「森の中」


さえざえとした空気。
葉陰でこそこそ動く小動物の気配。
枝の上でばさばさと羽音。
それ以外は全くと言っていいほど、静かな。
森の中。




その静寂を破って、遠くの方から人の呼び声らしきものが聞こえてきた。
ゼルガディスは辺りを見回す。

「・・・・ア・・・・・・ニ・・・・・・」

どうやら人の名前を呼んでいるようなのだが、声が反響してよく掴めない。
ゼルガディスは、それほど気にも止めずに歩みを進めた。

だがひときわ太い木の根元を回ったところで。
ゼルガディスは前方に懐かしい姿を発見したのである。
「ガウリイ!?」

「・・・へ?あれ・・・・・ゼルガディスじゃないか。」
長身、長い黄金色の髪、黒っぽい防具を身につけた、かつての旅仲間。
ガウリイは陽気に片手を挙げ、挨拶をよこした。



「3年・・・・いや、4年になるか?」
がっちりと握手した二人は、お互いの顔を見てにっと笑った。
「そうかあ。もうそのくらいにはなるかな?」とガウリイ。
「だけど、全然変わってないな。」とゼルガディス。
「お前さんは随分と変わったじゃないか。」笑うガウリイ。

ゼルガディスは、ガウリイ達と別れてしばらく後、元の姿を取り戻した。
今やその髪も、肌も、普通の人間と何ら変わるところはない。
「別に。姿が変わっただけで、他は何にも変わっちゃいないさ。」
相変わらずの放浪癖を匂わせるゼル。

「ところで、こんなところで何をやってたんだ。」
「え?あ・・・いや、ちょっと探しててな。」
頬をぽりぽりと掻く癖は、相変わらずのガウリイが答える。
「人?」
ゼルガディスは合点した。
先程の呼び声はガウリイのものだったのだろう。
「ああ。はぐれちまってな。」
「・・・・もしかして、リナ、か?」
さりげなくゼルガディスが問い掛ける。

だがガウリイは、ぱたぱたと手を振ってそれに答えた。
「いや。リナとは一緒だったんだが、連れとはぐれてからふた手に分かれて探してるんだ。」

・・・・そうか。
まだ一緒にいたのか。
と、ゼルは胸の中で呟いた。

「で。どっちかが見つけたとして、どうやって落ち合うんだ?」
「・・・・。」
ガウリイが黙り込んだ。
腕を組み、う〜〜〜んと考えている。
「わからん。」
にぱっ。

・・・・やっぱり変わってない、と思うゼルガディスだった。



「あ〜〜〜〜〜〜。こんなとこにいたぁ。」

ゼルにも聞き覚えのある声がした。
やがて、がさがさと下生えをかきわけながら、リナが現れた。

「もおっ。落ち合う場所をちゃんと決めてからって言ったのに、さっさと行っちゃうんだからっ。ガウリイのボケくらげ・・・・・・・・
・・・・って!?
ちょっと!!ゼルじゃないっ!?ひっさしぶりぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」

リナはぱたぱたとゼルに近付くと、上から下まで見回した。
「ほんっとに元に戻ったんだねぇっ。いっやぁ、良かったじゃん、ゼル!」
エンリョなしに、ばんばんとその肩を叩く。
「hっ。ごほっ、ごほっ。・・・・ったく、お前も相変わらずだな。ごほっ。」
咳き込みながらゼルは答えた。
「ところで、リアとニアは見つかったのか?」ガウリイが口を挟んだ。
するとリナは、ガウリイにくるっと向き直り、指を振り立てて文句を言い始めた。

「当ったり前でしょっ!大体、あの二人の行く先なんて、よく考えればわかるっての!それをふた手に探そうだのなんだの言って、勝手に飛び出して行っちゃうからっ!今度はあんたを探さなきゃなんなかったでしょ!まったく、少しは反省してよねっ!!」
「はは・・・・すまんすまん。」
ガウリイは頭をかきかき、汗を垂らして苦笑いしている。
ゼルガディスが気付いた。
「リアとニアって・・・・?」

その時、背後の草むらががさがさと揺れた。
続いて飛び出してきたのは。


「パパ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ママ〜〜〜〜〜っ!!」


現れたのは小さな二人の子供だった。
それぞれ、リナとガウリイの足にしがみつく。
「パパ〜〜〜〜っ!どこいってたのよぉっ!ニア、さがしちゃったんだからねぇ!」
「ママ〜〜〜っ。ひどいよ、ニアったらぼくのあしふんだんだよぉ!」
「リアがわるいのよ!あたしのあし、しゃきにふんだんだからっ!」
「ちがぁよっ、ニアがしゃきにふんだんだ!」
「べ〜〜〜〜〜〜っ!」
「い〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

呆然と眺めていたゼルは、やっとの思いで声を絞り出すことができた。
「パパと・・・・・・ママ!?」

指差されて、ガウリイとリナが、照れたようにはははと笑う。
「いっやぁ。そ〜いう訳なんだ。」
「じゃあ・・・・ガウリイが探してたのって・・・・自分の子供か!?しかも・・・・二人!?」
「双児なんだぜ。」誇らしげに言うガウリイ。
「リナが・・・・・ママ!?てことはつまりその・・・母親!?」
「そっ・・・・・そ〜なんだけどっ・・・。そ、そんなに驚かなくても・・・・(ごにょごにょ)

ゼルガディスは馬鹿みたいに口を開けて、ぽかんと、赤くなっているリナを見つめた。
全くどこもかしこも、別れた時と変わっていない。
相変わらずの身長と、相変わらずの性格と、相変わらずの・・・・。

「い・・・いや・・・すまん。ちょっと・・・驚いてな。全然変わってないと思ったから・・・・いやその。」
ゼルが口を濁すと、ガウリイはにぱぱっと笑ってリナをぐいっと引き寄せた。
「特にムネの辺りなんか、二人も子供を育てたとは思えないって思っただろ〜〜!」
ぱんぱん。
リナのこめかみに特大の青筋が立つ。
「何かますんじゃ、ボケくらげ〜〜〜〜っ!!」

ごがどきゃっ!!

地面にのめりこんだガウリイに、子供の一人が取りすがる。
「パパっ!ママってば、なんてことしゅるのよおっ!あたしのパパよぉっ!」
すると今度は、リナの足にかじりついていた方の子供が反撃。
「ママにヘンなことした、パパがわるいんだっ!ぼくのママなのにっ!」
「リアのわからじゅやぁ!」
「ニアのおてんばっ!」

その脇で、ゼルはいらん計算をしている。
「俺達と別れたのが4年前・・・・。てことは・・・。」
赤くなったリナが慌てて答える。
「さっ。3才よっ。二人とも。」
「3才・・・・。」
まだ呆然と繰り返すゼル。
「ま・・・・まさか・・・。久しぶりに会ったら、子供がいたとはな・・・・。はは・・・はははははは。」



しばらく後。
再会を約束して一旦別れたゼルガディスの耳には、いつまでも四人の声が谺していたという。

「パパ〜〜〜〜、ニア、ホントにしんぱいしたんだよぉ。」
「すまんすまん。」
「ママ。パパってダメだね。でもあんしんして!ぼくがかわりにママをまもってあげるからっ。」
「あ、ありがとね。」
「な〜〜によリアったらママにべえったり。あかちゃんみたい!」
「うるしゃいな!ニアだってパパにべえったりじゃないかあ。」
「い〜もん。だってニア、おおきくなったらパパとけっこんするんだもん!」
「ぼくだって!ぼくだっておおきくなったら、ママとけっこんするんだい!」
「ダメだ。ママはパパと結婚してるんだからな!例えリアでも、これだけは譲れないぞ。」
「ちょっ!ば、ばかっ!こ、子供相手に、何言ってんのよっ(ぼぼぼっ)」


静かな静かな森の中。
元岩男の、小さな呟きが、下生えの草の上に、そっと落ちた。

「変わったのは・・・お前達の方じゃないかよ・・・・。」
























=================おわり(笑)

別ば〜じょん親子ネタです(笑)ガウリナの子供って言うと、子連れオオカミの他に思い付くのは、男女の双児でした。んで女の子がガウリイにべったりで、男の子がリナにべったりという(笑)例の親子シリーズにくらべると、こっちは何と平穏(笑)
ドラゴンボールの悟空のように、久しぶりに仲間の前に姿を現わした二人にはちゃっかり子供がいた、ってのが書きたかったんです(笑)
聞いたところによると、他のサークルさんのお話でもガウリナの子供が双児っていうのがあるそうですね♪やっぱり皆、考えるのは同じかなあ(笑)ネタがかぶっていないといいんですが(笑)
では、読んで下さったお客様に愛を込めて♪
ちなみに、子供の名前はリア(背後)とニア(傍)になってます(笑)
そうだっ!ぽちさんとこのお子ちゃまはエアちゃんでしたねっ!似てます、すんませんっ(笑)

この感想を掲示板に書いて下さる方はこちらから♪

メールで下さる方はこちらから♪