「滴の音」


・・・・・・雨は、まだ止みそうにない。

空は真っ暗だった。
なぜだか閉じ込められた感じがする。
狭い部屋の中でなく、目の前には平坦な草原が広がっているというのに。
だがそれも、今は灰色にけぶっている。
ぼんやりと、その視界の中に一本の枝が見える。
その先の、葉の上から集まった水分がゆっくりと溜められ、ぎりぎりまで留まっていた。
葉がかしいだ。
もうすぐ。
 
ぽたり。
 
ぽたり。
 
誰かの囁き声のように。
眠りから揺り起こす手のように。
揺さぶられる。
浮かび上がる。
 
フラッシュバック。
 
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「彼女には知らせないことにしよう。」
「そうですね。なんと言っても、今は一人の身体じゃないんですから。」
「…」
「あなたは、とにかくあの人を守っていて下さい。このことからも、彼女自身からも。」
「彼女自身…」
「わかるでしょう?このことを知ったら、真っ先に飛び出してくる人ですから。」

 

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ぽたり。
フラッシュバック。


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「子供の名前、考えたか?」
「そっちこそ。何か考えた?」
「お前さんはどうなんだ?」
「あたしはね。決めてないわ。」
「??どうして。」
「だって。この子の顔、見てからじゃないとわからないじゃない。
顔を見て、きっと最初に呼びたくなるのがその子の名前よ。」
「なるほど。」
「楽しみね。どんな顔して生まれてくるのか。」
「どっちに似てるかな?」
「・・・両方に似てるに決まってるでしょ。」

 
 
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ぽたり。
ぽたり。
優しいリズム。
優しいくせに、容赦のない。
揺り起こされたくない。
ずっと夢見ていたい時でも。
 
 
フラッシュバック。

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「何故だ……!何故行かせた!」
「……」
「やめてください、眠りの呪文をかけられてたんですよ?」
「だが!」
「オレの責任だ。だが…」
「だが、なんだ!」
「あいつが行きたいと思ったら、それは、誰にも止められないんだ。」
「お前なら!お前なら止められたはずだ!」
「止めたかったさ、できたならな!だが、止めていたら、オレは永遠に彼女を失っていたかも知れない。」
「今だってそうだろう!」
「違う。彼女は生きている。」
「…どこから来るんだ…っ……その自信は…」
「・・・・・オレは彼女を。」
 
信じてる。
言葉なんかじゃ足りないくらい。
 
「子供だって生まれたばかりなんだぞ…!これからどうする気だ!…おい、…おい、どこへ行くんだ!!
待てよ、ガウリイ!!」
 
 
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ぽたり。
 
胸を指さし、答えた。
ここが教えるのだ、と。
彼女を失ったわけではない、と。
その胸が焦がれる。
呼びかける。
ずっと呼び続けている。
ぽたり。
ぽたり。
雨だれのように絶え間なく。
ぽたり。
ぽたり。
たったひとつの名前を。
ぽたり。
ぽたり。
かすかに呼び返す声を信じて。
 
「愛してる…待ってろな。」
そっと呟いた。
自分の胸に。
 
 
 
「とうさん…?何か言った…?」
ごそごそと隣で起きる気配がした。
眠そうな目をこすり、埋もれた毛布の中からちょこんと顔を出している。

「起こしちまったか…?ごめんな。」
遠い目で遠くを見ていた父は、ふっと和らいだ目で子供を見る。
「まだ、雨止みそうにないから、もうちょっと寝てていいぞ。」
「うん…。」
「ちゃんと毛布かけてろよ。でないと風邪引くからな。」
「うん…。とうさんは…?」
「とうさんか?とうさんはな…」
 
手を伸ばし、くしゃくしゃの金髪を撫でる。
父親である彼のよりも、色の混ざった髪。
「とうさんはな、雨の音を聞いているから、いいんだ。」

母の顔を知らない息子。
母から名前を貰えなかった子供。
だが、彼女は彼に生を与えた。

「雨の音…?どんな?」
無邪気な瞳。
彼の耳には、雨だれはどんな音を囁くのだろうか。
「優しくて、それでいて、強い音だよ。」
「ふうん。・・・おもしろいんだね。」
「そうだな。」
彼の笑みが、浸透してきて頬が緩む。
彼は決して不幸な子供ではない。
何故なら。
彼女が産んだ子供だから。
いつも前を向いて、ひたむきに生きて行く、不幸なんて信じない彼女の子供だから。
 
7歳のガウリイは再び毛布に埋もれ、安らかな寝息を立て始めた。
いつか話そう。
彼女がどんなに、お前の顔を見るのを楽しみにしていたか。
どんなに、最後の選択に悩んだか。
そして、誇りを持って挑んだか。
とどのつまりは、彼女にその選択をさせたのは彼の存在だった、ということを。
名前も残していかなかった彼女の思いを。
 
今はただ、雨の音に耳を澄ませて。
 
 
 
 
 
 


















おわり。

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有り難くも、更新を待っていて下さった方、大変お待たせいたしました。
パソが壊れて、今も予備のパソでこれを作っている状態ですが、何とか新作をお届けできるようにまで回復しました。
親子ネタなんですが、話は全然進展してません(汗)回想ばっかりで。
リナとガウリイの子供って、どんな姿をしているんでしょうね。
遺伝の法則がスレの世界にもあてはまるなら、青い目に金髪ってのはないだろうなあ(涙)
突然変異とか(笑)よっしゃ(笑)
何となく、実像はわかりませんが、リナの御両親が二人に重なる気もします。
そんでまた「変なの生まれちゃたよ」って思うんでしょうか(笑)
そーらの独断と偏見による、二人の未来予想図は、やっぱり旅をしています。
子供が大きくなったら自分の道を歩ませて、自分達はじーちゃんばーちゃんになるまで旅を続ける、そんな気がします。じーちゃんばーちゃんになったら、温泉が出る町にでも腰を落ち着けるかも知れませんね(笑)

では、待っていて下さった方も、初めましての方も、これからもHPともどもよろしくお願い申し上げます(ぺこり)
読んで下さった方に愛を込めて♪
そーらがお送りしました。

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