『旅の果てにある答え』


 
 
事の起こりはこうだった。
いつものように、あたしが歩く二、三歩後ろを、ガウリイがのんびりついてきていた。

ぽかぽかと暖かい陽射しに、のどかな田園風景。
いやが上にもリラックスムードは高まり。
差し迫った危険があるわけでもなく。
懐はまあまあ。お腹もまあまあ。
 
そんな気の緩みから、ちょっとばかりあたしが仕掛けた質問。
「………ねえ、ガウリイさあ。」
「…………………ん?」
「前にあんた、言ったわよね。」
「………………何を?」
「あたしが………聞いたときよ。あんたに。
‥‥‥いつまで保護者してる気?って。」
「………………そんなこと、あったっけ。」
 
そういう答えが返ってくることはわかっていた。
わかっていたから、ここは我慢。拳をちょっと握り締め、あたしは続ける。
 
「あったのよ。んでその時ね、ガウリイが言ったんだけど………。」
「………オレ、何か言ったっけ?」
「……………言ったのよ。」
「………ふうん。なんて?」
「………………覚えてないのね。ま、当然かもしんないけど。
一生って言ったのよ、あんた。一生って。」
「………へ〜〜〜〜〜。そんなこと言ったのか…………。
随分、気の長いヤツだな、そいつ。」
「!!あんたが言ったのよ、あんたがっ!!」
「え?そうなのか?……………そっか…………。
オレ………実は気が長かったんだなあ。」
「!!!そーじゃないでしょっっ!!」
 
はあはあはあ。
つ、疲れる……………………。
やっぱりやめときゃよかったかな、こんな話。
 
「で、聞きたいんだけど。その気持ちは変わってないのかと思って。」
何気ない調子を込めて尋ねてみると、ガウリイはまじめな顔でこう答えた。
「…………変わってないのかって言われても…………。
言ったときのことを覚えてないんだから、変わってるかどーかわからないじゃないか………。」
ぷちっ…………
「開き直らないでよね………。
それともあんた、男のくせに自分の言ったことくらい守れないわけ。」
「それは差別だぞ、リナ。言ったことを守るのに、男も女も関係ないだろ。」
「そっ………それは………。」
「じゃあお前さんも全部守ってるのか?自分の言ったこと。全部覚えてるか?自分の言ったこと。」
「…………うっ……………」
「そういえば言ったよなあ、お前さん。ええと。
ずっとオレの追っ掛けをするって。………それ、実行してるか?」
「!!!!何で自分の発言を覚えてないくせに、あたしの言ったことだけ覚えてるのよ!!
第一、あれは!!」
「言ったことは覚えてるみたいだな。」
「話を逸らすなぁあああああ!!!」
 
ぜえぜえ。はあはあ。
な………なんでこーなっちゃうのよ…………。
あ………あたしはただ……………………。
聞きたかっただけなのに…………………。
 
「わ…………わかったわよ、その件は聞かなかったことにするわ。」
「おい、話を持ち出しておいて、いきなりそれはないだろう。」
「話がややこしくなるからよ!つまり、あたしが聞きたいことは!」
「………おう。」
「聞きたい………ことは…………」
「………どした?」
「聞きたい……………こと………は………………」
「…………リナ?」
 
 
 
 
いつまで一緒にいられる?
そんなこと、聞けるはずないじゃない。
………………ばかか、あたしは。
 
 
「…………………………」
思わず言葉に詰まると、ガウリイが頭をぽんぽんっと叩いた。
いつもの、のんきな声。
「何がどうしたか知らんが、何か悩んでるなら相談に乗るぞ?
まあ、オレが役に立つかどうかわからんが、話を聞いてやることくらいはできるし。」
そう言って笑うのは、これもいつものことで。
「近くにいるのは、オレくらいだし。まあ、我慢して話してみろよ。
………で、何を気にしてるんだ?リナ。」
「…………………………。」
そこまでわかってるのに。どーして最後のことはわかってくれないのよ。
そうやって頭を撫でられるだけで、あたしが安心するってこと。
時々は苦しいってこと。
わかってくれないのよ。
 
「別に……………。ただちょっと……………気になっただけよ。」
「もしかして…………昨日のことか………?」
「え…………?」
ガウリイは顎に手をあてて、空を見上げていた。
「昨日、食堂でやってたよな。どっかの結婚前祝い。」
「……………………………」
「花嫁さんが遠くの街へお嫁に行くから、前祝いをやっておこうって。」
「……………………………」
「お前さん、珍しく足を止めて見てたから。」
「……………………………」
 



おめでとうと、さよならのパーティだった。
今日はどこかの街へ、新しい生活へと旅立つ花嫁さんは。
幸せそうだったけれど泣いてた。
仲の良かった友人との別れに。
両親と兄弟との別れは明日に持ち越して。

中でも一番泣いていたのは、ある男性の前。
その人がお婿さんかと思ったら違った。
一番仲の良かった、仕事も一緒だった、相棒みたいに一緒にいた人だったらしい。
 
 
「……………いつかはああやって、別れることもあるのかなあって。
………思っただけよ。」
「……………………………………。」
 
それでも、涙を拭いて。
花嫁は晴れやかに旅立っていった。白いドレスで。
 


その時、ふと思ったのだ。
今は一緒にいて何の不思議もなくても。
いつかは道はそれぞれ分かれていくのだろうかと。
こんなにいつも一緒なのに。
その途端に、全てが終わってしまう。
そんなことは、想像もつかなくて。


「あたしね…………ホントは普段は言わないけど……………。」
「………………ん……………?」
「ガウリイとあたし。…………実は最高のコンビだと思ってる。
お互い、役割ははっきり分かれてるし、お互いの足りない部分はちょうど補えるし。
だから今まで切り抜けてこられた、…………そう思ってる。」
「…………………………………リナ。」

普段言わないことを言うのは恥ずかしかったけれど。
言っておきたいこともある。
「…………それでも…………いつかは……………。
お互いの道が別れちゃうことも、あるのかなって思っただけよ………。
やっぱり…………好きとか嫌いとか、恋愛とかがそこになきゃ………続かないのかな………と思って。」
そう言ってから、ガウリイの顔を見るのはすごく勇気がいった。
 
ガウリイは黙ってあたしの話を真面目に聞いていた。
穏やかな顔で。
やがて、目を伏せると、軽く首を振った。
 
「そんなことは…………ないんじゃないかな……………。」
「…………………え……………………?」
「別に…………恋愛感情がなくても………続く関係はあると思うぜ………。」
「……………………………………。」
「もし…………お前さんに……………」
 
ガウリイが目をあげた。
空のような目だった。背景の空と重なるような水色の。
 
「もし、お前さんに…………誰かできても。
オレは、その時でも忘れないと思うぜ。
お前さんが、最高の相棒だってことは。」
「…………………………………………。」
「オレも………今まで言ったことないと思うけど。
お前さんとオレは、最高のコンビだと。オレも思ってるよ。
一生に一度、巡り会うか巡り会わないかっていう相手だって。」
「…………………………………………。」
 
それはあたしもそう思う。
ガウリイみたいな人は、これから先一生、どこを探しても出会わないに違いない。
一生に一人の人と出会った。
奇跡みたいな偶然で。
それはわかってる。
 
「だから、この先何があろうとそれだけは変わらない。
たとえいつか別れるときが来ても、このことだけは一生忘れない、オレはそう思うよ。」
「……………………………………………。」
「リナは違うか?
もしオレの隣に、誰かがいたとしても。
オレとコンビを組んだことは、忘れた方がいいと思うか?」
「……………………………………………。」
 
それは。
………………それだけは、ない。
 
「恋人だったら、別れることもあるだろう。
親とだって、いずれ別れる。
けどな。たとえ別れたって、変わらないのはお前とコンビを組んだことだ。
お前と、背中を合わせて戦ったことは。
一緒に旅をして、一緒に見て、感じたことは。
誰にも消せやしない。
いざという時、目と目で交わした会話は。
他の誰ともできやしない。
‥‥‥‥‥オレと、リナは。
そういうコンビだ。…………違うか?」
 
 
違わない……………………。
違わないね、ガウリイ。
 
 
「そうね……………。ある意味、強いかもね。
友だちより。恋人同士より。
あたし達の関係って。」
「……………そうだぞ。一生続くんだからな。」
「……………変わらないでよ、ガウリイ。」
「……………………リナ?」
「変わらないで。一生、ずっとそのままでいなさい。」
「………………………そうだな。たぶん、ずっと。」
「あたしも変わらないわ…………。あんたと一緒にいるときのあたしはね。」
「それでいい。」
 
顔と顔を合せば。
目と目を合せば。
言葉がいらない世界が待っている。
他の誰にも代われない。
他の誰にも入り込めない。
そんな二人に、なれた。
そんな二人の関係は。
そう簡単に終わりはしない。

それだけわかったら、急に楽になれた。

「それに、別れる別れるって、縁起でもないな。
当分、そんな予定はないんだろ?」
「えっ?」
「リナにないなら、オレにだってないぞ。」
「え………………。」

いつまで一緒にいられる?
そんなことは、尋ねる必要はなかった。
 
「お前さんが変わらないなら………………」
そう言って、ガウリイは前を向いた。
「さっきのことも、変わらないぜ。」

あたしはその発言にきょとんとし。
思い当たるまで、随分と時間がかかってしまった。
 
途端に多くはしゃべれなくて。照れくさくて。
「うん………。あたしも、そこは変わらないかも…‥……。」
言って、ちろりとガウリイを見上げる。
ガウリイは穏やかにただ笑っていて、手を伸ばしてあたしの髪をくしゃくしゃにかきまぜた。
「そこに恋愛がなくたって、オレ達の間は変わらない。
ってことは、何があっても変わらないってことだよな。」
「う………………………。」
その真直ぐな青い目に、顔がのぼせてくるのは時間の問題だった。
「行こうぜ、リナ。道は長いぞ。」
「………………………ん。」
 








ガウリイと肩を並べて歩き出す。
陽が差す方向へ。
山へ、川へ、海へ。

いつまで一緒にいられる?
そんなことは、尋ねる必要はなかった。 
一緒にいられるのは。
互いに一緒にいたいと思った時間だけ続くのだと。
 
そしてその答えは、これから続く長い旅の果てにあるのだと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


















 
 
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 ガウリイの『一生か?』発言は使い古されたネタだと思うのですが(笑)またもやチャレンジ(笑)が、何故かイイ雰囲気にはならずに、どんどん二人の発言は不穏な方向へ(爆笑)<別れても変わらない
別れちゃイヤンなのよ〜〜(ごろごろ)と思いつつ、なんとかエンディングにこぎつけた次第であります(笑)ガウリイにかなり筋を救われました(笑)

ちょっとここのところ忙しくなったので、今週は更新無理かな〜と思ったんですが(汗)書きかけの話を見つけたので最後まで仕上げてみた次第です(笑)来週更新できなかったら、オチまで書けそうな書きかけが底をついたと思って下さい(爆笑)書きかけだけなら100本以上あるんですけど(笑)ううむ、道は遠い(笑)

ではここまで読んで下さった方に愛をこめて♪
卒業しても変わらない、仲のいい友達でいられると思って。つい告白しそこなったことありますか(爆)
そーらがお送りしました♪
 
 


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