「らぶらぶれ〜ど♪」


ぱきっ。
ぺりぺり。

「い〜〜い。
カオスワーズってのは、力ある言葉ってことで。
呪文そのものが魔法の効力を持つのよ。・・・聞いてる!?」
ぱきっ。
ぺりぺり。
「あ。すまん。聞いてなかった。」
甘栗の皮を真剣に剥いていたガウリイは、悪怯れずに答えた。

すっぱああああああああん!!

「い、いってええええええ!なにすんだよ!」
「じゃかまし!!人が親切にも説明してやってるってのに、ノンキに甘栗の皮なんぞ剥いてるアンタが悪い!!」
「あのなあ・・・・。」

ここはとある湖のほとり。
湖と言っても、それは限り無く海に近かった。
全く向こう岸が見えないのだ。
リナとガウリイは、定期的に出る渡し船の出発を待っていたところだった。

「大体、こんなに甘栗買い込んできたの、リナだろ?
それをひと粒かふた粒食べただけで、皮剥くのめんどい〜〜〜とか言って。
ほおりだしたじゃないかよ。勿体ないからオレが食べてるんだろ。」
「だああって。剥くのホントにめんどいんだもん。労力の割に、食べられるのは小さな身だけだし。割に合わないわよ。それに、うまく皮が剥けなくて、身が半分になっちゃって。
結局、皮からほじくりだして・・・・・」
ぶつぶつ言うリナの目の前で、ガウリイがツメを甘栗の腹に当てる。
ぱきっ。
ぺりぺり。
あ〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・ん?
「どーしたリナ。オレの顔になんかついてるか?」
「あ、あんた・・・・。皮剥くの上手いのね・・・・・」
驚きの声は、やがて含み笑いへと変わる。
「ふっふっふ・・・・。があうりぃ〜〜〜♪あたしにも、剥いて?」
「や、やだよオレ。なんで自分で剥いて、人に食わせなくちゃならんのだ。
食べたかったら自分で剥け。」
「ええええ〜〜〜〜〜。ね〜〜〜〜。あたしとガウリイの仲でしょお?」
「オレとリナの仲って・・・?どんな仲だったっけ。」
「甘栗の皮を剥くのと、それを食べさせてもらう関係♪」
「んな関係あるかよ・・・・・」

「お二人さんお二人さん。ラブラブなところを邪魔して悪いんだが。」
「だ、だれがラブラブよ!」
「そうだぞ!」
赤くなったリナが拳を上げて振り向くと、そこには。
あごひげをこれでもかと貯えた、見るからに逞しい、海の男。
いや、ここは湖だから、湖の男か。
へりのとんがった白い帽子を被り。
シマシマのシャツを着ている。
「おや違ったのか。まあいい。
それより船が出るから。いちおう、船室に入ってくれって言おうと思ってな。」
「あ、そりゃどーも・・・。あ、でもできれば、甲板にいたいんですけど。」
「そりゃ構わんが。うちの男どもの邪魔だけはしてくれるなよ。」
「はあ。」

言うなり、むさ苦しい男どもがわらわらとラダーを駆け昇り。
忙しく立ち働き始める。
もやい綱をまき始める男たち。
帆を広げるため、するするとマストに昇り始める男たち。
途端に甲板の上は賑やかになった。

「ところで、さっきの話。」
「え。さっきの話って?」
「あんたが知りたがったんでしょ?カオスワーズってなんなんだ、って。」
「そおだっけか。」
「そおなの!で、どこまで聞いてたのよ。」
「え〜〜〜〜と・・・・。」
「まさかぜんぜええん聞いてなかったとか・・・。」
肩をぴくぴくと震わせるリナに、ガウリイはぽん、と手を打って答える。
「いやあ。どうもそうみたいだな♪」
「なにがそうみたい、よ!!もおお〜〜〜〜。このクラゲ〜〜〜〜!」
「じゃあさ。ひとつ聞くけど。」
「う。な、なによ。」
甘栗をまた、ひとつ口にぽおんとほおりこみ、ガウリイはもぐもぐした後に言った。
「もし、そのカオスワーズとやらを、間違えた時はどうなるんだ?」
「・・・・へ?」
「だってさ。唱える魔道士にだって、おっちょこちょいはいるだろ?
間違えることだってあるんだろーなあ、と思ってさ。」
「そりゃあ、ね。熟練した魔道士ならともかく。初心者なんかにはあるかもねえ。」
「で、どうなるんだ、そういう時。」

ジャンジャンジャンジャ〜〜〜〜〜ン!!

出港の鐘が鳴る。
ラダーが外され、船乗りの1人が埠頭を蹴飛ばす。
オールを持った腕がいくつも上がり、船はゆっくりと動き出す。

「そりゃあ、そおいう時は。」
「うん。」
「魔法が発動しないのよ。」
「なあんだ。それだけ。」
「なあんだって・・・。あんた、何を期待したのよ?」
甘栗の皮を袋に入れ、立ち上がって膝のくずを払いながら、ガウリイが笑った。
「いやほら。なんか魔法が変な風に働くとかさ。」
「あのねえええ。発動しないってだけで、一大事なのよ?それが戦闘中だったら目も当てられないじゃない。それに、呪文を間違えたからって魔法が変形した、なんて話。聞いたことないわよ。」
「ふうん。そおいうものなんだ。」
「そおよ。まったく。基本的なことはちっともわかってないくせに。変な質問ばっかするんだから。」
ぷいっとそっぽを向くリナ。
ガウリイは笑って、最後の一個をその口にほうりこんでやる。
「ごくろーさん。それ、講習料な。」
「むぐ。むぐむぐ。」






ざざざざん。
ざざざざざざざざん。

「うっぷ・・・・・・。」
「おいリナ、大丈夫か?」
「ら、らいひょーふ・・・・。」
「船室に入るか?」
「んにゃ・・・・いい・・・・かれにあらっれるほーがいい・・・・」

「おいどーしたお客さん。」
屈み込んでいるリナの背中をガウリイがさすっているところに、さっきのヒゲ面の船長がやってきた。
「ああ、こいつ、奇麗〜〜って波ばっか見てたんすよ。」
「そりゃあ船酔いするのは当たり前だ。お嬢さん、大丈夫かね?」
「ら、らいひょ〜〜・・・・うぶ!」
「おいおい、吐くなら海に吐けよ!甲板を汚さんでくれ!」
「はは・・・。はい、気をつけます。」
「どうもあんたたちは、ラブラブなカップルかと思ってたんだが。」
船長は、コルクのパイプをくゆらせながら、にやりと笑った。
「保護者と、そのコドモってカンジだなあ。」
手をひらひらと振って、その場から立ち去る。

「あ、あんろひれおやり〜〜〜〜!ど、どあらがらぶらぶらってええ!」
「おい、落ち着けよリナ。興奮すると余計に気分が悪くなるぞ。」
「わあっれるわお・・・・。」

その時だ。
船が途端にグラグラと揺れ出した!
「うぶ!」
「掴まってろ、リナ!」

甲板を駆け惑う船員の声が聞こえた。
「で、で、でたああ。」
「おかしいな、今日は生け贄をちゃんとやったはずだぞ。」
「それが、いつもの生け贄じゃなかったんで、はい・・・。」
「なんだとお!ヤツはいつものじゃないと、満足せんのだぞ!」
切迫した船長の声。

「なんだ?」耳を澄ませるガウリイ。

「それで、何をやったんだ。」
「はあ。それが。売れ残ってたのは乾燥イモだけだったんで。」
「ばっかやろう!ヤツはな、この数十年、一度たりとアレ以外は受け付かなかったんだ。それを・・・!」
「だ、だって仕方ねーです!なんでもこの船に乗るとか言ってた客が、全部買い占めちまったとかで・・・!」

「なあ、なんの話だ?」
よろけるリナを抱えつつ、ガウリイが会話の輪に入る。
「あ、ああ・・・・。お客のあんたは知らんだろうが。」
ざっば〜〜〜〜〜〜〜ん。
遠くで、大きなモノが水中に没する水音が聞こえた。
「この湖には、あの有名なレイクドラゴンがいるんだよ。」
「れ、れいるろらろん!?」
「ああ。ばかでっかくてな。ヌシと呼ばれておる。」

まるで船長に紹介して貰った礼の代わりのように。
どしん、と船体に圧力が加わる。
「せ、船長!」
「これはヤバいですよ!!」
「う〜〜〜〜む。しかし・・・・生け贄がないことには。」
腕組みをして考え込む船長に、ガウリイが尋ねた。
「なあ。生け贄ってどんなんだ?オレたちに用意できるもんなら・・。」
「ありがたいがしかし、まさかそんなものお前さんたちが持っておるわけはなかろう・・・・。」
「船長、アレを買い占めたのはこの船の客だって言ってました。
今から探せば、誰か持ってるんじゃないすか。」
「それもそうだな。・・・・ちなみに尋ねるが、お前さん方は・・・」
「はあ。」
「甘栗は持っておらんか。」

え、ええええええええ!?

「い、いけにえっれ、あまるりろころらろ〜〜〜〜!?」
「あ、通訳します。彼女は、『い、生け贄って、甘栗のことなの〜〜〜!?』
と言ってます。」
「いかにもそうじゃが・・・・。」
ひきつる船長と船員。
「ま、まさか・・・・」
「それらら、あらしがれんるかいろっらわよ・・・・」
「彼女は、『それなら、あたしが全部買い取ったわよ。』と言ってます。」
「んなにいいいいいいい!」

どおおおん!
船に何かが体当たりする音。
船体が大きくかしぐ。
ぎしぎし、と嫌な音がしてきた。

「は、はやく出せ、さもないと・・・!」
真っ青になった船長が、リナに詰め寄る。
「さもないと、この船はおだぶつだ・・・!」
「え〜〜〜〜っろ・・・・・」
「彼女は、『え〜〜〜〜っと・・・・・』と、言ってます。」
「そんなのまで通訳せんでもいい!甘栗は!」
「『そんらのまれつうやるれんれもいい!あまるりは!』と船長が言ってるぞ。リナ。」
「あほら、あんらは〜〜〜〜〜!らいらい、あまるりはあんらが・・・」
「『アホかあんたは〜〜〜〜!大体、甘栗はあんたが・・・』と彼女は言ってます。」
「それはどういう事だ。」
「ですから。甘栗は・・・・・」
「甘栗は?」
ガウリイは、しばし頭に手をやって考えていたが、やがてにっぱりと笑ってこう答えた。
「どうも、オレが食っちゃったみたいです。ははは。」
「ははは、じゃなぁ〜〜〜〜〜〜〜い!!」

ずどおおおおん!
どおおおん!

間髪を入れず、攻撃が続く。
今や、ぎしぎしと言っていた船材は、みしみしという不気味な音に変わった。
「そ、それで、ひと粒も残ってないんですか!?」
メゲずに船員がガウリイにすがりつく。
「あ。それが・・・・。」
「え、あるんですか、ないんですか!?」
「えと、その・・・・」たはは、とガウリイが笑う。
「最後の一個。・・・こいつにやっちまった。」
指差す先は、船の手すりに息も絶え絶えに掴まっているリナ。
「あ、あらし・・・・?」
「なんだってええええええ!」
船長の蛮声が響き渡る。
「あんたたち、あんたたち、なんというおそろしいことを・・・!」

どずうううん!!
ぎしっ。
めりめりっ!

「こーなったらあんたたちに、責任取ってもらおう。」
「せ、責任?」
「そおおおだ。元はと言えば、甘栗を買い占めちまったあんた達の責任だ。
さあ、あのレイクドラゴンを何とかしてくれ!!」

「なんとかったって、なあ・・・・。」
ぽりぽりと頬をかくガウリイ。
その正面には、巨大なレイクドラゴンがその鎌首をもたげていた。
「なあリナ。どーする?」
「・・・・・うぶ。・・・・・きまっれんれしょ・・・。」
「ああ?」
「もーめんどいから。じゅもんれいっぱつできめるら。」
「おい、呪文て・・・・!」
「ろいててよ、みんら。」

千鳥足で舳先(へさき)まで行ったリナは、きっとレイクドラゴンを見上げる。
「あんらりはうらみはらいけろ。うぶ。まあ、うんめいとおもっっれ、あきらめれろれ。」



あくるろおうろひろられよ
ろらのいまひめときはらられし
こおれるくろりうるろのやいばろ
わがひからわがみとなりてともにほろりのみりをあるまん
はみはみのたまりいるらもうりくらき


「おい、リナ、ろれつが全然回ってないぞ!!」

「らぶらぶれ〜〜〜ど〜〜〜〜!!」














***********



ざっぶうううん。
ざぶ〜〜〜ん。

「はい、ダ〜〜リン♪おくち、あけて?」
「リナぁ・・・・。」
「あん。そんな顔しちゃ、ダ・メ♪ほらあ。照れないで♪」
「うう・・・・。」

甲板には、ラブチェアがぽつん、と置かれていた。
御所望したのはリナだった。
完全に目が座った状態で、船長に命令したのだ。
船長は額にジト汗を垂らしながらも、素直にはいはいと従った。
何故なら、曲がりなりにも、リナがレイクドラゴンを追い払ってくれたからだ。

そしてそのラブチェアの上には。
困った顔のガウリイと、頬を染めて彼によりかかるリナの姿が。
「ね〜〜え、ダ〜〜〜リン♪」
「そ、そのダーリンての、やめてくれ・・・。」
「あらん。どおして?だってあなたはあたしのダ〜〜リンでしょ♪」
「せ、背中がムズムズする・・・・(ぼそっ)」
「ほおら♪あたしの方を向・い・て(はぁと)」
「リナあ〜〜〜〜。一体どおしちまったんだよ〜〜〜〜(泣)」
「だ〜〜〜り〜〜〜ん♪」

リナが唱えたラグナブレードは。
ろれつが回らなかったため、ゆがんで発動されたのだ。
リナは、魔法が変形した話は聞いたことはないと言っていたが。
まれにあるらしい。
んなことも。

「それにしても、レイクドラゴンはどーして逃げちまったんだ・・・」
「さ〜〜〜ね〜〜〜〜。そんなことは、どーでもいーじゃなあい♪」
リナはがさごそと自分のポケットを探った。
「あ♪あったあった♪」
小さな小袋を取り出し、その中からいくつかの黒っぽい粒をつかみ出す。
「ほら♪あなたに、と思って取っておいたの♪今、剥いてアゲル♪」
「えっ・・・・。それって・・・・」
「そ♪」
にっこりとリナは笑って、愛しいガウリイの顔を見上げる。
「あ・ま・ぐ・り♪よ♪」
ぱりっ。
ぺりぺり。

その様子を、遠くから取り巻くように見守る船長と船員たち。
怖いもの見たさというか。
はれものに触る扱いというか。
船長がおそるおそるメガホンを持って、ガウリイに呼び掛ける。

「なあ。あんたたちって・・・・結局、どんな関係なんだ?
保護者と、被保護者・・・・だけじゃ、ないよなあ?」


この質問には、ガウリイではなく。
リナから甘〜〜〜い口調で答えが帰ってきた。

「そりゃあね♪
甘栗の皮を剥くのと、食べさせて貰う人の、か・ん・け・い♪」



























============================================ちゃんちゃん♪
元ネタは2才の次女の『らぶらぶれ〜ど♪』の一言からでした(笑)

レイクドラゴンが逃げた理由は。
そりゃ、リナちゃんがやっぱりドラマタだったからじゃ(笑)
では、こんな親バカなお話を(親バカじゃなくて、バカな親だったりして・笑・某CMより)読んで下さった方に、我が次女からの濃厚なきっすをぷれぜんといたします。
・・・・ちゅ♪

そーらがお送りいたしました。

『ありがとうのかわりに。』へ行く。