『ほんちょこ』

 
その頃リナは、宿から脱走していた。
夜の町を最初は駆け足で、今はもうとぼとぼと歩いている。

「ったく・・・・何やってんだろな、あたし・・・。」

我に返ってみても後の祭りである。
「部屋へ戻ろうにも・・・フィリアとアメリアと同室だし。
顔を合わせたら何言われるか・・・・。
あ〜〜〜〜っっ!!もう、こんなことなら、さっさと渡しておけばよかったっっ!」
頭を抱えてぶんぶんと振るリナ。
「たかが義理なのにっ!何でガウリイにだけは渡せなかったのよっ!」

周囲の注目が集まる中で。
改まって何かを渡そうとした時。
フィリアやアメリアの言葉もそうなのだが、なによりも。
きょとんとしたガウリイと目が合ったことが、一番の原因と言ってもよかった。
その場面を思い出しただけで、照れくささに逃げ出したくなるのだ。
だ〜〜〜〜〜っっ!!
元はといえば、フィリアとアメリアがちゃかすからよっ!!
他のと違って特別な意味があるわけじゃないのにっ・・・・・。」
かさりと、最後の箱を取り出すリナ。
「も〜こうなったら自分で食べてやろうか、これ・・・。」
 

その時、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「お〜〜〜い、リナ〜〜〜。」

「げっ。」
一番聞きたくない声だった。思わずリナは身体をすくめる。



すぐに長身の姿が駆け寄ってきた。
何ごともなかったような顔で、ガウリイはリナの肩を叩いた。
「こら、夜遅くに一人でどこまで行く気だよ?」
リナは振り返らず、さらにぷいっとそっぽを向いた。
「ちょっと、食後の散歩よ。」
そう言って、構わず歩き出そうとするリナ。
ガウリイはその隣に並ぶ。
「そうか。なら、つきあうぞ。」
ええっ・・・い、いいってば。」
「よくない。」
「いいってばっ。」
手を振って断わろうとしたリナの手から、ぽろっとチョコの箱が落ちた。

「?」
ガウリイが身を屈めて拾おうとする。
「!」

リナは慌ててそれをひったくるように取り上げた。
ガウリイが不思議そうにリナを見つめる。
「なあ、それ、もしかして・・・」
「な、何でもないってばっ。」
「さっきオレにくれようとしたやつか?リナ。」
「!」

夜の街角、数少ない街灯の灯の下で、再びリナが赤くなる。
 
ようやく喋り出したものの、小さな頼りない声しか出ていなかった。
「そ、そのつもりだったんだけど・・・フィ、フィリアとアメリアがなんかちゃかすから・・・渡す気が失せちゃったのよっ・・・。」
「どうしてだ?フィリアやアメリアや、ゼルにはふつーに渡してただろ。」
「そっ・・・」
かあっとまたも赤くなったリナは、その顔を見せまいとくるりと背中を向ける。
「そうなんだけど!か、考えてみればあんたとも付き合いも長いんだし・・・なんか、改まった感じでってのが・・・その・・ちょっと照れくさいって言うか・・・。」
ぼそぼそと呟くリナ。

その背中に向かって、ガウリイは頭の後ろで腕を組み、残念そうに言った。
「そっか・・・。オレ、欲しかったのにな。リナからのチョコ。」
「へっ・・・・・?」
 

振り返ったリナは、穏やかにこちらを見ているガウリイと目が合ってしまった。
「オレだけもらえないって、なんか寂しいぞ。」
「そっ・・・・・」
思わず後ずさるリナ。
「だってっ・・・だから・・・は、恥ずかしいって・・・」
「何だよ、リナ。恥ずかしがることないだろ?特別な意味はないんだって、皆にもそう言ってたじゃないか。」
「き、聞いてたの?」
「いやあ、何でリナがオレにだけくれないのかな〜って思ってさ。」
「!」
「なあ、何でオレにだけくれないんだ?」
「!!いや、それはあのっ・・・その、ね!!別に、ガウリイだけが特別な訳じゃあ・・・・!」 

観念したリナは、後ろ手に隠した箱をそうっと差し出した。
「ほ、ほらこれ。」
「おっ。サンキュー♪」

笑顔で受け取るガウリイに、リナは言わずもがなのダメ押しをした。
「い、言っとくけどっ、さっきも言ったように、特別な意味があるわけじゃないんだからねっ?義理だからね、義理っ!」
「ふ〜〜ん。」
「ふ、ふ〜〜んって・・・」
たじろぐリナ。
もらった箱を片手にもって、顔の横でひらひらさせるガウリイ。
「なあリナ、オレ、アメリアに聞いちゃったんだけど。
この日のチョコには、二つの意味があるんだって?」
「へっ!?」
「だから。日頃お世話になった人への感謝の気持ちと。
何かもう一つ、別の意味を込めた場合があるって。」
「だ・・・・だから?」
目が点になったリナに、ガウリイはにっこりと笑いかけた。
「さっきリナが言ったよなあ。オレはリナの世話をするどころか、リナの世話になってばかりだって。」
「!」
リナは両手をぱたぱたと振って反論を試みる。
「あ、あれは、でもね!」
「いやあ、全くその通りだと思ってさ。」
しかし、さらりとかわされてしまい、失敗。
「ちょ、ガウリイっ!
「・・・なのに変だよな?お世話になったお礼じゃないなら。
このチョコはなんだろうなあ?」
ひらひら。
 
かあああああああっっっ!!
リナちゃん、ぴんち。


「なにバカなこと言ってんのよっ!もらっておきながらいきなり何よそれえっ!!」
とり乱したリナがぴょんぴょん飛んで、ガウリイの手からチョコレートを奪い返そうとする。
「返せ〜〜〜っっ!!」
「イヤだ。これはもう、オレがもらったもんだからな♪オレのだ♪」
ジャンプするリナの手の届かないところで、楽しそうに箱を振るガウリイ。
「さて、宿に戻ってアメリアにもっかい聞かなくちゃな。
別の意味って、どういう意味かって。」
ぎゃ〜〜〜〜!!バカ、やめなさいよ〜〜〜〜っっ!!
こら、ガウリイっ!!返しなさいってばぁっっ!!」
「さ〜〜、宿へ戻ろう戻ろう♪」
や〜〜め〜〜れ〜〜〜〜!!!
 
 
 
 








こうして二人は追いかけっこしながら、宿へと帰ってきた。
心配そうに食堂で待っていた面々は、ぢたばたしているリナと、楽しそうにかわしているガウリイを迎える。
ガウリイはにこにこしながら、アメリアに呼び掛けた。
「な〜、アメリア。義理じゃないチョコは、何て言うんだ?」
「は?」
「あっ、こらっ、し〜〜〜〜!!ガウリイ、いい加減にしなさいよねっ!!」
「ほ・・本命チョコだと思いますけど。」
「アメリア〜〜〜!!」
「本命チョコって、どういう意味があるんだ?」
「アメリア!!答えなくていいからっ!」
「ええっ・・・・でも・・・」
「答えたらどうなるか、わかってるんでしょうねっ!!」
リナ、巨大なこぶしをにゅっと。
 
アメリア、ごくっと息を飲み。二人の顔を見比べて。
一世一代の大決心。
「そ、それはですね!一年に一度、女性から男性へ愛を告白する場合です!」
アメリア〜〜〜!!
「そっか、そ〜いうことなのかあ。」
だ〜〜〜〜〜っっっ!!違う違う違う〜〜〜〜っっ!!!!
全然そ〜じゃなくてえ、だから義理だってさっきから何度もっ・・・」

ぎゃーぎゃーと暴れるリナを、ガウリイがひょいっと両手で抱き上げた。
「なっ・・・・なにすんのよっ!!」
自分の目の高さまでリナを抱き上げたガウリイは、にこっと笑って言った。
「なんだ、そうならそうと、早く言ってくれればいいのに。」
「へっ・・・」
「そういうチョコなら、受け取るぞ、オレ。」
「えっ・・・・ええええええ!!!
 

っきゃ〜〜〜〜〜〜!!
女性陣、手を取り合って万歳三唱。
ゼル、点目。
「何なんだ、この展開は・・・何がどうなってこうなる?」
 
 
真っ赤になって硬直したリナを、にこにこと抱えているガウリイ。
「んでアメリア、受け取った男はどうすればいいんだ?」
「はいっ!!来月の決まった日に、気持ちを受け取った証拠としてキャンディーを贈るんだそうです!」
はりきって答えるアメリア。
「そっか、じゃ、忘れないようにしないとな♪」

何の前触れもなく、固まったリナの頬にガウリイが軽くキスをした。
「!!」
固まったのは何もリナだけではない。食堂中の全員が、と言っても過言ではないだろう。


中でも一番固まったリナに、ガウリイは楽しそうに言った。
「来月だな。楽しみにしてろよな、リナ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「じゃ、オレ、こいつ部屋へ送っていくから。」
リナを抱いたままにこやかに一同に挨拶をして、ガウリイ、さわやかに退場。

「・・・・・・・。」

あっけに取られたフィリア、アメリア、ゼルガディスは呆然と見送る。
リナははっと我に返ったらしく、突然暴れ出した。
「ぎゃ〜〜〜〜〜!!イヤ〜〜〜〜!!降ろせ〜〜〜!!」
「何照れてんだよ、リナ。」
バカ〜〜〜〜〜っっ!!!降ろしてよぉ〜〜〜〜!!!
「はっはっは♪」
 
 
 



二人が去った後。
一同は一斉に顔を見合わせて、ため息をついた。

「何だかんだ言って・・・・。実は一番上手なのはガウリイさんてことですね・・・・?」
「義理チョコからここまで話を持ってくるとは・・・。」
「・・・ほとんど詐欺じゃないのか・・・?」
アメリア、シメに入る。
「結局、二人の間には、余計なお節介も誰も入り込めないってことですよね・・。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 






















------------------ちゃんちゃん(笑)
 
す、少しは甘くなりましたか?(笑)ホワイトデーの三倍返しを狙うリナちんを書きながら、これでは全然甘くない、ハート型の塩せんべえと変わらん!と(笑)書き直しました(笑)
ちゃっかりガウリイ、詐欺師(笑)ま、いっか(笑)
同じネタでもう一本書きましたが、そっちは完成するかどうか(笑)つまりは義理チョコでもガウリイにだけは渡せないリナちんが書きたかったのでした(笑)

では、ここまで読んで下さった方に、愛をこめて♪
義理チョコでも恥ずかしくて渡せなかった相手は、いましたか?
そーらがお送りしました♪
 
 
 
 
 
 
 


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