『おんりー・ゆー』


 
四人は勧められた通り、ぎこちない笑顔を浮かべ、ちらちらと手を振ってやり、会場を一回りした。

ひそひそ。
ひそひそ。

主催者のアナウンスのおかげで、突然タックルしてきたり、抱きついてきたりというホットなアクションはなくなったが、二組が歩くところ歩くところ、視線と囁きがついて回っていた。
 
「ゼルガディスさん、気がつきましたか?」
やや後方を歩いていたアメリアは、ゼルガディスのマントをつんつんと引っ張ってこっそり囁いた。
「皆さんの視線ですよ。どっちかというと、リナさんとガウリイさんに集中してると思いませんか?」
「?」

確かに、熱い視線は会場の中央を歩く二人を追っていた。
しかも、二人が会話を交わしたり、いつものようにボケとツッコミに溢れた夫婦漫才を繰り広げたりすると、一斉に囁きが大きくなるのである。

「さあな。俺にはわからん。だが…………」
ゼルガディスがぴたりと足を止めた。よそ見をしていたアメリアが、もろに背中にぶつかる。
「ぷぎゃっ!ど、どうしたんです、急に立ち止まって!」
ゼルガディスは、机の上にたくさん並べられた、色とりどりの書物を一册、手にとってしげしげと眺めていた。
「もしかすると…………この中に異界黙示録があるかもしれん………!」
「ええええっ!」
「い、いらっしゃいませ!!」テーブルの向こうに座っていた、二人の女の子が頬を染めて慌てて立ち上がっていた。
 


ゼルガディスとアメリアをその場に残し、リナはさりげな〜〜く、自分達が出てきた小さな箪笥らしきものに向かっていた。
「あれだったわよね。あたし達が出てきた場所って。
狭いと思ったけど、何かの用具入れのようね…………って………」
返事がないので振り返ってみると、ガウリイもまた足を止めていた。
一つのテーブルの前で何かを手にして突っ立っている。
「ちょっと!!あたしの言ったこと聞いてたわけっ!?」
「おわっ!いてててててっ!!」
目の前まで垂れ下がっているガウリイの長い髪をひっつかむと、リナは力任せに後ろにぐいっと引っ張った。
ガウリイがもろにのけぞる。
「何すんだ、痛いじゃないか。」
「何すんだ、じゃないわよ。呼んでも答えないから引っ張っただけでしょっ?」
「お前なあ。他にも方法がいろいろとあるだろ?肩をそっと叩くとか。」
「………肩、届かないもん。ちょーどつかみやすいとこにあんのよ、あんたの長ったらしい髪の毛が♪」
「お前に引っ張られるために伸ばしてるわけじゃないんだぞ。」
「あら。あたしはてっきり、そのために伸ばしてるんだと思ったわ♪」
「あのなあ。」
 
ガウリイはのけぞるのをやめ、向き直る。
腕組みをして、リナを見下ろす。
「一つ言っておくがな、リナ。」
「な、なによ。」思わずたじろぐリナ。
ガウリイは真剣な表情でこう言った。
「オレがハゲたら、お前に責任とってもらうぞ。」
「!あれくらいでハゲるかっ!!」
「わからないぞ、人間、何が引き金になるか。」
「!!だ………だったら、ガウリイだってあたしの頭、しょっちゅうぐしゃぐしゃにかき回すじゃないのよっ!あたしがあれでハゲたら、あんた、責任とってくれるわけっ!?」
「そうきたか。」
「そういくわよ。あたしだけ責任とらされたんじゃ、割に合わないわ。」
「ふ。お互い、相手の髪の毛に運命を左右されるかも知れないな………。」
「んな事を大げさにすなっ!!」
 
くすくす!
きゃっ!
ひそひそっ!!
 
拳を振り上げて、ぶんぶんと振り回していたリナは、ぴたりと動きを止めた。
異様な気配を感じていた。
くるっと振り向くと、会場中の人間が途端に視線を外した。
その、わざとらしさといったらない。
「…………………?」
気を取り直した振りを装い、ガウリイに視線を戻すと、また背後から。
 
くすくすくす!
きゃっきゃっ!
ひそひそひそひそひそっ!!
 
興奮気味の囁きが。
くるっ!
またもリナが振り向くと、間に合わなかった幾人かの人間と目があった。
みな、何やら重そうな袋を抱え、一様に頬を染めている。
「………………………?何か………変よね………?」
「そうか………?」
「何か………あたし達二人だけが、注目を浴びてるみたいな…………。」
そう言いながら、ふとリナは、ガウリイが立ち止まっているテーブルの上に目を落とした。
ゼルガディスが手にとったように、それぞれ、実に色彩多様な薄い書物らしきものが山と積まれている。
「こんなに本を並べて………ああ、つまり、さっきの本みたいに、ここで売ってるわけね。」
「あ、え、ええ、そうなんです♪」
リナの独り言に、テーブルの向こうに立っていた女性が素早く答えた。
「ここにある本は、私達が作ったんですよ♪あ、これなんか、すっごくお勧めなんです!」
そう言って、女性が差し出したのは、そうした本のうちの一册だった。
「!!」
「これが一番売れてるんですよ♪」
にこやかな女性の前で、渡された本を手にしたリナは。
「!!」
途端に固まった。
 
「お〜〜〜い、リナ?どうしたんだ?」
ガウリイが不思議そうに屈みこむ。
「…………………」
「リナ??おい、リナ???」
びょ!!
ガウリイが肩に手をかけると、リナは、バネ仕掛けの人形のようにはねあがった。
顔が真っ赤だ。
「!!」
次に、狂ったように会場中を見回し始めた。
彼女の目に目に飛び込んでくるもの。
それはほとんどが。
とある二人を中心に描かれた表紙を並べていた。
 
ぐる!!!
物凄い勢いで踵を返すと、垂れ幕のかかった本部席へと猛然と進むリナ。
主催の女性が気がついて顔をあげた。
その肩をぐわしっ!と掴むと、リナは息も荒く尋ねた。
 
「あのっ!つかぬことを伺いますがっ!!
こ……………この会場って、一体どういう開催目的でっ!?」

「あれ?まだ言ってませんでしたか?」
女性はきょとんとして答えた。テーブルの上にあった一册の薄い書物をとりあげ、その表紙をリナに向けてみせた。
「スレイヤーズ、ガウリイvリナファン大集合!!『らぶらぶ★ぱらだいすPart32』のイベントですよ。スレイヤーズの、それも特にガウリナファンが大勢集まる、同人誌即売会、つまりファンが作った本の即売会です。」
「!?ってことは……つまり客観的にわかりやすく、サクっと言うと…………?」
おそるおそるリナが振り向くと、会場中の全員が、心暖まる視線を二人に送っているのが見えた。

「つまりですね。ここにいる全員が。
ガウリイさんとリナさんがらぶらぶになることを望んでいる、そういう集まりなんです♪」
「!!!!!!!」
ざああああああああ。
リナの顔から、一気に血の気が引いた。
リナの後ろで、ガウリイは一人、首をひねっていた。
「ガウリナって、なんだ…………?」
 
そう。テーブルに並ぶ品々は。
手を取り合う二人。
しっかりと抱き合う二人。
愛おしそうに見つめ合う二人。
で溢れかえっていたのである。
リナが真っ赤になるのも無理はない。
中には、肌もあらわな自分が、まさに今、背後に立っている自称保護者の腕に抱かれているなんぞという、本の表紙を目のあたりにしては。
 
「い……い………いやあああああああ!!!!!
これ以上、真っ赤になりようがないほど真っ赤になったリナは、ガウリイの脇をすり抜け、目前にいたゼルガディスとアメリアをひっつかみ、自分達が押し込まれていたあの箪笥へと駆け付けた。
「出るっ、今すぐ出るっ!!ここから出る〜〜〜〜っっっ!!!」
「お、落ち着けっ、リナ!」
「痛いです、リナさんっ!」
「これが落ち着いていられるわけないでしょっ!?アメリア、こっから出る方法わかったっ!?」
「わ、わかりませんよ、こんな短時間じゃ。」
「ゼル!」
「この戸の周りにも、変な気配はないぞ。」
「いや〜〜〜〜〜〜〜っっっ!もうこんなとこ、一分一秒といられないわよおおっ!!」
 
「お〜い、リナ〜〜!
どうしたんだ、何を慌ててるんだ?」
「来ないでよ、ガウリイっ!!今はあんたの顔が一番見たくないのよっ!」
「何だ、何がどうなってるんだ?」
「アメリア、戸を開いて〜〜〜っ!」
「そんなにぎゅうぎゅう押されたら、開くものも開きませんよ〜〜!」
「アメリア〜〜〜〜!」

「こら、リナ、落ち付けって。」
ひょいっ。
アメリアの背中を押しているリナを、後ろから抱き上げる格好でガウリイが持ち上げた。
「放してよっ!」
「何を慌ててるか知らんが、まずは落ち着けよ。」
「放してえええ!!んなことしてたら、また…………!」
「また?」
 
今やもう、公然と二人を見つめる熱い視線達。
会場中の人間が、嬉しそうに、幸せそうに。
二人を見つめる目は輝いていた。
小さなリナを、軽々と抱き上げたガウリイを見て、誰かが呟いた。
「ガウリナって、やっぱり最高v」
その言葉に、力強く頷く一団。
心は一つだった。
 
 

『願いは叶えたぞ。』

 

その時、アメリアの耳元で、どこかで聞いた声がした。
「……………?」
すると不思議なことに、押しても引いても開かなかった戸が、いきなり外側に向かってバタンと開いた。
「!!」
重力の方向が変わったように。
四人は、開いた戸の中へ、頭から吸い込まれるように落ちていったのである。
「うわああああああああ………………………
 
 
 
 
 
 
 
 
 

***************************







 
 
 
「……いったぁ……………ここ………どこですか………?」
「おへにひふは。あめりは、ほほをほへ。」
「あああっ、一度ならず二度までもっ。すいません、ゼルガディスさん。
今どきますから。」
もぞもぞと動いて、アメリアは立ち上がった。
ぴちょん、っと冷たいものが頬に触れた。
「あれ…………?ここって…………?」
見回すと、そこは暗い洞窟の中だった。
傍らに、リナが使っていた松明が転がっていた。
「元の洞窟、ですか………?」
「どうやら、そうらしいな。」
少し顔を赤らめたゼルガディスも起き上がった。
「時間もまだ少ししかたっていないようだ。」
火の消えた松明がまだ温かいのを確かめる。
「一体、何だったんだ、さっきのは。」
「……………………。」
 
アメリアは後ろを振り向くと、ちょっと驚いた顔をした。
それから、嬉しそうににっこりと笑って、ゼルガディスにこう言った。
「伝説の宝って、何でも一つだけ願いを叶えてくれる、そういう噂のものでしたよね。」
「ああ。噂はあくまでも噂だがな。」
「もしかしたら。本当だったかも知れませんよ。」
「なに?」
「だって、願いが叶っちゃったんです。」
「?」
 
アメリアの視線の先には、安心したように身を預けて気を失っているリナと、それを大事そうに胸に抱え込んだまま、地面に長々と横たわっているガウリイの姿があった。
 
「あんなにたくさん応援団がいるんですから♪
わたし、頑張りますよ!」
 
 
 
 


























 
***********************おわり。
 
 
くっ………まだくだらないものを書いてしまって…………すいません………(笑)
でもオンリーに行くたびに思ってたんですよ(笑)ここにガウとリナがいたら〜♪と(笑)アメリアだったら喜ぶでしょうし、リナは慌てるだろうし、ガウは………密かに買ってたりして(笑)とか思ったり(笑)色鮮やかな、素敵なイラスト達が並ぶオンリー会場を見回しながら、ふとそんなことを思って、一人にやにやと無気味な笑いを浮かべるそーらでした(笑)
実はスレイヤーズのキャラは、こっちの世界に出現したら手のひらサイズだとか、諸説ある模様ですが。細かいことはこの際無視してやってもらえると嬉しいなっと(笑)<そこまで考えられなかったらしい(笑)
 
では、ここまで読んで下さったお客様に、おまけをつけてお別れです♪
そーらとおんなじこと考えた、同志はいらっしゃいますか?(笑)
そーらがお送りしました♪
 
 
 
 
 



 
 
 
 
おまけ※※※
 
「う〜〜〜〜〜〜、いったぁ〜〜〜〜〜〜。」
「いててててて。小骨が腹に刺さった…………」
「む!それってあたしのことっ!?」
「いやあ。しかし、元の世界に戻れて良かった良かった♪な、リナ♪」
「う………ごほんっ。ま、そーね。そっ………それはそうと、いい加減離れてよ。」
「へ?離れたかったら、お前さんが降りればいいじゃねーか。お前さんがオレの上に乗っかってるんだぞ。」
「あんたが抱き寄せてるんでしょっ!?」
「あ、オレが言っただろ?後ろにはオレがいるから、安心して転べって。言った通りになったな♪」
「げふっ!ごほごほごほっ!」
「お?どうした?持病の癪か?」
「持病なんかないわいっ!」
 
二人が離れると、二人の間から、何かがぱさりと落ちた。
「あれっ。何か落ちたぞ。」
「?あたしじゃないわよ?」
「何だ?」
ガウリイが拾い上げたのは。
「あ…………これ……………。」
「!!!うぎゃああああああ!!!!!!」
「あの時、リナが渡された本。持ってきちまってたんだなあ。
へえ、オレとリナが…………」
「ぎゃああああ!!!返せ、戻せ、燃やせっっ〜〜〜〜!!!!」
「なになに。『その時、月明かりの中で二人は………』?」
「ガウリイ〜〜〜〜!!!!」
 
本を片手に、ひょいひょいと攻撃を避けるのっぽと。
無駄な抵抗久しく、ぴょんぴょん飛び上がって本を取り上げようとする、小さな女の子の姿が。
結局、成果もむなしく洞窟から出てくるのはそれからすぐのことだった。
背後から、少々うんざりした顔の魔剣士と。
嬉しそうに微笑む、白い服の少女を従えて。
「微笑ましい光景ですよね、ゼルガディスさん♪」
「俺に振るな。」
「あれ?ゼルガディスさん、フードに何か……………」
 
 
 
 
 
 
ちゃんちゃん(笑)
 
 
 
 
 
 
 
 


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