「死守。2」


町の大通りを、ガウリイは歩いていた。
手に大きな荷物を抱えて、ぶつぶつ言っている。

「えっと。これがゼルガディスで、これがアメリア。
んでもってこれがフィリア。」手に持った荷物の中身を、しきりと確認している。
「それから忘れちゃいけないリナの分。まったくリナのやつ。オレには絶対無理だって言いやがったからな。ちゃんと間違えずに持って帰らないと、何を言われるか。」
すらっと背が高くて。
長い金髪はキューティクルぴかぴか。
青い瞳が印象的な、容貌も文句なし、という若いに〜ちゃんが。
そのまま颯爽と町中を歩いていれば、女性達の視線を集めるに違いないというに〜ちゃんが。
子供のように一生懸命大きな荷物を抱えて、背中を丸め、てこてこと歩いている姿は、どちらかというと微笑ましい姿だった。
 
だから。
いきなり足元にまつわりついてきた子犬を避けようとして、彼が見事にコケた時。
周囲からくすくす笑いが起きたほどだった。
 
「あいてててっ。くっそ〜。やっちまった。」
頭をかきかき起き上がると、つぶらな瞳を開いてびっくりしている子犬。
「お。ワン公、ケガないか?ならいいが。」
子犬の頭を、つい習慣のようにぐりぐりと撫でてしまう。
なおさら驚いた子犬は、飼い主を探して急いで駆け去ってしまった。
 
「あ。やべ。」
ガウリイが辺りを見回すと、荷物が散乱していた。
「うわ〜。リナに怒られるっ。」
急いで拾い出す。
「えっと。アメリア。フィリア。リナ・・・・・・あれ!?ゼルの分がないぞっ!?」
慌てて探し出す。
「お〜〜〜〜いゼルや〜〜〜〜い〜〜〜。」
 
見ると前方2,3メートル先に、ゼルに頼まれた買い物が落ちていた。
「あ〜。よかったよかった・・・・。」
一安心しながらそれに手を伸ばすと。
「ありゃっ!?」
丁度前を歩いていた男の靴にあたって、また2,3メートル先に転がってしまったのである。
「くっそ〜。」
 
追い掛けるガウリイ。
逃げるように転がる買い物。
「追い付いたっ!」
と思った時。
そこは何と。坂の上だった。
 
「うおわあっ!?ま、待て〜〜〜〜〜〜っ!!」
当然のように、転がるように落ちて行くのを追いかけ、ガウリイも転がるように坂を駆け出す。
「うわっ、と、止まらん!」
ころころころ。
「こんの〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ガウリイ、ダッシュ!
すると、横抱きにしていた荷物から、また一つ品物がこぼれた。
「あっ!?それはアメリアの分っ!」
急いで伸ばした手のひらの、ほんの少し先をかすめて、それは落ちた。
「待てっ!」
そしてそれもまた、転がり出す。
「こんのやろ〜〜〜〜〜〜っ!!」
 
坂の上でガウリイと品物の追いかけっこ。
「待て〜〜〜〜〜っ!!」
ころころころっ
「こんの、待てって言ってるだろ〜〜〜が〜〜〜〜!」
ころころころっ
 
坂を下から登ってくる人だっている。
そうした人のうち一人が、ガウリイと衝突コース上にいた。
「うわああああっ!」
「おうわああっ!?」
すんでのところで躱すガウリイ。
さすが一流の剣士!(ってさっきコケたけど・笑)
だが。
「あっ!フィリアの分がっ!?」
また一つ、荷物から転がり出したのである。
 
合計三つの品物は、御丁寧にどれも丸いものだったので、よく転がった。
そしてその坂の、なんと長いこと(笑)
「な、なんなんだよ、ここは〜〜〜〜っ!?」
 
ここは坂が多いから、坂の町って意味の名前なのよ、と。
町に入った時のリナのうんちくを、一切聞いていなかったガウリイだった。
 
ゼル、アメリア、フィリアの買い物を落とし。
必死に追い縋るガウリイだったが、ふと前方へ目をやって驚いた。
この先は、海岸へ続いている。
いや、海岸というより。
断がい絶壁なのだ。
そんなバカな。
どういう地形なんだ!?
と今さら思ってももう遅い。
 
その時。
坂に穴ぼこが。
道路公団なにやっとる。ってないからしょうがないか。
おそらく轍が重なった跡だとは思うのだが。
そんなことは重要ではなかった。
ガウリイが、それにけつまづいて、思いっきりコケること以外は。
 
ずべえええええっ!
これにはさすがのガウリイも、すぐには起き上がれなかった。
「な・・・・なんでこんなとこに穴が・・・・っ。」
もっともである。
 
だが彼は、ある光景を目にして飛び起きた。
最後の砦。
リナの頼まれものが、袋からこぼれて、ころころと転がり始めたからだ。
「リ、リナがっ!」
いや、リナでなく、リナから頼まれたものだったが。
ガウリイ、最後の奮起。
「これだけはっ!!」
 
 
 
 
 
 
「・・・・で。これだけは残ったってわけね。」
宿屋の食堂で、ガウリイを待っていたリナは開口一番、そう言った。
「・・・・うん。」
ガウリイは最後に守った、リナのお使いを手渡した。
「すまん。もう一回行ってくるから。」
ぽりぽりと頭をかく。
 
リナは一つため息をつくと、ガウリイからお使いものを受け取った。
ガウリイは、いつ雷が落ちるかと、気が気ではない。
思わず目をつぶる。
 
が、何も起こらなかった。
そおっと目を開く。
 
リナは、受け取ったものを、両手でわしっと二つに割っていた。
片方を、驚いたガウリイに差し出す。
「ごほ〜び。」
 
それは一個だけの、オレンジに似た果物だった。
 
「それ食べたら。もう一度買い物に行きましょ。あたしも一緒に行ってあげるから。」
「・・・怒んないのか?」
半分に割られた果物を、大事そうに受け取るガウリイ。
「呆れてる。」
「・・・う。」
「でもまあ。」リナは片方のオレンジをちょびっとかじる。
「これだけでも買ってこれれば、あんたにしちゃじょ〜できよ。」
「うう。返す言葉もありません。」
「ほら。わかったなら、さっさと行くわよ。」
 
オレンジを齧りながら。

先頭を行くリナは、そっと呟いた。
「・・・ったく。たった一個の果物のために、そんなにボロボロになってちゃ、なんにも言えないじゃないの。」

果物を死守するために、坂を駆けおり、穴につまずき、あげくの果てには勢い余って崖から落ちそうになり。
髪はぼさぼさ、顔は泥だらけ、ひっかき傷もちらほらの。
冒頭のかっこいいにーちゃん台無しのガウリイは、狐につままれたように、だが嬉しそうに果物を齧っていた。
 
 
 
 
 






















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