「いや〜〜〜〜っ、きっぐうね〜〜〜。
まさかこんなところで、あんた達に会うなんてっ。」
目の上に手をかざし、リナが薮をのぞきこんで言った。
口の端に、にやにや笑いを浮かべている。
「偶然って、案外そこらに落っこちてるもんなのね♪」
薮の中には二人の人物が絡まるように寝転がっていた。
周囲の小枝をたわませ、今さっき転がり落ちましたという風情だ。
「・・・まったくだな。」
片方の人物が、リナに向かって諦めたような溜息をついた。
その銀髪には、数枚の葉っぱが刺さっている。
ガサガサと音がして、リナの背後から連れのガウリイが覗いた。
「よお、ゼルガディスじゃねーか。偶然だなあ。」
「・・・こんな偶然、そうそうあって欲しくなかったがな・・・。」
ゼルガディスがこぼすと、リナがにやにや笑いを大きくした。
「ほほー。それはどーいう意味に取ればいーのかしらね???
偶然でも、あたしに会いたくなかったのか。
・・・それとも。
セイルーンの王女様と山中秘かに逢い引き
してるところを、見つかりたくなかったとか??」
「!!!ばっっっ!!!」
ゼルガディスが途端に赤くなり、慌てて起き上がる。
と、ゼルガディスの上でのびていた、黒髪の少女がころりと転げ落ちた。
ぱちぱちとまばたきをすると、大きな瞳をかっと開く。
「はっ!?わたしは一体何を・・・
確か、崖の上から下を見ているうちに意識が・・・・
って、ああっ!?
ゼルガディスさんっ!?!?
何故ここにっ!?!?
こんなところで久しぶりにあなたに会うなんてっ!!
今まで一体、どこにいたんですっ!?
しかも何でわたしがあなたの上にっ!?
・・・・まさかっ!
崖から転がり落ちたわたしを、偶然見つけたゼルガディスさんが!
偶然受け止めてくれたんですかっっ!?
そんな偶然って!!!!!
あるんですね、世の中にはっ!!
偶然、万歳っ!!」
だきっっ!!!
アメリアが感激のあまりゼルガディスに抱きつく。
「・・・お前は・・っ・・少しは周りの状況ってもんを・・・」
ゼルガディスが髪の毛を逆立てながらカリカリする。
「・・・へ?状況って・・・」
ようやく辺りを見回したアメリアの目に、にっこりと笑ったリナの顔が映った。
「どうやら偶然ってのは、いくつも重なるみたいよ?
アメリア。久しぶりね?」
「リ、リナさんっ!?
それにガウリイさんもっ!?
今日は何ですか、一体!?
百年に一度の偶然サービスデーですかっ!?!?」
アメリアは目を輝かせ、感極まったように手を振り回した。
転がり落ちた薮の中から、ゼルガディスとアメリアはガウリイの助けを借りて脱出した。
髪の毛や服についた小枝や葉っぱを取りつつ、リナ達とともに山道を歩き出す。
「・・・で、お前達の方は、何でこんなところにいたんだ?」
「あたし?」
「オレ?」
ゼルガディスに尋ねられ、ほぼ同時に、リナとガウリイが自分の鼻を指差す。
「実は、麓の村から依頼を受けてね。」
立ち止まったリナが枝を払うと、そこから眼下の景色が見てとれた。
遥か崖の下、川が流れているべきところに、乾いてひび割れた地面が広がっている。
「ほら、あそこ。あれが川の流れを塞き止めちゃって、村が困ってるってわけ。」
指差す方向に、大きな岩の固まりがあった。
見れば反対側の崖から崩れて転がり落ちたらしい。
「村の人達、相当困ってたもんなあ。水が来なくなっちまって。」
ガウリイがあいづちを打つ。
「まーねー。
あれだけでっかい岩を、人間の力だけで動かすってのも無理があるし。
やったとしても、かなりの時間と労力が必要でしょ〜ね。
で、あたしの出番ってわけ。」
「ああっ!!」
アメリアが何かを思い出したようにぽんと手を打った。
「じゃあ旅の魔道士って、リナさんのことだったんですかっっ!!
わたしも麓の村で聞いてきたんですが、何でもですね!
顔も体も、ついでにムネもお子さまな、格好だけの魔道士がですよ!
自信満々に仕事を引き受けて行ったって言うんですよっ!!
そんな、大人にも動かせないような大仕事、お子さまには無理に決まってるじゃないですか!
で、心配になってわたしも来てみたんですよっ!!
でも崖をのぞいているうちにですね、
こう・・ムラムラと・・・
飛び下りて・・・・・
みたく・・・・
・・・え〜〜〜と・・・・
あの〜〜〜、リナさん?
何でそんな凄い顔して睨んでるんですか??
わたし、何か言いましたっけ??」
「べ・つ・に。」
肩を聳やかしたリナの頬が引き攣っている。
「どーもしないわよ。ちょおっっと引っかかっただけよ。ちょおおおっっとね。」
「ををっ!?どーしたんだ、リナっ!えらく大人じゃないか!!」
すると、すぐ後ろを歩いていたガウリイが驚いたように言った。
「オレはてっきり、げんこつでアメリアのこめかみをぐりぐりするとか、
思いきり肘でみぞおちをぐりぐりするとか、
固い踵でつま先をぐりぐりするとか、
軽く呪文でぐりぐりするとか思って、身構えちまったぜ!
いや〜〜、えらいえらい。」
にこやかにリナの頭をぐりぐりと撫でる自称保護者。
「っだぁああああっっっ!!!
いい加減、ぐりぐりから離れんかっっ!!」
僅かに顔を赤くして、リナが手を振り払うように地団駄を踏む。
「あたしはねっ!
んなアメリアの細かい失言なんかでイライラするよーな、狭い心の持ち主じゃないのっ!今はっ!」
「・・・今は・・・?」
ゼルガディスのぼそりと入れたツッコミは無視。
「そもそも、この仕事を引き受けたのはね!
あの岩をどかせたら、村に代々伝わってるってゆー古文書を公開するってゆーんでね。
何でも恐ろしくて、誰も今まで開けなかったって代物なのよ!
あんたもちょっと興味あるでしょ?」
「・・・なるほど。
どうやら、ここに一同が揃ったのは、偶然とばかりじゃなさそうだな。」
今度はゼルガディスが納得がいったという顔をした。
「俺もその古文書とやらに用があってな。
岩のことは知らなかったが、俺達は会うべくして会ったようだ。」
銀髪のゼルガディス、黒髪のアメリア、金髪のガウリイ、栗色の髪のリナの四人が顔を見合わせる。
「ま、そーいうことなら。
共同戦線といきましょーか。とりあえず。」
リナが出す手のひらを、おのおのが軽く叩いて四人は問題の岩を眺め下ろした。
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