「ぷれぜんと。」ぱーと4




・・・・・・・何から話せばいいのだろうか。


あたしはリナ。
ほんのちょっと前まで、ふつーの女子高生だった。

それが、とある男性から貰ったクリスマスプレゼントがきっかけで、いきなり世界は180度変換し、ふつーでない事態を迎えてしまった。
訳のわからない黒ずくめのオッサンには狙われるわ。
家にいるのも危なくなって、連れ出された先はなんとビルの36階にある、夜景が見渡せるオシャレな部屋。
一ヶ月の有効期限つきで、あたしはその部屋に専属のボディーガードと住むことになってしまった。
とてもふつーの女子高生のせーかつじゃない。

そして今は、その部屋すら敵に襲われ、荷物も持たずに他の隠れ家に向う最中だ。

・・・・え?

とある男性って誰かって?
専属のボディーガードって何のことかって?

・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
それはあの。

ぬいぐるみに赤面するよ〜なことを吹き込んで渡したり、いきなり血だらけで現れたり、36階からエレベーターより早く降りることのできる、あいつのこと。

今、あたしの隣の運転席で、油断なくバックミラーに目を配っている、長い金髪のハンサムさん。
・・・・・ガウリイ、のことなのだ。




昨年のクリスマス、あたしはガウリイから犬のぬいぐるみを貰った。
誰かさんの髪の毛とそっくりの、金色和毛の『がうりい』。
今もあたしの膝の上に、しっかり抱かれているぬいぐるみだ。

ところがそれを狙って、あたしに近付いてきたヤツがいた。
そいつは黒ずくめの男で、あたしから『がうりい』を奪いに来た。
だが危ないところで、ガウリイが不思議な武器であたしを助けてくれて、その時は事なきを得たのだった。
男は消えてしまい、事件が終わったかと思ったのだが、それは違った。

ガウリイは依然、あたしが狙われているのだと言い、一ヶ月だけあたしを預からせて欲しいと家族に申し出たのだ。
その間に決着をつけるから、と。
でも孤立無援の彼には、たった一人で24時間体制の見張りを一ヶ月も続けるのは無理だった。
こちらから打って出ようかと思った頃、またあの黒ずくめの男が現れたのだ。

男は、人間じゃなかった。
異様な身体の変化を目にして、あたしはようやく、ガウリイの敵とやらが、尋常の相手ではないと悟ったのだ。
あたしを人質にして、ガウリイをなぶり殺そうとする男。
あたしは自ら決断して、男もろともビルの36階から飛び下りた。

だが、あたしは無事だった。
一緒に落ちたガウリイも。
怪訝に思うあたしに、男を倒したガウリイは、あたしにも不思議な力があるのだと教えてくれた。

それがなんなのか。
今でもよくわからない。
ガウリイは一体何者なのか。
ガウリイの仕事とは?
男が口にした、数々の謎の言葉の意味は?
そして、敵とは何なのか。

疑問をたくさん、ぬいぐるみの『がうりい』と一緒に抱きしめて、あたしは助手席でガウリイが口を開くのを待っていた。







「・・・・・でもガウリイ、あいつは倒したのよね。」
あたしは言った。

車で3時間もかかって辿り着いたのは、避暑地で有名な高原の別荘地帯。
冬の避暑地とはすなわち、雪に包まれためちゃさむ〜〜〜い世界、というのを意味する。当然、観光客などほとんどおらず、地元の人たちがゆっくりとシーズンオフを楽しむ、静かで平和な土地だった。

あたしは、途中にあった大きなスキー用品店でガウリイが買ってくれた、厚手のダウンジャケットに有り難く袖を通していた。
その他にも、ガウリイはいろいろと買い込んでいたようだ。
一体、そのお金はどこから出てくるんだろう、と思うくらいに。


ガウリイが車を止めたのは、夏なら賑わったであろう、別荘街の一角。
それほど大きくはないが、木を丸太ごと使ったログハウスは、見るだけで何となくほっとする感じを与えてくれた。
食料の入ったボール箱を運び出しながら、ガウリイが振り返った。
「ああ。確かにあの時、あの男は倒した。」
「ならなんで・・・・また、隠れ家に来たの。」
男を倒して決着がついたから、今度は自分の家に帰るのかと、てっきりあたしは思っていたのだ。
「相手があの男一人なら問題はない。ヤツが単独で行動していたかどうか、それはわからないんだ。もし誰かと共同戦線を張っていたなら、近いうちに必ず何らかの接触があるに違いない。」
「・・・・・。」
「君のお姉さんに約束した期日まで、あと二週間弱ある。それまで、ここで相手の出方を見てみよう。」
「・・・・。わかった。」
あたしは値札のついたままの、着替えが入ったボストンバッグに手をかける。


姉ちゃん・・・・。
心配、してるかな・・・・。


「!」
物思いに囚われたあたしは、何かに思い切り鼻をぶつけてしまった。
「ふが!は、はに!?」
身を引いてみると、それはガウリイの背中で、彼は振り返ると唇に指を当てた。
「・・・・!」
敵!?
あたしの心臓がどきりと跳ね上がる。


ガウリイがドアに続く上がり段に足をかけた時だ。
唐突にドアが内側から景気よく開いた。



「ガウリイ様っ!!」


え・・・・・・・・・・・・・。
な、な、なんなの一体っ!?

「シルフィールっ?」
「心配しましたのよっ!!」

家の中から飛び出してきた女性は、黒いストレートの髪がエキゾチックな、めちゃくちゃな美人だった。
シルフィールと呼ばれたその人は、階段を降りると、ガウリイの胸に手を当てて切なそうに訴えた。
「何の連絡もなしに、いきなり行方不明になるんですもの。皆、気が気じゃありませんでしたわ。・・・勿論、わたくしも・・・・。」



・・・・・・・・・・・なんなのよ。

なんなのよなんなのよなんなのよ、このじょーきょーわっ!!
車の陰で大事そうにぬいぐるみ抱えて、息を殺してたあたしの立場わっ!?



するとガウリイは、シルフィールの手をどかしてこう言った。
「出ておいで、リナ。『敵』じゃない、仲間だ。」
・・・・へ?

おずおずとあたしが出てくると、シルフィールという女の人の顔がさっと変わった。
まるで、嫌な予感がした、とでも言うように。
「ガウリイ様・・・・。その方は・・・・。」
その時、あたしの腕にあったぬいぐるみに、その人は気がついた。
さらに顔色が青ざめた気がした。

ええと。
ええと。
なんてゆーんだろ、こーいうじょーきょー・・・。
自分は滅多に見ないけど、トモダチが好きな恋愛ドラマの一場面のよ〜な・・・・。
何故だか途端に居心地の悪さを感じて、あたしはただ突っ立っていた。
ガウリイはいきなりあたしの背後に周り、肩に手を置いて言った。
「紹介しよう、シルフィール。彼女はリナ。オレは今、この子を守ってる。」
「・・・・・。」
あたしは、顔が真っ赤になるのを、なんとか必死に抑えていた。
「で、リナ。こちらはシルフィール。後で詳しく説明するが、オレの『仕事』の仲間なんだ。」
「仲間・・・・?」
「言ったろ。オレは仕事を放り出して来たって。この仲間達と一緒に仕事をしていた最中だったんだ。」

「・・・・まったくだ。お前のお陰で、俺達がどれだけ苦労したか。」

また一つ、初めて聞く声がして、違う人が家の中から出てきた。
その人は腕組みをしていて、ガウリイより少し背が低く、華奢な印象の男性だった。
だが、頭からすっぽりとパーカーのフードを被っていて、顔立ははっきりとわからない。

「・・・・・・・悪いな、ゼルガディス。
だが、オレには『仕事』より大事なことだったんだ。」
ガウリイが言うと、フードの中の目がきらっと光ったようだった。
「世界の一大事より、その女を選んだってことか。」
「・・・・・。」

あたしは何故だか、二人に睨まれているような気がした。
ガウリイが『仕事』とやらを放り出したのは、あたしの責任だと言わんばかりに。
・・・・・・・・・・。
なんか・・・・・・。
訳がわかんないなりに、言い返したいこともあるんだけど・・・・。

だけどガウリイは、あたしの肩に置いた手に少しだけ力を込めると、こう言った。
「さあな。・・・・ま、オレにとっちゃ、世界を選んだんじゃなくって、こいつがオレの全世界になった、ってとこかな。」



・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
なんで・・・・・・・・・・。
なんでガウリイって、そ〜〜〜〜ゆ〜〜〜〜ことを、さらっと言ってのけちゃうのよおおおおおおおおおおおおっっっ!
(かああああああっ!)







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