男達はしばらくお互いを探るように見ていたが、やがて同時に首を振った。
「……そういうことか………。」
「そういうことらしいな………。」
「じゃあ……仕方ないな………。」
「ああ……そうだな。じゃあ。」
「ああ、じゃあ。」
何故かひどく落胆した面持ちで、二人は片手をあげ。
くるりと背中を向けた。
何ごともなかったかのように、そのまま立ち去ろうとしている。
「ちょ……ちょっと待ちなさいよっ!?」
あまりにスムーズにいきすぎて、思わずリナが引き止めた。
「それでいいの、あんた達っ?
そんな簡単に諦めちゃっていーわけ??
なんか、あたしに相当な恨みがあったのと違う?」
「恨み…………?」
ひとりが振り返った。
「誰がそんなことを?」
「へ???」
リナの目が点になる。
「あんた……あの娘に恨みがあったのか?」
「いや?」
男達には全く心当たりがないようだ。
「だ、だって……。
食堂の主人に大金渡して頼んだとか!
木に斧を叩き付けながら、凄い形相であたしの名前を呼んでたとか!
必ず仕留めてやるって呟いてたとか!
そう聞いたわよっ?!
ってことは、あたしを殺したいほどの理由があったんじゃないのっ!?」
訳がわからないリナ。
……と。
男ふたりは、照れたように頭をかきかき向き直った。
何故か、その頬がほんのり赤く染まっている。
「そ‥……そうじゃないんだ。」
「恨みとか、そんなんじゃ………。」
どうも様子がおかしい。
「じゃあ一体何なのよっ!?」
がばっっっ!!
ふたりはその場にひれ伏して、大声でこう言った。
「すいませんでした!!
実は俺達、あの紙きれを見て!!」
「あなたを狙おうと思ったのは事実です!!」
「でも、狙うっていっても、命じゃなくて!!」
「是非、恋人になってもらおうと!!」
………はあ??
「いやー、あの鮮やかな盗賊の倒しっぷり!」
「その度胸!」
「その強さ!」
「そしてその美貌!」
「その巨……いや、抜群スタイル!!」
「に、すっかりホレまして!!」
ぶっとい腕の剛腕剛堅斧男と、全身剃刀のナイフ男が。
にやけ顔で頭をかいていた。
「そんな娘が本当にいるなら、これは是非って……なあ?」
「おうよ……。
やっと理想の娘が現れたと思うと嬉しくなっちまって……。
こいつは絶対に逃しちゃならないチャンスだと……。」
嬉しそうに言った後で、さも残念そうに首を振る。
「しかし、それがこんな……ねえ?」
「ああ、単なる誇大広告だっとは……なあ。」
「タダより怖いもんはないっていうが、本当だったなあ。」
「いやまったく。ご同輩。」
打って変わって、和やかなムードが二人の間に広がっていた。
「まあいい夢見たと思って、新たな恋人探しの旅にでも出るかなあ。」
「あ、いいねそれ。俺もつきあおうかな。」
「今度こそ巨………いや、抜群スタイルの美女を!」
「強くて可愛い彼女のハートを、このナイフで必ず仕留めてやるぜ!」
「はははははははっ♪」
仲良く肩を組み、男達は笑いながら退場。
爽やかな青春の一ページ。
と見えなくもない。
………だが。
「あ………あ………あ…………」
ふたりを指差すリナの指が、ぷるぷると震えていたのは言うまでもない。
「アホかぁああああっっ!!」
その彼女が、黙ってそのセーシュンを許すはずもなく。
「火炎球(ファイヤーボール)!!」
「氷の矢(フリーズアロー)!!」
「火炎球(ファイヤーボール)!!」
「氷霧弾(ダストチップ)!!」
「火炎球(ファイヤーボール)!!」
「氷窟蔦(ヴァン・レイル)!!」
その日。
その森一帯で。
非常に珍しい、炎と氷の激しい乱舞が見られたという。
「ま……まさかこうなるとは……
ぶわーーーははははっ!!」
一方。
見物を決め込んでいたルークは、木立の中で笑いこけていた。
「うっひゃひゃひゃひゃ!!
見たか、あれ!!」
「ルーク。先に帰るわよ。」
「ま…待てよ、ミリーナ、こんなに笑えること最近あったか?
くく……わーーっはははははっ!!」
笑い転げるルークを尻目に、ミリーナはあきれ顔でため息をつくとさっさとその場を後にした。
「うひゃ、うひゃ、うひゃ……
いやーこのネタで三ヶ月は笑えそうだ……」
笑いの発作が治まらないルークの背後に、無気味な影が迫る。
「……それまで命があればの話ね。」
「……何だって?
あれ?リナ?いつのまにそこに?
いやー面白かったぜ、楽しませてくれて礼を言う……。
…………っって………。
ち、ちょっと待て?
その手はなんだ?
何をぶつぶつ呟いて…………
おい、まさか………」
ちゅどんっっ!!
こうしてまたひとつ、派手な花火があがった。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……。」
煙の上がった木立の中から、リナが姿を現す。
肩を落とし、顔を地面に向けた息の荒いその姿は、まさに暴走後の野生牛と化していた。
かちゃりっ……
剣をおさめる音がして、リナが顔をあげる。
そこには、きょとんとした顔のガウリイが立っていた。
「ガウリイ………あんたも笑いたいでしょーね?
無理しなくていいわよ…………?」
ひくひくと頬をひきつらせて、リナが笑みと呼べそうなものを浮かべる。
「笑う……?なんで。」
意外そうな声でガウリイが答える。
「だっておかしーでしょー?
あたしを狙ってたっていうのが、恨みじゃなくて恋人探しだったなんて。
あんただって、少しは心配したんでしょうが?」
「ああ……それは……」
ヨロヨロッ……
リナの背後で、影が蠢いた。
「!リナっ!」
咄嗟に腕を伸ばし、リナを引き寄せるガウリイ。
影の正体は、黒焦げのボロクズと化していたあの黒髪の男だった。
リナに抱きつこうとしたのか、その手が空を切る。
「リナ………インバースぅ………」
幽霊のような男の声は、陶酔していた。
「素晴らしい……あの絵以上だ………!
私は今こそ目覚めた………!
華奢で可憐で強くて短気で小胸………!
これぞ理想!
是非、我がものに!」
「あ………あんたねぇ!!!」
呆れたリナが叫ぶより早く。
どがぁっっ!!!
ガウリイの踵が男の頭に落ちていた。
「ぶぐうっ!!!」
潰れた空気袋のような声を出し、情けなく地面にぺしゃんこになる男。
「いい加減にしろっ!!」
リナを抱き寄せたガウリイの顔が、珍しく赤みを帯びていた。
どうやら真剣に怒っているらしい。
「ガ……ガ……ガ???」
何が何だかわからないまま慌てるリナ。
もがもがと動くリナをしっかりと胸に抱いたまま、ガウリイはまだ怒っていた。
「黙ってりゃあ好き勝手言いやがって!
リナはな!!
狙ったからって、簡単に落ちるようなヤツじゃないんだぞ!!」
「はうぁあわわわわわ。」
迫力に押されたか、男が口から泡を吹く。
男はずるずると地面を這いずるようにすると、その場をすたこら逃げ出した。
「……まったく。」
苦々しげにその後ろを見送るガウリイの腕の中で、まだリナはもがいていた。
「もが。もがもがもが。」
ようやく思い出したか、ガウリイが腕を緩める。
「ぷはっ!………??」
目を白黒させたリナは、まだ状況が読めない。
ガウリイが怒っている理由も、想像がつかないらしい。
「な……な?」
一体何がどうしたのかと言いたかったが、声が出なかった。
ガウリイはまだ怒りの表情を残したままリナを見下ろすと、苛立たしげにこう呟いた。
「だから油断するなって言ったんだ。
ああいうやつもいるんだからな!」
「ふ………ええ!?」
さらに首をかしげるリナ。
「オレがあんまり心配してないって言ったのはな。」
ため息をついたガウリイの頬が上気したままだったのは。
もしかすると、単に怒りのせいばかりでもなかったかも知れない。
「あの絵よりお前さんの方がいい、なんて物好きは。
オレくらいだと思ったからだ!」
「…………へ………………」
ぼむっ!!!!!
炎系の呪文を使ったわけでもなく、局地的な火災が起こる。
つまり、リナの顔が真っ赤にのぼせ上がった。
「な……な……な……な………?!?!」
事態が急転直下を告げ、さすがにパニックに陥っているらしい。
無理もあるまい。
命を狙われているかと思えば。
無料情報誌の誇大広告が原因で。
幻滅した男達を吹き飛ばして一件落着したかと思えば。
訳のわからない理想を見つけだした男もいたりして。
その上、それを張り倒したのが。
自称保護者で。
怒っている理由が、予想もつかない答えだったりしたら。
「え……いや……あの……ええ……うえ……
うあ………うい…………?」
意味不明の発音のみを繰り返すリナ。
自分がガウリイの腕が作る輪の中にいることも忘れているらしい。
激しくまばたきを繰り返すことしかできないようだ。
「………………。」
そのまま硬直する二人。
リナの頭の中では、ガウリイの言葉がとんでもないエコーを伴って連続再生されている。
あの絵より……
お前さんの方が……
あの絵より……
オレくらい………
「って………え………え…………?」
どうやらまだ事態が飲み込めないらしいリナに、ガウリイは諦めたようにため息をついた。
少し視線をずらすと、彼はこう付け加えた。
「……あのな。もう一つ言うと。
ゆうべの砂糖菓子うんぬんってのは……
あの時思いついた、ただのウソ。」
「!!!ウ……!!」
「いや……ルーク達がいたから………
………って、リナ!?」
「うにゅう…………」
「お、おいっ!」
ぷしゅううっっ!!
ずるずるずるっ!!
ぺったりっ!!
いかな天才美少女魔道士でも。
盗賊が泣いて逃げ出す盗賊キラーでも。
どうにもならない事態というのはあるようだ。
焦げた木が氷漬けで立ち並ぶ、世にも珍しい森の中。
真っ赤になったまま青ざめるという、新しい特技を得。
その場に力なくへたりこんでしまった少女を。
慌てた自称保護者が心配してしゃがみこむという。
そんな、ほほえましい光景が見られたという。
なおも付け加えると。
少し離れた木立の中。
ぱちぱちぱち、と間ののびた拍手が上がっていたことも付け加えねばなるまい。
そこには、逃げ遅れて炎を浴びた、ちょっぴり黒焦げの黒髪短髪の若い男が。
「いやーめでたいめでたい……。
命がけで見に来た甲斐があったってもんだ……。」
と、嬉しげに呟いていたとか、いなかったとか。
そしてこの事態は。
早朝から怒鳴り込まれた無料情報誌の編集部が派遣した記者によって。
しっっっかりばっっちりスクープされていたらしい。
幸いなことに、すぐに旅立ったリナ達が。
翌日配られた最新号を目にする機会はなかったらしい。
トップで踊っていた大きな見出しが、下手をすると街を一つ焦がしていたかも知れないとは。
当の記者達も想像しなかっただろう。
『遂にあのリナ=インバースが結婚か!!』
『森の中で密会!!』
『自称保護者との熱愛発覚!!』
『ラブラブ現場を大スクープ!!』
今度の記事が誇大広告かどうかは。
神のみぞ知る。
-------------------------------------めでたし、めでたし?(笑)
う〜〜〜む。下らん!(笑)すいません、オチが下らなくて(笑)
リナが狙われて、実はそれは命じゃなくて、彼女にしようと企む男達だったってネタを思いついたところから書いた話でしたので(笑)
ギャグのまま終わりそうだったのですが、ガウリイがいきなり怒り出したので(笑)そのままガウリナにオチました(笑)
そりゃそーですよね(笑)隣に二年以上もいるのに、そんじょそこらからひょっこり出てきたやつに渡せるわけないじゃーないですか!(笑)怒れ、ガウリイ!(笑)
リナから告白するパターンの一つとして、怒りながら言うっていうシチュエーションはアリだと思うのですが。その逆パターンですね(笑)
さてこの後どーしたか、HDDハンディカムを片手に追いかけたいところではありますが(笑)
きっとそのまま前後不覚になったリナをかついで山を降り。
ガウリイが宿屋にかけこんで(笑)
医者を呼ぶ。
眼鏡を光らせた医者がひとこと。
「これは不治の病ですな!」
「ふ、不治って!?先生!!はっきり言って下さいっ!!」
「不治の病。つまり、恋です!」
「!!!」
な〜んて一幕があったらたのしーかな〜と………へへ(おい)
その後のじれったい二人が見たいのう(笑)
ルークがにやにや笑いながら復活して登場するだろう(笑)
言うこと言ったんだから、次はどーするんだおめーらと(笑)
ああ、ガウリナの種は尽きまじ(笑)
では、ここまで読んで下さったお客さまに、愛を込めて♪
相手のあまりの鈍感さに、思わず背中を蹴りつけたくなったことはありますか?(笑)
そーらがお送りしました♪
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