「幼い愛し方」


 
いつまでも握りしめていたい、手があった。
まるで子供のように小さくて。
握りこぶしを包んでも、すっぽりと自分の手のひらの中に収まってしまうような。
幼いようでいて、それでも意外なほどに。
ひとつの新しい命を、その華奢なからだで育んでいる。
 
・・・愛おしくて。
隣にいるのが当たり前だと思っていたのに、今、隣に眠っているのがどうしても不思議な。
そんな無邪気な寝顔を、ずっと眺めていた。
 
「う〜〜〜ん。」
 
ぐっすり眠っていた彼女が何事か呟く。
腕の上で頭が動き、寝苦しそうにもぞもぞする。
身体を半回転させ、横向きになり。
今気づいたかのように、触れたパジャマに頭をこすりつけてくる。
「ん〜〜〜〜〜。」
 
起こさないようにそっと髪を撫でた。
だが、起こしてしまったのだろうか。
目を閉じたまま、リナがこんなことを言った。
「お腹くるし〜。も〜食べれな〜〜〜〜い・・・。」
「・・・・・・。」
 
一瞬きょとんとし。
思わず吹き出してしまったガウリイは、笑い声を上げないように我慢するのが精一杯だった。
 
「お腹がつかえて眠れな〜い・・・・・。」
もぞもぞと、収まりが悪いのか毛布の中で動くリナ。
かなり目立ち始めたお腹が、ガウリイの腹にも当たる。
「・・・・お前さんの腹が出てるのは、食べ過ぎじゃなくて。赤ん坊が、いるからだぞ・・・・?」
もしかして寝言かも知れないと思いながら、小さな声で答えた。
「ん〜〜〜〜〜。」
リナは目を閉じたまま。
「そっかあ。そうだよねえ・・・・?」
 
「・・・そうだ。」
ガウリイはある事を思い付き、そっとリナの頭を腕から外す。
起き上がると、四つある枕の一つを取り上げ、ぎゅっとまん中を押してへこませると、リナの腹の下に差入れてやった。
ふたたび横になると、リナが長々とため息をついた。
「ふう。」
「少しは楽か?」
「・・・・うん・・・・ありがと。」
「どういたしまして。」
腕を回すと、待っていたようにまた、小さな頭がこてん、と腕の上に置かれた。
ぐりぐりと、腕に顔をこすりつけている。
「ん〜〜〜〜〜。」
可愛かった。
 
その気持ちを表わすように、ぎゅっと抱き寄せる訳にはいかなくて。
毛布を肩まで引き上げてやると、腕枕している手で、頭を撫でてやった。
さっきまで握りしめていた小さな手が、きゅっと。
パジャマの襟をつかむ。
 
買物帰りに手を引いて歩くことすら、照れる彼女。
眠りと目覚めの境界を漂っている、こんなに無防備な時だけは、素直になるのだろうか?
いつまでも握りしめていたいと、彼女のこぶしを包む彼のように。
 
ガウリイがその手をぽんぽん、と叩くと。
リナが大きくため息をつき。
それで安心したように、ぐっすりと眠りに落ちて行った。
彼女一人に必要なだけではない、睡眠を取るために。
「おやすみ。」
もはや届かない耳に呟くと、彼も目を閉じた。
 
 
・・・腕の中にいるのに。
彼女の中には、自分の分身とも言える命が芽生えているのに。
今、この世界で一番、近くにいるというのに。
離したくない、ずっと手を握りしめていたい、と思うような。
そんな、幼い愛し方が。
自分の心の最も深い、無防備な場所にあるのを知って。
 
「ガウリイ・・・・」
眠ったはずの小さな頭から、小さな声がした。
ガウリイはうっすらと目を開く。
 
「・・・・なんだ・・・?」
「・・・あたし達さ・・・・・。」
「・・・・ん・・・・・?」
「ずっと、一緒にいたよね・・・・。」
「・・・・・・・?」
「ずっと、一緒だったよね・・・・。あの時も、あんな時も、それから・・・・。」
頭の中で、思い浮かべているのだろうか。
穏やかな顔だった。
「ん・・・。そうだな・・・。」
「ちょっとは・・・離れた時もあったけど、さ・・・・。」
「・・・・・・・ああ・・・。」
彼の記憶にはない、水晶の中での失われた時間。
「もう・・・・・。」
吐息のように、密やかな声。
「あんなのは、もう・・・ヤだからね・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
 
初めて聞いたその告白で。
その時の彼女の気持ちが、痛いほどにわかった。
二人だけの旅を続けていて。
こうして、お互いの距離が限りなく近付いた今になっても。
口にしなかった事が。
 
「・・・わかった・・・。絶対だ・・・。」
思わず誓うと、信じられないと言う風にリナがくすりと笑った。
「ホントにわかった?話、ちゃんと聞いてた・・・?」
「ちゃんと、聞いてたさ。」
「なら、よろしい・・・・。」
今度はふっと笑うと、再びまどろむリナ。
「言っておくけど。似合わなかったから。
あんたのいるとこは、あんな綺麗な水晶の中なんかじゃなくて・・・。」
「・・・・・・・・・?」
「海の中でしょ、クラゲなんだから・・・。」
「・・・・・おい・・・・・・。」
「くす。じょおだんよ、じょおだん。」
意識が遠のくように、次第に小さくなる声が囁いた。
「あんたのいるとこは・・・・・・・・・・。」
「・・・リナ・・・・?」
その先は、唇が微かに動いただけだったが。
「・・・・・・・。」
 
ガウリイは微笑み。
パジャマの襟から手を取り上げると、甲にくちづけた。
「・・・・ああ。
お前のいるとこも、とことんの中じゃなくて。
オレの、そばだからな・・・・。」
 
 
 
 
 
 
・・・・いつまでも握りしめていたい手がある。
離したくない、ずっと握りしめていたい、と思うような。
そんな幼い愛し方が。
必要な夜もあったことを。
 
いつか、生まれた子供が大人になったらこっそりと。
笑い話のように教えてやろう。
 
ガウリイは、まだ見ぬ我が子の未来に顔をほころばせ。
愛しい者の手を包んだまま、やがて柔らかな眠りに落ちていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 






 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
-----------------------------end.
 
おひさしぶりの更新です♪待っていて下さった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございますとここでお礼申し上げます♪
おかげさまで目もだいぶよくなってきたのですが、まだ水疱が取れなくて(汗)コンタクトを入れられないし疲れやすくなってるので、様子を見ながら少しずつ作業しています♪何はともあれ、新刊の入稿を無事に終えてほっとしてるところです(笑)
 
さて、むっか〜し(笑)PEARLの歌に『五月の風の中で』というのがありました。
カラオケにもあってびっくらこきましたが(笑・勿論歌った)友だちにダビングしてもらってからすっかり気に入ってしまって、CDを買い直した懐かしい1曲です。
その中の歌詞からこっそり(?)使わせていただきました♪のが『幼い愛し方』です。『♪夜に引き裂かれても、この指、だけは離すなと。そんな、幼い愛し方でずっと、抱きしめ〜てい〜た〜い』というラストのサビの部分からです。
 
ガウリイって鷹揚で、飛び跳ねてるリナの後から穏やかに(のんびりと・笑)歩いてついてくるっていうイメージの方が強いのですが、こんな風に「幼い愛し方」をするのも、レンアイには時としてひつよ〜な場合もありやすやねえ(笑)定番です(笑)「どこにも行かないでっ」「どこにも行かないよ。ずっとここにいる。」(背景に点描)ってぇ〜会話がっ(笑)<しょーじょマンガもーどに再び突入かっ(笑)
この話は書きながら(打ちながら・笑)親子編だな〜〜と思ってたんですが、最後に『この二ヶ月後には、ガウリイは手を離さなければならなかった。』って書くと、切ないより辛い感じがしちゃって(笑)結局入れませんでした。な〜んとなく、そうかもな〜〜と思った方はアタリです(笑)
 
では、読んで下さった全ての方に愛を込めて♪
あなたは、幼い愛し方とオトナな愛し方。
どっちの方がお好みですかい・・・・?(くす)

この感想を掲示板に書いて下さる方はこちらから♪

メールで下さる方はこちらから♪