「ほーむ」



「ええっ・・・・・父さんって、そうなの!?」
「そおよっ。あたしのこと、10やそこらのガキんちょと思って、誰か保護者はいないのかってしつこく尋ねたんだからっ。」
「それで、一緒に旅をすることになったの?」
「・・・うん・・・・まあ・・・・最初はね。
それから、あんたの父さんが持ってた剣が凄い剣だってわかって、次はあたしが逆に追っかけさせてもらうって言ったんだけどね。」
「今の剣じゃないんだ?」
「うん。違うの。
信じられないかも知れないけど、伝説の勇者の子孫なんだよ、あんたの父さんって。」
「へえええええええええ。
そうなんだ〜〜〜〜〜〜〜。」

ゾーキンなんか、どっかへ行っちゃった。
ぼくと母さんは椅子に座り込んで、ずっと父さんの話をしていた。

「なのに、あのチョーシでしょ?
あんた、苦労しなかった?あの人のトリ頭。」
「と・・・・トリ・・・・・・・・。」
「だって、三歩歩くと、お昼に何食べたかもわかんなくなっちゃう人よ?
方向音痴だし、人の名前や顔を忘れるのもしょっちゅうだし、よくあれであたしと会う前は一人で旅をしてたもんだって、不思議でしょーがなかったわよ。」
「そ・・そ・・・そうなんだ・・・・。」
言われてみれば、思い当たるフシもないでもなかった。
でも、そんなにひどくはなかったような・・・。
「その上、でりかし〜はないわ、ちょっと難しい話になると眠っちゃうわ、好き嫌いはするわ・・・・。」
「す・・・好き嫌い・・・・?」
「ピーマン。食べなかったでしょ。」
・・・・・え・・・・・?

あれ?

「えっと・・・・父さん・・・ピーマン食べたよ?」
「うそっ?」
母さんはひどく驚いた顔をした。
「だって、ピラフからいちいちこまっかいの分けて食べる人よっ?」
「好き嫌いすると、大きくなれないからって。何でもぼくの前では食べてたけど?」
「・・・・・・・。」
母さんが、ぴたりと黙り込んでしまった。
ぼく、何かおかしな事言ったかな。

母さんが黙り込んだので、ぼくは家の床を眺めていた。

この家に入った時から。
何となく変な感じがしていた。
それは嫌な感じじゃなくて。
なんだか、あったかいんだ。
ドアの形も、壁の色も。
天井も、梁も、床の染みも。
一つも覚えがないんだけど。
どうしてだか、身体がほこほこして。
そして、ふわふわって。
眠くなってきちゃうんだ。
どうしてかな。

母さんが、テーブルに腕を組んで頭を乗せたぼくを見て、ふっと笑った。
それは今までに見たことのない、優しい顔だった。
どきんとしたぼくの頭を撫でて、母さんは言う。
「ガウリイは・・・あんたの父さんは・・・。
ホントに、あんたを大事に大事に育ててくれたのね・・・・。」
優しい手。


母さんの手も。
そして、この家も。
優しくて、あったかかった。
どうして。
生まれてから、こんなに離れていたのに。
どっちもぼくの身体のどこかに、前からずっとあったような。
そんな、不思議なあったかさがあるんだろう。

「ねえ・・・聞かせて。」
母さんは、ぼくと同じように、テーブルに顔を寄せてこっちを見る。
「覚えてることだけでいいから。
あんたと父さんの、長い長い旅の話を。」
「・・・・ぼくと、父さんの・・・・?」
「そう。朝、どんな風に起きて、どんな風に挨拶して。
ご飯を食べて、道を歩いて、話して、笑って。
お風呂に入って、それから、眠るまで。
・・・どんなちっちゃなことでもいいの。
あんたと、父さんの。
歩いてきた道を。
あたしにも一緒に、歩かせて・・・・。」
「・・・・・・・。」

テーブルの上で、見つめ会う母さんと、ぼく。


そうだね。
たとえ、ずっと一緒にいなくても。
それは、ぼくたちの望んだことじゃなかったから。
こんなにも詰めたがっているもどかしい距離は。
思いの方がずっと近くにいた。
あったかいと思うのは。
ぼくが、確かに。
この人の子供なんだって。
この人が、確かに。
ぼくの、お母さんなんだってこと。

母さんが、ぼくにこの場所を見せたかった理由が何となくわかった気がした。



少しずつ埋めていく、想い出のカケラで。
ぼく達は、夕陽が傾くまで、くすくすと笑いながら。
ずっと、手を握っていた。


























---------------------------end.

またなんてことのない小話です(笑)ホントは謎の解明になるよ〜なちとシリアスな話を考えていたんですが、何故かほのぼので終わってしまいました(笑)そのうち、また後日談を書かせていただくかも知れません。
このお話の終りから、『しあわせのカタチ。』の1話目へと続きます。このあとガウリイが帰ってきて、あの会話となる訳です。
では、連続におつき合い下さいました方に、ささやかでも小さな幸せがお届けできたならよいのですが。
読んで下さいまして、ありがとうございました♪

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