「君たちが在る風景」


 
 
 
不穏なことなど何も起きなさそうな、よく晴れた日だった。
青い玻璃をぱかりと伏せたような丸い空には、雲一つなく。
緑の濃い草原では満腹の獣が腹ばいになり。
ゆっくりと昼食を噛み返している。
 
時折、荷馬車がゴトゴトと通る細い道筋を、二人の旅人が歩いていた。
どちらも最小限の荷物しか持たない軽装で、商人には見えない。
片方はかなりの長身。
肩や腰に防具をつけ、背に長剣を吊っている。
長く伸ばした金髪をなびかせているが、若い男性のようだ。
大股でゆっくりと歩いている。
 
その傍らに、連れらしき人物。
こちらはひときわ小柄で、遠目に親子に見えなくもない。
近づいてみればそれは間違いであることは明らかで。
艶やかな栗色の髪といい、卵形の白い顔といい全く似ていなかった。
漆黒のマントに呪符だらけの短長着。
青年よりさらに年の若い少女。
 
どうやら剣士と魔道士の組み合わせらしい。
青年より数歩ばかり先を、少女が先導するように歩いている。
 
「・・・・・」
青年が大きく伸びをした。
今気がついたかのように空を仰ぎ、太陽に眩しそうに目を向ける。
「・・・・・」
先を行く少女が、呆れたような顔でちらりと振り返った。
「・・・・・」
青年は軽く肩をすくめ、頭の後ろで腕を組んだ。
「・・・・・」
何かを言われた少女が、改めて空を見上げ。
軽く吐息をついた。
「・・・・・」
口許に少し笑みを浮かべ、歩を進める少女。
 
「・・・・・」
頭の後ろで腕を組んだまま、青年が小首を傾げた。
「・・・・・」
何ごとかを問われ。
微笑を浮かべていた少女が、さっと顔を強ばらせる。
「・・・・・」
ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎと音を立てそうなぎこちなさで、振り返る。
青年はきょとんと目を丸くする。
「・・・・・」
返ってきた答えに、かくんと顎を外す少女。
「・・・・・」

歩みを止めると、くるりと踵を返し。
驚くべき早さで後退。
すささささっと青年の正面に詰め寄る。

「・・・・・」
少しばりの怒気をはらんで、首を大袈裟に逸らし。
頭二つ分は高い青年の顔を見上げる。
「・・・・・」
組んだ腕を外し、覚束なげな笑顔を浮かべて、頭をかく青年。
「・・・・・」
 
ぐわばっっっ!!!
 
少女が物凄い勢いで飛び上がり、青年の襟元を掴んで引っ張る。
さながら小さな穴から突然湯が沸き出す間欠泉のようだ。
引っ張られた青年が素直に屈む。
「・・・・・」
屈んだ鼻先に鼻先をくっつけんばかりの位置で。
「・・・・・」
少女が何ごとかお説教を始める。
言葉の最後に必ず、「!」とか「!?」とか「??」などという感嘆符や疑問符がいくつもつきそうだ。
「・・・・・」
青年は困った顔で、合の手をはさもうとするが。
ことごとくかき消されていく。
「・・・・・」
だが、ようやく言った一言が、意外に驚きの発言だったらしく。
少女がぴたりと口を閉ざす。
 
「・・・・・」
 
短い沈黙が流れ。
その間に、少女の頭の中で高速に何かが浮かんでは消え。
その間を。
青年は辛抱強く待っているように思えた。

 
「・・・・・」
静かな一言を吐きだし。
少女はぱっと手を放す。
さっと背中を向ける。
その背中を見下ろし。
青年はゆっくりと体を起こす。
小さなつむじを見つめ。
「・・・・・」
穏やかな声で何かを言う。
「・・・・・」
少女が何も返せずにいると。
「・・・・・」
見つめていたつむじの上に、ぽんと片手を置いた。
ぽんぽん、と、その上をさらに二度軽く叩く。
 
それが慰めではなく。
前へ歩き出す背中を勇気づけるものだということは。
少女の方がよく知っているに違いない。
ほんの少しうつむいた顔が、すっと上がる。
 
「・・・・・」
素早く振り返る頃には。
その瞳に最初以上の輝きが灯り。
にこりと上がった口許と。
茶目っけたっぷりのウィンクが加われば。
「・・・・・」
青年はそれで得心の笑顔を浮かべる。
さらに笑みを広げると、少女の横に回り。
片腕を広げて、その隙間に少女を入れると。
紅玉を抱く肩防具に手をかける。
 
「・・・・・」
肩に回された手を見つめて目を丸くする少女。
その腕に促されるように歩き出す。
「・・・・・」
慌てた少女が青年の顔を見上げようとするが。
近すぎて届かず。
その頬が、ほんのりと赤くなりだす。
「・・・・・」
何かを言った青年の声が、思ったよりも違って聞こえたのかどうか。
少女がぎくりと跳ね上がり。
何かにつまづきよろける。
「・・・・・」
「・・・・・」
支える腕に抱き寄せられる形になり。
髪と頬が、青年の体に触れ。
「・・・・・」
真っ赤な顔でさっと離れる。
その顔は、青年からは見えない。
 
ぎこちない二人歩きが続く。
 
何かを思い出すように、青年がまた小首を傾げた。
「・・・・・」
のんびりと言った言葉に少女は赤い顔を顰める。
軽くついた吐息には。
しょうがないなという色がついていて。
「・・・・・」
自分ははっきりと覚えている過去の事を話してやる。
「・・・・・」
疑問が晴れ、青年は晴れやかな笑顔を浮かべた。
塞がっていないもう片方の腕をあげると、人さし指を立て。
何かを思いついたように、少女に向かって振る。
「・・・・・」
気を取り直したように少女は首を振り。
自分の指を二本立てる。
「・・・・・」
青年が三本立てると。
少女はにっと笑い。
 
するりと青年の腕をすり抜け。
つま先でくるりと半回転し。
腰に手を当て。
もう片方の手で自分を指差し。
盛大にウィンク。
 
もう一度その場で半回転し。
さっと駆け出す。
ちらりと後ろを見て、ぺろりと舌を出しながら。
 
「・・・・・」
苦笑した青年が長い溜息を吐き。
かりかりと頭をかいて、それからゆっくりと走り出す。
 
ほどなく追いつかれ、慌てて追い抜く少女と。
楽しそうに後を追われ、追う青年と。
やがて長くなっていく二人の影とは。
離れたり重なったりしながら。
 
日の運行を司る太陽の道筋を辿るように。
どこまでも。
どこまでも。
続いていくに違いない。
 
一時の目撃者である野の獣はまた。
何ごともなかったように、草を食み。
のんびりと噛み返し。
温かな寝床へと帰って行った。
 
 
 
 
 
 
 



















 
 







 
 
 
-----------------------------おしまい。
 
 
いや〜〜〜、スレレボが終わってしまい。
スレエボがAT-Xで放映開始ということで。
寂しいような嬉しいような、複雑な気持ちでおりますが(笑)
自分と同じ思いでいらっしゃる方もたくさんおられるでありましょう。
 
そんな訳で(?)音声なしの二人の映像とあいなりました(笑)
声が聞こえないこのもどかしさが、複雑な心境の現れと思って下さい(笑)
まるで防音ガラス越しに二人を見ているような状態です。
 
どんな会話を交わしていたかは、皆さんの心の中のガウリナ力で再生して下さい(笑)
よくゲームのラストとかEDやOPのように、二人が動いてしゃべってるのに音楽がかかっててその声が聞こえない、何話してるかわからないけど、そんな二人を見ているだけでも幸せな。
そんな気分を再現してみました♪
 
というところで、読んで下さったお客さまに愛を込めて♪
何話してんだかよくわからないけど、見てるだけで楽しい二人。
そんな二人を、見かけたことがありますか?
そーらがお送りしました♪
 
 
 
 
 
 
 


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