「続・結婚物語(笑)



「なあ、ゼル。教えてくれないか?」
「・・・・何だ、改まって。」
『ケンタイ期』って、ど〜やったら終るんだ?」

ぶぱぺぴぽっ!

・・・・あ。
コーヒー吹いてやんの・・・・きたねーヤツ。
「お、おま、おまっ・・・・い、いきなり何をっ・・・」
げほげほとむせるゼルの背中を叩いてやりながら、オレは質問を続ける。
「だからさ。よく言うだろ、夫婦の仲が冷めちまう『倦怠期』ってヤツ。
ど〜やったらそれを終らせて、元の甘い新婚生活に戻れるのか、その傾向と対策を聞いてるんだよ。」
「・・・・お前の口から、傾向と対策、っていう言葉が出るとは思わなかったが・・・」
まだゼルのヤツは青ざめた顔をしている。
「しかし・・・元の新婚生活ってヤツは・・・・ちょっと・・・」
「なんでだよ。」
「だってお前、新婚生活ってのはいつか終るものだろ?いつまでも新婚でいられないんだから。」
(・・・・・・・ゼル、ちょっとツッコミ先が違うぞ。by作者)

「ええ?そ〜ゆ〜もんなのか?オレはいつまでも続くと思ってたけどな。」
「・・・まあ、それは・・・本人同士の気の持ち様、としか・・・・。大体・・・・・何で独身の俺がこんなアドバイスをせにゃならんのだ・・・・(ぶつぶつ)
ゼルのヤツが独り言モードに入る。
相変わらず、自分のキャラクターがわかってないヤツだ。
「そっか。やっぱり気の持ち様だよな?オレは全然大丈夫だ!」
「人の話を・・・・・。しかも文法間違ってるし・・・・まあいい。
しかし、お前達が倦怠期とは・・・」

ゼルがちらりと台所の様子を伺う。
一緒に来たアメリア(というか、アメリアに引き摺られてゼルが来た、というのが正しいのかも)は、リナと一緒に何やら台所に引き蘢っている。

「少なくとも、お前さんとこにはそんなもんは来ないと思ってたが・・・俺の読みもまだまだ甘いということか・・・・。」
ふっとため息をつくゼルガディス。
な〜にをそんなに勿体つけてるんだ・・・変なヤツ。
「で、なんでそんなことを思ったんだ?」
「リナが・・・・冷たいんだ・・・。」
「ほう。」
「オレをスリッパでいきなりはたいたり・・・回し蹴りかましたり・・
アッパーくらわせたり・・・・椅子を後にいきなり引いたり・・・・。」
「・・・・・なんだ。
いつもと変わらないじゃないか。」
「・・・・そうだろ・・・・・?(ふっ)
・・・・・って、ちがああうううっ!そーじゃないっ!
その、だな!」
「だから、なんだ。」
「ベタベタさせてくれないんだよ〜〜。」

づるどこがぺしっ!

・・・・あ。
「お前〜〜〜〜〜。人んちの床に、そうそう傷作ってくれるなよな?」
椅子から転げて、床に髪を差したゼルガディスは、うんしょとばかりに手をついて、ずぽっと頭を抜いている。
「おっ・・・・お前がいきなりそんなことを言うからだろ・・・・?」
よろよろと立ち上がるゼル。
相変わらず頭の固いヤツだ。
・・・いや、髪の硬いヤツだ。
「だってよう。結婚して何が楽しいって、そりゃ人目をはばからずベタベタできることだろ?」
「・・・・・・・そんなことを俺に同意を求められても・・・・。
第一、お前が人目を気にしたことがあったか・・・・?」
「へっ?ど〜ゆ〜意味だ、そりゃ。」
「・・・・・わかってないならいい・・・・・。」
ゼルガディスは、まるで過去の嫌な出来事を思いだしたとでもいうように、頭を振る。
「ともかく、原因が思い当たらないなら、直接本人にきけばいいじゃないか。」
「おおっ、そうか!」
オレはぽん、と手を叩く。
さすがゼルガディスだ。なかなかいい事を言う。
しかし・・・・・・・・・・・。
「本人にって・・・・リナにか?」
「当たり前だろ。他のどこに本人がいる。」
「リナに・・・・・・か?」
「だからそう言ってる。」
「リナに、だよな・・・・・。」
「お前も大概、しついこいな。」
「だって、あのリナだぜ〜〜〜〜〜?」

オレとゼルは何となく目を合わせ、なんとなく台所の方に視線を合わせる。
そしてなんとなく視線を戻し、お互いの顔を再び見つめる。
ゼルが、オレの肩をぽん、と叩いた。
「がんばれ、ダンナ。骨は拾ってやる。」
「・・・・は・・・・はははは・・・・・。」





ゼルの勧め通り、オレはリナに直接きいてみることにした。
膳は急げ、急がばかきこめ、慌てる者は盛りが少ない、とゆ〜ことだし・・・。
・・・・え?
言わないか?あれ、どこかおかしかったかな・・・?
まあいい。
どうせなら、誰かが一緒にいる方がいいかなと思ったのだ。
もしかすると、仲裁に入って・・・・・・・・・・。
ちょっと待て。

オレは、台所へと通じるドアの前で立ち止まる。
今、リナと一緒にいるのはアメリアだぞ・・・・?
もしかして、ゼルもオレも、とんでもない間違いをかましてるんじゃ・・・・。
は、はははははは・・・・・・・。

オレは額にジト汗をはりつけながら、ドアノブにかけた手をどおしようか考えていた。
その時、中の会話が聞こえてきた。


『えええっ・・・・・そうなんですか!?
やっぱり・・・・そのせいで、何かおかしかったんですね?』
『えっ・・・・おかしかった・・・?』
『ええ!だって、いつもだったらリナさんの隣にべったり座ってるガウリイさんが、なんとなく淋しそ〜〜な顔でソファのはしっこに座ってましたから!』
『そっ・・・そんなにいつも、べったり座ってないわよっ・・・!』
『い〜〜〜〜〜え!わたし達が今までお邪魔した回数の中で、絶対的にガウリイさんがベタベタしてることの方が多いです!』
『そっ・・・・・そんなことっ・・・』
『リナさんは、それに慣れちゃってたんですよ!だから不思議に思わなかったとか!』
『・・・・・でも・・・・・。』
『でも、どうしたんです?今日は何だか、ガウリイさんに触れても欲しく無い、って様子でしたよ?』
『・・・うん・・・・』


があああああああああああああんっっっ!!!

触れて欲しくない・・・・・?
触れて・・・・・
触れて・・・・
触れて・・・・(エコー)

リナが、オレに。
触れて欲しくない、だと・・・・・・・・!?
そっ・・・・・・そんなっ・・・・・・
そっ、そうなのか、リナ!!!


『なんていうか・・・・うざったいっていうか・・・』
『・・・・はあ。』


うざったい・・・・・・・・・
うざったい・・・・・・・
うざったい・・・・
うざ・・・・(エコー)


・・・・・・・・・・・・・・。(思考停止)


『あんまりベタベタされると、ダメなの。』
『・・・・・・はあ。』
『ご飯作るのもめんどくさいし、一緒に寝るのもヤ。
お風呂なんて絶対に嫌だし、ひどい時には・・・』
『まさか、リナさん・・・?』
『そ・・・・。顔を見るのも嫌な時もあんのよ・・・・。』
『だいぶ深刻ですね・・・・。』


・・・・・・・・・・・・。
ここは誰・・・・・。
オレはどこ・・・・・・?
・・・・・・・まさか、こんなことが。
こんなことが。
は・・・・・・・はは・・・・・・。
い・・・・いや、きっと気のせいだ。
何か聞き違いをしてるとか、早とちりをしてるとか、そうだ、夢を見てるんだ、オレは。
そうに違いない。
だって、でなければリナがあんなことを言うわけないだろう!?
オレ達、つい最近まで。
らぶらぶ新婚さんだったんだぜ・・・・・?


『で、どうします?今日も行くんですか?』
『そうね・・・・約束しちゃったし。』
『じゃあ、途中まで送りますよ。
ガウリイさんには、わたしと一緒に買物に行ったって言えばいいんですし。』
『・・・悪いわね、アメリア・・。使っちゃって・・・。』
『はっきり言って、わたしはリナさんの味方ですから。
あの人に会ってリナさんの気が晴れるなら、それで言うことなしです。
ガウリイさんには、ちょっと可哀相ですけど・・・・。』
『・・・あたしも・・・はっきりしなくちゃ、って思う時もあるんだけど・・・』
『で、いつ言い出すんです?』
『まだ・・・・ちょっと、ふんぎりがつかなくて・・・。
だってあたし達、結婚してから半年しか経ってないのよ?
ちょっと・・・早すぎるかなって・・・。』
『そうですねえ。
まあ、リナさんはまず自分のことを第一に考えて下さい。
あの人とは、まだずっとおつき合いして行くんでしょう?』
『・・・うん・・・・・まだよくわかんないけど・・・。
そのつもりよ・・・・。』
『家まで一緒に行ってもいいですか?
あの人、ちょっとかっこいいですよね♪』
『ば、ばか。何言ってんの。』
『あ、赤くなった。リナさん、可愛い♪』
『もう、アメリアったらっ!』




オレはそのあとどうやって、部屋まで戻ったか思いだせない。
気がつくとぼんやりと椅子に座っていた。
「どうした、ガウリイ。まるでこの世の終わりみたいな顔をして。」
「ゼルガディス・・・・・・。」
「なんだ?」
「女って・・・・・・。」
「・・・・・は??」
「いや・・・・・なんでもない・・・・。」
「お、おい。大丈夫か?顔が真っ青っていうか・・・土気色だが・・・。」
「オレのことは・・・・・・」
「はあ?」
「ほっておいてくれえええええええええ。」

オレは、まるでガキのようにその場から走り去ってしまった。









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