『ジラス・レポート』

 
おれ、赤いキツネ族、ジラス。
ある骨董品屋で、働いてる。
 
昔、おれ、悪いことやった。
銃、火薬、おれの得意。
でももうやめた。
平和がいちばん。
骨董品屋のあるじ、ちょっと人使い荒いけど。
でも、誰かを騙したり、傷つけたりすること、ない。

それにムネ、やわらかい。えへへ。
 

………ええと、どこまで話したか。
おれ、ジラス。
というわけでおれ、お使いの途中。
頼まれた骨董品、お客さんに届ける。
この街道、山賊出ると聞いたが、出ない。
ラッキー。
今のうち。
 
 
ぁああああんんんっっ!!!
 
な、なんだ!?林の向こうから、爆発の音。
煙あがってる。
あれ、火薬の爆発と違う。
おれの経験が言ってる。
とするとあれ、魔法、か?
 
るるるるるるっ……………
ぼてっ!!
 
ううわ。びっくりした。
なんか落っこちてきた。なんだ??
 
「あいでででででぇっ!!!」
 
人だ。人落ちてきた。人相悪い。
山賊か?
 
「おおっ!いいところにっ!た、助けてくれぇっ!!」
「お、おれにしがみつく、やめてほしい。お客さんに届ける品、割れると困る。」
「そんなことを言ってる場合かっ!!あああっ、追いかけてくるうっ〜〜!!」
「追いかける、何が?」
「いきなり俺達のねぐらを魔法で吹っ飛ばしたやつだよっ!!俺達はこんなひなびた場所で、おとなし〜くぢみちにつつまし〜く山賊やってただけなのにっ!!
いきなり、『悪人に人権はな〜〜〜いっ!!』とかぬかして、こんなハメに………!」
 
おれ困る。おれの服、涙で濡らさないでほしい。
…………なに!?魔法??
それにそのセリフ……………………………。
お、おれ、嫌な予感してきた。
 
「は、放せ。おれ急ぐ。放してくれ。」
「いやだっ!!頼む、俺を連れて逃げてくれぇっ!!」
「おれ、そんな義理ない。それに、もしお前達狙ったやつ、おれの知ってるやつだと困る。本当に困る。おれ、逃げる。」
「あああっ!そんな殺生なっっ!!」
 
どっぉおおおおんんっっ!!
 
煙があがってたところから、また爆発の音。
 
「く、来るっ!来ちまうっ!!」
「ひ、ひいいいいっ。すぐ放す、おれ逃げる!逃げたい!!」
 
まさかと思うが。あの。
二度と戦いたくない相手。
いや、まさか。
でも。
ああ。おれ、こんなところで死にたくない。
 
「見〜〜〜〜つけたぁ〜〜〜〜っっ!!!」
 
うわあああああああ!き、来た!?
あの。
むちゃくちゃ凶暴で。
むちゃくちゃ乱暴で。
おっかない魔道士
たぶんまだおれのこと、恨んでる
あの顔は絶対、執念深い
見つかったらおれ、ただじゃすまないかも知れない。

あの。
………伝説の。
 
「あああっ、あの声っ!!あいつだ、あいつが来たんだぁっっ!!」
「に、逃げ、逃げ、逃げる、おれ、逃げる!!!」
 
がさがさがさっ!!!
しゅたっ!!!
 
ああ。逃げ遅れた。誰かが草むらから飛び出してきた。
おれ、怖くて目をつぶる。
やっぱり………………
やっぱりあいつだ。
盗賊殺し、ドラまた、大魔王の食べ残し、生きとし生けるもの天敵。
リナ=インバース!!
 
「んっふっふっふ。逃がさないわよっ〜〜〜〜♪
『悪人に人権はない』!!なんですからね〜〜〜〜っっ!!」
「ひいいいいいいっっっ!!!い、命ばかりは助けてくれえええっ!!」
「な〜に言ってるかな〜〜。
命なんか取らないわよ〜〜。その代わり、役人に突き出してあ・げ・る!」
「うごわぁぁぁぁっ!!だ、ダンナ、助けてくれえっっ!!」
「おれダンナ違う、放せ!」
「なによ〜。あんたも仲間〜〜?」
  
ひゅるるるるるっるっ…………
しゅたっ!
 
あ?もう一人の足音?
 
「ずるいぞっっ!オレに後始末させて、勝手に一人でこんなところまでっ。」
「あら、いいじゃない。魔法はあんたの方が得意でしょ。あたしはあとこいつを捕まえて、役所に突き出すつもりだったんだからっ。」
「へ〜〜〜。お前の腕だけで、大人が捕まえられるのか〜〜〜?」
「何ですって。この天才美少女剣士の腕を疑うと言うの、あんたわっ!!」
「いっつもオレに助けてもらうくせに。」
「うぅるさいわよっ、男のうるさいのは嫌われるんだからねっ!!」
 
……………………………………あ??
天才びしょうじょ…………けんし???
 
おれ、勇気を出して目を開けてみた。
そこにいたの、予想と違った。
ギョロ目チビ凶暴魔道士、いなかった。

代わりにいたの、子供。
子供が二人。
剣構えた女の子供と、魔法の杖持った男の子供。
リナ=インバースと、ガウリイ=ガブリエフと違う。
おれ、人間の顔、ときどきわからない。
でもよく似た子供達、双子か。
……………………あ??
 
「へっへっへ………………。なんだ、ガキ二人じゃねえか………。」
おれにしがみついてる山賊、急に態度変わる。
「何も恐れるこたぁねえんだ。おい、こいつを見な。」
「あ???」
おれの首、何か冷たいもの押しつけられてる。
ああ、ナイフか。
…………ってことはもしかして、おれ、人質に取られたか?
情けない……………。
 
「俺に手出しをすれば、こいつの命はねぇぜ…………。」
「何言ってんのよ、あんたの仲間でしょっ!」
「違うよ、よく見ろってば。大きな荷物抱えて、旅の途中みたいだ。
ただの通りすがりだよ。」
「アジトから荷物を運び出してるだけかも知れないじゃないっ!」
「お、おれ、こいつらの仲間違う。おれ、行商人。ちゃんと許可証ある。」
そう言っておれは、なくさないよう胸にさげていた、カード見せる。
「おれ、無関係。」
「ほら、オレの言った通りだろ。もう少し落ち着いて考えろよ。」
「そーゆーの苦手なのよっ!!どっちだっていいわ、この際ちょっと我慢してもらって、一緒に吹き飛ばしちゃって!」
「あ、あのなあ。」
 
「え〜〜〜〜い、ごちゃごちゃうるさいわ、お子さまがっ!!
俺は本気だぞ!?お前らがちょっとでも変なことをしたら、こいつの命はないぞ!」
「くっ!セコいやつねっ!顔もセコいけどっ!!」
「あああ。挑発するようなこと、言うなよな〜〜〜。」
「本当だぞ!?こいつを殺されたくなかったら、俺だけは見のがしてもらおうかっ!」
首にナイフ食い込む。
おれ、どうしよう。武器はある。あるが、おれ、暴れると荷物落とす。
骨董品屋のあるじに、怒られる。
それ、すごく怖い。
 

『明り(ライティング)!!』

 
ぴかああああああっ!!!!
どこからか、魔法がまた聞こえた。
突然、辺りが昼間より明るくなる。
おれも皆も、目、見えなくなる。
 
「な、なんだっ!」
「いったぁああああいいいっっ!!目が〜〜!」
「ライティングの魔法だっ!誰がっ………」

 
破砕鞭
(パルス・ロッド)っっ!!』

 
びしっ!!!
「うぎゃあぁっっ!!」
山賊の悲鳴。
な、なにがどうなった。
 
「そこまでよっ!!」
 
………………………………あ…………あ………あ。
聞き覚えある、あの声。
おれ、目こすって無理矢理開ける。

山賊、双子、よろよろしてる。
皆びっくりした顔で、空見てる。
……………………………あ??
あれは!?
 
「全員、動かないでっ!大人しくしてんのよっ♪」
 
ふわりと降りてきた、黒いマント姿の女。
あれはやっぱり。今度こそ。
リナ=インバース!!
 

「はいは〜〜い。もう無駄な抵抗はしないことね。」
「お前かっ!俺のナイフを叩き落としたのはっ!お前も魔道士なのかっ!」
「見ればわかるでしょっ!この姿を見て、魚屋かウェートレスかと思ったやつがいたら、お目にかかりたいもんだわっ!!!……………って…………もうお目にかかっちゃってるけど……………。」
「なんだとっ?」
「そういうこと。リナは一人じゃないからな。」
また聞き覚えのある声、した。
それもすごく、思い当たる声。
おれ達の後ろから、剣を構えた男が出てきた。
こいつからおれ、前に剣奪ったことある。
ガウリイ=ガブリエフ!
「お前の仲間は全部、役所の前に放り出してきたぜ。さてと。」
 
しゅたっ!
 
リナ=インバースがおれ達の前に立ちはだかる。
「あたしに魔法で吹っ飛ばされるのと、ガウリイに切り刻まれるのと。
大人しく役所に突き出してもらうのと、どれがいい?」
にやりと笑う顔は、やっぱりあの凶暴な魔道士の顔だった(ぶるぶる)
「おいおい。人聞きの悪いことを言うなよな。オレは切り刻んだりしないぜ?」
「やろうと思ったら、できるでしょ。………服だけど。」
ぺろっと舌出すリナ=インバース。
山賊、可哀相なくらい怯えてる。気持ち、すごくわかる。
「………いい子にしますから、役所に連れていって下さい…………。」
「よしよし。わかればいいのよ、わかれば♪」
 
ぽかんとしてるおれをよそに、ガウリイ=ガブリエフに縄で縛られる山賊。
リナ=インバースはおれの顔を見る。
あああ。つぎ、おれの番か。
おれの平和な生活、ここまでなのか。
……………あれ??
背中を向けたぞ。
 
「こらっっ!!!あんた達っっ!!!!」
‥‥‥‥‥‥‥???
リナ=インバース、子供達に向かってお説教始めた。
「家を出るなら、ちゃんと行き先を言ってからにしなさいって、あれだけ言ったでしょっ!?
勝手に黙って出て行ったら、家出扱いにするわよっ!!」
「‥‥‥そうだぞ。」
縄でふんじばった山賊ほっぽって、ガウリイ=ガブリエフもやって来た。
「子供達だけでこんなところまで。ちょっとばかり行き過ぎたな。」
「あたし達が来なかったら、どうするつもりだったのよっ!?」
 
 
腰に手をあてたリナ=インバースの前で、子供達、一斉に喋り出す。
「だってだって、この辺に山賊が出るって聞いたら、いてもたってもいられなくなっちゃってぇ〜〜。」
「ぼくは止めたんだよ?でも、ニアが勝手にっ。」
「あああ!!リアだって、覚えたばっかの魔法、使ってみたいって言ってたくせにっ!!」
「ぼくのせいにするなよなっ!」
「あたしだけのせいにしないでよっ!」

 
「シャ〜〜〜〜ラップっっ!!!!!」

 
がらがらがらがらゃ〜〜〜〜〜〜んんんんんっっ!!!!
き〜〜〜ん…………
リナ=インバースの叫び、雷そっくり。おれ、雷苦手。
 
双子は顔を見合わせ、しゅんとなった。
やっぱりこの子達も、リナ=インバース怖いんだな。
「ごめんなさい、母さんっ!!!」
 
……………………………………………………へっ!?
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
おれ………おれの耳、どうかしたか?
か……………………母さんて呼ぶの、聞こえたが!?
母さんっ!?
リ、リナ=インバースがっ!?
こ、この双子の親っ!?
 
「あんた達、自分の腕を過大評価するんじゃないわよ。
あんた達なんて、あたしとガウリイに比べたら、まだオタマジャクシよオタマジャクシ。い〜〜い??あたしがいいと言うまで、勝手に子供だけで遠出をしないことっ!!無茶はしないことっっ!!いいわねっ!?」
母親………………。
あの、リナ=インバースが……………。
そういえば人間の年数でもう、何年か経つか。
しかし、あの凶暴チビ魔道士が………母親……………。
 
「だって………あたし達、母さんの口ぐせを実行しただけだもん!」
「へっ!?」
「だって母さん、よく言ってるじゃない!『悪人に人権はないっ!』って!!だからあたし達、それを実行しただけだもんっ!」
「……………………………。」
リナ=インバース、口をぱっくり開けている。
あれが、母親……………。
「はっはっは。リナ、一本取られたな。まあ、今日はこの辺にしておいたらどうだ?お説教はあとでゆっくり、オレがするから。」
「だから父さんって大好きっ!」
そしてあのガウリイ=ガブリエフ、父親……………。
人間、わからない……………。
「あの……母さん、ごめんなさい、オレ、じゃない、ええと、ぼく謝るから、ね?」
「え…………え〜〜いっ!!!
わかったわっ!とにかく役人に突き出したら、帰るわよっ。」
「うんっ!」
 
「ところで。」
ガウリイ=ガブリエフが、くいっとリナ=インバースのマントひっぱった。
がろんがろんがろんっ!!
あ。いっぱい転がり落ちてきた。
お、お宝だ。

「これは何かな、リナ?」
「え、えっと。あははははははは!やだ、いつのまにこんなとこに入ってたのかしらっ♪勿体ないから、あたしがもらっておくわねっ♪」
「お前なあ。それじゃ、子供にしめしがつかないだろ?」
「うっ!し、しまった。つい。」
「ったくしょうがないな。子供二人も産んだのに、ちっとも変わらないなあ、お前さんは。」
「あ、あんただって!!そうやって頭ぐりぐり撫でるの、ちっともやめないじゃないのよっ!!」
「ふ〜〜ん。じゃあ、こっちの方がいいのか。」
「うぎゃっっ!!な、なにすんのよっ!!子供が見てんのよっ!!」
「ダンナが最愛の妻を抱きしめて、何が悪いんだ?」
「ぎゃあああああ!!言うな、さらっと!そおいうことをっ!!人前で!!」
 
「………………………。」
あ。リナ=インバース、こっち見た。
「ジラス………………。あんた、今の見てたわよね。」
「あ、あははははは。リナ=インバース、久しぶり。」
「フィ、フィリアに言うつもりね………………」
リナ=インバース真っ赤だった。でもおれ、殺気感じた。
「い、言わない言わない。おれ、何も見なかった。おれ、通りすがり。仕事の途中。この辺で失礼する。」
「………リナ。あいつ……………誰だっけ?」
「ええい、きっちりお約束なんだからっ!!」
 
 








…………………………はあ。
旅の途中。意外な人と会うことある。
それ、とても楽しいと思ってた。
なのにどうしておれ、疲れてる?
 
背を向けて、次の街目指すおれの背中、親子の会話聞こえる。
 
「罰として、今日の夕飯はヌキっ!!」
「えええっ!!!そんな、ひどいよぉっ!!」
「そうよ、横暴よっ!そんなのってないわ!!」
「え〜いやかましいっ!保護者の言うことはちゃんと聞かないと、危ないんだからっ!!」
「……そうだぞ、リナ。保護者の言うことはちゃんと聞かないとな。」
「………はうっ…………」
 
 


…………ふう。おれ、男ジラス。
おれにもいつか、家庭を持つ日が来るだろうか。
ただし。
…………もうちょっと凶暴でないヨメ、見つけないと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^おわり♪

TRYではジラスが好きでした(笑)あの声がイイ(笑)だから『半魚人の島』もスキよ(笑)

さてこれは読書室0号室にある『森の中』の続編とゆーことになりますか(笑)もしもガウリナに子供が生まれたら、で考えた双子ばーじょんの方です。よって子供は男女の双子、リア(男)とニア(女)です。リアはママっ子、ニアはパパっ子なので、得意な方面がおのずと決まってきます(笑)リア(男)が魔法使い、ニア(女)が剣士です(笑)
 
では、ここまで読んで下さったお客様に、愛を込めて♪
久々に会った友だちが子連れで、想像もできなかったくらい母親らしく子供を叱ってる姿を見て、目からウロコが落ちる思いをした経験、ありますか?(笑)
そーらがお送りしました♪
 
 


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