥っていたのだ・・・。
つ、つまり。
その・・・・。
「さて、じゃ、オレは風呂入ってこようかな。」
タオルを肩にかけ、ガウリイがあたしに一声かけて、部屋を後にする。
「じゃ、お先。」
「・・・・・・・・。」

つまり・・・よ。
その、い、一緒の部屋に泊まる仲っていうか・・・その・・・・・・・・
・・・・・・ってえ!!もうっ!!察してぷりーづ!!

ぱたん、とドアが閉まり、ガウリイのスリッパのぺたぺた言う音が遠ざかった。
あたしは長々と息を吐き、どさりとベッドにあおむけに倒れ込む。
・・・・そ〜ゆ〜ことになってから。
いろいろと、いつもとちょっと違うなってことが起きるようになった。
ガウリイがあたしの頭に手を置いて、『オレはこいつの保護者だから。』と説明することもなくなり。
宿を取る時は、一人部屋を二つ取るのではなく、二人部屋を一つ取る。
その度に、宿の主人とか、食堂のウェートレスとか、同じ宿にいた観光旅行のおばちゃんずとかに。
必ず、一度は言われること。
兄妹?それにしては、あまり似てないんじゃない?と。

「・・・・・・はあ。」

ため息をつくあたし。
なんか、その度にすっごく疲れるのだ。
ガウリイは全然、気にも止めてないようだけど。
その時の皆の反応とか。
集中する好奇な視線とかに。
身の置きどころがなくて。
「こんなんだったら、前のがマシだったかなあ・・・・。」
そんな言葉も呟いてみる。
同じ驚かれるんだったら。
『保護者』の方が、マシだったかも知れない。

あたしはベッドから跳ね起きた。
「大体、同じじょーきょーに陥っているというのに!
なんっであたし一人が、こんなに気疲れしなくちゃいけないのよっ!!
・・・少しはガウリイも、照れるとか困るとかしてくれたって・・・」
腕を組んで、怒ってみる。
思い浮かぶのは、いつもと全然変わらないガウリイ。
普段もあのままなので、時々、こうして一緒の部屋に泊まっているのが、ウソのように思えることがある。
夜の顔と、昼の顔が。
違うように見えることもある。

あたし・・・・あたしは?
何だか、一人でジタバタすることが、多くなった気がしない?

そんなことを考えていたものだから、いつのまにか時間が立っていたらしく、ガウリイがもう戻ってきてしまった。
ドアを開け、ほかほかと湯気を立てたガウリイが、いつものようにのんびりとした顔をしているのを見て。
思わず、あたしは言ってしまった。

「もう止めよう、ガウリイ。」
「・・・・・・・へっ?」
あたしがまだ部屋にいるのを見て、ちょっと驚いた顔になったガウリイが、さらにびっくり目になった。
「だから、他人に向かってあたし達のことを説明する時。
ああいうの、やめない?」
「・・・・・・・・?」
きょとんとしたガウリイが、黙り込む。
たぶん頭の中で、少ない記憶回路がカチカチと動いているんだろう。
やがて合点した彼は、後ろでにドアを閉めて、部屋の奥へと入ってきた。
「どうしたんだ、急に?」
備え付けのパジャマを着て、小脇に洗濯物を抱え。
タオルを首にかけた大きな男が、あたしの寝転がるベッドの前に立ちはだかる。
大体、これも慣れない。
同じ部屋にこんな図体のでかい男が、一緒にいることが。
「どうもしないわよ。今思い付いた訳じゃないの。
ここんとこ、ずっと考えてたのよ。」
「・・・・・・・。」

タオルで頭を拭くと、ガウリイはどさりと、あたしの横に腰かけた。
青い瞳でまっすぐ見つめられ、途端にあたしの心臓が跳ね上がる。
勢いで言ってしまったことを、後悔しそうになる。
「・・・ここのところ、ずっと考えていたって?」
「・・・・・・。」
低い、優しい声で。
すぐ近くで聞くガウリイの声に、はっきり言ってあたしは弱い。
何もかも見透かされていそうで。
「どこへ行っても、必ず話題になるんだから。
答えてやれば逆に注目を浴びたりして、物見高い連中がわざわざ見に来たりするし・・。」
ガウリイがあたしのことを嫁だ奥さんだと紹介すると、翌日にはそんなヤジ馬で食堂が埋まったことも、多々あるのだ。
あたしの名前と素性が、悪評の方で有名な町は特に・・・・。
「下手な注目浴びるのもイヤだし。
相手のハンで押したような反応も、もう見飽きたわ・・・。だから・・・」
「だから?」
あたしの答えを待つガウリイ。
あたしは一気に吐き出す。
「だから、今度誰かに何かきかれても、もっとテキトーな答えでごまかしといて!
仕事の相棒とか、旅の連れとか、ほら、前はよくあんたが言ってた、『保護者』でも何でもいいわっ。
とにかく、その、よ、嫁さん、とか・・・・そゆ答えは、ナシに・・・・」

結局、言葉の最後がぼしょぼしょと呟きに近くなってしまった。
『黄金竜(ゴールデンドラゴン)の頭に拍蛇(サーペント)の尻尾』とは、このことである。
(訳者註*こちらの世界の”竜頭蛇尾”に意味が似ていると思われる)

「・・・・・・・。」
「そ、そゆことだからっ。
あ、明日からヨロシクねっ!」
言い逃げと言うなかれ。
戦略的後退なのだ。
言うだけ言うと、あたしはささっと立ち上がり、ガウリイの脇をすり抜けて、荷物からタオルを出し、いざお風呂へ・・・・・

・・・・・・っと・・・・・・・あれ・・・・・?
前に進めにゃい・・・・・?

足を前に動かしても、無駄だった。
あたしのチュニックを誰かが引っ張っていたからだ。
誰かって?
そりゃ、アレしかいないわよね・・・・・。

ぐいっ。
うきゃっ。

そのまま後に引っ張られ、あたしはベッドに逆戻りする。
いや、正確に言うと・・・・だ。
ベッドに腰かけたガウリイの、膝の上、ということになる。
ということになるって・・・・冷静に説明しているばやいではなかった・・・・。

膝の上で後から抱き締められ、思わず顔がかあっと赤くなるのがわかった。
慣れない。
今だに慣れない。
一緒の部屋に泊まっても。
隣に寝ていても。
まだ、慣れない。平然とはしていられない。
恥ずかしくて、誰かに見られているんじゃないかと、何となく周囲を見渡してしまう。
誰もいる訳はないのだが。

「お前さんがそんなに気にしてたとはな・・・・。」
頭の上から、ガウリイの声がした。
「・・・・・・。」
何も言えずに、顔を赤くしてばかりのあたし。
「肝が座ってるかと思えば、意外にカワイイ一面があったんだなあ。リナ?」
・・・・・・・・・。
かああああああああああ。
「わっ・・・・悪かったわねっ、肝が座ってて・・・」
意識的に、『カワイイ』という言葉を聞かなかったことにする。
「カワイイってほめたのに。」
だから、きいてないってば。
言われ慣れない言葉は、聞いてるだけでむずかゆくなるのよ・・・。
「・・・・でもな?」

ふいに、頭を撫でられる気配。
・・・わしわし。
これだけは、前と変わらないのに。
ガウリイが自称保護者だった時も、保護者を辞めた今でも。
「悪いが、オレは止める気はないぜ?
次に誰かに尋ねられても、同じように答えるつもりだ。」
「・・・・・・・・。」
ガウリイの腕の中で首を振るあたし。
「だから、それじゃ何にも変わらないんだってば・・・・」
「だったら。前みたいに答えてても、何にも変わらないだろ?」
「・・・・・・・・。」
「よいしょ。」
ガウリイは膝の上であたしをくるりと回し、横座りにさせた。
大きな手が、あたしの頬に当てられる。
あったかかった。

「オレは、お前のことでウソをつくつもりはないぜ・・・?
だから、いつも本当のことを答えるだろ。
リナは、オレの奥さんだって。」
頬を包んだ手が、あたしの顔をくいっと持ち上げる。
すごく近い瞳。手。体。顔。
下がってくる顔。
このままうやむやにされたくなくて、あたしはまだ少し濡れている、ガウリイの髪の毛を引っ張る。
「・・・リナ?」
ガウリイが目を開く。
「だからっ・・・・。ガウリイはそれでいいかもしんないけど、あたしは困るのっ。
どう見たって、変でしょーがっっ。
ばかでかい傭兵姿の大人の男性と、ちびっちゃい童顔の黒魔道士が一緒にいて、夫婦です、なんて言ったらさっ。
皆がじろじろ見るし、ホントだってわかるとさらに注目を浴びちゃうし。
いい加減、疲れちゃったのよ、あたし。」
「・・・・・・・・。」
キスをしそこねたガウリイは、仕方なく身を起こした。
「そうか・・・。そんなに気にしてたのか・・・・。」
「・・・・・・・・。」
こらこら。その手は何よ?
離れるどころか、さらに抱き寄せてどーするっていうのよ、このクラゲ頭は!
あっ・・・・ち、ちょっと。
「よしよし。」
・・・・・・・・・・・。よしよし、じゃあない〜〜〜〜っっ!!
離れてってばっっ!!


あたしを抱きしめて頭を撫でていたガウリイは、しばらくするとようやく体を起こした。
お風呂から出たばかりのガウリイの体は、ほこほこと暖かかった。
石鹸の匂いがした。
面くらっているあたしの唇を、素早く一瞬で奪ったガウリイは、にこりと笑った。
「でもオレ、今さら保護者には戻れないぜ?」
「・・・・・・!」

かああああっ・・・

体中の熱がさらに二度ほど上昇した気がした。
「ウソをつくのも上手じゃない。ごまかせる自信もない。
だから、また次も同じことを言っちまうと思う。
・・・・オレはクラゲだからなあ。」
〜〜〜〜〜〜開き直るな〜〜〜〜っっっ!!
「あのなあ、リナ。
注目されるのは、おそらく、お前さんが真っ赤になってるせいだと思うぞ?」
「・・・・・・へ??」
「慌てて訂正したり、聞こえないフリしたりしてるけど、お前さん、いっつも顔が赤くなってるぞ。
そんなの見たら、誰だってからかいたくなるだろうが。」
「・・・そ・・・・・」
そ〜ゆ〜もんだろ〜か・・・・?
「当然だって顔してたらどうだ?
んで、気にしない。」
・・・それができれば最初からこんな話しないわよ・・・・。

困っているあたしの顔を、さらに覗き込んで。
抱き寄せるガウリイ。
「それに、もっといい方法もあるぞ・・・?」
「・・・・?」
いい方法?
あたしは顔をあげる。
すぐ近くで輝く、悪戯っぽい瞳に、嫌な予感を覚える。
ガウリイはニヤリと笑うと、あたしの前髪をかきあげた。
「誰も見たくなくなるくらい。
・・・昼日中からラブラブでいるって案はどうだ?」
「・・・・・・・・・。」
な・・・・・ぬわ・・・・ぬわんですってぇ・・・・・!?


点目になったあたしを、ガウリイは声に出して笑いながら、抱きしめた。
そのまま、ごろりと横になる。
「ちょ・・・・ガウリイっ・・・・!」
ふいをつかれたあたしに、抵抗する暇などなく。
「あっ!」
おでこにキスされて、びくりと震えてしまう。
枕の脇に手をついて、あたしの上に覆いかぶさったガウリイは、まだ意地悪なクスクス笑いを続けていた。
あたしの耳に唇を寄せると、こう囁いた。
「昼にウソをついても、夜にウソはつけないしな?」
「・・・・・・ばかっ!」
「周りなんか気にするなよな、リナ・・・・。」
「ちょ・・・・」
「誰もが認めるまで。誰もが、疑わなくなるまで。
オレは言いつづけるぞ・・・・・。
お天道様に誓って、オレとリナは夫婦だって、な。」
「あっ・・・やだっ・・・!ばかっ、ガウリイっ・・・・!」







夜が明けても、ヘトヘトに疲れたあたしが起きれる訳もなく。
すっかりお日様があがりきった頃、物憂げに目覚める頃には。
高くて首が痛くなる腕枕の持ち主が、かすかに寝息を立てて安らかに眠る顔が隣にあり。
・・・・あたしはまた、秘かにため息をつくのだ。

ホントにユーウツなのは。
ガウリイが実は、手強い頑固者だということと。
笑顔の下のそれに抵抗できないあたしが。
昼夜は逆転して見える、ということなのかも知れない。



そしてまた、新しい町で、質問は繰り返され。
ガウリイの答えは変わらずに、あたしはまた、赤面するのだ。

まるでその度ごとに、プロポーズの言葉を繰り返されているように・・・・・。





























~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~おしまひ。

すいません・・・(笑)らぶらぶに飢えてるんです、ワタクシ(笑)でも何故だか最近、らぶらぶを書くと背中がこそばゆいのは何故・・・・・?あれだけはずかし〜セリフを吐くガウを書いておきながら・・・(爆笑)
もういいっす(笑)自らの赴くままやるのが、一番からだにいい気がします(笑)
では、こんなおばかなそーらにおつき合い下さるお客様に、愛を込めて♪
彼氏ですって言えなくて、友達だってごまかしたこと、ありますか?(笑)

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