『朝が来るまで、そこにいて。』



 
暖かい夜だった。
崩れた岩壁の中で、毛布も何もなしで。
星空を天井にして眠るなら。
こんな夜なら少しはいい。
体中が痛いけれど。
 

ふと目が覚めて、あたしは目を開けた。
風が少し出てきて、寒くなって目が覚めたのかも知れない。

真っ暗な空で、無数の星がちかちかと瞬いていた。
他に明りはない。
この場所には、あたし達の他に、住む人も、家も、店もない。
ただ建物の痕跡だけが跡をとどめている。
死んだように静まり返る、残骸の町。
 
耳を澄ませてみると、意外にいろんな音が聞こえた。
少し高い寝息と、深い寝息。
アメリアと、ゼルと、シルフィールだ。
疲れたのだろう、よく眠っているらしい。
それから、ちちちちち、という小さな音も聞こえた。
荒れたこの土地に、それでも何とか生きてきた雑草達の、その根元で。
しぶとく生き残った昆虫達の、鳴き交わす声。
…………いたんだ、生きてるのが。
あたし達の他にも。
 
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
崩れた町を目にした時、それが初めてではないにしろ。
その儚さに虚しさを覚えた。
少し前まで、生きて人間が生活していた場所が。
これほど剥ぎ取られ、むしられ、削られ。
生きてきた歴史なんかこれっぽっちも残してくれない。
一生懸命植えた花壇が、誰かの靴で踏みにじられたような。
そんな場所に立って覚えた、後味の悪さ。
 
 

何故か星空から目を背けたくなって、ごろりと横に転がった。
 ぴっ!
そこで思わず、変な声が出そうになった。
慌てて口を押さえ、そうっと辺りを伺う。
他の眠る面々は、気づいていないようだった。
ほっと胸を撫で下ろす。
(何でこんな近くにいたのに、気づかないのよ?あたしっ?)
声に出さずに、自らツッコむ。
すぐ目の前に、やっぱり横になって眠っているガウリイの顔があった。
 
「………………………」
こんなに傍にいたのに、何で気づかなかったんだろう?
アメリアやゼルの寝息は聞こえたのに。
イビキもかかずに、すやすやとガウリイは眠っていた。
片腕を自分の枕にして、反対側の肩がゆっくりと上下している。
あたしと同じで、ショルダーガードが邪魔そうだなあ。
「………………………」
しかし、のんきそーな顔…………………。
も少し、深刻そーーな顔とか、マジメそーーーな顔とか、暗〜〜い顔とか。
できないのかね、この男は。
あ、ダメだ、そーぞーがつかない。
くら〜〜〜く明後日の方向見て、うつむいてるガウリイなんて。

 
初めて会った時から、割と笑ってたよね。ガウリイ。
あたしに何言われても、大概は笑って受け止めてた。
たまにまじめな顔をしたかと思うと、ボケた発言するし。
かと思うと、周囲の気配に敏感で。
あたしより先に、異常に気がついたり。
真剣な顔をする時もあるんだけど。
 
一緒に旅をしてきて、寝顔を見るのも初めてじゃない。
でも、こんなに近くで。
こんなにじっと見たことはなかった。
よく見れば、やっぱり顔は整ってるなこいつ。とか思っちゃったり。
「……………………………」
 

一緒に旅をするようになって。
あたしは、こいつの気配に慣れてきたのかも知れない。
二人でいる時間の方が。
皆といる事より多かったから。
 
自然とあたしは、ガウリイ以外の人間の気配を先に探るようになっている。
だからこんなに近くにいても、気づかなかったかも知れない。
いや、すでに気づいていて、それは後回しにしたのだ。
そこにあるのは、いつものことで。
当然の気配だったから。
 
 
顔半分を覆っている、長い前髪。
地面に滝みたいに流れている、長い金髪。
鼻筋の通った、彫刻みたいな顔。
いざとなったら超人的な剣の冴えを見せる、その腕。
大きな手。
何でこの人、あたしと一緒にいるんだろ?
……………何で一緒に、いてくれるんだろ…………。
 
横になったまま、にじり寄るようにしてさらに近づくと。
風がガウリイの体に遮られて、あったかい事に気がついた。
「……………………」
体が大きいと、あたしなんかその陰にすっぽり入っちゃうんだな。
「……………………」
 
昼間だったら。
こんなことはできないし、第一しないし。
何で今、自分がこんな事をしているのかわからないけど。
あたしはしばらく、そうしてガウリイの寝顔を見ていた。

このまま朝が来ないで。
皆が眠ったままだったら?
あたし一人が起きていて。
夜だけがずっと続いていたら?
そんな馬鹿な考えが、馬鹿だと笑い飛ばせないような、そんな夜。

 
「う〜ん…………」
ガウリイが何か呟いた。
やばっ。
目を閉じて、眠ったふりをするあたし。
ごろりとガウリイの体が動いた感じがした。
また声が聞こえた。
「う〜〜ん……………もう食えん…………」

「……………………………。」
何の夢を見てるんだ、この男わ。
おおかた、山のよーな食べ物を目の前にして。
さんざん平らげたのにちっとも減らなくて。
なおかつそいつが『食え〜〜』と追いかけてきている。
そんな夢かも知れない。
なんてお約束な……………。

………………うぷぷぷっ…………。

声に出さずにあたしは笑って。
目と口を閉じたまま、笑って。

このまま夜が続くなんて。
そんなことは馬鹿な事だと、ようやく笑い飛ばせる気がした。
やっぱりガウリイには、暗くうつむいてる顔なんて想像できない。

 
ふわり、と何かに包まれた気がした。
目を開くと、ガウリイは仰向けに寝転がっていた。
頭の上で、何かがくしゃくしゃと髪をかきまわしている。
ガウリイの手だった。
「う〜〜ん…………落ち着け、リナ…………
それはオレが食うから大丈夫だ………大丈夫…………」
ほへ??
あたしの頭をくしゃくしゃにしながら、何を訳のわかんない事を。
「大丈夫、大丈夫……………………ぐお〜〜〜〜〜」
ぽふぽふっと叩いたかと思うと、その手はぐいとあたしの頭を自分に引き寄せた。
こつん、とおでこがショルダーガードの留め具に当たった。
「が〜〜〜…………」
もうイビキをかいている。
 
「………………………………………………………」

ったく…………………………………………………。
………………………こいつときたら……………………。
…………………………………………………………。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

……………………………………………………………。
 




あたしはため息をつき。
もう一度ため息をつき。
さらにもう一度ため息をついて。
驚いたことに、そのまま。
眠ってしまった。
 
嘘みたいな、本当にあった夜。
 
 
 
 











 
それから何日かたった、ある日のこと。
つらい結末を終え、事態が一応の終着を見た時。
皆で楽しくお昼ご飯の後の、お茶を飲んでいた時に、アメリアがつんつんとあたしの服の裾を引っ張った。

「あによ、アメリア?」
「リナさん、ちょっと聞きたいんですけど。」
「だからなに。」
「リナさんはやっぱり、これから先もガウリイさんと一緒なんですよね?」
「はあ?」
テーブルの端と端で、こそこそと喋りあうあたし達。
他のメンツはのんびりとお茶を楽しみながら、ぽつりぽつりと会話中。
ガウリイはすでにこっくりしだしている。

「何よ、いきなり。」
「だって、これで一段落しましたし、そろそろわたしも国に帰らなきゃいけませんし。
だから気になって。」
「別にあんたが気にすることはないじゃないのよ。」
「そうですか?何となく心配なんですよね。」
「心配って、なんでよ?」
「リナさん一人にしておくことがですよ。」
「何で?あたしが一人で、何が心配なのよっ?
ずっと一人でも旅してきたんだし、別に一人でもだいじょーぶだわよ。」
「そーゆー意味じゃないです。」
「じゃあどーゆー意味。」
「いえ、詳しくは言いませんが。ごほごほ。
とにかく、ガウリイさんが一緒なら、わたしも安心して国に帰れるなって思ったものですから。」
「何なのよ、それ?」

こそこそこそ。

「何でガウリイと一緒なら心配じゃないのよ?」
眉をしかめてツッコむあたしに、アメリアはにっこり笑ってこう答えた。
「だってリナさんにはガウリイさんがついてる、そう思っただけで、何となく安心できるんですよ。」
「訳わかんないわよ、それ。」
「わかんなくなんか、ないですよ。
リナさんだって、ガウリイさんの傍が一番安心できるんじゃないですか?」
「は…………………ほへっ?」

シルフィールがこちらをちらりと見て、くすりと笑った気がした。
あたしは手をパタパタと振って、アメリアの話題を逸らそうとした。
「それはね、別にそーいうんじゃなくて、ほら、なりゆきってゆーか、旅は道連れってゆーか、そゆヤツなんだからっ。変な誤解しないでよねっ!」
「トボけてもダメですよ、リナさん。」
何故かアメリアは自信満々だった。
あたしは首をかしげる。
「一体何なわけ、アメリア。何が言いたいわけ。」
「んっふっふ。」
天下を取ったような顔で、アメリアはこう付け加えた。
「覚えてないみたいですけど、わたしはちゃんと見ましたし、ちゃ〜んと覚えていますからねっ♪」
「だからなに??」

もったいをつけるアメリアの首を、ぎゅうぎゅう絞めてやろうかと思ったその時。
アメリアはあたしの耳に手を当てて、ひそひそと囁いた。
「ほら、この間。皆で外で雑魚寝した夜のことですよ。
ホントに覚えてないんですか?
リナさん、ガウリイさんの腕枕で寝てたんですよ?
それも、何も知らないよ〜な、幸せそ〜〜〜な顔でっ!ふっふっふ!」
「……………………け……………
ひょっっ!?!?!?

素頓狂な訳のわからない悲鳴をあげて。
派手に椅子を倒してあたしは立ち上がった。
ガウリイが目を覚まし、ぼけ〜〜っとした顔で言った。
「何だ、どうした、リナ?」
そしてあたしはというと。
食堂中の視線が集まろうと、手をぶんぶん振り回して大声で叫んでいた。
「なななななななな
なんでもないないないっっっ!!!!
ガウリイはい〜から寝てて寝ててぇえぇっ!!」
「……………???」


覚えてないほど安らかに眠ってしまったことと。
寄り添うようにしてたのに、そのまま眠ってしまったことは。
寝相の悪さで片付けてもらうために。
あたしは身ぶり手ぶりを交えて、必死に説明するのであった。 

ガウリイがまた眠ってしまって、その説明を聞かなかったことは。
不幸中の幸いというものである。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 









 







 
 
 
 
-------------------------おしまい♪
 
アニメで、皆揃って雑魚寝するシーンが何度か出てきます。
ガウリイとリナって、重なるよーにして眠ってることが多くて(笑)1カットしかうつらない、そんなシーンにも萌えてしまうのが正常なガウリナ脳ということですよね(そうか?笑)
原稿ですでに寝不足の頭が書くものと言ったら、やっぱり睡眠の話でした(爆笑)こんな何でもないよーな話を、最後まで読んでくれてありがとうです(笑)

では、そんなあなたに愛をこめて♪
サークルや学校の行事で、好きな人と同じ部屋で、皆で雑魚寝したことありますか?
そーらがお送りしました♪ 
 


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