「愛すダンス」

 
 
『さ〜、今年もやって参りました!ザルツゼー村の辛く厳しい冬を、この時だけは楽しく明るく過ごすこの大会!題してザルツゼー冬のオリンピアード!
老若男女を問わずどなたでも参加いただけます!さあさあ、見るも楽しいやらなきゃソンソン!どんっっどんお申し込み下さいよ〜〜!』
 
教会の鐘がりんごんと鳴り響き。
厩の馬がヒヒンといななき。
犬もにゃ〜にゃ〜鳴き交わす賑やかな冬の朝。(をや?)
よく晴れ渡った空は、真冬ならではの澄み切った大気にどこまでも突き抜けるように青く。
見事に降り積もった雪は、分厚い毛布のように全てを覆い隠していた。
今日から一週間。
この村では毎年恒例の、冬のお祭りが開催されることになっていた。
 
 
 
h〜〜〜さぶさぶさぶさぶさぶさぶ!
晴れたらまた放射冷却でさらに寒いのなんの!がたがた!」
「リナ、鼻水出てるぞ。」
「鼻水くらい出るわよ、それがつららにならないだけマシってとこね。」
「お前さんは寒いの苦手なんだよな。」
「あんたこそ、何でそんな薄着で平気なのよ。う〜〜〜、ぶるぶる。」
 
見なれた身長差の二人の姿が、この村にあった。
頭からすっぽりと毛皮をかぶり、顔以外は空気が触れるところがないほど着込んでいる小柄な人間が震えながら立っていた。
その姿は、まるで後ろ立ちしている動物と見まごうほどだ。
その隣に立っている長身の男は、マントこそ着ているものの、隣で震えている相棒ほど顔色は悪くない。
ガウリイは、もこもこふわふわしているリナのフードに手を伸ばした。
どこからどう見ても、小さなクマに見える。
(もしくはイウォーク・註*スターウォーズ・ジェダイの復讐(エピソード6)参照のこと)
「そんなんでホントに出るつもりか?
まさか、それ着たままで滑るつもりじゃ・・・・。」

この日のために近隣の村々からも集まってくるらしく、どこにこんな人口が!?と思うほど、祭りの中央舞台の周りは混雑していた。
その中をかきわけて、二人は湖へと向かう途中だった。
天然のアイススケート場である。
「うるひゃいわね。出るって言ったら出るの。
ここんとこ続いた吹雪のせいで、宿代かさんでんのよ?
稼がなくちゃ、一生この村から出られないかも知れないわ・・・。
そんなの、絶対イヤ〜〜〜〜〜っ!」
「そ・・・それはオレもちょっとイヤだけど。」
「そ〜でしょ?でもこの寒いのに、いちいち依頼を受けて狼狩りだの牛追いだのやってらんないでしょ〜がっっ!!だ・か・ら!
賞金が出る競技に出て、あたしはずばり、一獲千金を狙〜〜〜〜う!!」
柵に足をかけ、びしっと決める、見た目小さなクマ。
何が一獲千金かと言うと、午後から行われるアイスダンス競技に出場するらしい。
「一獲千金ねえ、そんなに上手く行くかな。」
「行くったら行く。行かなければ行かせてみせようホトちゃんを。
だからして、今から練習よ、ガウリイ!」
燃えるリナ、ため息をつくガウリイ。
よく見かける構図であった。
「ホトちゃんて・・・・。いや、オレは宮迫の方が面白いと思うが・・・。は〜〜〜〜。はいはい。」
 
 
 

**********************

湖の手前には、すでに表彰台も用意されていた。
リナは毛皮を脱ぎ、ガウリイもマントを脱いで靴を履き替える。
宿で借りてきたスケート靴は、ガウリイのは少しきつく、リナのはかなり大きかった。
二人は四苦八苦しながら紐を締め、すでに何人かが滑っている湖上へと出る。
「・・・・・・・どうした?リナ。」
足を八の字に広げ、ぶるぶる震えながらゆっくり進むリナを見て、ガウリイは不思議そうな顔をした。
「やっぱり寒いのか?毛皮着るか?」
「さ・・・・寒いのは寒いんだけど・・・・。」
眉をひそめた顔でリナが見上げる。
「考えてみればあたし・・・すんごく久しぶりな気が・・・」
「ええ?」
「最後に滑ったのは・・・7才くらいだったかな〜〜〜なんて・・・」
「なにいっ!?」
ずるっ!
ひぃあっっ!!
唐突にリナが思いっきりコケた。
「お、おいっ!」
 
 



「〜〜〜〜〜〜〜ふに??」
リナはそろそろっと片目を開けた。
固い氷との顔面キスを想像していたのだが何故か全然痛くない。
冷たくもない。
「・・・・・ふ〜〜。危ない危ない。大丈夫か?」
前のめりに顔面から氷につっこもうとしたところを、慌てて前で抱きとめたガウリイに助けられたのだ。おまけに、まるでガウリイに抱きついた状態になっていた。
ぎょぎょっっ!
「だっ・・・!だだっ、大丈夫、大丈夫!」
慌ててもがくリナ。
その腕をつかんで、そうっと身体を離し、一人で立たせたガウリイは、心配そうに尋ねる。
「お前さん、無謀にもほどがあるぞ。くどいようだが、これでホントに出るつもりか?」
「だ、大丈夫よ、ちっちゃい頃は滑れたんだし、ちょっと練習すればすぐカンが戻るはずよ。」

心意気は立派だが、足はぶるぶる震えている。
ガウリイは仕方ないなという顔でため息をつくと、屈んでリナの顔を覗き込んだ。
「・・・・・・・」
どきんっ。
原因不明の不整脈に襲われ、リナは息を飲む。
その両肩に手を置いて、ガウリイは真剣な表情でこう言った。
「いいか、リナ。
転ぶときは思いきり、ケツからいけ、ケツから。」
「!」
げしいっっ!!!

「いっってええええっ!」
「うひぃあっ!」
懐から出したスリッパでガウリイの頭を叩いたリナだったが、やはりまたも転んでしまった。
「お〜、それでいいんだそれで。ケツから行けよ。」
〜〜〜!!だから、レディーに向かってんな爽やかな顔で、●ツとか言わないでよ〜〜〜っっ!!」
烈火のごとく怒るリナの前に、ガウリイはす〜〜っと滑ってきた。
手を差し伸べる。
「そりゃあ悪かった。じゃあお嬢さん、お手をどうぞ?」
「うぇっ?」
「慣れるまで、手を引いてやるよ。ほら、掴まれ。」
「hっ・・・・。」
 
 
 




陽光きらめく眩しい氷上。
村出身の出場者はというと、湖の端から端をかなり流暢に滑っている。
その中に、ほほえましい光景一つ。
長身の男性に手を引かれ、ちょっとうつむいて滑る小柄な少女。

「ほ〜らリナ、こっちだぞ〜〜〜。」
「そ、それやめてってばぁ・・・・。は、恥ずかし〜じゃないのよっ!」
「ほ〜ら、あんよは上手、あんよは上手〜♪」
「ガ・ウ・リ・イ〜〜〜〜!!!」
その脇で、別の二人が滑っていた。
やはり小さな子供が父親に手を引かれて滑っている。
「ぱぱ、あのおねーちゃんへたっぴだね。」
「こらこら、そんなこと言うもんじゃないよ。
ああやって練習して、上手になるんだから。」
「そっかあ。あたちとおんなじね♪」
「そうだねえ。」

かあああああっ・・・

「う〜〜〜〜。恥ずかし〜〜〜〜〜」
真っ赤になったリナは、ますますうつむいてしまう。
そんなことも知らず、ガウリイは実に楽しそうにコーチを続けていた。
「オレでもリナに教えてやれることってあるんだなあ♪」
「ふ、ふんだ。すぐに追いついてやるからねっ。」
「おう、がんばって、二人で競技に出ような♪」
「う・・・・うん。」
「それじゃあ、手を離すぞ〜〜〜」
「ああああっ!ちょ、ちょっと待ってっ!!や、やだぁ〜〜〜〜!」

・・・・ほほえましい、ほほましい(笑)
 
 
 
 



次回に続く。