「カウント・ダウン」



あたしは・・・迷っていた。
騒々しい店の中。

『スレイヤーズオールキャラ年末御苦労さんパーティー』なんて・・・誰が考えたんだろう・・・(汗)
気がつくと、無理矢理連れて行かれたのは、とある街の、とある一軒の酒場。
よくある両開きの扉を開けてみれば、こいつもこいつも、あ、こいつも、の世界で、懐かしい顔もあれば、もう二度と見たくない・・・と思った輩まで、じゅっぱひとからげ状態だったのだ。
それに・・・なんつ〜か・・・。
一つのパースに納めるにはすんげ〜〜〜無理のある誰かさんとか誰かさんとかまで・・いるんですけど・・・・。
ま・・・・まあ・・・いいか・・・。
年末の懐具合のさびし〜〜頃に突然かかった、飲み放題食べ放題のお誘い・・・。
無理矢理連れて来られたとはいえ、ここまで来た以上、楽しまにゃソンって感じよね・・・。くす。

思わずへらっと口の緩んだあたしの顔を、何故かガウリイがじっと見ている。
「なによ、ガウリイ。なんか言いたそ〜ね・・・。」
「・・・・。」
「なによ?」
ガウリイはぽりぽりと頭をかいて、やや呆れた表情でこう言った。
「いや・・・。なんかお前さんが今、頭の中で考えてたこと、手に取るようにわかっちまった気がするんだが・・・・。」

むぎゅうううううっ!

「い、いてっ!いてっ!いてて、リナっ!」
「余計なことを言うお口はこのお口かな〜〜〜っ。」
「よっ!よけ〜なころっっれ!オ、オレはらら、ほんろ〜のころを・・・」
「まだ言うかあ!」

くすくす。
前方から笑い声。

「リナさん、ガウリイさん。お久しぶりです。」
「シルフィールっ!?」
「相変わらずだな、お前達は。」
「ゼルじゃないか!」
「相変わらず・・・じれったいとゆ〜か・・・・です・・・。」
「アメリアも!なんだ、皆ホントに来てたのねえ♪」
「わしもおるぞ。」
「あ、フィルさんっ!」
「はうっ・・・・」
「シ、シルフィール、しっかりっ。まだ慣れないのね、あんた・・・。」
「久しぶりだな、リナ=インバース。」
「あ、あんたわっ!クリストファさん!その後、お兄さんとは上手く行ってるんですか・・・?」
「無論だ。全ては我が身が招いた悲劇。二度とあのような事が起こらぬよう、自戒しておる。」
「心配するな、リナ=インバース。儂が精魂込めて説得したところ、クリストファも心根を入替えて、兄弟仲良くやっておるのぢゃ!」
「まあ・・・・。フィルさんの平和主義的説教を・・・一時間も耐えれば、その人はさぞかし・・・・。それにしても、王室すっからかんにして、セイルーンてば大丈夫なのかしら・・・・(汗)」

ぽむぽむっ!
誰かがあたしの肩を叩く。
イヤ〜〜〜〜な予感で振り向くあたし。
そこには予想通りの・・・・
「なあ・・・リナ。そいつ・・・誰だっけ。」

や・・・やはし・・・。

あたしが思いっきり脱力していると、ガウリイが額にジト汗をかきながらこう言った。
「いやその・・・。ほら、こうやってセリフだけだと、絵がないから、なんか読んでる人にもわかりづれ〜だろ〜な〜って・・・。」
「読んでる人って・・・誰・・・。」


まあ・・・そんなこんなで、あっちこっちで再会の挨拶が交わされたわけで、ようやくあたし達は御馳走にありつけた。
その間、どうやらビンゴ大会や伝言ゲームやカラオケおんすて〜じなんかもあったらし〜が・・・・。
背に腹は変えられないっつの!
ありがた〜〜〜〜く用意された御馳走を、ほんのちょっぴりだけ遠慮して、あとは欲望の赴くままに、あたし達は平らげていたとのである。
なんか・・・。
隣で、ゼルやマイアスやメフィやラゼスやワイザーなんかが、げっそりとした顔をしているんですけど・・・・。
え。
マイアスって誰かって?
いやあ・・・・あたしも忘れてたんだけど。
・・・門番そのいち、よ・・・(笑)


ようやく満腹になった頃、それぞれ客達は一塊になって、想い出話に花を咲かせていた。
しかし・・・。
本編が14巻も出てる割には・・・・なんか人数、少なくない?
そう言うと、ゼルガディスがぼそっと答えた。
「そりゃあ・・・ほとんど、死んでるからだろ・・・。」
あ。
そっか・・・・。てへへ♪

(ちなみに付け加えておくと、てへへ♪じゃないだろ・・・・と、隣からガウリイの突っ込みがあったのは言うまでもない。
もうひとつ付け加えるに、その足を、あたしの華奢な可愛いつま先が、ちょこん、と踏んだのも、言うまでもない。)

おおげさな声を出して後ろに倒れたガウリイを、慌ててシルフィールが駆け付けて受け止めている。
なによ。
ちょおっとつま先で踏んだだけなのに。
おおげさねっ!

「リナさん。お久しぶりです。」
隣に異様な瘴気を感じたあたしは、陽気に挨拶をした。
「や。ゼロス。お久しぶり〜♪」
「いや・・・・そんな明るく挨拶されても・・・。もうちょっと驚くとか、嫌そ〜な顔をするとか、そ〜いうリアクションが欲しかったんですが・・・。」
紅玉のついた杖を携えた、おかっぱ頭の獣神官は、情けない声を出す。
ったく。
魔族が、んな情けない顔するなっつ〜の。
「なによ。じゃあ、『ゼロスっ!?なんでここにっ!?』とか言ってほしかったわけ。」
「そうですよ。」
にこにこと答えるゼロス。
「そうしたら、僕は口のところにこう、指を当てて、『それは秘密です♪』って、お決まりのセリフが言えるじゃないですか。」
「あんたね・・・。そのために文句つけるわけ・・・。」
「仕方ないじゃないですか。絵がないんですから、どこかで特徴を出さないと、誰が誰だがわかって貰えないかも知れないじゃないですか。」
「誰によ・・・。」
「それは・・・」
「あ。いい。言わなくていい。わかったから。」
投げやりに手を振るあたし。
なんか、そこはかとな〜〜〜く疲れた。


反対側の隣では、アメリアがぽっと赤くなりながら、ゼルガディスにお酒なんかお酌しようとしている。
あ。ゼルが止めた。
「よせ。一国の皇女が、そんな真似をするんじゃない。」
あ〜あ〜。あいっかわらず、硬いこと。
見かけも中身も、あんま変わってないわね。
「え・・・と。お酒注ぐのが、そんなにいけないことなんですか?」
「え?いや・・・その・・・・だな。」
あのでっかい目でまじまじと見られると、さすがのゼルも形なしってとこよね。
「ゼルガディスさん・・・。そう言えば・・・知ってますか?」
「なにをだ。」
「あの・・・・。もうすぐ夜中の12時ですよね・・・。」
「それがどうした。」
「12時を過ぎたら新年ですよね・・・。」
「だから何だ。」
「いえ・・・。何でもないですう・・・。」
あ。
アメリア、しゅんとなってる。
まったくゼルのやつ、もう少し女性には優しくできないもんかしらねえ。
でも。
アメリア・・・・何を言いたかったのかしら?

「大丈夫ですか、ガウリイ様。」
「い、いやあ、大丈夫大丈夫。それにシルフィール、様はやめてくれよ、様は。」
「お嫌ですか・・・?」
「あ。いやあ。嫌って言うんじゃなくって・・・。背中がカユくなっちまうんだよ。」
「まあ。うふふ。」
「あ、あれ。おかし〜か?」
「ええ。おかしいです。」
「ま、まいったな。」

背後の床ではなんかニュアンス(古いな・・・)してるし・・・。
あ。
なんか食べ過ぎかな。
ムカムカしてきた。
少し夜風にでも当たってくるか。

立ち上がったあたしは、すぐに誰かにつかまって、無理矢理また別の椅子に座らされた。
「どこへ行く、リナ=インバース。儂の酒は飲めんと言うのか!」
「ああっ!あんたわっ!・・・・って・・・誰だっけ・・・・。」
「・・・まあ・・・覚えておらんのは無理はないが・・・。しかし、君にとって私は恩人にあたると思うのだが・・・?」
「へ・・・・っ。って・・・・・」
「いやあ、村長さん。その節は御世話になりましたっ!」
突然隣に現れたガウリイが、ぺこりっと頭を下げる。
驚くあたし。

「って、ガウリイっ!?あんた、覚えてんのっ!?」
「何を言ってるんだ、リナ。ほら、お前が賞金かけられて、いきなりオレ達が掴まって、んでお前さんが襲われそ〜になった時だよ。あの時、事情を話してくれて脱走するオレ達をあっさりと見逃してくれた村長さんだぜ?」
「ほら、ここを見なさい。」
村長さんは何やら懐からがさがさと取り出すと、あたしに手渡した。
なになに。
表紙になんか書いてある。本のようだが・・・。
なになに。
タイトルは・・・『サイラーグの妖魔』??
「ほれ、そこの23ページじゃ。」
「どれどれ。・・・あっ!ホントだっ!!あのものわかりのいい、村長さんっ!いや〜〜〜〜、失礼しましたっ!」
「なになに、思いだしてくれればいいんじゃ。それより一杯どうじゃ。ほれ、あの時のメンツもおるぞ。」
「あ〜〜〜〜〜っ!あんたたちわっ!!あたしをふんじばった、見張りAと見張りB!」
「てへへ。いやあ、リナさん。その節はどうも。」
「いやあ、じゃないっ!まったく、よくもあん時は・・・。」

拳を振り上げかけたあたしの脇で、見張りBが何やらガウリイに囁いている。
あたしの可愛い地獄耳は、こんな時でもよく聞こえてしまうのだ。

「あ・・・あんた・・・。あの時言ったよな・・・。や、やっぱこの娘っこ・・・。病気持ちなのか・・・・?」

ずるどかごべしっ!

あ〜〜〜〜。
酒場の床って・・・。
ひんやりして、気持ちい〜〜〜。

などとのんびりしてる場合ではない。
何故か病気の内容まで詳しく話そうとしているガウリイの頭を小突き回し、ようやくすっとしたあたしは、元の席に戻ろうとした。
また他の酔っぱらいに絡まれるのはたまらん。
すると、元のゼルの隣に座ろうとした時、アメリアの視線に出会ってしまった。
何かいいたげで、よくはわかんなかったけど。
どうやら、あたしにゼルの隣に座ってほしくないらしい。
う〜〜みゅ。


仕方ないので、奥のカウンター席に行った。
いつのまにかワイザーのおっちゃんが、きちっと蝶ネクタイなんぞをしめ、バーテン顔負けの風情でシェイカーを振っている。
「似合うわよ、ワイザーのおっちゃん。」
あたしがほめると、しぶくおっちゃんは笑うのだった。
「一流の特別捜査官たるもの、ほんのたしなみだ。」

・・・ううむ。
さすがにご近所の奥様方にひょ〜ばんの、特別捜査官である。


やっと静かになったところで、あたしがのんびりと、ワイザーのおっちゃんが作ってくれたもすこみゅ〜るなんぞ飲んでいると、なにやらのぺっのぺっ・・・という足音。
「ねえ・・・おっちゃん。なんか・・・生臭い匂いがしない・・・?」
「う〜〜〜む。それは、お前さんの後にいるヤツのせいじゃないか?」
さすがは特別捜査官。
顔色一つ変えないのだ。
でも後にいたのは。

「ぎゃっ!?あ・・・・あんたわ!」
こりゃ生臭いわけだ・・・・。
直視すると脇腹が痛くなりそ〜な顔が一つ。
「ひ・・・さしぶりなのだ・・・。リ・・・ナ=インバース。」
笑い出したいのを堪え、あたしはしばし考える。
「ちょ・・・。ちょっと待ってよ・・・・。
ラ・・・ラハニムはゼルが倒したはずだから・・・あんたわ・・・
ヌンサ・・・・・?
「あの時の誓いを・・・果たそうと思って・・・な・・」
「へ??誓いって??」
「誓ったであろう。私と子を成すと。」

ずべべどこがしゃっ!!

「誰が誓った、誰があっ!!」
あ〜あ〜・・・カクテルがもったいな・・・。
「まずは誓いのちゅ〜を・・・」
「それはイヤ〜〜〜〜〜っ!!」
ぶんぶんぶん!!
「何を言っておる。カウントダウン・キスなのだ。新年になるから、いいのだ。」
「な・・・なんですってえ?」

ぐる、と振り向いたあたしに、冷静なワイザーのおっちゃんはにやりと笑う。
「そうだ、リナ=インバース。異国の習わしだがな。このパーティーでは、どうやら無礼講らしいぞ。」
「な、なにがなんなのよっ!?」
「つまり。午前0時までのカウント・ダウンを終え、晴れてニューイヤーを迎えるその瞬間は、誰でもいい、隣にいる人間にキスをしていい習慣になっておる。」
「だ・・・・誰がんなふざけた習慣作ったのよおおおおおっ!!」
「さあ。リナ=インバース。今こそ。」

迫る生臭さの中、いつのまにか酒場はカウント・ダウンの真っ最中。
バカなああああ!
頭を抱えたあたしは、はっと気づくと、何故かおやぢ達の中心にいた。
「リナ=インバース。」
「そっ・・・村長・・・」
「リナ=インバースさん。」
「あっ・・・あなたはグレイさん・・・」
「リナ=インバース。」
「げ。ラゼス隊長まで・・・」
「リナ=インバース殿。」
「フィルさんまでええっ!」

ヌンサから逃げ出そうと思っても、おやぢ達に囲まれて身動きが取れないあたし。
「10!」
「さあ。」
「9!」
「リナ=インバース。」
「8!」
「夫婦の契りを。」
「7!」
「晴れて新年を迎える記念に。」
「6!」
「ものの試しに。」
「5!」
「またとない機会に。」
「4!」
「老後に一花咲かせようと思ってな。」
「3!」
「さあ。」
「2!」
「さあ。」
「1!」
「さあ!」

「イヤ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」



ひょいっ!


あれ?あたし・・・・なんか、宙に浮いてない?

「ご馳走様でしたっ!それじゃオレ達はこの辺でっ!」
「・・・へ?ガウリイ・・・?」
並みいるおっさんずの中から、あたしの首ねっこを捉まえて持ち上げてるのは、何となくぼろっちくなっているガウリイだった。
髪がぼさぼさ、服までしわくちゃだ。
ガウリイは汗笑いを浮かべると、あたしをひっつかんだまま、脱兎のごとく酒場を抜け出した。
「ガウリイ様っ!」
「ガウリイさんっ!」
「リナ=インバ−ス殿ぉっ!」
「リナ、またな!」
「お元気で、リナさん!」



仲間と、仲間でない人達の、別れの挨拶が遠のいていくのを、あたしはガウリイの背中から見送った。






「はあ。ここまで来ればいいだろ・・・。」
街の中心にある噴水のところで、ようやくガウリイは立ち止まった。
同時にあたしはすとんと落とされる。
「まったく、参ったぜ。」
「ちょっとガウリイ・・・。なんであんなに焦って出て来たのよ。首が痛いわよ、あたし。」
「あ、すまんすまん。とにかく早く出ようと思って。」
「だから、何で。」

っていうか・・・。
あたしは助かった訳だけど・・・。
なんで?

「いや・・・。なんか訳のわかんない習慣とやらのおかげで、ひで〜目に会いそうになってさ・・・。」
ぽりぽりとガウリイが頭をかく。
習慣・・・って。
まさか、ガウリイも。
「オレの隣に座ろうとして、シルフィールとボランがケンカになったり、何故か顔を赤らめたランツまで参加しようとするし、まったく訳がわからん。」
・・・あれ?

「ねえ・・・。習慣って何だか、ガウリイはわかってるの?」
「へ?・・・新年に隣に座るのが習慣なんじゃね〜のか??」

・・・ダメだ、こりゃ。

あたしはぷっと吹き出した。


いっそがしい年末だった。
気がつくと、やっぱりガウリイと二人の、いつもの状態。
でも。
・・・・・・これで、い〜のかも。


り〜〜〜〜んご〜〜〜〜ん・・・
り〜〜〜んご〜〜〜〜〜ん・・・・・


街の教会の鐘が鳴った。
「あれ。さっき、カウント・ダウンてのやってたよな・・・。あいつら。」
「う〜〜〜ん。時間・・・間違えてたんじゃないの・・・?」
「はは。」
「くすくす。」

新年を迎える瞬間。
隣にいる誰かに、キスしてもいい習慣。
たぶん。
新年を迎えるあらたまった気持ちと。
今年もよろしくね、という気持ちを込めて。

「なあ・・・。リナ。」
「うん?」
星空を眺めていたガウリイがふと尋ねる。
「結局、習慣って、何だったんだ?」

・・・それはね。

「教えてあげてもいいけど。」
「・・・いいけど、ってのがひっかかるな。夜食をおごれって言われても、オレ、金なんかね〜ぞ?」
「違うわよ。ちょっと・・・・屈んでくれる。」
「へっ?屈むって・・・こうか?」
「そ。」




そして、あたしのカウント・ダウンはここから始まる。


新年おめでと、ガウリイ。
新年おめでと、あたし。






















-----------------おわり♪

年末あんけ〜とにご協力いただいた、ほんのお礼です♪面白かったのが、『隣にいる人にカウント・ダウンキス』するために場所とかでぢたばたする、という展開でした。こりは!と思って書かせていただきました。
でもぢたばたしたんじゃなくて、どたばたしただけかも(笑)
ホントはいなくなったキャラ達も出したかったんですが、それじゃ思いっきり長くなりそうなので(笑)やめました(笑)
少し時期遅れですが、お許しを♪
またお目にかかりましょう♪そーらより愛を込めて♪

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