『絵に描く空と』

 
「リナ!………リナ!

誰かがあたしを呼んでいる。
どこからか、気持ちのいい涼しい風が入ってきて、頬を撫でた。
「ん……………」
「気がついたか!」

ほっとした声が聞こえた。
聞き慣れた、旅の相棒の声。
剣の腕は超一流、いつでもあたしを一番に助けに来てくれる、頼りになるパートナー。
目を開けると、心配そうな顔が覗きこんでいた。

「どうやって………ここに………?」
周りを見回すと、まだ地下にいた。
が、上を見上げると、何故か空が見える。
天井にぽっかりと大きな穴が開いていた。
頭の脇で、低い声がこともなげに言った。
「お前さんの後から降りてきたんだ。」
「んなっ………何でそんなバカな事をっ?」
ガウリイの腕の中から、あたしはがばりと跳ね起きた。
 
床の上から、あたしを助け起こしていたのは。
今までで一番長い旅の連れ、腕よし顔よし頭なしのへっぽこ剣士。
ガウリイ。
 
「二人して落ちたら、誰があたし達を助けに来れるのよっ?」
「いや、いきなり床を崩したら、お前が生き埋めになっちまうし。
とりあえず位置を確認してから、下から崩そうと思って。」
「下が空洞になってるかどーかなんて、わからなかったでしょーがっ!」
「あちこちの床を叩いたら、こんこんって空っぽの音がしたからな。
何となく。」
「な、何となくって…………」
あたしは言葉を失い、相棒の顔を見つめた。
彼はあたしの顔を見て、頬笑んでいた。
「誰かを呼びに行ってる間に、お前さんが埋まっちまったらと思うとな。
他に思いつかなかったし。
お前があの場にいたら、もっといい考えが浮かんだろうけど。
それに、二人揃えば何とかなるんじゃないかって。」
「………………………」
「結局助かったんだから、いいじゃないか。」
「………………………」
「リナ?」
見慣れた心配そうな顔。
あたしはふっとため息をついた。
「…………何でもないわ…………。
ま、そーね。それがあんたにできる最善の方法ってことはわかったわよ。
助かったから、いっか。」
「それにしても、驚いたぜ。
お前さんを見つけたら、砂の上でくーくー寝てるんだもんな。
寝言をぶつぶつ言ってるし。
どこか頭でも打ったのかと心配したが。
夢でも見てたのか?」
「夢……………?」
 
がばっ!
 
あたしはガウリイの襟首を掴んで叫んだ。
「そーいえばっ!あたしが倒れてる傍に、ランプなかった、ランプ!」
「ランプって………お前が言ってたの魔法のランプか?」
「そーよっ!見つけたのよ、あの砂の中でっ!
んでこすったら、筋肉ムキムキのやたら眠そうな魔人がでてきてっ……」
「で、そいつ、願いごとを叶えてくれたのか………?」
「それが勝手に人の願いごとを決めてくれちゃってさっ!
相棒を…………」
「え?」
「あ…………いや………えと………」
「どうした?」
あたしはガウリイの襟を離し、ぽりぽりと頭をかいた。
ガウリイは訳がわからない様子で、あたしを見ている。
その顔を見ていたら、何も言いたくなくなった。
「ううん………やっぱり夢だったみたい………。」
「そうか………。そりゃ、残念だったな。」
「え………?」
「本当は叶えてほしい願いごとが、一つくらいあったんだろ?」
「…………………」
 
空を眺めたら、満天の星空だった。

あたしはにっこりと笑い、ガウリイの頬をぺちぺちと叩いた。
「叶えて欲しい願いごとなんて、一つ二つの訳ないでしょ。
まず究極のお金持ちになって、世界中の宝石一人占め!
お城にも住んでみたいし、世界中の美味しいもの食いまくりツァーにも行きたいし!
潤沢な研究資金のもと、魔道の研究にとっぷり暮れてみたいし!
それからそれから………」
ガウリイはぷっと吹きだし、それからぷははっと笑い出した。
「そりゃ、ランプの精の方が逃げ出すだろ。」
「だから手っ取り早く、地道に自分で叶えるのよ。
さあ、お宝がないとわかれば、こんな場所に用はないわ。
さっさと出るわよ、ガウリイ。」
「全く、切り替えが早いな。お前さんは。」
 
『翔風界!』
 
ガウリイを抱え、穴の中から夜気漂う地上へと帰る。
見おろした砂の中に、何かがきらりと光った気がしたが、あたしはそれを無視した。
あんなランプの精なんぞ、金輪際願い下げである。
「あ〜あ、すっかり夜になっちまったなあ。」
砂丘の上に降り立つと、うん、とガウリイが伸びをした。
「……………………」
あたしがその姿を見ていると、ガウリイが不思議そうな顔をした。
「どうした?オレの顔に、なんかついてるか?」
「え、ううん。何にも。」
やっぱりあれは夢だったのだろうか。
あたしの記憶の中には、ずっとガウリイがいて。
最初の出逢いから、つい最近のやり取りまで。
ちゃんと残っている。
「あ…………」
ガウリイが呟き、あたしの方に屈んできた。
顔と顔が、ほぼ同じ高さになる。
「砂だらけだ……」
ぽふぽふ、と頭を大きな手がはたく。
「ほら、ほっぺたまで……」
指の背が、頬を撫でた。
 
やっぱり。
交換しなくて良かった。
 
ガウリイはじっとあたしの顔を見て、それから、頭をわしわしと撫でた。
「な、なによ?」
「いや。お前さんで、良かったと思って。」
「え……………?」
「何でもない。オレも、何か変な夢見てたみたいだ。」
「ゆ…………ちょっと待って、それって………」
「腹減ったなあ。早く街へ帰ろうぜ?
疲れたなら、おぶってやるよ。」
「い、いいわよっ!一人で歩けるってば!」
「あ〜〜。おぶったら胸の小ささがバレると思ってるんだろ。
心配するな、とっくにわかってるから。」
「誰がんな心配するかーーーっっっ!!!
だからおぶわなくていいってばっ!」
「あ、ホントに小さい。」
「ガウリイっ!!!!」
「いいじゃないか。小さくたって、リナはリナなんだし。
別にオレ、胸の大小は気にしないぜ?」
「なっ……なにっ……なにがっ………」
「しっかりつかまってろよ。走るからな!」
「えっ、ちょ、ちょっと待っ………
んぎゃっ!!」
「お前さんの願いごとを全部叶えるまで、つきあってやるからな。
先は長いぞ、リナ。」
「えええっ!それってどういう………」
 
 
 
 














 
砂丘に次々と沈む星を眺めながら。
ランプの精は呟いた。
『同じ相棒に交換し直しても、何も変わらないんだもんな〜〜〜ん。
それも二人ともじゃ、仕事した気がしない〜〜〜………ふわ…………。』
ランプの中に煙は消えていき。
さらさらと砂は落ち続け。
ランプはすっかり見えなくなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
















 
 
 
 
----------------------------------------おしまい。
 
ネタ的に、泉の精と似たよーなもんですが(笑)ガウリイの事で不満を漏らすリナに、「じゃあ別の相棒に交換する?」と持ちかけてみたかったんですわ(笑)
一緒にいたのがガウリイじゃなきゃ、今のリナはないと自分は思ってます(笑)逆を言えば、一緒にいたのがリナじゃなきゃ、今のガウリイもないですよね♪
では、ここまで読んで下さった方に愛を込めてv
なんだかんだ文句を言いながら、不思議と長続きしてる人がいますか?
そーらがお送りしました♪
 
 




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