『運命の出会い』


「…………おっどろいたぁ。」

彼女は俺の後ろになど隠れなかった。
隣に立って、男達を眺めていたのだ。
「あんまり驚いて、思わず言葉を失っちゃったわよ。」
「な、なんだ。おれ達がそんなに怖かったのか?」
何故か男が照れる。
気持ち悪いからやめろって。
だが俺は彼女の次のセリフを聞いて、目が点になった。

「は??怖い?あんた達が?
な〜に言ってるかな。あんまりセリフがワンパターンだから、驚いてただけよ。
街中にいても全然、洗練されないのね、あんた達みたいなのって。」
腰に手をあて、やれやれと首を振る彼女。

な、なんだなんだ?

「それじゃ、うらさみし〜街道とか、山の中とかでこっそり根暗に細々と!
暮らしてる山賊や盗賊達と、まるっきり変わらないじゃない。
都会に暮らしてるなら暮らしてるで、もうちょっと言い方にバリエーションがあってもいいもんだと思うんだけど?」

………………………………………はい??



目が点になったのは、俺だけじゃなかった。
因縁をつけてきた男達も、周囲でおそるおそる見守っていた街の人も。
一斉に、目が点。

なんなんだ、この女は?
怖くないのかよ?
普通こーいう場合、怯えて声が出ないとか!
きゃーきゃー言って逃げ回るとか!
腰を抜かすとか!
あるだろあるだろ!?
なのに、この立て板に水方式のおしゃべりは…………一体!?

「なっ……なっ………なっ………」
やっと我に返った男達が、顔を真っ赤に染める。
そりゃそうだよなあ。
こんなお嬢ちゃんにバカにされたんじゃ立つ瀬がないよなあ。
「てってめえっ!おれ達を誰だと思ってるんでいっ!」
「泣く子もさらに号泣する、伝説のカツアゲ師だぞっ!」
「ふざけたことをぬかすんじゃねえっ!痛い目見てえかっ!!」

男の一人が拳を作って、彼女に飛び掛かってきた。
あ、危ない!


「ほいっと。」
ゃぁっっ!!!




……………………あ……………あれ………………?

「あ、兄貴ぃっ!」
「こ、このアマぁっ!!」
確かに男は彼女に向かって突進していった。
が。
次の瞬間、地面にのめりこんでいるのは、何と男の方だったのだ。
「こ………こいつっっ!!!」
「はいはいっと。」

めぎょし!!
ごがらしゃっ!!
ばちこ〜〜〜〜〜んんん!!!
ずべべべべべべっ!!!!


…………あ……………………あれ………?
あれれれれ………………………?
お、俺、夢でも見てるんだろうか?

まさか。あんな華奢で可憐な女の子が。
「はい、おしまいっ♪」
スカートの裾をはらって、にこやかに微笑んでいる彼女が。

ぶっとい腕の男に顔面パンチをくらわせ。
毛むくじゃらの男の腕をつかんでくるっと放り投げ。
そこへ突っ込んできたヒゲの男に華麗な空中キックをきめ。
三人まとめて地面に突っ伏させた、なんて……。


ゆ……夢だ、夢に違いない。

「あ〜〜やだやだ。
ここでは大人しくしてようと思ったのに。
つい手が出ちゃったわ。
………今度から、スカートでキックはやめておこう。うんうん。」

夢だ…………これは夢に違いない…………。

「あ、ごめんねえ?もしかして、出番とっちゃった?」
俺を振り返り、手を合わせて謝る彼女。
夢だ………夢じゃなければ…………

………め………めちゃめちゃ好みだ!!!
まさに、理想の女性!
華奢な見かけとは裏腹の、気が強くて腕っぷしも強いなんて………!
俺のレアな好みを満たす女性が、まさか本当にいるとは!!
これぞまさしく、運命の出会い!!!

「お嬢さん!是非この僕とお茶でも!」
そして結婚しましょう!!


 
「………へえ。お茶って、オレにもご馳走してもらえるのかな?」
 
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はわ??

 

彼女の後ろに、今度は違う男が立っていた。
あ、新手か!?
と思って身構えると、彼女が振り返った。
「………あれ?ガウリイ?何でここにいるの?」
「ああ、今日は刈り入れで、子供達は家に手伝いに帰っちまった。だから早上がり。」
「なんだ。そうだったの。」
 
彼女の知り合いらしい男が、俺を見下ろしていた。
でかい。
俺だって身長はある方だが、それよりまたさらにでかい。
彼女と並ぶと、大人と子供だ。
…………なにより………………。
俺と同じ金髪。青い目。
しかも………………くそ、俺よりいい男じゃねーか…………!
 
「で、リナはこんなところで何をしてたんだ?」
「何って。買い物に決まってるでしょ、夕食の。」
「なるほど。で、こいつは?」
男の目がぎろりと俺を睨む。
女はそれに気がつかない様子で、無邪気にありのままを答える。
「ああ、何か知らないけど人違いみたい。」
「そうか。」
 
…………待てよ。じゃあ何であの時、俺を呼び止めたりしたんだよ。
くそ。もしかすると女も俺に気があったかもしれないのに!
余計な時に出てきやがって。
何様だか知らんが偉そうに。
この女は俺の運命の人だ。
お前はこの女の何なんだよ?
 
「落ちてたハンカチをあたしのと間違えて、声かけてきたのよ。
………ね?」
「え、ええ。」
「ふうん。で、そこで何でお茶をご馳走するって話になるんだ?」
「それは…………」
 
こ…………怖い。
無言の圧力が俺を襲う。この迫力は何なんだ。
見た目は俺と同じ優男なのに。
お前はこの女の何なんだよ?
 
「間違えたお詫びってことなんじゃないの?ねえ?」
「え、ええ、まあ。いや、声をかけたらあんまり可愛いお嬢さんだったので、つい………」
兄妹には見えないが、そんな感じかも知れない。
だったら女を誉めても差し支えないだろう。
「変な下心じゃありませんよ、一緒にお茶でも飲めたらラッキーだなって思っただけですから。ホントに。」
「だって。」
「ほう?」男の片眉があがる。
妹だか何だか知らないが、誉められて悪い気はしないってところか。
このまま引き下がってもいいが、食い下がって、たぶん親族だろう男から公認をもらうのも悪くない。
 
「彼女、ホントに可愛いですよね。一人で歩かせるの心配じゃないですか?」
「まあ、な。」
「な、何言ってるのよ。」慌てた彼女が頬を染める。
くう。ホントに可愛いじゃねーか。
「お茶するなんて贅沢は言いません、よかったら買い物につきあって、そのあとお宅まで送り届けますよ、僕が責任を持って。どうでしょう?」
「ちょっ……」彼女が困ったような声をあげる。
ふふ、参っちゃうなあ。照れてるんだな。
「大丈夫、誓ってそれだけです。ね?」
彼女にウィンクを送ってやる。
 
そう。最初はお友達から。それが基本だ。
その上、家までつきとめられる。
一石二鳥。
やはりこの出会いは運命だった!
神様ありがとう!
 
「って言ってるけど。どうする?奥さん。」
 
……………………………へっ……………………………?
 
ぽかんとした俺の前で、男が女の肩に手を回した。
その指に光るのはシンプルな銀の指輪。
……………待てよ……………。
女がつけてるのとそっくり……………………
ってことは…………………………………
 
うええええええええええええええ!?!?!?
 
こ、こ、こ、この二人!!!
ま、ま、ま、まさか!!!
ふっ…………………………………夫婦か!?
 
「ど、どうするも何も………。」
ぽっと赤くなって、相手を見上げる女の顔。
ああああああああ。
そんな顔は俺に向けて欲しかった!
しかし、夫婦!
この二人が!
この身長差激大のこの二人が!!
 
「きゃっ!ちょっとっ!」
慌てる女をひょいっと片腕で抱き上げる男。
ごった返す買い物客が一斉に、おお、と声をあげて振り返る。
「買い物につきあって、家まで送るなら。オレにもできるだろ?」
「だからって!何も抱き上げなくてもいいでしょがっ!!
まっ、周りを少しは考えなさいよね、あんたわっ!!」
「混んでるからこうしたんだよ。あんまりちっちゃいから、人込みの中にまぎれちまうだろ?」
「そんなにちみっちゃくないわいっ!!」
男の腕に抱えられたまま、頭をぽかぽかと叩く女。
 
こ‥‥‥‥これはもしかして………
いや………もしかしなくても‥‥‥‥‥………俺は……………
あてられているのか………………………………?
泣く子もナンパする伝説のナンパ師と呼ばれたこの俺が!
しぃまったぁああああああああ!!!!
 

「あ、あの、僕はこの辺で!」
くっそおおおおおおおお。いらん恥をかいてしまった!俺の華麗な経歴にキズが!
こんなとこからはとっとと退散………
「あ、ちょっと待って。」
呼び止める女。
何なんだ、傷心の俺に何か言うことが?
 
………いやまさか、今度はダンナのいないところでこっそり会おうと!
秘密の手紙を渡してくれるとか!
何か意味深なことを言ってくれるとか!
だってそうだろう、さっきは確実に俺を呼び止めたんだからな!

期待に胸を膨らませた俺の目に、何かが飛び込んできた。
「ちっくしょおおおお!!!
恥をかかせやがってええええええ!!!」
最初に地面にのめりこんだ男が復活して、襲ってきた!
顔は真っ赤、鼻からは鼻血、ものすごい形相だ。

「こらこら。その辺にしとけ。」

彼女を片腕に抱いたまま、ガウリイと呼ばれた男は。
襲ってきた男とすれ違いざま、その頬をぴんっと指で弾いた。

ぺぎょろべごっ!!

たったそれだけのことなのに、男は弾かれた方向へすっ飛んだ。

な………………な…………………
なんなんだよ、こいつらは!!!
 
「あ〜あ。可哀相に。」
「何言ってる。お前の方が手加減なかったじゃないか。」
「やだ、見てたの?あれでも手加減したんだけどな。」
「ま、魔法までは使わなかったみたいだしな。」
「あの程度の連中に魔法まで使ったとあっちゃ、リナ=インバースの名がすたるわよ。」


り…………………………………………
り…………………………………………
リナ=インバァスううううううううううう!?!?!?
こ、この女があの!
伝説の!
泣く子はうなされて悪夢を見ると言う!
リナ=インバースううううううううう!!!!!!

「今はリナ=インバース=ガブリエフだろ?」
「い、いいじゃない、細かいことは。」
「細かくないぞ。大事なことだ。」
「ごほんごほん。そんなことより、はいこれ。」
「…………へ…………?」

彼女が男の腕にだっこされたまま、何かを呆然としている俺に差し出した。
「ハンカチ。落としたわよ。」
「え…………あ…………」
女を呼び止めるのに使ったハンカチだった。気づかないうちに落としていたのだ。

…………ってことは……………
これを渡すためだった?
さっき呼び止めたのは!
あ…………ああああああああ。
か!完敗だっっっ!!!


「ど、どうもすいませんでしたっ!!」
女の手からひったくるようにハンカチを受け取り。
来たときと同じように猛ダッシュをしてその場から逃げる俺。


その背中に、二人の会話が嫌がおうにも届いた。
 


「で、買い物って、何を買うんだ?」
「ピーマンよ。そこのお店で。」
「えええええ。オレがピーマン嫌いなの知ってるだろ?」
「それが、全然苦くないピーマンがあるのよ。しかも色も違うし、これなら絶対食べられるって。」
「そうか?」
「そーよ。ったく、こっそり買ってこっそり料理に入れちゃおうと思ったのに…………っきゃっ!!な、何すんのよっ!!」
「何って。ただいまのキスだろ?いつもやってるじゃないか。」
「あ………あ………あんたねええええ!!!!時と場所ってものがあるでしょーが!!第一、んなことを大通りで言うなあああ!!」
「そうか、家の玄関じゃないとダメか?」
「だから言うなって!!!」
「じゃ、家に帰ったらまたしよう。」
「ガァウリイイイイイイイ!!!!!」
 

…………………くっそお…………ι……………。
俺の入り込める隙間はないのか……………。
俺の運命の人じゃなく…………
あいつが運命の相手だって言うのかよ………。

畜生………可愛かったのになあ…………。
 

 
 
 
 
「さ、ほらリナ、買い物だ買い物♪
明日もこの時間ならまたつきあうぞ♪
変なナンパにつかまると、いろいろ大変だからな。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 










 
 




-------------------おしまい♪
 
あああ。また変な話書いちゃったよ(笑)五●門のごとく『またくだらぬものを書いてしまった………』的心境です(笑)いや、こゆの書くの楽しいけど(爆)

これは『結婚物語』の二人でした(笑)饅頭なのはガウリイもだけど、ナンパ男も(笑)
食べて美味しいのはがうりい饅頭だけど♪
赤いピーマンはパプリカです(笑)ピーマンより苦くないよね♪自分はピーマン大好きだけど(笑)

ではこんなおばかな話をここまで読んでくれた方に笑ってお別れを(笑)
『運命の出会い』経験したことがありますか?(笑)

そーらがお送りしました♪


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