『DAY PHANTOM』
 
「A phantom Sircuit」


バタバタバタッ!

「くそっ!逃がしたか!」
「後を追うぞ!」
「ダメだ!上が気づいた。時間切れだ。」
「ここまで来て!?」
「反論はなしだ。FBIが来る。撤収。」
「ちいっ!………覚えてろよ、ファントム………!」

あらかじめ作ってあった地下7階からの脱出口へ入り込んだ怪盗。
それを追って入り込んだ二人は、そこで追跡を諦めた。
FBIを擬装した謎の襲撃者の一人は、歯の隙間からしゅうっと苦々し気な音を立てる。
階段を慌ただしく降りてくる乱暴な靴音をバックに、二人は闇の中へと姿を消した。
 






 
「………そんなにしがみつかなくても、もう大丈夫だぞ。」
「…………へ??」
耳もとで再び低い声が囁き、リナはぽかりと目を開けた。
だが、周囲には何も見えない。
ただ体が上下し、走る人間に自分が抱きかかえられていることだけはわかった。
 ザッザッザッザッ……
規則的な靴音だけが辺りに響いている。

「こ………ここは?何がどうなったの?」
「それより、オレも聞きたいことがあるんだが。」
闇の中で聞いても、怪盗の声はガウリイのものと遜色がなかった。
全く違和感の湧かない不思議な感覚に、リナは耳を澄ませる。
「何故あの時、仲間を撃った?」
「ああ、あれ?」

仇敵と親しく話をするというのも妙だが、答えはスラスラと出てきた。
「仲間なんかじゃないわ。
格好はそのものを装っていたけど、偽者よ。
そもそもサイレンサーの使用は禁じられているもの。」
「オレを庇ったのは?」
「決まってるじゃない。あなたをこの手で逮捕するためよ。」
闇の中で、リナはにやりと笑う。
「しかもわざわざ、あの場所あの時を狙ってきたということは。
目的はずばり、あなたの抹殺ね。
あたしを殺すためなら、もっと簡単な場所があるもの。
そしてそのためには、その場にいたFBI特別捜査官を一人や二人、巻き込んでも構わないという大胆な判断が裏にあるわ。
さらに相手はFBIを上回る情報収集能力と、それなりの情報提供者を抱えているってこと。」
「……それを、あの短い時間で考えたのか。」
「ま〜ね。」
リナはそれを賞賛の言葉と受け止め、さらに挑戦的な言葉を口にした。
「これでますます、あなたに興味を持ったわ。
銃を持たない窃盗犯を殺す趣味は、あたしにはない。
お縄にして、法の裁きを受けさせるだけで十分。
それが今の、あたしの仕事よ。」
「…………そうか。」
 
答えた怪盗の声には、奇妙な色があった。
捕まえられる側と捕まえる側との間には通いそうもない。
穏やかな感情の発露のような。

「…………………。」
腕の中で大人しく揺られながら、リナもまた戸惑っていた。
ドジで間抜けな相棒そっくりの、怪盗の優しい声に。
「あんたこそ………どうしてあたしを助けたのよ?
あたしを置いて、一人で逃げた方が楽だったじゃない。」
「…………そうだな。」
怪盗の歩調が落ちた。
それほど長い距離ではなかったが、大立ち回りの末に走ってきたとは思えない規則正しい呼吸からして、リナの同僚と同じくフィジカルが強いことは確かなようだ。
やがて怪盗は立ち止まり、両腕を高く上げた。
リナを抱いた腕を。
 
  とさっ………
 
ゆっくりと静かに、リナはある場所に降ろされた。
今まで怪盗が走ってきた地下の通路より一段と高い場所に。
むき出しの足が、冷たい床に触れる。

「せっかく見つけたオモチャを簡単に捨てる趣味も、オレにはないんでね。
でないと、予告状の送り先をまた変えなくちゃいけなくなる。」
「………なにそれ。せっかく見つけたオモチャって、あたしのこと!?
あんた、あたしをからかって面白い?」
「めちゃくちゃ面白い。」
「………………………。」
「予告状を出して、狙いの品をまんまと盗み、捜査官を困らせる。
それがオレの、今の仕事だからな。」
「盗みは仕事と言わないのよ!前にも言わなかったっけ?」
「…………そうだっけか?」
「…………もうガウリイの真似はしなくていいわよ。ひつこいやつね。」
「くくっ………。」
怪盗は笑い声を漏らし、リナから腕を放した。
「ちょっと。余裕じゃない。
あたしはまだ、銃を持ってるのよ?
ここがどこだか知らないけど、応援が来たらあたしはあんたを………」
「応援?」
 

ギュル………リュリュリュリュ…………
 

怪盗の言葉にかぶせるように、何かの上を何かが擦れていく不審な音が近づいてきた。
それとともに、視界が少しずつ明るくなる。
リナは目をこすり、手許の銃を構えようとした。

ぎゅっ!


それより素早く、大きな手が銃把を握るリナの手を包み込んだ。
明るさが増し、手の先の腕が、腕の先の肩が、肩の上の顔が浮かび上がる。
ガウリイの顔で、怪盗は彼そっくりの笑みを浮かべ、腕を引いた。
「次は別のところだと、言ったよな?」
「え……………」
引かれるままリナは身を乗り出し、自分の手のひらに金色の頭が近づくのを見た。
暖かな唇がそこに押し当てられるのが感覚として伝わり、リナは言葉の意味を嫌でも思い出した。
「なっ………!」
 
パアッ……!
光はサーチライトのように辺りを照らしだし、その中で怪盗の姿は黒い人影に変わった。
キキキキキキキキィィィィ………!

レールの上をゴムのタイヤが擦って止まる。
はっとしたリナは、ようやく辺りを見回した。
ヒビの入った細かいタイル、壊れた電灯、汚れたプレートのかかる壁。
そこは偶然に飛び込んだ地下トンネルなどではなかった。
「……地下鉄は物騒だからな。
気をつけて帰るんだぞ、ちっちゃな捜査官。」
すっと怪盗の頭が離れ、握られていた手が自由になった。
影になった顔から、低い声が微かに囁くのが聞こえる。
「…………デートの続きはまた今度。
ラブレターが届くのを、待っててくれ。」
「………………!」

ニューヨークの地下鉄用トンネル。
そのレールの上に停止していたのは、一台の四輪駆動車だった。
タイヤに細工がしてあり、レールの幅と合うようになっているらしい。
怪盗は素早く後部座席のドアを開き、身を滑り込ませる。
運転席には誰かの影があり、それがアクセルを踏んだようだった。
 
ブロロロロオオオオオオオオッッッ!!!
 
地下鉄の駅のホームに座り込んだリナの耳に、車の排気音を長く響かせて。
ファントムはまたしても逃げおおせた。
 
前回と同じく、最後まで追い詰めた捜査官の手のひらに。
消えない感触を残して。





 
「っ……………」
銃を握っていないもう片方の拳を、ぶるぶると震わせて。
リナはひくつく笑みを顔に浮かべた。
「あんの………時代錯誤男…………!
またオトメの体に無断で触りおって……………許さ〜〜〜〜んんんっっ!!
今度会ったが100年目っっ!!!
絶対絶対ずぇ〜〜〜〜っっったい!!
この借りは返すかんね〜〜〜〜〜っっ!!!
○○○を××って、おまけに△△△でデコレーションして、晒しものにしちゃるから、覚悟してなさいよぉっっ!!!

 

 
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
階段を駆け降りて、地下トンネルへの穴を発見した捜査官達も。
一階で頭を抱えた指揮所の面々も。
何となく全員が赤面して困った顔を見合わせた。

リナの悔し紛れの放送禁止用語の羅列は、まだ延々と続いていた。
偽無線でトイレに閉じ込められていたガウリイが、頭をかきかきリナの前に出頭し。
怒りの回し蹴りの弾みで、マイクがリナから外れるまで。
 
床の上に伸びたガウリイに、ひとしきり罵声を浴びせたリナは、気が済んだのだか、てきぱきと質問に答え始めた。
いずれにせよ、対決の舞台はまた用意されるのだ。


 
うつぶせになったガウリイに、苦笑した同僚の手が差し伸べられた。
「大丈夫か。
お前の相棒は全く破天荒なやつだなあ。
頭の回転はいいが、色気がまったくないときた。」
「………そうだな。」
彼は笑って手助けを断り、寝転がったままこりこりと額をかいた。
「ガウリイ!置いてくわよ!さっさと復活しなさいよね!」
囲まれた人垣の中から、姿は見えないがリナの呼び声がした。
「………………」
彼は軽くため息をつき。
素早く立ち上がった。
まるで獣のように流れる動作で。

その唇から、リナには届かない呟きが漏れる。
「いつか、本当に捕まっちまうかも知れないな。
………いろんな意味で。
あのちっちゃな、捜査官に。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
----------------------to be continued.
 
100万ヒット御礼♪前後賞をゲットされたでめきんさんからのリクエスト。
怪盗ガウリイとFBI捜査官リナのお話をお届けいたしました♪
これは今年の6月に出した「DAY PHANTOM」の中の「The Phantom Shief」の続きとなっておりますが、単発でも読めるようになってると思います♪
 
元はといえば、怪盗モノをというこれもリクエストから生まれた話でしたが、どちらを怪盗にするか迷った時に、単に怪盗キッドコスをガウリイにさせたいが故に(笑)ガウリイが怪盗となっております。普段はドジで間抜けでカメ?なFBI捜査官ですが、表の顔の方が怪盗です。
 
本の方に裏話として書いてあるのですが、普通ですとFBI特別捜査官になれるのは23才以上のなんらかのスペシャリストで、筆記とスポーツテストを受けたのちに四ヶ月の厳しい訓練を受け、さらに一年間は現場の捜査をした者のみで、エリート中のエリートです。

つまり少なく見積もってもリナっちは24才以上(笑)ありえない(笑)どーやってごまかしたんだ、リナ(笑)
それ以前にガウリイがどーやって筆記試験に受かったかという話ですが(笑)
 
もひとつ付け加えておきますと、がー子さんからツッコミを受けたように、怪盗は「phantom
thief」です。じゃあ何でShiefになってるかというと。

本の方でもペーパーでも説明するのをすっかり忘れておりました(笑)
一応そーらとそらりあむのSに変換してあるのです(笑)まんま「怪盗」ってタイトルじゃ芸がないなと変換したのですが、その説明を入れるのをすっかり忘れてました。やっぱり入稿前にちょっとあったので動揺していたようです。

なので今回も、ファントムサーキットのcをSに変換。
circuit→sircuitにしてありますので(笑)
意味はリナっちの二重の送受信と、表と裏と両方の顔を持つガウリイにかぶせたつもり♪
 
いや、いつものドジだと思って、一人しかツッコんでこなかった辺りがそーらの不徳のなせる業ですが(笑)どーも大雑把な性格なもんで、細かいチェックが苦手です(笑)ゼルガディスみたいな相棒が欲しいところですね(笑)

年の瀬も押し詰まり、どこも大雪で大変ですね。皆様もどうぞ御自愛下さい♪
関東はなんだか申し訳ないくらい雪が降ってないのですが。
コミケ当日も晴れるようで胸をなで下ろしております(笑)

12/29(木)コミケ初日に初の西2ホールで参加します。
詳しいイベント情報はこちらから♪
行かれる方はおひまがあったらスペースにのぞきに来て下さいね♪
今度の新刊はちょっとヤバいので、引かれたらど〜しよ〜とか思いつつ。
とある格好でお待ちしております(笑)

さらに1/8(日)の大阪インテで、beast様に委託をお願いしています。
新刊は完売の可能性がありますので、本日より28日夜まで予約を承ります。
通販での予約も可能ですので、ご希望の方はどうぞ♪
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では、ここまで読んで下さった方に、愛を込めて♪
からかうと面白い相手が、いつしか好きな人に変わった経験はありますか?
そーらがお送りしました♪
 
 
 
 
 



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