「風の名前」

 
「だいぶ風が冷たくなってきたな、リナ。
この先には雪が降ってるって話も、どうやら嘘じゃなさそうだ。」
「・・・・そうね。」

立ち止まった丘の上。
吹き付ける風は、確かに冷たくて。
あたしもガウリイも、肩をすくめた。春だというのに、異常な天候。
 
「・・・どうした?」
隣に立っていたガウリイが、問い掛けるようにあたしの頭を見下ろしていた。
「いやに静かだな?」
「・・・そう?」
別に、わざわざ素っ気なく答えているわけではない。
「いつものお前さんなら、『寒いっ』って文句の一つや二つや十や百、とっくに飛び出してるところなのに。」
「・・・・悪かったわね・・・・。」
「なんか考えてたのか?こないだ襲ってきた魔族とか・・・?」
「・・・・ま、そんなところ。」
 
その時あたしは、あいまいな言葉しか返せなかった。
考えていたのは、もっと別のことだったから。
 
「春に吹く風は春風って言うんだろうけど、こんなに冷たいと春風って気がしないなあ。」
ぽりぽりと頭をかきながら呟くガウリイ。
「風にもいろいろあるけど、こういう時の風はなんて呼ぶんだろうな。」
「・・・風の名前、ねえ・・・・。」
あたしがまともに答えないのを、何か深刻な問題を考えているものと取ったガウリイは、当たり障りのない会話を続けた。
「不思議だよなあ。熱くて咽を焼きそうな風もあるのに、体が凍りそうな冷たい風もあるなんて。
風は風なのにな。」
「・・・・・・ぷ。」
 
思わず吹き出したあたしに、ガウリイはきょとんとして尋ねた。
「なんだ?なんかおかしいこと言ったか、オレ。」
「・・・・ごめん。思わず、あんたのまつげから特大つららが下がっている図を想像しちゃった。」
「・・・・お前な。」
ジト汗をかくせないガウリイ。
 
笑ったことで、ちょっとだけもやもやが晴れた気がしたあたし。
残りは、盛大にガウリイの脇腹を小突くことで晴らすことにした。
「いてっ!」
「さ、ぼんやりしてないで!早速、防寒具を買い込みに行くわよっ。・・・さっきちらっと見たら、少なくても3軒はお店があったわ。まずは値段の下調べねっ!」
「え〜〜〜。全部回るのかよ・・・。」
ぶつぶつ言いながら、駆け出したあたしの後ろをついてくるガウリイ。
 
 
 
・・・あたしはその時、ただ、考えていただけなのだ。
魔族のことでも、異常気象のことでもなく。
 
・・・・あの時。
ガウリイがいなくなった日。
あたしの体の脇をすり抜けていた風のことを。
 
・・・あの風に名前があるなら。
なんと呼べばよかったのだろうか。
 
 

街の表通りに向かって、駆け出しながら。
いつものように、背後からブーツの足音を耳にして。
あの風を防ぐマントや手袋はどこにも売ってないだろうな。
と、そう思った・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 









===========================end.
 
小話♪ひさびさに短いです(笑)どうも最近、長篇の癖がついちゃって(笑)
NEXTで鏡台で髪をとかすリナちゃんのシーンを思いだして書きました。隣がスースーするって、すごくわかりやすい表現だなあと。いつもいるはずの人がそこにいないと、やっぱりリナちゃんもいつもの調子が出ないかも知れませんね。
では、こんな小話をあとがきまで読んで下さった方に愛をこめて♪
この風の名前を、知っていますか?

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