「いつかどこかで。」


『さ、出発よ!』
『出発って、どこ行くんだよ?』
『そんなのわかんないわよ。わかってるのは、立ち止まらないこと、誰にも止められないってことで、まずはメシだ〜〜〜〜っ♪』
『待って下さいよ〜〜〜』
『今度はお供します〜〜〜』
『ったく、相変わらずだな、あいつは。』
『メシでシメかぁ?』
『そだぁ♪』




ぱんぱん!
ぽ〜〜〜んっ!

「お疲れさまでした〜〜〜〜〜〜っ♪」

ぱちぱちぱち!

「まずは主演のリナさん、花束をどうぞ〜〜〜♪」
「わあ、すごい。ありがとうございます。」
「監督、これはオレ達から。」
「お、僕にもくれるんですか。嬉しいなあ。」
「いやあ。やっぱり、花は女の子のが似合うなあ。」
「ゼルガディスさんったら、またリナさんを口説こうとしてる。」
「おいおいアメリア、もう芝居は終わったんだぜ?もう俺がどうしようと自由だろう。例えば・・・・今夜、メシでも食いに行かないか。」
「見境のない人ですね。悪いですけど、先約があります。それに、ナンパ師のゼルガディスさんと付き合っていたら、身が持ちません。」
「くすくす。あんた達、すっかりその名前が定着しちゃったみたいだね。」
「あ。スタッフの方々も、ホントにお疲れさまでした。」
「なになに。これでも局一番の視聴率が取れた番組を作ってきたんだ。次のシリーズも頂きだぜ!」
「え。次のシリーズ、あるんですか。」
「あれ。リナさんは聞いてなかったんですか。次はですね、えっと。『スレイヤーズTRY』ですね。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「あれえ?ガウリイとリナ、見つめ合っちゃってなんか怪し〜な〜。」
「ほらほら、ゼルガディスさん。絡まない方がいいですよ。」


某テレビ局、某スタジオ。
そこでは「スレイヤーズNEXT」というドラマを収録していた。
折しもその日はクランクアップ。
さてここで、前日の役者達の光景を覗いてみよう。



こつこつこつ。
「お疲れさまでした〜♪」
「お疲れさまでした〜♪」
「あ。ど、どうも。お疲れさまです・・・。」
こつこつこつ。

「ねえ?」
「なに?」(ひそひそ。)
「今すれ違った人、『スレイヤーズ』のリナ役の人だよね。」
「それがどうかしたの?」
「あのキャスティングさあ。最初は皆、首を傾げてたのよね。どう考えてもミスキャストだって。」
「なんで?」
「だってさあ。本人の性格っていうか、イメージが役とかけ離れすぎてんのよ。
さっきのリナ役の人だって、今どき珍しい清純派っていうの?売り出し中の新人アイドルだしさ。
ゼルって役の人は、あんな固い役(笑)やってるけど、業界じゃ有名な女ったらしな訳よ。
アメリアをやったのは、ちょっと冷めた感じの個性派女優。今までは舞台で賞を総ナメにしてきた実力派よ。
それから。
何と言っても、ガウリイを演じてる人は、役みたいに全然ボケてなくて、モデル出身の物静かな感じのタレントなの。あんまりバラエティーとか出てないけど、何故かワイドニュースのゲストコメンテーターとして、よく引っ張り出されるてるわよ。実は海外のことに詳しいらしいの。・・・・これは噂だけどね?」
「なになに?」
「実は、在日スウェーデン大使の御子息なんじゃ、という話よ。」
「うっそぉ。なんでそんな人がタレントなんかやってんのよ。」
「そこまでは知らないわよ。でもちょっと、ゲットできたら玉の輿ってやつぅ?」
「いや〜〜〜ん♪うちのポケピに教えてやんなきゃ♪」




こつこつこつ。
きぃっ。

どしん!
「きゃっ。」
「あ、すいません!」
「い、いえ。」
「あ。リナさんでしたか。怪我はないですか?」
「あ。ガウリイ・・・・さん。いえ、大丈夫です・・・。」
「すいません。気がつかなくて。」
「いえ、いいんです。気にしないで下さい。」
よろっ。
「あ、ちょっと!」
「いた・・・。」
「もしかして、ヒネったんじゃないかな。ちょっと見せて下さい。」
「ええっ!?い、いえ、いいです!」(ぼっ)
「これじゃ歩けないでしょう。」
「だ、大丈夫です。」
「そういえば一人なんですか?マネージャーさんとかは?」
「きょ…今日は一人なんです…。あ、でも、大丈夫ですから。」
「…」

ぷっ。

「…な…なんで笑うんですか…。」
「いや。なんか、役と全然違うなあと思ったんです。リナなら、こういう時どうしたでしょうね。」
「それは…。きっとたぶん…こう言うでしょうね。『大丈夫だったら、ほっといてっ!』って。」
「それで、ガウリイだったらこう言うでしょうね。『なに照れてんだよ。ほら、ダッコしてやるから。』って。」

ぷっ。
ぷっ。

「なに照れてんだよ。ダッコしてやるから。」
「しょ、しょうがないわね。・・・ダッコされてあげるわ。」
ぷっ。
くす。
 

こつこつこつ。
ちゃらっ。

「こういう時、四つ輪だったらさっと助手席に乗せてあげられるんでしょうが。あいにくとオレ、バイクなんですよ。」
「いえ。それはいいんですけど…。あたし、バイクって初めてで…。」
「よいしょ。」
「きゃっ。」
とさ。

「はい、メット被って。」
「あ、ありがとうございます。」
「…。」
「どうかしましたか?」
「いや。オレに敬語はいらないですよ。演技では君の方が先輩なんだし。」
きゅらっ。
ざっ。
「な、なんでですか。ガウリイさん、すごく上手ですよ。」
「ガウリイ、でいいですよ。監督のおたっしだけど、すっかり板についちゃいましたね。役の名前で呼び合うの。」
かちゃっ。
どるん!
「そうですね。」
「敬語。」
「あ。…でも、ガウリイ…だって、敬語です。」
「え。そっか。
『じゃあ、リナ。しっかりつかまってろよ。』…これでいいですか?」
「『わかってるわよ、ガウリイ。』…これでいいですよね?」
くす。
くす。
ぶろおおおおおおおおおおおおっ
 
 
きききっ。
「ど、どうしたんですか。」
「…君の家、きくの忘れた。」
「えっ!?」
「どうも脳まで役が抜けきらないみたいだ。」
「くすくす。」
どっどっどっどっ・・・
「…。」
「?」
「…お腹すきませんか?」
「は?」
 
 
がらがらがらっ。
「いらっしゃい!…って、あれ。いつものボーヤじゃない。仕事終わったの?」
「ええ。いつもの、二つ御願いします。」
「あいよっ!」
 
かたん。
「…。」
「どうかしましたか?きょろきょろして。」
「いえ…。その…ちょっと意外だったもので…。」
「意外?」
「だって。皆が噂してるのと、ちょっとイメージが違うから…。」
「噂?ああ。もっとおしゃれなレストランとかが良かったですか?」
「いいえ!あの…あたしもどっちかというと、こういうとこのが落ち着くんです。実家が商売やってるもんで…。」
「へえ。それは初耳ですね。どんなお店?」
「やだ。ガウリイさんに聞かせるほどじゃないですよ。田舎の、ほら、雑貨屋って何でも置いてあるお店なんですけど。」
「へえ。あれ?じゃあ、今は一人暮らし?」
「ううん。ネコのムスタファと二人です。」
「ネコ飼ってるんだ。いいな。オレのマンションはペット禁止だから。」
「マンション?」
「オレも一人暮らし。まあ、いろいろあって。」
「そうなんですか。」
 
かちゃかちゃ。
「お待たせ!おばちゃん特製ネギラーメンとシューマイ!あったまるよ!」
「わあ。いい匂い。」
たん!
「へえ。随分可愛い子じゃないか。おばちゃんの言った通り、とうとう彼女を作ったんだね!」
ばん!
「ごほっ。ち、違いますよ。この人は仕事で一緒で、家に送る途中で寄ったんです。」
「あらまあ、そうかい。お嬢ちゃん、気を悪くしないでおくれね。」
「え、あ、はい。」
「だってさあ。このボーヤ、見た目の割に浮いた噂一つ聞かないだろ。ここはしょっちゅう来てくれるんだけど、いまだに女の子一人連れてきたことがないんだよ。」
「おばちゃ〜〜〜ん、激辛キムチチャーハンひとつ〜〜〜!」
「あいよっ!じゃ、ゆっくりしていっておくれね!」
「はい。いただきます。」
 
 
ぱちん。
しゅりしゅり。
「…なに?」
「いいえ。あの…なんだかサマになってますね。割り箸割ってこするの。」
「え?ああ。ははは。」
「見た目は外人さんなのに、何だかまるきり日本人みたい。」
「日本の生活長いからなあ。」
「いつからですか。」
「もう10年以上になるよ。」
「くす。」
「なに?」
「いえ。こういう時、ガウリイだったら『忘れた。』って言うと思って。構えちゃいました。」
「ありゃ。まじめに答えて損したかな。」
「いいえ。ギャップが面白いです。」
「ギャップがあるのは君だろ?リナだったらもうお代わりしてるよ。ほら、遠慮しないで、もっと食べて。」
「そ、そんな。そんなに食べれませんよ。美味しいですけど。」
「役とまるっきり同じ、という訳には行かないな。」
「そうですね。」
「ほら、敬語。」
「あ。もういいじゃないですか。」
「そうだな。」
くす。
くす。
 
 
「ごちそうさまでした。」
「おばちゃん、また来るよ。」
「はいはい!また来ておくれね〜〜〜♪」
がらがらがら。
「足、大丈夫か?」
「ええ。引きずって歩くことくらいできます。」
ふわ。
「っきゃ!」
「ばあちゃんの遺言なんだ。女子供は大事にしろってね。」
「もう。」
くすくす。
 
 


きききっ。
ふわっ。

とん。
「ここでいいんだよね。じゃあ気をつけて。ちゃんと湿布しておいた方がいい。」
「はい。どうも、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
「あの・・・・。すごく・・・楽しかったです。あ、お世辞じゃなくて。いつもマネージャーの送り迎えで、どこも寄ったこととか、なかったから・・・。」
「そっか・・・。いや、オレの方こそ。考えてみればシリーズ2作目なのに、今まで出演者同士でメシ食ったこととかなかったし。面白かったよ。」
ひゅうっ。
「・・・夕日が綺麗だな。」
「え?何か言いましたか?」
「夕日がさ、綺麗だ。」
「え。あ…ホントですね。」
「明日は雨かな。」
「明日…。」
「?」

「明日…あの…シーンですよね。」
「ああ。あの宙づりになるシーン。なかなか大変だけど、ちょっと楽しみにしてるんだ。あのシーンのために監督が、香港からワイヤーアクションのスタッフを呼んだっていうからね。ブルースクリーンの前で演技するのは最近やっと慣れたけど、難しいね。目線とか。」
「そ…それもそうなんですけど…。」
「他に何か?」
「キ…キスシーンがあるんですよ。」
「ああ、そういえば書いてあったような。でもそんなの気にしてる?」
「あ…あたし。ラブシーンて初めてやるんです。」
「あ。オレもそうかも。じゃあ初めて同士だな。ま、肩の力抜いて気楽に行こう。演技なんだし。」
「…。」
「?」
「演技…ですよね。」
「?」
「でもあたし。…ガウリイ…が初めての相手で、良かったです…。」
「え?」
「おやすみなさいっ!送ってくれてありがとうでしたっ!」
ずっぱたずっぱたずっぱたばた・・・
 
ぽりぽり。
「…それって…どういう意味なんだろう?」
ぽりぽり。
「…もしかして。…演技じゃなく、初めてって…ことか?」
ぽりぽり。
ぽりぽり。
「か…帰って寝よう…。」
ぶろろろろろろろろろろろっ。

 
 
 
 
がばっっ!!

「ぎゃあああああああっ!!」

「うわ!な、なんだなんだ!」
「て、敵襲か!」
「怖いですうっ!」
「ぜえぜえ。」
「な、なんだ。リナじゃないか。どうした。」
「まだ夜中ですよぉ?」
「お〜〜〜い、リナぁ?大丈夫かぁ?」
「ぜえぜえ…。い…嫌な夢を見たわ…。」
「なんだ、夢か。人騒がせな。」
「まったくですよね。森の中で良かったです。宿屋だったら皆たたき起こしてますよ。今頃は苦情の嵐です。」
「・・・バカバカしい。寝るぞ。」
「わたしも寝ます。おやすみなさい。今度は静かに寝てくださいね、リナさん。」
「…ぜえぜえ。」
ごそごそ。
く〜〜〜く〜〜。
 
「おいリナ。ホントに大丈夫か?」
「え、あ、ああ。ガウリイ。いや…ちょっとそのね…。この世のものとも思えない夢見ちゃって。」
「こ、この世の…?なんか、凄そうだな。」
「あたしがね…い、いや!やめとこ。口にするのもおぞましい。」
ぶるるっ。
くす。
「おかしなヤツだな、お前って。」
「ガ…ガウリイにそれ言われるとなんかしょっく…。」
「そおかあ?ま、夢は夢だから。気にしないでもう一回寝直せよ。」
わしわし。
「うん…。」
ぽっ。
「あれ。顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「な、なんでもないわよっ!おやすみっ!」
「?ああ、おやすみ。」
 
ごそごそ。
 


「言えるわけないぢゃん…。あたしが清純派アイドルで、ガウリイが賢いスウェーデン大使の息子な夢見たなんて…。」
ぶるぶる。

 
 
「あ・・・あんなこと、言うんじゃなかったぁ・・・。てっきり今日が最後で、もう会えないと思って・・・つい、言っちゃったのにぃ・・・・。また次のシリーズがあるなんてぇ・・・。」
ふるふる。













 









---------------------------ちゃんちゃん(笑)
 
あああっ、石投げないで下さいっ(笑)単なる思いつきなんですってばっ(笑)いやあ、丁寧語を使うガウリイのセリフが、むちゃくちゃ書きづらかったです(笑)
あの後、例のシーンでは、ガウリイ役の彼もリナ役の彼女もすっかり緊張しまくって、おそらく何テイクもやり直したものと思われます(笑)
では、こんなバカバカしいお話を読んでくださったお客様にごあいさつ。
失礼しました〜〜〜っ(笑)胡蝶の夢、なんてことではありませんように(笑) 

なんか今回、タイトルもあとがきも字がちぢこまってる(笑)

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