「この目に焼きつける」



 
 
 
 
 「とうとう最後の大勝負ね。」
 
 栗色の髪をかきあげ、うなじをさらす少女。世界を揺るがすほどの瘴気にまかれ、颶風巻き上がる大地に、しっかりと足を降ろし。
 
 「ああ、そうみたいだな。」
 
 にわかにかき曇る空から差す、真昼の太陽の名残りに青い瞳を細め。遥か彼方を見据えて、ゆっくりと大剣の束を握る青年。

 「何が起こるか、わからないわよ。油断だけは、しないで。」
 背中を向けたまま、きりりと眉を引き絞る。
 「そのつもりだ。」
 少ない言葉で、その背中に答える。
 
 暗雲に轟くあかがね色の亀裂。天にひともとの大樹が植わるように、細かな根を広げる稲妻。
 目に見えない抑圧が、神の手のように頭からずぶずぶと地面にのめりこませるかのよう。裸足で逃げ出しても、誰も笑わない。笑えない。
 そんな今。
 
 その小さな体に満たされた、弾けるような生命の息吹きを。
 ほんの一吹き消しで、かき消してしまうような、圧倒的な力の前に。
 握る束に、じわりと染みる汗。
 
 実際にはありえない温度を、背中に感じている不思議な感覚を。
 いともあっさりと失ってしまう、そんな近い未来を一瞬でも想像し。
 握る拳に、くい込む爪。

 「…………………………」
 
 ほんの一瞬だけ。
 少女は振り返る。
 ほんの一瞬だけ。
 青年は視線を戻す。
 
 言葉も交わさず、ただ。互いの目の中に何かを確認しあう。
 瞳が大きく開かれ。
 何も包み隠さず。
 それから。
 
 
 永劫とも思えるその瞬間。大きく飛び上がる前に、深くしゃがむように。
 持てる力の全てを出し切ったとき、ただ一つだけ。
 さらなる力を呼びおこすことのできる、相手の姿を。
 目に焼きつけようとして。
 
 「………………………………………」
 
 だが、ほんの束の間、しっかりと結ばれた視線が生んだのは。
 すがりつくような眼差しではなくて。
 さらに力を増すための、強い頷きだけだった。
 
 躊躇せず、少女は再び前に向かい。
 青年は周囲の気配を探る。
 
 
 「何が起ころうと。」
 呟くような小さな囁きを拾い。
 ずっと用意していたかのような即答が帰ってくる。
 「オレ達は一緒だ。」


 
 焼きつけただけの、動かない絵画のような姿より。
 生きて、呼吸し、考え、備え。
 必死になり、戦い。
 そしてまた、笑い、過ごし、暮らしていく。
 そんな姿をずっと目にすることが、何よりの。
 
 生き残るための理由だったから。

 焼きつけたのは、姿でなく。
 

 「行くわよ、ガウリイ!」
 「いつでもいいぞ、リナ!」

 説明のいらない二人だけの。
 揺るぎない心。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
====================================END.

 
死ぬ間際になって、お前の姿を見納めにするからよく見せてくれ。と。そんな場面がありますが。最後の姿を目に焼きつける、という状況なら。やっぱり、はねっかえりの彼女の、言葉やら動きやらもろもろと覚えていて欲しいわけで。切羽つまった顔より、いつものように笑い、頭をわしわしと撫で、頬をぽりぽりとかく姿を覚えていて欲しいわけで。
つまり、リナのセリフじゃないですが。死ぬつもりで戦うんでなくて、生き残るつもりで戦うのがやっぱり、この二人らしいということで♪
長篇の完結を書くので、短編のアップは久しぶりですが、短いお話になりました(笑)やっぱり前向きな二人が一番ですよね♪

では、ここまで読んで下さったお客様に、愛をこめて♪
この二人を思い出すとき、どんな姿をまず思い浮かべますか?
そーらがお送りしました♪
 
 
 



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