『おんりー・ゆー』

 
「ちょっとガウリイ、ちゃんとあたしの後ついてきてる?」
「オレはちゃんとここにいるぞ?何でだ。」
「ま〜た前みたいに、勝手に先走ったり、変なボタン押したりしないでよねっ?こんな狭い洞窟の中で何かあったら、あたし達、一蓮托生なんだからっ。」
「そんなことあったっけ?」
「あったの!ともかく、あたしの後にちゃんとついてきて、変な場所触らないでね!」
「ほいほいっと。」
「真剣に聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる。お、これなんだ?」
「だから押すなとゆーに!!!」
 
仲良し四人組は、とある伝説の宝を探して、鬱蒼とした森の中に位置する、未知の洞窟を探検していた。
大概の洞窟がそうであるように、中は暗くて、じめじめしている。
じくじくとしみ出す地下水、無気味な手のひらのような木の根。
ごつごつとした岩肌。
ダンジョンとしての雰囲気はばっちりである。
 
ずるっ!
「うぎゃっ!」
「おっと!」
足下をとられ、松明を手にしたリナが、思いきり後ろに倒れこんだ。
すんでのところで、ちょうど後ろにいたガウリイが背中を受け止める。
「危ねーなあ。こんな岩がごろごろしたところで、頭でも打ったら大変だぞ?」
「う、あ、ありがと。」
「…………あ、そうか、このためにオレに後ろを歩かせたのか?」
「違うわいっ!今のは、たまたまよ、たまたま!」
「だといいけどな。ま、オレが後ろにいる間は、安心してすっころんでいいぞ。」
「だから、たまたまだったって言ってるでしょ〜がっ!
も〜い〜から、放してよっ!」
「いっそ、このままオレがずっと持ち上げて歩いてやろ〜か。
これなら転ばないぞ。」
「バカなこと言わないでよっ!!誰がんな恥ずかしいことされるかっ!!
第一、それであんたが転んだりしたら、それこそ一蓮托生じゃないのよっ!」
「あ、それもそうか。」
「ちなみに、あんたが転んでも、あたしは助けてあげられないからね。あたしはあんたの前を歩いてるんだから。」
「……じゃ、オレが前に転んだら?」
「転ぶなっ!絶対にっ!死んでもっ!!」
「はっはっは。」
 

二人のやり取りを背後で見守っていたアメリアは、はあ、と軽くため息をついた。
「どうした?」
隣を歩いていたゼルガディスが問い掛ける。
「いえ……。なんていうか…………。
あのお二人って、くっつきそうでなかなかくっつかないなあ、と思って………。」
しみじみ語るアメリア。
ゼルガディスは、触れてはいけない話題に触れた人間のようにびくりとする。
「そう思いませんか、ゼルガディスさんも!」
アメリアはずずいと、ゼルガディスに迫る。
「見ていて、じれったくなりませんか!
どう見ても、あれは夫婦漫才以外の何物でもないでしょうっ!?
周囲の人間にはバレバレなのに、本人達は全然まったくこれっっぽっっちも、自覚がないんですよっ!なんとかしたいと思いませんか!!」
「あのな、アメリア。俺は別に………」
「旅は道連れ、世は情け!袖すり合うも他生の縁!
義を見てせざるは勇なきなり!と!奇しくも先人はおっしゃったではありませんか!
ここはひとつ、わたし達が手を取り合って、事態を打破すべきです!!」
「こらこらこらっ!!勝手に俺を巻き込むなっ!!」
「えええええ。手伝ってくれないんですかあああ?」
「俺には何にも関係ないぞ。第一、人の恋路に手を出すほど、野暮でもお節介でもないわい。」
「そんな寂しいことを…………。」
 
アメリアは手を組み、お空(天井)を見上げて願いごと。
「ああ。お二人を応援するのが、わたしだけじゃなくって。
もっと大勢の人が協力してくれればいいのに………………。」
 

 
『その願い、叶えよう。』
 
 

「は??」
突如、洞窟内に不思議な声が響きわたった。
立ち止まり、辺りを見回す四人。
次の瞬間。
 
がぽっ!!
 
「げ!!」
「うぉ!?」
「ぎょわおえおえおああおあおうあううあうあうあ!!!!」
「何なんだ、これはっ!!」
 
いきなり足下の空間が消え、四人は驚きの声をあげた。

ひゅうっ!

一陣の風が舞う頃。
四人の姿は、洞窟内のどこにもなかった。
全員が穴の中へと、吸い込まれて行ったのである。
 
 
 
 



 
 
 
 



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