「夕暮れの記憶」



カアカア。

ゆ〜ひがきれ〜だなあ・・・・・・・・。


家のすぐ傍を流れる小さな川の土手で。
オレは寝転がったまま、ぼんやりと空を眺めていた。
悲しげに聞こえる鳴き声を残し、鳥も巣に戻って行く。

ち〜さい頃は・・・・
そろそろ、そんな時間だ。
背の高い草がたくさん生えた野原の中を、オレは兄貴を追いかけている。
走っても走っても届かなくて。
いつも兄貴は、オレよりはるか先にいた。
鳥が鳴き、辺りがたそがれ始め。
何となく、帰らなくちゃいけないような、
それでいて、永遠に眺めていたいような真っ赤な夕陽が。
どことなく不安にさせる夕暮れ時。

一緒に遊んでいた友達は、皆、迎えに来た母親と帰ってしまった。
オレの母さんは迎えに来ない。
帰らなくちゃ。
帰らないと、また父さんに怒られる。
でも、兄さんはどこに行ったんだろう?


その時、がさがさと茂みをかきわけて、兄貴が出てくる。
何をやってるんだ、という顔をして。
そして手を差し出すんだ。
帰ろう、と。

オレはべそをかいていた時もあったかも知れない。
走っているうちに転んで、膝を擦りむいた時。
兄貴がおぶって帰ってくれた。
父さんには、内緒で。




今日も夕陽が綺麗だ。
・・・・あの日の夕暮れと、同じように。

帰らなくちゃ。


・・・・でも、帰れない。
あの頃には、もう二度と。





「ガウリイ」



どこかで、オレを呼ぶ声がした。
オレは耳を疑った。
思いはまだ、記憶の中の夕暮れにいて。
てっきり、ただの一度も迎えに来なかったオレのあの人が。
迎えに来てくれた、そんな気になって。

「ガウリイ!どこにいるの?」

がばりと跳ね起きる。
振り返ると、土手の上に小さな人影が立っていた。
両手を腰にあてて。
「そこにいたの?さっきから呼んでたのに。
んなとこで寝てると、風邪引くわよ。」
「・・・・あ、ああ・・・・。」

人影は、リナだった。


がさがさと下生えを踏む音がして、リナがこちらに降りてきた。
「ご飯の時間なのに、あんたがいないなんて珍し〜から。
探しに来たのよ。」
意外に怒っている様子でもなかった。
オレを探している時は、ちょっと苛立ったような声だったのに。

「・・・悪い。ぼんやりしてたら、いつのまにか日が暮れちまった。」
かりかりと頭をかくと、リナがすぐ傍まで来ていた。
「ぼんやり?・・・まあ、あんたらし〜といえば、あんたらし〜かもね・・・。」
ため息。
何故だか、声が優しい気がするのはオレの勘違いだろうか。

リナはオレの横に立ち、ぐるりと周りを見回した。
「懐かし〜わね・・・・。
そういえばよくここで、ねーちゃんとかくれんぼをしたっけ・・。」
「・・・・・へ・・・・?」
夕陽に照らされたリナの顔は、穏やかに昔を懐かしんでいるように見えた。
「・・・・ハンパなかくれんぼじゃなかったけどね・・・・。
結局、最後には見つけられないうちに日が暮れちゃって。
あたしが泣き出す頃に、やっとね〜ちゃんが出てきてくれたってぐらい。
あ〜〜〜〜、思いだすだけで冷汗が出てくるわ・・・・。」
ふふふふふ、と肩を揺らして笑うリナ。
どうやら穏やかな想い出ではなかったらしい。
「夕陽が沈むと、なんか懐かしくなると同時に、焦るよ〜な、なんとなく胸が苦しくなるのよね。
帰らなくちゃ。
急いで、帰らなくちゃって。」
リナが、すでに蒼に侵蝕されつつある空を眺める。
「家を出た後でも、なんとなくそんな気になって、街道を早足で歩いたこともあった。
家に帰らなくちゃいけない訳でもないのにね。」
ふふ、と笑うその口許。
夕焼けに見とれるのと同じくらいに、オレはそれに見とれる。

「・・・さ。かえろ、ガウリイ。」

リナが手を差し出す。
あの日の兄貴と同じように。

「とーちゃんが釣ってきた魚、食べないと殺されるかもよ?
明日は早起きして、あんたも連れてくって騒いでたから。」
「・・・あ・・・・ああ、そう・・・・。」
なんとなく、じと汗をたらしながらオレは立ち上がる。
リナの手に掴まって。


・・・・・・いつか。
リナの実家を訪ねたように。
オレが、オレの生まれた故郷を、リナに見せる日が来るのだろうか。
堂々と、胸を張って。
リナを、連れて行ける日が。



リナの家のドアを開いて、リナが。

「たっだいま〜〜〜。」と言った。




・・・・・・・帰ろう。
いつか、あの夕暮れの見える故郷へ。
たとえ誰もオレを歓迎してくれなくても。
オレがただいまを言う相手が。
傍に、いるなら。


























============================end.

あら?あらららっ(笑)すんません、『結婚物語』の続編を書こうと思ったのに、何故かこんなことに(爆笑)全然違うやんか〜〜〜(笑)もおいいや、別で書いちゃえ〜と思ったら増刊ネタも入ってるし(笑)いえ、読んでなくてもだいじょーぶです(笑)
ガウリイ、リナの実家を訪ねたらど〜なるんでしょうね?チャットではいろいろ盛り上がってました(笑)婿修業させられるガウリイにほぼ決定(ホントか、それ?)ここぞとばかりにこき使われたりして(笑)ああ、ガウリイ血と涙の日々再び(笑)
ではこんな何でもないような話を最後まで読んで下さった方へ、愛を込めて♪
夕陽を見るの、好きですか?
そーらがお送りしました♪

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