「呪いのガ=クラン」



外はぽかぽかと暖かい空気に包まれていた。
どこからか、花の香りが漂ってくる。

老人の家の中庭には、一本の木が植わっていた。
ちょうど花盛りの頃で、薄いピンク色の小さな花が枝々で咲き乱れている。
風がそよぐと、ちらちらと花弁が散り出す。
なんとも風情のある光景だった。
その木の根元に、一人の青年が立ちつくしている。
胸許に金のボタンが並んだ、この地方の民族衣装を纏っていた。
長い黄金色の髪をなぶらせ、心もとなげに頬をぽりぽりとかいている。

少し離れた場所に、四人の老人の姿があった。
どれも涙ぐみ、うんうんと頷いている。
在りし日の己を思い出しているのだろう。
だが、一行が待ち受ける人物は、一向に家の中から現れなかった。
痺れを切らしたゼルガディスが声をかける。
「おい、リナはまだか。」
「それが、リナさんがどうしても聖ラー服を着てくれないんですぅ〜〜」
困り果てた様子のアメリアが出てきて答えた。
「じょ、冗談じゃないわよっ…何であたしが……」
リナがぶつぶつと文句を言いながら続いた。
まだ服装はいつものままだ。
ゼルガディスは足を踏みならした。
「恥ずかしがってる場合か、リナ!他に方法はないんだぞ。
一パーセントでも可能性があればそれに賭けると言った、お前の言葉はウソか。」
うっ……で、でも………」
「そうですよ、リナさん!
ガウリイさんの命に関わることなんですから!」
「hhっ……!」
 

「ホォ〜〜〜ホホホッ!!!」

突然、中庭中に高笑いが谺した。
「誰だ!」
全員が一斉に声の主を探すと、木の枝がみしみしと揺れた。
ビキキイッ!
そのうちの一本が、音を立てて折れる。
上に乗っていた物と一緒に、ガウリイの上に落ちてきた。
「な、なんだっ!?」
思わずさっと避けたガウリイの足下に、枝と共に落ちてきたのは。
「マ……マルチナ!?!?
顔は地面に埋もれ、動いているのはぴくぴくと震える足だけだった。
が、わかる人にはわかったらしい。
ずぼっ!
緑の巻き毛に挑戦的なつり目の少女が、地面から顔をひっこ抜いて現れた。
ツノのある防具に露出の多い服、自ら考えだしたと言う魔人ゾアメルグスターのブローチを胸許につけ、元ゾアナ国王女マルチナ=ナブラチロワが立ち上がる。
「そうはさせないわ、リナ!」
「あんた!!まだ生きてたの!?」
「生きてるわよ。そりゃ体があちこち痛むけど、復讐の甘美な罠に比べれればこんなもの!」
額に巻いた包帯を解くマルチナ。
でかいコブができたままだ。

数日前、相手に与えた痛みが自分に返ってくる呪いをリナにかけたのがマルチナだった。
だが同じ呪いを自分も受けてしまい。
なおかつリナの保護者のガウリイを勝手に婚約者扱いしたことにより。
理性が切れてしまったリナとの、壮絶な戦いを繰り広げた後だった。
元は一国の王女だったはずだが、基礎体力は十分すぎるほどあるらしい。
芝居がかった仕種で髪をなびかせたマルチナは、びしっと指をリナにつきつけた。
「話は聞かせてもらったわ!
どうやらあなたじゃ役者不足のようね!
その聖ラー服とやら、私に貸しなさい!」
「はあっ!?!?」
マルチナの突然の発言に、全員がきょとんとした。
「ど……どーすんの、これ?」
アメリアに押しつけられた聖ラー服を手に、リナが首をかしげる。
「決まってるわ。」
ふっと笑ったマルチナは、いきなりしなだれかかってガウリイの首に腕を巻き付けた。
「私が着るに決まってるじゃない。」
「な‥‥‥ええええええ!?!?!?」
 
老人ズは訳がわからず、リナとマルチナを見比べていたが、揃って手をたたき出した。
「おお、何やら面白くなってきたぞい!おなごの戦いじゃな!」
「ワシの頃のそうだった。」
「ワシの頃も。」
「ワシだって負けんぞ。」
 
「な……何言ってんのよ、マルチナ!
あんた………ガウリイの事は諦めたんじゃなかった!?」
「そうよ………この美しい顔に騙されたわ……。
いいなづけお漬け物の区別もつかないバカだったなんて………。」
「お……おい………」
苦笑いを浮かべるガウリイ。
「でも私、こう考えたのよ。」
ガウリイの頬を撫でつつ、マルチナはリナを振り返ってニヤリと笑った。
「たとえガウリイ様の頭が空っぽでも!!
私の脳が優秀ならば子供に受け継がれるはず!!
体はダーリン、頭は私で、万事解決よっ!」
アホかっっ!!それのどこが解決なのよっっ!!
そんな子孫で国を作ったら、たちどころに潰れるに決まってるわよっ!!」
叫ぶリナ。
「体はガウリイさんで、頭はマルチナさん………
ある意味、無敵かも…………。」
青ざめるアメリア。首を振るゼルガディス。
「ダンナは○馬か………。むごいことを………。」
「ガウリイ様。
第二ボタンを私に下されば、この不幸のガ=クランも脱ぐことができるんですわよ……?」
頬を染め、ガウリイに体を預けるようにして迫るマルチナ。
「あんな胸ナシのお子さまは放っておいて。
私と手に手をとって、ゾアナ国再生に力を尽くしましょう………?
一国の主になれるんですわよ………?」
これみよがしに体を押し付けるマルチナの姿に、どこからか不穏な気配が漂ってきた。
「私に御不満でも………?
あなたがこんなに不幸な目に会っているというのに。
恥ずかしいからという理由で聖ラー服を着ようとしない、そんな娘じゃあなたもお嫌でしょう……?」「いや………でもなあ。」
ガウリイは頭をかいて言った。
「それがリナだし………」
「え………?」
 

『氷の矢(フリーズ・アロー)!!』

 
「なっ………ええええええっ!!!!
びきびきびきいんっ………!
背後から受けた氷の矢に刺され、マルチナはその場で氷の彫刻と化した。
驚きの表情を浮かべたままである。
「な…………リナ!?」
咄嗟に避けて無事だったガウリイは、氷の彫刻の背後に現れたリナに驚いた。

無理もない。
栗色の髪に茶の瞳、まだあどけなさの残る小さな顔は変わらないが。
紺色の上着に折り目のついたスカート、三本の白線の襟の下に赤いスカーフをきゅっと締めた、伝統の聖ラー服をいつのまにか身につけていたのだ。
急いで着替えてきたのだろう、肩でぜいぜいと息をしている。
「リナさん!」
アメリアが喜びの声をあげる。
「着たのか……」
ゼルガディスが驚いたように呟いている。
四人の老人は感激の涙を鬚で拭きはじめた。
「おお、おお、青春カムバックじゃ!」

「ガウリイ………!」
つかつかと歩み寄ってきたリナの顔は、はにかみとは程遠かった。
唇の端は引き攣り、こめかみがぴくぴくと動いている。
上向きに右手をびしっと差し出し、何故かひどく怒ったように宣言した。
「渡すわよね、第二ボタン!!」
「お…………おお。」
迫力に負けたようにガウリイがこくこくと頷き、第二ボタンを引きちぎりその手に乗せた。
 
ビカァッ!!
 
途端にガ=クランから金色の光が溢れ、辺りが一瞬にして白い闇に包まれた。
「おお!やはりこれしかなかったのじゃ!」
曾祖父が大きく頷く。
「これでやつの無念も晴れたのじゃろう!
不幸のガ=クラン伝説もこれで終わりじゃ!!」
「じゃ、じゃあガウリイさんは!」
「不幸にならずに済んだってことか?」
 
サアッ………
 
光が収まり、穏やかな風が吹いた。
散りゆく花びらの中、ガウリイが佇んでリナを見つめていた。
「リナ…………」
「ガウリイ………」
リナがようやく怒りを収めて、我に返ったか頬を染めてガウリイを見上げる。
「やった!ガ=クランが脱げたぞ!!
リナ、お前さんのおかげだ!」
がばっ!!
喜んだガウリイが思わずリナを抱きしめた。
 
………と。
どこからともなくリナの手に、ハリセンが。
ああああんんたねっっっ!!!
なんっっって格好で人を抱きしめてんのよっっ!!!」
ばきいいっっ!!!
紙を折って作った武器とは思えない衝撃音が枝を揺らした。
「はっ……裸であたしを抱きしめるなんて、どーいうつもりよっ!!
このドスケベッ!!!
「ばっ……そんなつもりじゃ………!!
下に何も着てなかったのを忘れてただけだっ!!
そ……それにほらっ!
ま……丸っきりじゃなくて、パンツくらいは穿いてるぞ!」
ぎゃーーーーっっっ!!見せるな、アホぉおおっ!!!
お嫁に行けなくなったらどーすんのよぉっ!!」

ぶhぁしhぁしhぁしっっ!!!!
ハリセンでどついて回るリナ。
「うわっ!たっ!とっ!」
パンツ一丁で避けて飛び回るガウリイ。
目を点にした老人ズ。
ため息をつくゼルガディス。
「これでダンナが不幸にならずに済んだかどうかは………何とも言えんな。」
「何を言ってるんです、ゼルガディスさん!
これぞ愛の力じゃありませんか!美しい光景です!!」
アメリアは目を輝かせて頷いた。
「あれがか………?」
「あれ、聞いてなかったんですか?」
アメリアは嬉しそうに付け加えた。
「おじいさんの話ですよ。
ある条件を満たしてないと、あのボタンは取れなかったんですよ?」
「ある条件?それは何だ。」
眉を寄せたゼルガディスの鈍感ぶりに、アメリアはぷうっと膨れた。
「いいですよ、わからなければ別に。」
「何故お前がスネる。」
「スネてないですってば。」
 
「待て〜〜〜〜〜!!ガウリイ!!」
「お前なあ。照れ隠しにオレを攻撃するのはヤメろよなっ。」
「誰が照れてるかぁああっ!!」
「そんな短いスカートで走り回ると、見えるぞ!」
「見るなぁああっっ!!」
「善哉、善哉。」
走り回る二人を見て、嬉し涙を浮かべる老人ズ。
散る花びらに、微笑ましい光景が続いていた。


 
その暖かな空気の中で。
一人冷たい氷に閉じ込められていたマルチナは、脳内反省会を行っていた。
「私が彼の呪いを解いてあげた方が、リナにとってダメージになると思ったんだけど……。
それが間違いだったかしら……。
ま、あれだけムキになったところを見ると………。
我ながら、目のつけどころは悪くなかったってことねv
ほ〜〜ほっほっほ……………はぁ。」
と、自分で自分を慰めるマルチナだった。
 
 
 
 
 
 
 






















 
 
 
 
---------------------おしまい♪

やっぱりこの四人組のギャグは一番書きやすい(笑)
ガウリナ二人旅もいいですが、やはりこーして傍役キャラがつつくと香ばしい(笑)
NEXTの6話「逃がさない!執念のマルチナ再び!」のすぐ後の話だと思って下さい(笑)
TV用タイトルにするなら、「美少女卒業!?リナ、青春の旅!!」にでもしますか(笑)
ちゃんとしり取りになるよーに「び」で始まって「び」で終わらないと(笑)

元ネタは「ゴーゴーヘブン」です(笑)不幸なグリーン君が着た不幸のガクラン「ふっくん」をふと思い出しまして(笑)卒業シーズンなものですから、ちょっと遊ばせていただきました(笑)
 
今でも「第二ボタンを」ってあるんですかね?
自分の通っていた学校は中高一貫教育で、男子の制服は金ボタンではなく、某学習院と同じ紺の詰め襟でテープが巻いてあるやつでした。袖も同様です。
つまり、ボタンはないのです。
卒業シーズンになると、笑い話のネタになったものです。「第二フック下さいv」って言うのかよって(笑)めちゃくちゃ地味ですよ(笑)絵になりません(笑)
 
女子はセーラー服ではなくブレザーとジャンスカだったので、自分はセーラー服を着たことがありませぬ。一度着てみたいと思ったものの、時すでに遅かりし(爆笑)
最近あまり見かけないと思っていたら、近所の中学はセーラー服でした。
………娘のを借りるか……(犯罪です)
 
マルチナは脇役としては結構好きなキャラですね(笑)わかり易くて(笑)しかもNEXT最終回の一番大事な場面で、リナの背中を押すあたりが好感度MAX(笑)
あの復讐劇の回も、ガウリイをいいなづけに選んでくれたおかげで(笑)リナっちの美味しい場面を見れたことだし(笑)

では、こんなドタバタを最後まで読んで下さったお客さまに、愛を込めて♪

「卒業式で突然告白したくなって、じりじりしたしたことはありますか?」

二度と会えないわけじゃないけど、毎日見れていた顔が見れなくなるのはやはり寂しいものですよね♪学校違っちゃったりすると、やっぱりなかなか会えないもんですしね?(笑)



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