「愛すダンス」


音楽は続いていた。
手を取り合い、寄り添い。

離れ、また近付く。
そこにはもう、照れはなかった。
 

『・・・・・・・・・・・・。
し、失礼しました。私、一瞬言葉を失っておりました。』
呆然とした顔の委員長はメガホンを握りなおす。
『先程からこのペアですが、その、何と言いましょうか。
不思議な感動を呼んでいる気がします。
身長差ゆえに難しいリフトも実に軽々とこなし、どちらにも迷いは微塵も感じられません。
そのダイナミックさがいいですね。
そして、表情がいい。
男性がクマさんを見つめる目、クマさんは残念ながらその表情まではわかりませんが、一心に男性を見つめております。
そして、実に楽しそうに滑っているのです。
・・・正直申しまして、大会の実行委員長を長年勤めてきました私の目から見ても、こんなペアは初めてのタイプです。』
 

委員長の言葉は村人の心の代弁でもあった。
いつしか、騒ぐ声も、ひやかす声も、ちゃかす声も。
ぱたりと途絶え。
ただ、静かな湖の上、音楽とスケートの音だけが続いている。
 
『果たして、こんなペアにどう採点をつければよいのか。
さぞや審査員の方々は迷われていると思います。
・・・しかし、私は思うのであります。
真のアイスダンスとは、真のお祭りとは、自らが楽しんでこそ、人に楽しみを与えられるのではないでしょうか。間違いなく、このペアはアイスダンスを楽しんでおります。
・・・ああ、曲もそろそろ終わりに近付いてきました。
忘れておりましたが、気になる採点の行方は・・・・・』

委員長はおもむろに審査員の机を振り返る。
・・・・が、そこには目を疑う光景が。

「んでしょ〜!だからね、奥さん・・・」
「んまあ!まさかそんな・・・御近所でそんなことが?」
「すまんがビールを追加してくれんか、つまみもたんとな。」
「あ!爪が割れてる〜〜〜。イヤ〜〜ン。」
「枝毛ってさあ、気になりだすと止まらないよね〜。」
「ぐご〜〜〜〜〜」
 
『・・・・・・・・。』
委員長は目頭を押さえて首を振った。
『さて、フィニッシュです。』
 



「よ〜し。最後だ、思いきり行くぞ〜」
「んね、さっきみたいにちょっと投げてみて。上手く降りてみせるから。」
「大丈夫かあ?さっきはそれで落っこちたんだろ〜が。」
「だいじょ〜ぶよ。この辺の氷は厚いみたいだから。
いい?思いっきりやっちゃってちょうだい!」
「いいけど、怪我はするなよ。」
「それは任せて。秘策があるんだから。」
 

音楽がクライマックスに入り、二人はスピードを早めた。
村人がごくりと息を飲む。

中央で二手に別れ、片側でガウリイが立ち止まる。
リナは勢いをつけて滑り出す。
待っているガウリイへと、飛び込むように。

「!」

村人が見守る中。
ぶつかる寸前、二人は相手の腕を握り、ガウリイが大きく横に振りあげる。

わっ・・・・

 

「すげえ!」
「おおっ!」
今まで無視していた男性客も思わず身を乗り出す。
クマさんは空中に身を踊らせ、空を飛んだかのように舞い上がる。
「危ない!」
「無理よ!」
女性客が悲鳴をあげる。
 

リナは準備していた。
口の中で唱えていた呪文を完結させる。

『浮遊(レピテーション)!』

 

目に見えない風が巻き起こった。

リナの身体はまっ逆さまに氷の上に落ちるのではなく。
まるで風にあおられた木の葉のように、ひらりと。
ふうわりと着氷したのである。
 
じゃん!
 
そしてタイミングよく曲が終わった。
 



「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

しばらく、全ての音が途絶えていた。

20秒もあいただろうか。
静まり帰った会場を、リナが不思議そうな顔で振り返った。
「な・・・なんでこんなに静かなわけ?」

わああああああっ

突然、爆発的な歓声が生まれた。
委員長の感動的なアナウンスも、もはや雑音の一つに過ぎない。
『お聞き下さい、この歓声!
ザルツゼーは今や、お祭りの最高潮にあるかのようです!
まさか飛び入りのペアが、ここまでとは!
おっと、早くも得点が出る模様です!』

審査員席の9人が、ぱぱぱぱぱぱっと札を掲げた。

『まずは技術点、テクニカルメリット。
5.8、5.9、5.9、5.9!
一人4.1もいますが、5.9が5人もおります!
居眠りをしていた審査員が拍手して札をかかげております!
さあそうするとどうなる、美術点、プレゼンテーションです!
これは!
なんと・・・満点か!?満点か!?
・・・・満点だ!!
やった、やりました!インバース・ガブリエフペア、優勝です、優勝です!!
素晴らしい演技でした!インバース・ガブリエフペア!
そして新しいアイスダンスの歴史を、このザルツゼーに刻みました。』
 

「やったぞ、リナ、優勝だ!」
氷上ではガウリイがリナを抱き上げ、くるくると回していた。
 
委員長のコメントが続く。
『それにしても、最後に意外なハプニングで幕を閉じました、インバース・ガブリエフペア。
まさか、まさかですよ。
クマさんがジャンプして、着氷した時に。
着ぐるみがはがれて、中から愛らしい少女が飛び出してくるとは。
思ってもみない展開に、観客は総立ちです。
ああ、スタンディング・オベーションです、
スタンディング・オベーションが続いております!』
 

「それにしてもすごいよな、秘策ってあのことかあ。まさか最後で毛皮を脱ぐなんて、オレは思い付かなかったぜ。」
感心するガウリイ。
リナはぽりぽりと頭をかいて、視線を逸らした。
「いや・・・実はね・・・あれはただの偶然なのよ・・・・。
浮遊でふんわり着氷できればそれでいいと思ってたら・・・その拍子に一緒に脱げちゃっただけなんですけど・・・・。」
たははははと笑うリナ。
ガウリイはぷっと吹き出した。
「そりゃリナらしいや。
でも優勝だぞ!これで宿代の心配はないんだろ?」
リナはぱっと顔を赤くし、そっぽを向いてぼそっと呟いた。
「ま、それはそうなんだけど。・・・でも、楽しかったしね。」
「・・・・・。」

ガウリイはにっこりと笑い、抱き上げたリナの身体をぎゅっと抱き締めた。
次に、やおら背伸びをすると、その頬に顔を近付けた。
ぎゃっっ!?!?なななななななな!!なにすんのよっ!?」
「・・・何って。
最後にこ〜やるのがルールなんだろ?他のペアはみんなそ〜してたぞ。」
!!!ちっがあ〜〜〜〜〜〜ううううう!!!ルールじゃない、ルールじゃない〜〜〜!!!」
「はっはっは。何を照れてるんだろうなあ、リナは。」
「ガぁウリぃ〜〜〜〜〜!!!」
 


やがて氷上で追いかけっこを始めたペアに、惜しみない拍手は続いた。

『素晴らしいペアでした。おそらくこれは伝説として語り継がれることでしょう。
・・・おや?拍手が変わりました。
これは、アンコールです、アンコールが要求されています。
それにしてもインバース・ガブリエフペア、いつまで追いかけっこを続けるつもりでしょう、
本当にほほえましい光景です・・・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 
 




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ちゃんちゃん(笑)
 

・・・・・テヘ(笑)やっちまった(笑)
最後を迷って二通り書いてみましたが、とりあえずこっちを採用(爆笑)

ちなみに、なんか聞いた憶えがあるような名前とか、詳しい規定とか、その辺は気にしないで下さい(ごほごほ)アイスダンスにガウリナに似たペアがいたのでそこから思い付いたお話ですので(笑)再放送の機会があったらちょっと見てもらえると嬉しいです(笑)優勝したペアが、女性は真っ赤な髪で気が強そうで、男性は金髪で、性格的にも似てるっぽいんです(笑)

でもガウリイが結局クマと滑るあたりは、やっぱりそーらだなと思って下さい(笑)
それにしてもガウリイ、衣装の割にホワイトですね(笑)『もっとこっち寄れよ、演技だからな』って迫るのかと思ったら、リナちゃんの方からアプローチでしたね(笑)これがブラックなガウさんだったら、景品(おまけ参照のこと)が使われたことは間違いないでしょう(ごほごほ)

ちなみに、アイススケートを描いたマンガは数ありますが、何となく思い出したのは、カーラ教授の『銀のロマンティック・・・わはは』と赤石路代さんの『ワンモアジャンプ』でした。ここに出てくる金髪美形の氷の貴公子と気の強い日本人ペアがガウリナ変換可能かと思われます(笑)
 
何はともあれ書いてて久々に楽しかったです(笑)すいません、自分だけが楽しんでました(笑)でもちょびっとでも面白いと思ってもらえらたら、なお幸せです(笑)
そしてネタを提供して下さったAsukaさんに愛を込めて捧げるです(笑)いつもバカ話に付き合ってくれてありがとう(笑)
ではここまで読んで下さったお客様に、おまけをつけてお別れです♪
ガウリイの衣装は白がいいですか?黒がいいですか?(爆笑)
そーらがお送りしました♪










***おまけ***
 


「こちらがトロフィーと賞金になります。」
「ふ・・・・。これがあたしの血の滲むような思いで手に入れた賞金ね・・・。これで、これでこの村を脱出できるのねっっ!」
「良かったな、リナ。」
「そしてこちらが景品です。どうぞお納め下さい♪」
「へっへっへ、有り難く・・・・・・・・・・。
・・・・・って、何これ。」
「何って。」

受付けのお姉さんはにっこりと営業スマイル。

「村のコテージの無料一ヶ月宿泊券ですわ!
早速今日からお使いになりますよね?」
「なぬっっ!!!」
「リ・・・リナ・・・・?」
イヤ〜〜〜〜〜!!!それだけは絶対にイヤ〜〜〜〜っっ!!
つ、慎んで!辞退させていただきますっっ!!」
「そんなことおっしゃらずに。何でしたら、春までお泊まりいただいてもいいそうですわ♪」
「イヤったらイヤったらイヤ〜〜〜〜〜〜!!」
 



そして伝説のペアとなった二人は、春の雪解けが来るまで。

村長の家の前に雪像として作られ、村人に親しまれるのであった。

果たしてリナの姿が、美少女だったかクマだったか。
それは知らぬが花であろう。





 






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