「知りたくなったら」


「お。リナ。頭にはっぱついてるぞ?」

暖かな午後の日射しの中。
街道を歩いていた時に、ふいに舞い落ちてきた一枚の葉があたしの頭の上に、偶然のっかった。
「え?どこどこ??」
わさわさと髪の毛を探ってみたが、問題の葉がどこにあるのかさっぱりわからない。
やや後ろを歩いていたガウリイが、何の気なしに近づいてきて、あたしの肩をつかんだ。
「待てって。ほら、取ってやるよ。」
「え。い、いいってば。どこか教えてくれれば自分で取る・・・・」
言いかけた時、ふいにガウリイが屈みこんだ。
 
突然目の前に降りてきた顔。
じっと、あたしの顔の横を見つめている。
「あ。ほら、あったあった。」
さっと手を伸ばして、あたしのこめかみに触れた。
 
どきんっ。
 
「お。虫食い葉だな。もう秋か?」
「・・・・今は春じゃなかったかしら・・・?」
「あっ。そうか。いや、つい虫が食った葉っぱだったから。ははは。」
「・・・・葉っぱで季節を感じるより、今が春だってことくらい覚えておきなさいよねっ!」
「・・・・・。」
ふいにガウリイが黙る。
次に、彼はぷっと吹き出した。
「な・・・なによ?」
ぶすっとした声で聞いてみれば、途切れ途切れの答え。
「い・・・いや、お前さ・・・。顔、ま、真っ赤だぞ・・・。」
かああああああ。
 
 
い、意識して、顔を赤くしている訳では決してない。
自分でもわからないうちに、ふと顔が赤くなってる時があるのだ。
「ほ、ほっといてよっ。べ、別に大したことじゃないんだからっ。」
「そうかあ?ちょっと髪の毛触られたくらいで、そんなに真っ赤になってたら。誰だって気になると思うぞ?」
「今ここに、あんたの他に誰がいるってのよっ!?」
「いたらの話だよ。いたら、の。」
 
まだおかしそうにくすくす笑いながら、立ち止まってしまったあたしより先に、腕を頭の上で組んで歩き出すガウリイ。
「ったく。そんなんでこの先、どうするつもりだ?こんなことくらいで真っ赤になってさ。」
「しょ、しょ〜がないでしょっ。赤くなっちゃったもんわっ!あ、あたしだって好きで赤くなってる訳じゃ・・・。」
ごしょごしょと口籠るあたしに、ガウリイはこんなことを言って追い討ちをかけた。
「お前さんだってこれから、好きな男の一人や二人できるだろ?いちいち真っ赤になってたら、身がもたないぜ。」
「よっ・・・・余計なお世話っ・・・。」
 
・・・・・・・。
好きな男の。
一人や二人?
 
「まあ、そこが可愛いって言う男もいるかもなあ。それに期待するとしますか。・・・・って、リナ?どうしたんだ?変な顔して。」
 
好きな男の。
一人や、二人?
 
「お〜〜〜〜い。リナ??」
 
好きな、男?
 
 
あたしは呆然としていたのだろう。
ガウリイが急に心配そうな顔をして、ぱふぱふと戻ってきた。
「どうした、リナ?腹でも急に痛くなったか?何か用事でも思い出したのか??」
あたしの目の前に立ち止まり、屈んで視線を合わせてくる。
あたしはすぐに答えられなかった。
だって。
今まで、考えてもみなかったことを。
今急に、考えてみちゃったりしたから。
 
「リナ?どうしたんだよ、一体。」
熱でも測ろうというのか、ガウリイがあたしの額に手を伸ばしてくる。
はっと我に返ったあたしは、慌ててぱたぱたと手を振ってみせた。
「や、な、なんでもないのよ、なんでもっ。」
「そうかあ?今、急に固まっちまってたぞ。」
「いや、ほら、あ、あんたが急に変なこと言い出すから、ちょっと考え込んじゃっただけよ。」
「考え込んだって・・・。好きな男の一人や二人って、アレか?」
「う・・・・うん。」
「・・・・お前な。」

ガウリイが呆れたという声を出して、屈めた腰を伸ばした。
「そんなの、当たり前のことだろ?今さら何考え込んでんだよ?」
「だ、だって・・・・。」
ぼしょぼしょ、というあたしの声は、なんだかすごく頼りなかった。
「そんなの、考えてみたこともなかったし・・・・」
「お前さんはどうだか知らないが、普通、お前さんくらいの年頃なら、とっくに一人や二人いてもいいはずだぜ?好きな奴。」
「・・・・・う、う〜〜〜〜〜ん・・・・・・。」
「そ〜いう奴の中から、結婚したい相手とかできるんじゃないのか?」
「け。けっこんっっ!?」
ぼんっ。しゅうううううう。
 
ダメだ。思考停止。くーるだうんくーるだうん。
 
「ぶはははははははははっ!!」
突然ガウリイが大声で笑い出した。文字どおり腹を抱えて笑っている。
「お、お前って、面白いなあ!」
むかっ。
「ちょっとっ!そんなに大口開けて笑わなくてもいいっしょ!た、単に考えたことないことを考えたから、頭がオーバーヒートしただけよっ!」
「だ、だって」
まだひーひー言ってる。失礼なヤツ。
「もしかして、男を好きになったことないだろ。」
うっ。
「べ、別にどーだっていいでしょっっ!!」
「そりゃ、無理に好きになれとは言わないけどさ。」
笑ったことを謝るように、あたしの頭をわしわしと撫でるガウリイ。
爆笑はなりをひそめ、穏やかな顔だった。
「そのうち、お前さんにもそういう事が起こる時が来るさ。」
「そんなの、その時になってもわからないかも知れないでしょっ。どーゆー風になれば、その相手を好きになったってわかるわけ?」
なかばヤケクソ気味のあたし。
「説明してもらお〜じゃないっ。」
「・・・・そーだなあ。」
 
あたしの頭から手を離し、なんとなく空を眺めるガウリイ。
「一緒にいると、最初はドキドキして、ずっと一緒にいると、空気があったかくなる。それからもっと一緒にいたくなって、相手のことが知りたくなるんだ。」
「・・・・・」
 
思わずあたしは息を止めた。
空を見上げるガウリイの、横顔に。
まるで、その視線の先に誰かがいるようで。
 
振り返った彼の顔からは、そんな気配は微塵も感じられなかった。
でも、自分でも、わからないけれど。
胸のどこかで、何かがつきんと痛んだことは確かだった。
 
「・・・ま、その時になってみればわかるさ。たぶんな。」
笑顔を向けるガウリイに、あたしはいささかぶっきらぼうだったかも知れない。
「・・・結構いい加減ね。」
「そんなもんだ。はっきり線が引かれてる訳じゃないだろ?ここまでは『好き』、こっからは『恋』ってさ。」
「・・・・・。」
「それに、人それぞれだろ。人を好きになる瞬間も、どんな人を好きになるかも。・・・慌てるこたないさ。」
無邪気に笑うと、また腕を頭の後で組み、のんびりとガウリイは歩き出した。
その後ろを、とことことついて行くあたし。
 

今は背中しか見えない彼の、さっきの横顔を思いだした。
彼にも、そういう瞬間はあったのだろうか。
・・・どんな人に?
・・・どんな風に?
 
じっと背中を見つめていたら、ガウリイが振り返った。
思わずぎくりとするあたしに、彼はにっこり笑ってこう言った。
「それにしても、一度見てみたいなあ。
お前さんが好きになるヤツって、どんなヤツかな。」
悪戯っぽい目が問いかけていた。
 
あたしは訳もなく顔が赤らむのを感じていたが、何事もなかったようにそっぽを向いて、こう答えるしかなかった。
「知らないわよ。・・・あたしだってまだ、わかんないんだから。」
「そうだな。その時が来たら、オレに教えてくれよな。」
のんきに笑うと、またぱふぱふと歩き出すガウリイ。
 
・・・よく、わかんないけど。
好きになる瞬間とか、どんな人を好きになるのかとか。
考えるだけで、頭がかっかしてきた。
「だ〜〜〜っ!やめやめっ!考えるのヤメたっ。」
頭を冷そうとぶんぶん振ると、ガウリイが振り返って笑っていた。
「まだ考えてたのか?」
「違うよっ!別のことよっ。」
「そうか?」
余裕しゃくしゃくなガウリイが憎らしかった。
 
何を考えていたのか、なんて。
絶対教えてやんない。
ほんのすこし。
その青い眼の。
見つめていた先が知りたくなった、などと。
 
「その時が来ても。
絶対、あんたには教えないんだから・・・・。」
小声で呟いた言葉は、たぶん届かなかったと思う。

ガウリイはのんびりのんびり、あたしの前を歩いて行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 





 
 
 
------------------end.
 
ほのぼの(?)短編ひさびさです♪ガウリイほわいとすぎ!リナちゃんオクテすぎ!とか思ってしまうほど極端にしてしまいましたが(笑)でも友達にもいましたし。二十歳になるまで男を好きになったことないってヤツ(笑・でもその後あっさりお嫁に行った・笑)だからきっとリナも!(笑)ガウリイは何となく、国を出る前に好きな子がいたような気がするんですが。
ではそーらより愛を込めて♪
皆さんのはつこひはいつでしたか?(笑)
  

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