「ガウリイの血と汗と涙の!?結婚物語♪」


「ガウリイさん!どういうことなんです!」
「へ??」

家への訪問からしばらくしてのこと。
オレの仕事先に、アメリアが突然訪ねてきた。

オレは街で、子供相手に剣術を教える道場の手伝いをしている。
平和なこの街では、剣術は生活や防衛の手段ではなく、紳士のたしなみの一つとされているらしい。名家の坊ちゃんや金持ちのボンボン相手に、気合いを入れるのがオレの仕事だ。
アメリアが来たので、好奇心旺盛の子供達は鈴なりになってしまった。
「ねえねえ、この人誰?」
「もしかして先生の奥さん?」
「なんだ、まだコドモじゃん。」
「でもムネでっけ〜〜〜〜。」
「先生、やるじゃんよ〜。」
「ええいうるさい。お前ら、オレが戻ってくるまで素振り100回!」
「え〜〜〜〜」
ぶ〜〜ぶ〜〜〜。

やっとのことでアメリアを道場の中庭に引っ張って行ったのだが、着くなりアメリアはオレを問いただしはじめた。
「リナさんから聞きましたよ?毎晩どこかへ出かけているそうですね!」
「へ?」
「しかも朝帰りだとか!一体どういうことなんです、説明してもらいましょーか!」
「あ、アメリア。あのな。」
ずずずいっ。
アメリアはオレにつかみかからんばかりだ。
「リナさんが心配してましたよ!そりゃあ、あの性格ですから、素直に心配してるなんて言いませんけど、わたしにはわかるんです!リナさん、悩んでます!」
「アメリア、ちょっと話を・・・・。」
「奥さん泣かせてどうするんです、ガウリイさん!
事と次第によっては、ただじゃ済ましませんよ!毎晩毎晩、どこで何をしてるんです!」
「うっ・・・・。」
「まさか、どこかよそに女の人でもいるんじゃないでしょーーーね!」
「へっ!?」
「リナさんとやっと結婚できたのに、他の女にうつつを抜かしていたら、このアメリア、胸に20年近く培った正義の炎で、あなたを丸こげにしますからね!」
「あ・・・・あのなあ。」
「で、どうなんです!」






夕刻。
道場からの帰り道、オレは家に帰るのが何となく恐かった。
アメリアの猛攻は何とかかわせたが、リナをかわす自信はオレにはない。
さて・・・・・どうすっかな・・・。
考え事をしているうちに、森の奥へと分け入ってしまった。
家からどんどん離れていく。

くっそ〜〜〜〜〜〜。
飛んでスキップして、帰るはずの家が。
足が向かなくなるなんて、どーいうこったよ。

オレはどんどん暗い気持ちになり・・・・・。





寝転んだ草の上。
星が一つ流れた。
家へ帰ろう、そう思った。



きいぃぃぃぃぃぃ・・・・・。

家の中は真っ暗だった。
リナはとっくに眠ってるよな・・・。
オレはできる限り音を立てないように、そっとドアを閉める。

居間へ入り、ソファに腰を下ろそうとしてぎくりとした。
先客がいたのだ。
「リナ・・・・?」
他の誰がいる。

オレはテーブルの上に手を伸ばし、手探りでマッチを探し、キャンドルに火をつけた。
あの晴れがましい日の晩、誰かが飾ってくれたキャンドルに。
ぽうっと点った頼りない光の中に、リナの小さな姿が浮かび上がった。
「どうしたんだ・・・・。眠ってたんじゃ、なかったのか。」
隣に座り、その頭を撫でようとした。

ぱしっ。

軽く払い除けられたオレの手。
今の、リナが?
「あ・・・・あたしに不満があるなら、そう言ってよね・・・。」
声が震えている。
「不満・・・・?何を言ってるんだ。オレは別にそんな・・・。」
「じゃあどうして、いつもあたしを置いてどこかへ行っちゃうの?今日なんて、夕飯にも帰ってこなくて・・・・。」
「ごめん。今日は・・・・オレも、どうかしてた。まっすぐに帰ろうと思ってたんだけど・・・。」
「思ったけど・・・家に帰るのが嫌だったのね?」
「ちが・・・・。」
「あたし・・・・。ガウリイに結婚しようって言われた時・・・・ホントは凄く嬉しかった。だから・・・・結婚したら、きっと楽しくて、幸せで、そういう毎日が来るんだって思ってた。でも・・・ガウリイは違うんだね・・・。」
消え入りそうな弱々しい声。
オレは慌てて反論する。
「何を言ってる。オレだっておんなじだぜ?リナがオレのプロポーズを受けてくれた時、どんなに嬉しかったか。結婚したら大事にして、絶対に幸せにするって・・・・。」

そうだ。
オレはそう、自分に誓ったはずだ。

「でも・・・・あたし・・・・。コドモで、ちゃんと奥さんになれないし・・・。」
「それは待つって言ったろ?」
「その言葉に甘えてたのよね・・・・。ガウリイが我慢してたってことにも全然気付かなくって・・・・。」
そりゃあ、血の滲むよーな我慢してたけどよ・・・・・。
「でもだからって・・・・他の女の人がいたなんて・・・・・。」
「へっ!?」
リナの肩を抱こうとしていたオレは、ソファの上に飛び上がらんばかりに驚く。
ほ、他の女???
「毎晩・・・いなくなると思ってたら・・・・。他の人がいたのね・・・。」
「ちょ、ちょっと待て、リナ。あのな?」
「聞いちゃったの・・・。あなたのところに他の女の人が訪ねて来たって・・・。一緒にいるところを見たって・・・。あたし・・・・全然、わからなくって・・・。」
ど、どういうことだ。
オレの頭の中でぐるぐると渦巻きが周り出す。
「あ・・・・あたしが、ちゃんとしてあげられないからだよね・・・・。奥さん失格だよね・・・・。だ、だから・・・・。け、結婚解消するなら、は、早目に言って欲しいなって・・・・。」

結婚解消だあ!?

オレは思わずリナの両肩を握り、がくがくと揺すぶりそうになった。
危ういところで自分を抑え、深呼吸。
すうはあ。
よし。
「あ・・・・あのな?リナ。どっからそんな話を聞いたか知らんが・・・。オレは、他に女なんていないし、お前と結婚の解消をするなんて、これっぽっちも思ってないぞ?」
「慰めてくれなくてもいいのよ・・・。ホントのこと言って。」
あのなあ。
「気休めを言ってるんじゃない!ホントもホント、まっさらのホントだ!オレはリナを愛してるし、愛してるから結婚したんだし、これからも、この先も、一生ずっとリナだけを愛してる!これだけは絶対、間違いない!」
「うそ・・・。」
「嘘なんか言うもんか。オレの言葉が信じられないなら、他のヤツに聞いてもいい。オレはリナにぞっこんで、食べちまいたいくらいに惚れ込んでて、やっと結婚できて涙が出るほど喜んでるってな。」
「うそばっか・・・。」
「だから。何で嘘だと思うんだ。オレはなあ・・・・。」

惚れ抜いたお前だから、我慢もしてるんだぞ。
と言ってやりたいぜ、ちくしょー。

「だって・・・。あの子達が・・・。」
「へ?・・・あの子??」
「夕方・・・・来たのよ、ここに。10人くらいの子供が。」
「子供・・・・・?」
ぴんっ。
「笑いながら言ったの。今日、先生のとこにすっごい美人が訪ねて来ましたよ?って。胸ば〜〜んの、腰きゅっの。奥さん、知らないんですか?って。」
「・・・・・まさか・・・・あいつら・・・・。」
「先生、男前だからモテて大変ですねって。笑って、行っちゃったわ。」
「許さねえ・・・・。明日っから素振り600回ずつだ・・・。」
「ガウリイ?」

オレは、まじまじとリナの顔を見る。
ああ。
なんか長いこと、リナの顔をゆっくり見てなかった気がする。
オレは何をしてたんだ。
我慢するためとは言え、リナに一人、こんなに寂しい思いをさせて。

「・・・あのな。リナ。そいつらはオレの仕事先で・・・。」
「知ってるわ。道場の子達でしょ?」
「今日訪ねて来たのは、アメリアだ。」
「え・・・・?」
「お前が心配してるからと、オレを怒りに来たんだよ。それを、面白がったあいつらがわざわざお前を冷やかしに来たんだ。」
「確かに・・・今朝、アメリアが来たけど・・・。ほ、ホントに・・・?」
「嘘だと思うなら、明日、アメリアに聞いてみな。アメリアは嘘をつかないと思うぜ?」
「そ・・・それじゃ・・・・。」
「他の女なんて、真っ赤なウソだ。オレが素振りばっかさせるもんで、あいつらは仕返しをしようとしたんだ。明日行ったら、とっちめてやるからな。」
「・・・でも・・・・じゃあ・・・・毎晩、どこへ行ってたの・・・・?」

気付かないとばかり思い込んでいたオレは、リナがどれだけ不安な気持ちで夜を過ごしていたかをやっと知った。
オレはリナの何を見ていた。
オレ達は結婚して、夫婦になった。
夫婦ってのは、こんなのじゃないだろ?

リナに済まない気持ちで一杯になり、オレは腕を伸ばしてリナをそっと抱き締めた。
懐かしい髪の感触に頬ずりし、幾夜ぶりかのキスを送る。

「ごめんな・・・・。不安な気持ちにさせてばっかで。オレこそ、夫失格だよな・・・。」
背中に回した手で、ぎゅっとオレの服を掴むリナ。
「どこ・・・・行ってたの・・・・?」

腕を解き、オレはリナの小さな手を取り、オレの頬に当てる。
あったかくて、柔らかい、オレの大事な奥さんの手。

「森の中でな・・・。走ってた。」
「は????」
「走ったり、腕立て伏せしたり、素振りをしたり。いわゆる・・・その、筋トレってやつかな・・・。」
「ガウリイ・・・・?」
「あのな・・・・リナ。」
「なに・・・・?」
「ゼルに言ってたことな・・・・。あれ、全部ホントなんだ。」
「・・・・?」
「バカバカしいかもしんないけど。男ってそんなもんだよ。」
「ガウリイ・・・・?」
「好きならキスしたい、抱き締めたい、もっともっと相手に近付きたい。愛してるなら相手の全てを知りたい、確かめたい。な?単純だろ?」
「・・・・。」

やせ我慢をするより。
思ったことをぶちまけてしまおうと思った。
かっこ悪いけど。
リナを不安にさせるよりは、ずっといい。

「だから・・・ホントは、辛かった。オレはリナが好きだし、愛してる。もっと一緒にいたくて、結婚したいと思った。だけど、お前はまだ恐いって言うし、オレは待つって約束しちまうし。正直、限界だった。」
リナがびくりとおびえる。
「怒ってるんじゃないよ。ただ、無理強いは嫌だったから、リナがその気になるまで待つってのは、勿論オレの本心だった。だけど頭でわかってても、そばにお前がいたら、どうしても触れて、抱き締めて、それ以上のことをしちまいそうで。・・・だから、外へ出たんだ。」
頭を撫でる。
「だけど・・・後悔してる。」
「え?」

見上げた小さな顔。
赤く染まった頬。
キャンドルの灯に、きらきらと反射する瞳。

頬にくちづける。抱き締める。
「外へなんて逃げないで、言えばよかった。」
「なにを・・・・?」
耳に囁く。
「お前は怖がるかも知れないけど・・・。オレは、欲しくてたまらないって。」
「ガウ・・・・・」

真っ赤になったリナの顔が、手に取るようにわかる。
もっと早く、言ってやれば良かったのにな。
オレも大馬鹿野郎だ。

「リナを愛してる。世界中でたった一人、リナだけを。欲しいのはリナだけだし、他には何もいらない。」
「ガウリイ・・・。」
腕の中の声は、蚊の鳴くようなような声だ。
「お前が望むなら、明日っからオレは、これを大声で言いながら仕事に行くぞ。誰に聞かれたって構うもんか。」
「ちょっ・・・・やめてよ、恥ずかしいじゃないっ・・・。」
「何が恥ずかしい?オレはいっつもそう思ってるぜ?胸の中で。」
「ガウリイ・・・。」

リナを抱く腕に力を込める。

「愛してるよ、オレの奥さん。」
「ガウリイ・・・」
「愛してる。もう、どこにも行かない。」
「ホント・・・に・・・・・?」
「ああ。今夜から、ずっと一緒だ。あの部屋で。」
「・・・で、でも・・・・・。」
「リナが恐いのもわかってる。でも、オレもこれ以上、お前を不安にさせたくない。」
「ガウリイ・・・。」
「ごめんな、リナ。約束、守れない。」
「ガウリイっ・・・・」
「恐くないから・・・・。一緒にいよう、リナ。」
「一緒に・・・・?」
「一緒に。もう離さない。」
「ガウリイ・・・・・。」


その晩から。
オレは外へ出かけることも、ソファで眠ることもなくなった。





朝。

顔を洗い、タオルで拭きながらキッチンへ行くと、朝食の仕度をするリナがいる。
背中から抱き締めると、ぎゃっと驚く。
身をすくめたリナに、おはようのキス。

道場が休みの日には、一緒に洗濯物を干す。
庭に張ったロープに、白い洗濯物がずらりと並ぶ。
気持ちのいい風が吹く中、オレはリナの手首を掴み・・・・。

行ってきますのキスや、ただいまのキスは、誰が一緒にいても必ずする。
お陰で巷では噂のらぶらぶ新婚さんだ。
風呂だって・・・・・(謎)
そして夜は、一緒の部屋に消える。
時々、リナを抱き上げて部屋に入る。




ある日、訪ねてきたゼルがこう言った。

「大分辛そうだな・・・。目の下のクマが取れてないぞ・・・。」

オレはにこりともせずに、こう言った。
「寝不足なんだ・・・・。」

呆れるゼル。「また、円満なお陰じゃない寝不足か?」
にやりと笑うオレ。「いや。円満なお陰でな・・・・。」

ずるり。
がたたっ。
がつっ!
ざくざくっ!


こうして我が家の床に、また新しい傷が増えたのだった。
























ちゃんちゃん(笑)
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のべ10万ヒットをゲットされた、ぐり〜んぽまとさんからのリクエスト作品です。

『ようやっとリナとらぶらぶ(死)になったがうりん君。「結婚するまではイヤ。」というリナちゃんの言葉に従い、ず〜〜っと我慢してきてやっとの思いで結婚までこぎ付けたけど、待ちに待った「初夜(はあと)」の晩。ものすごく恥かしくって、恐くなっちゃったリナちゃんにかあいらしく拒まれちゃって「リナが大人に成るまで待つよ。」などと、物分りの良いことを言ってしまい手をつける機会を失ったまま新婚生活に入ってしまう・・・・というようなお話。』がリクエストでした・・・・。

ご、ご期待に添えましたでしょーか・・・・?(おそるおそる)
一部、低年令の方に読ませてもいーんかい・・・・っつー内容でしたが・・・。
何とか裏行きにならずに良かった良かった♪(半分、足を突っ込んでるとも言う・・・?)
びっくりされた方もいるかと・・・(笑・ね?カイちゃま♪)


何よりコメントの『頭の中は、リナちゃんへの思いで真っ黒クロスケな黒がう君。でも表面は、可愛いリナちゃんの為に物分りのいい白がう君。(名づけて『饅頭がうりん』)』に大ウケしたそーらでした(笑)ツボすぎる〜(笑)

ほとんど全編ギャグになる予定だったんですが、二人だけの新婚生活だとボケを入れてくれる人がいにゃい・・・・(笑)ので、後半はちびっとシリアスに迫ってみました。
リナちゃんがほとんどタダの人で、思い残すところも無きにしもあらずですが(笑)
砂糖菓子にメープルシロップかけて、スプレーチョコかけて、グラニュー糖ふって、それをあんみつの上に載せたようなお話ですが、まあお許しを(笑)
ということで、10万ヒットをゲットして下さったぐりーんぽまとさんに、そして、読んで下さった全ての方に、砂糖のようにあま〜〜〜〜〜い愛を♪
愛してます♪みなさま♪

そーらがお送りしました♪

 


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↑別の話の時のおまけ絵でした(笑)<らぶらぶがない
ちなみにその時のコメント。
『天窓から星を見る新妻と、星なんか見ちゃいねーダンナ』
う〜ん確かにそのたうり(笑)