「指定席」

 
 
ふと気がつくと、それは当たり前のことになっていて。
ちっともわからなかった。
見えていなかった。
自分のいる、その場所。
 
 
「ガウリイさんていつも、リナさんの隣にいるんですね。」
にこやかに笑ってそう言ったのは、姿形は人間の女性と何ら変わらないように見える(スカートの中は知らないが・・・)、黄金竜で火竜王の巫女、フィリアだった。
 
「あん?」
食後のお茶をすすりながら、あたしは深く考えずに答えた。
火竜王の神殿とやらに向う途中の、やや荒れ果てた感のある広野の入口。
いかにもそぐわないピンクのシートを広げ、フィリアはお茶をしようと言い出したのだ。
この旅の途中、何度これに出会ったかわからない。
竜というものも、一つの癖に捕らわれるものなのだろうか。
・・・・いやいや。
んな哲学的なこと考えているばやいではない。
「例えばお食事をする時や、歩いている時。戦う時。
そしてこんな風に、どこかに腰を降ろして休む時も。
・・・・まるで当たり前みたいに、あなた方は一番近くにいるじゃありませんか。」
手に持った優美な形のカップから、ひとくち紅茶を飲み干すと、フィリアはあたしの隣にちらりと視線を送った。
 
そこには、さっきまでガウリイが飲んでいた紅茶の、空のカップが置かれていた。
ガウリイは今、ゼルやアメリアと一緒に偵察に行っているのだ。
 
 
あたしはきょとん、として。
次に、ぱたぱたと手を振った。
「別にっ?単に一緒に旅してたからでしょっ?それに、いつもいつも隣って訳じゃ・・・」
「そうですか?」
フィリアが微笑む。
「私には、ただ単に、とは思えませんけど。」
「・・・・はあ?」
「・・・・・・・・。」
軽くため息をつくと、フィリアは自分のカップに紅茶を継ぎ足した。
「じゃあリナさん。・・・この中で、リナさんの一番近くにいる人は誰ですか?」
「・・・・・?」
 
ふと気がつくと。
当たり前すぎる自分の位置。
休む時も。
別に何も考えず、あたしは椅子に腰を降ろす。
隣か、前に、ガウリイが座っている。
戦う時も。
例えば二手に分かれようと考えたら、あたしはガウリイと組むことが多い。
それは単純に、戦力バランスの問題だと思っていた。
 
「近すぎて見えない。離れてみるとわかる。・・・そういうことってありませんか?」
あたしが呆然と持っていたカップは、いつのまにか空っぽになっていた。
フィリアがポットを傾け、並々と紅茶を注いでくれる。

柔らかな香りが立ち上ってきた。
「・・・離れてみると・・・・。」

そんなこともあった。
あの時のあたしは、一日をどうやって過ごしていたんだろう?
今、当然のように傍にいるから、いつのまにか忘れてしまった。
「例えば、ここにガウリイさんが帰ってきたら。きっとリナさんの隣に座りますよ。さっきと同じように。」
「・・・・。」
あたしは振り返る。
空のカップがぽつんと置かれているその場所を。
 
「考え過ぎだってば。フィリア。」
あたしは視線を戻すと、注いでもらった紅茶を飲む。
「二人で旅してた方が、他の皆と一緒に旅をするより長いんだから。慣れってゆーか、無意識ってゆ〜か。そんなもんじゃない?」
「・・・・・リナさん。」
フィリアはまた微笑む。

「無意識っていうのが、一番強いと、私は思うんですけど?」
 
 
 

「ひゃ〜〜〜〜〜っ。歩いた歩いた。」
 
岩陰から、ひょいっと黄金色の頭が見えた。
ガウリイが頭をかきながら、ざくざくと歩いてきた。
「なんもいないぜえ?人間も、どーぶつも見あたらん。」
しゅたっ!!
ガウリイが現れた岩の一番高いところに、アメリアが翔風界を解いて降り立った。
ずるっ!
(あ。コケた。)
「ったく。何をやっとるんだ。」
「す、すみません、ゼルガディスさん。」
続いて帰ってきたゼルの足元に落ちたアメリアは、てへへと笑いながら身を起こす。
「あ〜咽が渇いた。フィリア、紅茶注いでくれないか?」
「はい。」
ガウリイに言われると、フィリアはあたしの隣にあったカップとソーサーを取り上げ、紅茶を注いだ。

あたしが見るともなくそれを見ていると。 
フィリアはそれを。
ガウリイが近付いてくる、このピンクのシートの上。

あたしの隣ではなく、自分の後に。
それを置いたのだ。
 
「おっ♪さんきゅっ♪」
 
ガウリイはそう言うと、ソーサーごとカップを取り上げた。
長い足がシートの周りを歩いて行き。
ガウリイはどさりと、あたしの隣に座り込んだ。
「あちちっ。ふー、ふー。は〜〜〜〜、うまい♪」
満足げな顔で紅茶をすするガウリイ。

目の前のフィリアが、ほら、という顔をした。
 
 
 
「・・・・何であんた、ここに座るのよ。」
 
それは、フィリアが紅茶セットを持って、近くの小川に洗いに行ってる間のこと。
アメリアは手伝うと言って一緒に行ってしまった。
ゼルはもう一度森の方を見てくるといい、望遠鏡片手に行ってしまった。
残されたのは、広いピンクのシ−トの上。
そのはしっこに隣り合わせで座っている、あたし達二人。
 
「・・・・・へ?」
ガウリイが振り返る。
「だから。さっき、偵察から帰ってきた時。・・・フィリアは、フィリアの後にカップを置いたでしょ?なのにあんたは、それを持ってわざわざぐるっとまわって・・・・・・・・・」
突然あたしは。
自分がとんでもなく下らないことを言っているような気がして、途中で言葉を止めてしまった。

「っていや、別に。大したことじゃないわよね。ごめ、変なこと言って。忘れて。」
ぱたぱたと盛大に手を振って、あたしは立ち上がる。
突然覚えた居心地の悪さに。
 
背中に答える、ガウリイの声が聞こえた。

「・・・・さあなあ。深く考えたことないけど。
・・・・やっぱ無意識、ってやつじゃねーか?」
 
 
 
どこかでフィリアが、くすりと笑ったような気がした。 
 
 
 
 
 
 
 
























-------------おわり
 
ああっ(笑)なんかとりとめのない話になっちまいましたっ(笑)
『距離』ってヤツをお題にして書き始めたはずなのに、結局『無意識』でオチてしまった・・・(笑)これじゃ何も進展せんっ(おひ・・・笑)
ということで、『距離』というお題で別に何本か書いてみますね(笑)

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