『妄想推理小説』
〜解答編〜


 

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今回の企画に対し、多くの名探偵諸君に名乗りをあげていただいた。
心より感謝の意を捧げたい。

その勇気ある行動を称え、ここに全員のお名前を掲載する。
諸卿は、明晰なる頭脳と崇高なる良識を合わせ持ち、
さらにその上で、洗練された遊び心の持ち主である。

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ククリ・ホームズ たまご・ポワロ みづマープル 

ワトソン加藤智希 明智rayrain  白咲杜メイスン 

浅美かりん ひたきマーロウ 芥川コナン
 
ウルフ 伊集院まさよし 竜崎星海クイーン
 
ウォーショースキー風味 三毛猫ちーちー 氷室ペキ 

アンジュ思無邪 金田一がー子 メグレ


(敬称略・登場順)

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では解答編である。

音声のみの再生に、記述的映像を加えて再構成している。

登場人物はたったの二人。
舞台は、とある宿屋の一室。
新月の晩、密室で行われた秘め事。
 
 

  
 

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<場面-A>
 
 
 
 
静かな夜だった。
静まり返った部屋には、獣油のランプはおろか、蜜蝋一つともっておらず。
厚くカーテンを閉めた窓からは、月の光が差し込むこともない。
新月の晩である。
 
部屋はただ、闇に包まれている。
その中身を誰かに見せることを、恥じているかのように。
 
……………かちゃっ……………
 
ときおり、小さな音がする。
 
……………かちゃかちゃ………ぱさっ………………………
 
 
 
宿中が寝静まっていた。いるはずだった。
何かが聞き耳を立てているわけでもない。
 
けれど部屋の物音は小さく、さらに聞こえてくる会話も、さらに小さかった。
息を飲むような緊迫感が漂う。
 
 
……………………ぴちゃっ……………
 
微かな吐息が聞こえた。
ひそめた声が漏れ出す。
 
「あっ…………そこは………違っ……………………」
「………じゃあ……………ここか…………………?」
 
そこは独り用の個室だった。
宿帳によると、泊まり客の名前はリナ=インバース。
性別、女性、職業、黒魔道士。年令、18才。
 
が、夜も更けたこんな時間に、うら若き乙女の部屋から、男の声も混じって聞こえるのは何故だろう。
 
「…………これは……………?」
「………………ダメっ………それは……………!」
「そんなこと言ったって…………こんなになってるのに………」
「…………だって…………………」
  
意味をなさない短い言葉達。
二人だけに通じる会話の証拠である。
 
「………いいか…………?リナ……………」
「…………………ダメって言っても………どうせ………するんでしょ………?」
「ああ…………。そのために来たんだからな………。」
「………………あっ!ガウリイっ、…………それはダメ…………!」
「………嘘つきだな、リナは…………。お前がしたいって言ったんじゃないか………。」
「だっ………だけどっ………」
 

部屋は闇が支配している。
だが、もしそこに蝋燭一つでもともすことができたなら。
諸君は以下の光景を目にするだろう。


テーブルの上には、固形燃料が燃える携帯用コンロ。
その上に大きな黒い平たい鍋が乗せられている。
ぶくぶくと何かが泡立っている。
そして煙。

テーブルを挟んで向かい合う形で、椅子から腰を浮かせているのは。
勿論、部屋の主リナ=インバースと。
相棒のガウリイ=ガブリエフである。

 
「…………んっ……………………」
長い二本の細い棒を片手に持ち、リナが背伸びをしている。
鍋が大きいために、背伸びをしないと届かないのだ。
勿論、部屋には灯など一つもない。
見えない中でおそるおそるの。
「…………………じゃあ………こっちは…………」
「…………あっ…………!そ、そんなとこ入れないでよっ………!」
「…………じゃあ…………ここか……………?」
「…………あんっ………もう………そんなさぐらないでっ………」
ガウリイの箸とぶつかって、リナが文句を言う。


そう。名探偵の推理通り。
答えは『闇鍋』である。
 





 
「………もう………今度は、あたしの番だからね…………?」
「………どうする気だ、リナ…………?」
「………さんざん攻められたんだから………今度はこっちが攻める番よ………」
「……………あっ…………お前、そんなっ…………」
「動かないでよ、ガウリイ…………」

リナはにやりと笑うと、ガウリイが密かに手許に寄せていた、大きな塊を探り当てた。
ずぶっ!
迷わず箸をつきたてる。
 
落ちないように、そ〜〜〜っと運ぶと、お皿の上に一旦置き。
おもむろに口へ。
 
「お前っ…………それはズルイぞっ…………そんなことされたら、オレ…………」
箸にあたった感触で、リナが持っていったものの正体がわかり、がっかりするガウリイ。
自分で入れて、楽しみにしていたバクダン(卵)入り肉団子だった。

「…………………………ん………あ………おっき………」
リナがふがふが言う声が恨めしい。
「…………こ…………こら………無理するなって………」
「……………ふっ………………む…………」
「…………よせって…………………」
「………………うぅんっ……………口に………はいりきんらい……」
「………リナ…………お前………意外に大胆だな………」
モノが何かわからないのに、いきなりかぶりつくリナもリナである。
「おっ………女は時として冒険するものよ…………っ………うぐ………」

卵の黄身が咽につまった。

「…………っ………ごほっ…………うっ………」
「………リナっ………大丈夫か………?だから、無理するなって…………」
「…………ごほっ………だ、大丈夫……………。」
「慌てなくても………夜は長いんだぜ………?ゆっくり進めるから………」
「……う………んっ…………」

そう。ネタはまだまだある。





元はといえば、その日訪れた街が鍋物で有名だったことから端を発していた。
ついつい匂いに誘われ、夕市でしこたま具を買い込んだ二人。
宿屋の夕食のあと。
お風呂上がり、階段で出会った二人の会話がこれである。


『ガウリイ………あたし……その…お願いがあるんだけど……。』
『な………なんだ、リナ。改まって。』
『あの……ね………?笑わない………?』
『……え…………?』
『や………やだ………急に恥ずかしくなっちゃった………。
や、やっぱやめる…………。』
『な、なんだよ………笑ったりなんかするもんか……。言ってみろよ……。』
『だって………。』
『遠慮なんて、らしくないぜ、リナ。
誰も聞いてないから、言ってみろよ、な?』
『う………うん…………。あの……ね………?
あたし……………したいの………………。』

『……………えっ……………』
『は………初めてだし……し、したことないし……………。
ケイケン、ないから…………。
でも……もうあたしも18だし………もういいかなって………。』
『リナ………………』
『…………こんなこと………ガウリイにしか言えないし………。』
『……………………』
『やっぱり………するなら………ガウリイとかなって…………。』
『リナ……………………』

歩み寄る二人。
視線はしっかりと結ばれ。
どちらからともなく、手を伸ばし。
取り合う。

『ガウリイ…………!』
『リナ………嬉しいよ…………。
オレ………お前がそう言うの、待ってたかも知れない……。』
『ホント……………?』
『ああ、ホントだ………………………。』

目に星を溜め。
花びらが舞い。
背景で透過光がセル画越しにキラキラと差し込む。

壮大な交響曲とともに、二人はいだきあった。
思いの通じ合った二人の声が唱和する。


『今夜は闇鍋!!』





そして場面は、深夜のリナの部屋に戻るわけである。
ぐつぐつと煮立つ鍋。
部屋中に漂う、いい匂い。

「…………じゃあ今度はオレが…………。いいか……………?」
「………う………ん…………」
「どこがいい…………?」
「…………こ………ここ………。お願い……ここを……………」
リナはおそるおそる手を伸ばし、ガウリイの手をつかんだ。
そろそろとそれを引っ張る。
どうも自分の手許当たりが妖しい。

「………………うわ………溶けかかってる………トロトロだ……」
ガウリイも気づいたらしい。
慌てて、箸でなくお玉でそれを掬いとる。
「………………ガウリイ………は……早く………………っ」
リナにはそれが何か見当がついていた。
 
…………………………じゅるっ……………………
…………………ぴちゃっ……………………………

皿からすするガウリイ。 
「………はぁっ………………リナ…………たまらん……」
危なかった。もうちょっと後だったら。
モチ入り巾着から溶け出したモチのせいで、鍋中が大変なことになるところだった。
しかしいいダシが出ている。
ダシを吸いきった溶け掛かったおモチは美味しそうだ。


「…………もうダメ………あたしも………我慢できないよ………」
「……………欲しいのか………?」
「うん…………欲しい………全部……………」

できれば全部、鍋ごと平らげたい。
だがしかし、やはり鍋は一人より二人。
一人で囲む鍋ほど寂しいものはない。

「オレもだ………………………」
「………………ね?ガウリイ……………」
「ああ…………行くぞ、リナ…………………」
「うん……………一緒によ…………?」
「ああ………………一緒だ………………。」
 
そして二人は猛然と。

鍋に襲い掛かった。
リナはもう、椅子の上に立ちっぱなしである。
余裕で鍋中に手が届くガウリイが羨ましい。

「あ、すごいっ…………!」
「初めてなのに………辛くないか………?」
「………うん………全然………平気っ………」
「よし………もっと奥まで入れてやる………」

ガウリイは箸で具をリナの方に寄せると、脇にあったザルから、山のように新たな具材を放り込む。

「あっ!こんなのっ………!ダメ、そんなに奥まで………!
あ……溢れちゃうよっ………!ガウリイってばっ……!
あ〜〜っ、ダメぇぇぇぇっ!!」

勿体ない。
リナは新たな具材のため。
食べて食べて食べ尽くした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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以上が場面Aの内容である。
 
つまり、闇鍋だった。 
 
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<場面-B>
 
 
 
 
 
「うっ………気持ち悪…………」
「だ、大丈夫か、リナ。だからあれほど無理するなって………」
「だってつい………我を忘れちゃって…………。おまけに、体中痛いし………。」
「………なんで体が痛くなるんだ?」
「む………無理な体勢してたからでしょっ……………って何言わせるのよっ…………そ、それに、き………緊張してたからに決まってるじゃない………。は……初めてだったんだからね…………?」
「なんで。別に、今さら緊張もないだろ、オレとお前さんじゃ。」
「………………!そっ………そんな言い方されると…………(っかあああああ)」

何故か赤くなったリナの顔を、不思議そうにガウリイが眺める。
二人は結局、買いこんだ材料を全て食べ尽くしていた。

「それにしても、聞いてたのと違ったわね、闇鍋って。」
「そうかあ?」
「だ、だって。凄い噂聞いてたし。」
「噂って?」
「だって、ホントの闇鍋って、各自好きなものを持ち込んで入れるわけでしょ。」
「ああ。」
「つまり、何が入ってるか、わからないってことよね。」
「ああ。」
「だから………蓋を開けてみたら、凄いことになってたってこと………。
あるわけじゃない。」
「ああ。それで、凄い噂って?」
「き………聞いたところによると…………。」

リナがこわごわ指下り数えて挙げた、鍋の材料である。
これが全て、一つの鍋に入っているのを想像してもらいたい。

『イカの塩辛』
『トリのからあげ』
『マロンモンブラン』
『シャケのおにぎり』
『糸コンニャク』
『ハチミツ』
『マヨネーズ』
『キュウリ』
『牛スジ』
『牛乳』
『ブルーベリーヨーグルト』


「うっ………………」
ガウリイもさすがに嫌そうな顔で口をおさえる。
「イヤでしょ…………?」
「そっ………それはイヤだ…………。特に最後が………。」
「最後だけじゃないわよ…………。大体、鍋しようって言ってんのに、
モンブランだのヨーグルトだの、入れるやつがいるのが信じられないわっっ!!」
怖気をふるってリナが肩を震わせる。
「じゃ、じゃあ、夕べの闇鍋で良かったじゃないか。」
「そっ……そうよ。何が入ってるか、少なくともわかってたし。」
「んで、一応、闇鍋も体験できたし。」
「うん♪」
「リナも初体験を済ませたってことだな♪」

かあっ‥‥
 
「お?赤くなった。やっぱり熱があるんじゃないのか?」
ガウリイが心配そうに手を伸ばす。
「昨日は結局、遅くまでしてたし。寝不足で風邪ひいたかもしれないな。」
「だっ……大丈夫よっ……。」
大きな手でおでこを触られ、逃げるに逃げられないリナ。
「そうか?」
「しっ……心配症なんだから。」
「………そりゃあ、心配症にもなるさ。」

そう言って、ガウリイがまっすぐにリナを見つめる。
おでこに触れていた手が、そっと頬を包む。

どきんっ…………!

途端に心臓が跳ね上がり、硬直するリナ。
いつになく真剣な眼差しが、痛いほどだ。

やだ……ガウリイ…………まさか…………

どきんどきんどきんどきんどきんっ………


●●に睨まれたカエルのように、身動きできないリナに、ガウリイは言った。
「だって……お前さんは大事な相棒だからな………?」

どきんっ!!


「ななななななななななな…………」
意味不明の『な』を連発するリナに、ガウリイはにっこりと笑いかけた。
「だってそーだろ。
深夜にいきなり闇鍋を一緒にやろうなんて言うヤツ、他にいるか?
お前さんといると、ホント、退屈しないよなあ。」
「…………………うっ………………………………」
「ほら、なんだっけ。お前さんってあれだな。ええと。
ナベ………ナベ………………
(ぽんっ)
ナベやかん!あれだな!」

ごげんっっ!!
「ク〜〜ラ〜〜ゲ〜〜〜〜っっ!!!
それを言うなら、
ナベ奉行でしょ、ナベ奉行!!
またスレイヤーズ世界にないものをギャグネタに使うなっっつのっっ!!!」

「いってええええええ!いきなりとび蹴りはやめろ、とび蹴りはっ!!」
「やかましいわっ!!ええい、こんなヤツにいちいちドキドキしてる自分が一番イヤよ、あたしわっっ!!」
「ドキドキって?」
「いいからそこは聞き流せえええええええええっ!!!!!!」
「まったく。赤くなったりドキドキしたりとび蹴りくらわしたり。
ホント、退屈しないよ、お前さんといると。」
「だからそこは聞き逃してってばっっ!!!」


これにて一件落着。
朝の光の中、二人は顔を見合わせ。
ガウリイはにっこりと笑い。
リナはぽっと顔を赤らめ。

「またしような、リナ♪」
「えっ………う………うん………そ……そね………。」
 
 
 
 
 










 
 
 
 

 
 

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おつき合い下さった方、ありがとうございました♪
突発の企画だったのにたくさんの方に参加していただいて嬉しかったです♪
こんなおばかなヤツですが(笑)
これからもどうぞよろしくお願いいたします♪
そーらがお送りしました♪



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