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「ほんまにわからんやっちゃなあ。
ワシがこいだけありえん言うとるのに。」
剛毛の生えた太い腕を組んで、壮年の村人がため息をついていた。
男が立っているのは、崖の上。
降り続けた雨のせいで、柔らかくなった地盤が肌色の外見をさらしている。
「いくらなんぼでも、こっから落ちて生きとるわけなかろ。」
さらされた地肌には、くっきりとあるものが残されていた。
突端で途切れた人間の足跡。
「あんさんには気の毒な話か知らんけど……どうにもなりまへんな。」
男は地元の人間らしい。
聞き分けのない子供を諭すような、断固とした態度だった。
ずむっ！
男の足下の地面を、勢いよくブーツのつま先が踏んだ。
「どうにもならんことあるかいっ！」
高い声が響き渡る。
地元の言葉につられたのか、発音が中途半端だ。
「生きてるかどーかなんて、調べてみなきゃわからないでしょーがっ！
それを頭ごなしにグチグチネバネバと！！
ねばっこいのはこの地面だけでたくさんだわよ！！」
どうやら男の話を一方的に聞かされ、堪忍袋の緒が切れた状態らしい。
これでもかとばかりにぬかるみを踏みグリしている。
それは小柄な人物だった。
村人の男の胸ほどもない。
だがこれが子供なら、微笑を誘う仮装に見えるだろう。
いわくありげな肩の防具。
踵まで届かんばかりの漆黒のマント。
その合わせ目からは、チカチカと輝く宝石や金属、細身の剣が見えかくれしている。
栗色の長い髪に包まれた小さな顔の真中から、。ひときわ目立つ明るい瞳が男をねめつけている。
こう見えて本職の黒魔道士。
しかも街道に悪名を轟かす、良くも悪くも凄腕の。
リナ＝インバース。
「確かに崖下まではかなりあるし、地盤は弛んでる。
この高さから落ちたら、フツーの人間なら助かりっこないわ。」
少しでも冷静さを取り戻そうとしているのか、腰に手を当てたリナは崖下を見下ろす。
だが、くるりと振り向いた瞳には、まだ憤りが煙をあげていた。
「……でもね！
万に一つでもあるかも知れないじゃない！？可能性ってやつが！
それをこれから調べようっての！
あたし一人で勝手にやるんだから、ほっといてって言ってんのよ！」
そう言い捨てると、答えを待たずに崖の突端へ向かってスタスタと歩き出した。
その前へ慌てた様子の村人が両腕を広げて回りこむ。
「ちょっ……こら、待たんかい！
こっから下るなんてアホのするこっちゃ！！
なきがらを探すなら、村の若い衆集めて山を下ってから…」
ぴくくっ！
男の言葉の何かが、少女の勘に触ったようだった。
こめかみがひきつっている。
「ど・い・て！！」
「あかんあかん！
あんたのような若い娘が命を粗末にしてはバチが当たるで！！」
「～～～～～！」
どちらも一歩も引こうとしない。
にらみ合う二人。
苛立つ少女の栗色の髪が今にもうにょうにょと動きだしそうだった。
「あっそ………。わかったわよ………。」
絞り出されたような声に、諦めてくれたのかとほっと男が肩の力を抜いた途端。
ぐらあっ！！
いきなり目の前から少女の姿が消えたかと思うと、村人の体が傾いた。
「ありえへんかどーか、自分の目で確かめてみたら？」
「なっ！？」
崖下へと仰向けに倒れこんだリナの手は、男の長い上着の裾を掴んでいた。
二人はもんどりうって宙へ。
「どひぃえええええええ！？！？！？！」
空中に男の悲鳴が響き渡る。
『浮遊（レビテーション）！！』
ぶわああっ！！
途端に、落下速度は極端に落ちた。
ひとひらの羽根が舞うように、ゆっくり崖を下りはじめる。
浮遊の術。
さほど難しい技ではないが、詠唱を省略しての発動である。
いずれ伝説ともなろう天才魔道士、その実力のほんの発露だった。
「どひぃえええっわあああああ！？」
「もーだいじょぶよ、おっちゃん。目開けてみ？」
「あああああひ？ひひ？」
意外に女性ぽい悲鳴を上げていた男は、顔を覆っていた指をおそるおそる開いた。
そそりたつ崖を、二人はすれすれの距離でゆっくり下っているだけだった。
「ほへえええええ。あんた……ほんまに魔道士やったんな？」
男は感心して後ろを振り返った。
「へへんだ。」
肩をそびやかせるリナ。
ようやく溜飲の一部が下がったというところだろう。
たっぷりと水を吸い込んだ土は、あちこちで小さな地滑りを起こしていた。
大きな岩が突出し、白い木の根がむきだしになっている。
歩いて降りられるような道はない。
飛び下りて無事に済むような高さでもなかった。
「こっから落ちたあんたの知り合いってのは………あんたとおんなじ魔道士か何かか？」
男の答えに、リナは首を降る。
男は咳払いをしてから言った。
「やっぱり無理やで。どー考えても。
ロープでもあればちゃうかもしれへんけどな、魔法も使えんフツーの人間には無理やで。」
だが、少女は自説を引っ込めなかった。
「………わからないわよ？
例えば、あの木の根っこにぶらさがったとか。」
手袋に包まれた指が差す方向には、確かに木の根が飛び出している。
ぶんぶんっ。
男は首を振る。
「あかんあかん。
あの高さから落ちて、あの根っこにつかまるなんてそんな。万に一つもないな！」
「ってことは、万に一つはあるってことじゃない。」
「それはものの例えじゃ！」
「そーかしら。絶対ないなんて、言い切れないんじゃない？」
少女の楽観的な言い様に、男は苛立ったように両手を広げた。
「そらそーかもしれへんけどな！
崖上からはかなりあるで！？
落ちながら、途中であの木の根っこを見つけて、咄嗟にそこにぶらさがる！？
嬢ちゃんは知らんかも知れんが、重いもんほど落ちるスピードは増すんや！
普通の人間の目えなら、根っこを見つけるのも無理やな！
野生動物ならまだしも、人間には無理やて！」
「……………」
身ぶり手ぶりを交えて説得しても、少女の目の輝きは変わらなかった。
頭をがしがしと掻く村人。
「っか～～、かなわんな！
ええい。じゃあ百歩譲って、あの根っこにつかまれたとしてな。
そっから先はどーする！？
見い！何も足掛かりないだろが。
結局まっさかさまよ。」
「………そーねえ……。」
リナは目を細めて崖に注視していたが、やがて言った。
「あの岩に降りたとか？」
次に指差したのは、張り出した木の根からかなり右にずれた下方にある岩だった。
地滑りのせいで顔を出したのだろう、半分は土に埋もれている。
「ああ、あかんあかん！」
さらにありえないとばかりに、片手を振る男。
「離れすぎや！届くわけなかろうが！」
「どーかしらね？
例えば、根っこにぶらさがったまま、左右に体を揺らして反動をつければ……」
「あっこにか！？
そない簡単に届く距離ちゃうで！？
無理無理！半分も行かないうちにまっさかさま決定やな！」
「まー、あたしだったら絶対届かないわね。おっちゃんでも無理でしょ。」
「そうやろ！？ありえへんて。」
リナが素直に認めたことに気を取り戻したか、男は口調を改めた。
「なあ…………この先はやめや。
嬢ちゃんには見せられんことになっとると思う。
ここらで切り上げて、後はワシらに任せ……」
「………でもね。おっちゃん。
おっちゃんは知らないかも知れないけど。
世の中には、いろんなヤツがいるのよ。」
気の毒そうな男の視線を、少女はウィンクで返した。
「ありえないよーな事を、あっさりやってのけちゃったり。
絶望的な状況でも、土壇場でひっくり返しちゃったり。
あたしが逆立ちしたって言えそうになかったり、できなかったりするよーなことを。
さらっとやってのけちゃったりするよーな。
そんな、信じられないヤツがね。」
その目に、暗い翳りは一点もなかった。
「……………」
あっけに取られた男は、ごほんと咳払いを一つした。
「仮にもかなりの年下のあんたに、諭されるとは思っとらんかったが………。
確かにあんた見てると、そーいうヤツもおる気するわ。
信じられないヤツか……。」
「そ。」
こくりと頷く少女。
ごほん。
男はもう一つ咳払いをし、それから少し優しい顔になった。
「その信じられないヤツを……
嬢ちゃんは信じてるんやな。」
「…………へっ？」
意外な言葉をかけられた人の常で、少女の目がびっくり目になる。
「ただの知り合いってわけやなさそうやな。
もしかして、デキてるんか。」
「なっ！？」
「なら話はわかるっちゅーもんや。
最愛の恋人が崖から落ちたら、そら死んだなんて絶対に認めんわなあ！」
「だっ！誰が最愛のっ……
とにかく、違うっつーの！勝手な想像で話進めないでよねっ！？」
何故か顔を赤くして、全力で否定する少女。
「ええ男か？」
「だから違うって！！」
「年はなんぼ。同じくらいか。」
「そんなことを言ってる場合じゃ……」
「手くらい握ったんか。チューは。」
「するかっっっ！！！
だから、あたしとガウリイはそんなんじゃなくて！
旅の連れっつーか、仕事の相棒っつーか！
おっちゃんが想像するよーなことは、これっぽっちも………！」
「なんや。まだかいな。
これで男が助かっとったら、あんた、抱きついてチューくらいはせなな！
生きてたらほんまに奇跡やからな。
めでたいついでに、なんなら村で式挙げてやってもええで？」
「でぇええええっっっ！！！
いい加減そこから離れろぉおおおおっっっっ！！！」
少女の血管が切れそうになる前に、男の追求は止んだ。
二人を包んだ結界が、かなりゆっくりではあるが着実に崖を降り続けていたからである。
二人の応酬が再開された。
「とにかく百歩譲って、岩に着地できたってことでさらに話進めてってば！」
「………わからんやっちゃなあ、嬢ちゃんも。
百歩以上は譲れん言うとるのに………しゃあないな。
その根性に敬意を表して、岩に届いたいうことで。
だがなあ。
届いても、泥で汚れた岩にうまいこと着地できるかいな。
滑って一巻の終わりちゃうか。」
「だーかーら、着地できたとして！」
「むう……降りられたとして……」
「その下の、あの岩に降りれば？」
「あんな、ちっこい岩にか！？てかあれはよう岩いわんだろ！
ってワシうまいな。
じゃなくてやっぱ無理やろ、それは！」
「つま先でうま～くこう。
そんでもって、それを足掛かりにして、あっちの岩に飛び移る！」
「あんたの知り合いはどこぞの曲芸師か！それとも猿か！？」
「ほらほら！あの細い根っこ！あれ、ロープ代わりに使えない？？
かなり長いし、ぶら下がって反対側へ行けば………」
「お、おう。ギリギリ届くところに別の木の枝があるが………」
「でしょ～！！」
ニヤリと笑うリナと目が合い、男はいつのまにか術中にはまっていることに気がついた。
はっと我に返る。
「そんなヤツおらんだろ！」
「ちっちきち～～」指を振るリナ。「いるかも知れないでしょ。」
「諦めの悪い嬢ちゃんやな………。」
「お誉めの言葉どうもありがと。」
「…………はあ。」
男はため息をつく。
こうなったら、最後まで付き合うしかないらしい。
知り合いとやらの無事な姿を信じている少女の、希望が消える様を見たくはなかったのだが。
「慰め役も必要やろうしな。」
「何か言った？」
「んにゃ。続けよか。」
「そ？でね、あの枝につかまることができたら………
緩い坂だから、一気に駆け降りればいいと思うのよね。」
「緩い……ワシにはほぼ垂直に見えるが……」
「駆け降りれば、速度がつくでしょ。
速度がつけば、普通じゃ届かない距離も届いたりして。」
「はあ。」
「ダダダダダ……ピョ～～ン！と、こうなるわけよ。」
「はあ？？？」
幻の姿を追うように、少女の指が斜めに崖を下り、その中途にある岩から飛び上がる。
その先に、こんもりと葉を生やした、背の低い潅木の茂みがあった。
細かい枝と、濃い緑の小さな葉だけで、花は咲いていないはずなのに。
何故かその隙間から、鮮やかな色が見える。
複雑に絡まった糸のようだ。
「で、そこら辺りで疲れて眠り込んでる。
ってなところじゃないかしらね？」
「まさか………」
男は信じられないとばかりに目を見開いた。
「んなアホな……」
少女の張った結界は、潅木の上へと漂いながら降りていく。
男の頭の中には、嫌な想像もぐるぐると渦巻いていた。
少女の仮説はあくまでも妄想で。
偶然、落ちた人間がそこに引っ掛かっているだけで。
少女の目の輝きを根こそぎ奪い取ってしまうような、ひどい有り様が待っているような。
「やめえ、まずワシが……」
確認する。
そう言おうとした矢先だった。
ぐ～～～～……
イビキだった。
少女が顔をしかめる。
茂みの中に横たわっていたのは、長い金色の髪をほうぼうに絡ませて、あおむけに寝転がっている大柄の青年だった。
見たところ五体満足のようで、顔にひっかき傷程度はあるもの、目立った外傷はなさそうだ。
何より寝顔が幸せそうなのである。
男が力の抜けた声で呟く。
「し、信じられん……。生きとる………。」
すると、その声に反応したのか、青年がぱっと目を開けた。
明るく晴れた空のような色の瞳で二人を見ると、のんきに片手を上げて挨拶する。
「よ～、リナ。……と、誰だか知らないおっさん。」
「お、おお。」
思わずつられて片手を上げた男は、そのままその手を左右にぱたぱた振る。
「あああありえへん………ホンマにありえへん………。
ほんまにありえへん事をありえる事にするやつがおった………！」
男は少女を振り返った。
「嬢ちゃん！あんたの言った通りや！
ほんまに生きとったで！えらいこっちゃ！！」
「……………。」
少女は何やらぷるぷると震えていた。
「おっちゃん……ここまで付き合わせちゃって悪かったわね………。
悪いついでに、このまま下まで降ろしちゃってもいいかしら………？」
心なしか、声が一オクターブほど低くなっている。
「お、おう。」
訳もわからず村人が頷くと、少女はひょいと傍を離れた。
どうやったのかはわからないが、浮遊の術から自分だけ抜け出したらしい。
そのまま、勢い良く眼下の茂みに降り立った。
�hぁしこーーーんんんっっ！！！
突然、辺りを震わせるような衝撃音が響き渡った。
「な、なんや！？」
「いってぇえええ！」
眼下で青年が声を上げる。
驚いたことに、まさに九死に一生を得た青年が、痛む頭を撫でさすっていた。
原因は少女の手許にあるピンク色のスリッパに違いない。
「お、お前な。いきなり何つーことを……」
「うるさいわね！生きてるかどーか確認しただけよっ！
痛みがあるなら、生きてるってショーコよ！」
「生きてるだろうがっ！目開けて、喋っただろ、今！」
「ああら。そうだったかしら？」
村人と言い争った時よりも、こめかみがさらに引き攣っている。
どうやら喜びで震えていたのではないらしい。
「ったく人の気も知らないで、呑気な顔して寝くさってからに！
腹が立ってつい殴っちゃったとしても、仕方ないってもんだわよ！！」
「あ………そうか。
寝ちまってたんだな、オレ………。」
青年はようやく頭を撫でるのをやめ、ごそごそと体を起こした。
村人も黙っていられなかった。
「おい、ちょっと！そこのあんた！
あんた大したやっちゃなあ！
あっこから落ちて生きてるなんて信じられん！まさに奇跡や！」
結界の中から大声を出すと、青年に届いたようだった。
眩しそうに上を眺め、目を細める。
「………いや～～～。自分でもビックリだ。
あんな上から落ちたんだなあ、オレ。」
「あ、あんたね………。」
急に脱力感を覚えたのか、少女は糸が切れたようにその場にへたりこんだ。
「…………」
その様子を見ていた村人は、急に少女の味方をしたくなった。
「ああ、でもな！そこの嬢ちゃんは違うで！
絶対にあんたは生きてるって信じとったで！
どうにも譲らんかったんで、一緒に降りてきたってわけや！」
「なっ……」
慌てて振り向くリナに、親指をぐっと立ててみせる村人。
「世の中には、信じられないことをやってのけるヤツがおるってな！
あんたが証明や！」
「………リナが？」
後ろから呼ばれた名前に、少女は振り向くに振り向けないようだった。
「そ、そりゃ、あれよ。
あんたの野生動物並みの反射神経があれば、これくらいの崖でも大丈夫だと思って。
ふ、深い意味はないのよ。深い意味は。」
「そうか。」
青年は崖のてっぺんから目を放し、少女の頭まで視線を下ろした。
「悪い……。心配させちまったな。」
その声に、少女がやっと振り向く。
ひょいと上がった腕の裏側を見て、はっとする。
やはり傷は免れなかったようだ。
が、痛みを感じさせない自然な素振りで青年は少女の頭を撫でた。
わしわし。
最初に手が触れた時、少女の肩がぴくりと震えた。
態度もどこか頑なだった。
「最後のやつ。あたしが仕留めたから。村は無事よ。」
手の下で、よく見えない表情のまま少女がぼそりと呟いた。
「そうか。よくやったな。」
「急いで戻ったのに、あんたが見つからなくて。
足跡を追ったら………崖の上だったのよ。」
「村から引き離した方がいいと思ったんだ。
ここから二頭落としてやろうとしたら………
横合いから三頭目が出てきちまってな。それで……」
「……そのまま放っときゃ良かったのに。」
「そうもいかないだろ。
お前さんのとこに、もう一頭送り込むことになっちまうし。
森の中で火を吐くやつだったしな。
リナだって、同じことをしたさ。」
「…………あたしは……魔道士だから…。」
少女の声は段々と低くなり、小さくなり、とうとう途絶えてしまった。
青年は頭を撫でる手を止め、その頭を見下ろした。
ぺち。
少女の両頬が小さな音を立てた。
すっぽり収まってしまうほどの、大きな手のひらが両側から包み込んでいた。
「なっ……」
途端に慌てる少女の目をのぞきこんで、青年は微笑した。
「そんな顔するなよ、リナ。
オレが生きてるって、お前さんは信じてくれてたんだろ？
………オレも信じてたぞ。
お前さんが、オレを信じてるって。」
「……………」
「だから、オレは生き延びたんだ。」
村人はまた、信じられない光景を見ることとなった。
あれだけ自分と饒舌に議論を戦わせた少女が、言葉を失っていた。
生きるか死ぬかの体験をした青年の顔に浮かんでいるのは、恐怖ではなく。
そんな二人の間に。
何か目に見えない、温度のある空気が漂っているのを。
「こりゃ………下世話なことを言うたかな………。
惚れた腫れたじゃすまされん仲らしいわ。」
こっそりと微笑む男。
見守るうち、ふと何かに気づいたのか、青年が真顔になった。
じっと少女の顔を見つめる。
「な、なによ……？」
とまどう少女。
その手のことに関しては、まるっきり免疫がなさそうに見える。
と、いきなり青年が顔を近づけた。
「！？」
面くらった少女が、暴れる隙もなかった。
金色の頭が、栗色の頭の前に重なる。
「！！！！」
近づいたのと同じスピードで、頭は離れてしまった。
そこから現れたのは、これ以上ないほど硬直した少女の顔。
たった今何が起きたか、理解できていないらしい。
「……あ………」
口がぱっくり開いた。
「………え…………？」
ばばっっ！！！！
一瞬遅れて、その箇所を両手で隠す。
隠しきれない他の部分は、真っ赤に染まっていた。
「な…………なななななななな」
「わわわわわわわわ」
何故か村人も同じように単一の音声だけを発している。
事件を起こした張本人はというと、二人の反応もなんのそのだった。
「オレも、生きてるって確認しとかないとな。」
と言って、にっこり笑う。
「ななななななななななななな」
そこから一言も発展できないまま、別の意味で震える少女。
青年は笑顔のまま、その頭をぽんぽん撫でていた。
「うわ～～～………」
見てはいけないものを見てしまったような。
実は滅多に見れない貴重なものを見たような。
そんな複雑な気分で、村人も口を押さえていた。
浮遊の結界はスピードを変えることなく、ゆっくりと彼らより低い位置へと遠ざかっていく。
震える少女の頭も、青年の頭も、やがて見えなくなってしまった。
「いやあ………」
男は素直に感心していた。
「ホンマにおるんやなあ………。
ありえないよーな事を、あっさりやってのけたり。
土壇場でひっくり返すよーな。
信じれないよーなやつが。
あの嬢ちゃんにいきなり口吸いかますとは、やっぱり大したやっちゃ。」
うんうんと一人頷く村人。
と、かなり離れた頭上から、聞き覚えのある声が轟いた。
かなり上ずった声ではあったが。
『でででぃでぃでぃでぃ‥‥‥‥
魔風（ディム・ウィン）！！！』
ごぉおおおおおっっっ！！！！
「どわぁあああああっ！？」
風が吹き抜けるような轟音。
結界への衝撃の後に、何かが物凄い勢いで結界の隣を通り過ぎた。
「ほほほほんっとーーーーーーーにもぉ！！！！
ああああんたってやつは………
信っっっじられな～～～～いいいいいっっっっ！！！！」
悲鳴に近い叫び声が、雷のようにその上に落ちた。
「………うわっちゃ～～～………。」
村人は、頭を抱えた。
「なんつーやつらじゃ………。
いくらあの兄ちゃんが無事だったからて………
照れ隠しにも、程があるで………。」
長々と吐かれた溜息が、結界の中に充満した。
「ほんまに………。
世の中には、信じられん連中がおるもんやなあ。」
～～～～～～～～～～～～～おわり。
いつ書いたかよくわからない話が、HDに残ってました（笑）オチがついてなかったので書き足してみました♪
元ネタが「魂という名のゴースト」っぽいですね（笑）
たぶん、他の人には信じられないようなことでも、二人にだけはわかっているというか、信じあってるとか、そんなところを書きたかったのでしょう（たぶんか、おい）
周りからすると「えええええっ！？」みたいなことをやっちゃってたりするじゃないですか。この人達。山を吹っ飛ばしちゃったり、剣で壁抜きしたり、純魔族と戦ったり、魔王の中の魔王を倒しちゃってたり。
二人だけに通じるレベルってのも凄いなあ、いいな♪と思ったりするわけです。
このあと、地面にめりこんでるガウリイを村人が掘り起こし（おい）しぶしぶ降りてきたリナとはち合わせになって、現場を見られたリナが思い出し紅顔症にかかって、暴れ出すところをガウリイが止めて、村へ帰って礼金を受け取るまでにも一悶着ありそーですね（笑）
スレレボ前期シリーズ、放映終わっちゃいましたねえ。やっぱり13話は短いです。いろいろツッコミたい部分はあれど、やっぱり動いて喋るリナとガウリイを見れただけで、大変幸せでございました。後期シリーズが何やら地上波で素直に見れないらしく、情報待ちの状態であります。地上波しか見れない身には辛いことでありますよ（笑）
そういやこの話を書いてる途中で気になったのは、浮遊とか翔風界とかで飛んでる間って、外の声や音が聞こえるのかなあ？という点でした（笑）アニメだと聞こえてるっぽいので、聞こえたこととしといて下さい（笑）
さらにおっちゃんの訳のわからん方言は、適当なので聞き流して下さい（笑）
ああ、こんな風に「えええええ！？」とか「うわうわうわうわ」とか言いながら、端で見守っていたいもんです（爆笑）
では、読んで下さった皆様に愛を込めて♪
信じられないようなこと（いいことよv）をやってのける、凄い知り合いはいますか？
そーらがお送りしました♪
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