「ガウリイの血と汗と涙の!?結婚物語♪」


から〜〜〜ん
から〜〜〜〜〜〜〜ん


「リナさん、ガウリイさん、御結婚おめでとうございま〜〜〜〜す♪」
「やったな、ダンナ。」
「良かったじゃない、リナ。」
「ガウリイ様・・・・お幸せに・・・・。」

から〜〜〜〜ん
から〜〜〜〜〜ん
から〜〜〜〜〜〜〜ん





がらがらがらがら・・・・・
きいっ!
ばたん!

「ここが新居ってヤツか・・・・。」
「そ・・・・そうね。」

ぴしっ!
がらがらがらがらがら・・・・・・

馬車の音が遠のき。
日はとっぷりと暮れ。

厳粛だが退屈な式が終わり。
披露宴会場から、とある一軒の家の前で馬車から降ろされたオレ達。
文字どおり、二人っきりである。
そう。
オレと、リナの二人っきり。
今日、オレ達は結婚したのだ。

セイルーンの郊外。
静かな、背後が森に囲まれた小さな家をオレは見上げる。
決して贅沢な家じゃないが、こぢんまりとしていて、なかなか住みやすそうだ。これからは、ここが二人の愛の巣になるのだ。(笑わないよーに、そこ!)
オレは込み上げてくる笑みを、我慢するのが精一杯だった。


苦節ン年。

お互いの気持ちを確かめ合い。
やっとのことで結婚までこぎつけたオレ達。
これまでの日々は、決して甘いばかりではなかった。
勿論リナは可愛いし、オレ達がらぶらぶなのは言うまでもない。
(だから笑うなって・・・)
が。

『結婚するまで、ダメ。』

・・・のリナの一言で、オレの愛と苦悩の日々は始まったのだ。
目の前には好きな女。
しかも旅は二人っきり。
身も心も正常な男に、これははっきり言ってゴーモン以外の何物でもない。

だが、オレは耐えた。
耐え抜いてみせた。
この瞬間のために!

そう。そして今夜は。
解禁日・・・・・じゃない、初夜(はぁと)なんである。
くうっ・・・・・待ち焦がれたぜ!


さて。
傍らのリナはと言うと、赤くなって俯いていている。
服はまだパーティ用のドレスのまま。
ふんわりとしたスカートがかあいい。
アップにした髪の毛は、うなじでほんの少しほつれている。
細い首。
大きく開いた襟からのぞく華奢な肩。
・・・・・・食っちまいたい・・・・・。

いやいや、ここは我慢我慢。
がっついてはせっかくの御馳走がおじゃんだ。
何より、リナにとっては初めての・・・・なんだから、ソフトかつロマンチックに演出してやらねば。

「リナ。」
耳にそっと囁いてやると、ぴくんと震える肩。
く〜〜〜〜〜っっ、可愛いっ。
「っきゃっ!?ガウリイっ!?」
ふわふわのドレスごと、抱え上げる。
軽い。羽根でも生えてんのか?
もっと食って、あちこち肉つけてもいいよな・・・・・・。
おっと。
腕の中でじたばたするリナに、ウィンクを一つ。
「知ってるか?どっかの国の風習では、花嫁は抱きかかえて新居に入るべしって。」
驚いた顔のリナも可愛い。
「ガ・・・ガウリイがそんなこと知ってるなんて・・・・。」
「オレだって頭を使うことくらい、たまにはあるさ。」
今、この瞬間をオレは物凄く楽しんでいた。


誰かがオレ達のために、すっかり家の用意をしておいてくれた。
居間のテーブルの上には、キャンドルが灯され、グラスが二つ、ワインが一本。
だがオレはそれに目もくれず、リナを抱いたまま階段を上がる。
リナの小さな手が、きゅっとオレのシャツを掴む。

辿り着いたのは、二階の寝室。
御丁寧にドアにはプレートがかかり、結婚おめでとうの文字が。
有り難くその部屋のドアノブを握る。
かちり。
きい〜〜〜〜〜〜〜〜。

壁際に置かれた小さなテーブルには、やはりキャンドルが灯されていた。
そして花束が。
オレ達は祝福されている。
いや、オレが。
中央にはキングサイズのベッドが一つ。
そう。ベッドは一つなのだ。
そしてここには、花婿と花嫁。
誰にも文句は言わせないぜ。

リナを抱いたまま、オレはベッドカバーをはがし。
そして壊れやすい宝物のように、そっとリナを降ろす。
リナはぎゅっと目と閉じている。
額にくちづけた。ぴくりと反応。
「ガウリイ・・・。」
恥ずかしそうに目を開いたリナ。
キャンドルの灯に浮かび上がる彼女は、今までに見た中で一番綺麗だ。
「リナ・・・。」
待ったぜ、この瞬間を。
・・・・長かったぜ・・・・。

オレはゆっくりとリナに顔を近付け、心からのキスをする。
リナが目を閉じた。
オレはリナの華奢な両肩に手をかけ、そのままゆっくりと・・・・・。





「リナ・・・・。」
「ガウ・・・リ・・・・・・。」
「愛してる・・・・。」
「ち・・・・・」
「愛してるよ・・・・。」
「ちょ・・・・」
「リナ・・・・。」
「ちょっっと待って!や・・・・やっぱっ・・・・

ダメえええええっ!!

・・・・・へ。


あからさまな拒絶に、オレは慌てて身を起こす。
「リナ・・・・?」
「やっぱダメ!ダメ!お願い、ガウリイっ!」
リナは左右にぶんぶんと首を振っている。
「ダメって・・・・。だってお前・・・・。」
覗き込むと、これ以上ないくらいに真っ赤に染まった頬。
「や・・・やっぱダメ!〜〜〜〜〜こ、恐いのっ!」
「恐いって・・・・。」
「と、ともかくダメ!今夜はダメ、お、お願い、ね?ね?」
そう言うと、リナは小さな手でオレの胸をぎゅうぎゅうと押し出した。
「リナ・・・。」
「だ・・・・だって・・・・・。」
その目に滲む涙。


オレの中から、ぷしゅううううううっと何かが消えていく。
はあ。
ここまできて、それはねーだろ・・・・。
だがしかし。
リナの涙に滅法弱いのも、またオレだ。
ホレた弱味ってやつか・・・。

オレは頭をがりがりと掻くと、長々とため息を吐き、自分の口がこう言うのを耳にした。
「わかったよ。・・・リナが、大人になるまで待つ。自然に、オレを受け入れてくれるまで。」
「・・・・ホントに?」
乱れた前髪、乱れた着衣、ほっそりとした首・・・・・
くそ・・・・・っ
そんな潤んだ目で見上げるなよ・・・・。
「・・・ああ。ホントだ。」
「ご・・・・ごめんね、ガウリイ・・・ごめん。」
しゃくりあげるリナ。
ため息をついて、その頭を撫でてやるオレ。

はあ。
オレって・・・・やっぱ、バカだろうか?
待ちに待ったこの時をみすみす逃し、その上、リナが『オトナになるまで待つ』だと・・・・?
これから晴れて夫婦として、誰はばかることなく新婚生活に突入するオレ達が。
順風満帆、らぶらぶすい〜とらいふが待っているオレ達が。
まさか、まだプラトニックだなんて誰が信じるだろ〜〜〜〜〜か?

オレこそ、信じたくねーよ・・・・・。







ぴちぴち。
ちゅくちゅく。

オレはぼ〜〜〜〜っと、朝食の仕度をするリナの背中を見つめる。
結局、あれから一睡もできずに朝が来てしまった。
隣で安心したようにすやすやと眠るリナが、どんなに羨ましかったことか。
その隣で悶々と過ごす一夜の、長かったこと長かったこと。
・・・・・ちくしょ〜〜〜。

「あの・・・・・その、き、昨日は・・・・ごめんね?」
朝から豪勢な食卓を前にして、リナはエプロンを脱ぎながら言った。
「で、でもね?あの、その、だ、だからってガウリイが嫌いってわけじゃ・・・・ないのよ?」
ぽっと染まった頬で、必死に言いづらいことを口にするリナ。
照れ性の彼女にしてみれば、かなり努力のいったこととは思うが。
オレは全然別のことを考えていた。
テーブルにずらりと並んだ御馳走の数々を。
今すぐざあっと手で払いのけて。
朝食の代わりにリナを・・・・・・・・・

っと。
いかんいかんっ。
オレはぶるぶると首を振る。
「ガウリイ?」不思議そうなリナの声。
「どうかしたの?」
慌てて笑顔を作り、こう答える。
「い、いや、何でもない。」
「えっと・・・・。だからね・・・・。だから、もうちょっとだけ待ってくれる・・・・?」
再びリナが話し出す。

そう。
リナは、単に初めてのことを怖がっているだけだ。
決してオレに愛想が尽きたとか、そんなんじゃない。
オレはちょびっとだけ自信を取り戻す。
よし。
今はとにかく、リナの恐怖心を取りのぞいてやるしかない。
我慢だ、オレ。
「わかったよ、リナ。お前が落ち着くまで待つから・・・。な?」
手を伸ばして、頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
露骨にほっとした顔になるリナ。
オレの胸はちくりっと痛む。

だがこの日の朝までは、比較的寛大な気持ちでいられたのだが・・・・。
それから、オレの血と汗と涙の物語は始まったのである・・・・。









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