「リナの嬉し恥ずかし?結婚物語♪」


次の朝。
あたしは、寝室から出なかった。
ガウリイは、一度ノックしに来たが、返事がないので行ってしまった。
しばらくして、玄関のドアが開いて閉まる音がした。
あたしはベッドの上で、ぼおっとそれを聞いていた。


こんこんこんっ!

「リナさん!リナさんってば!いないんですかあっ??」

それからすぐ、アメリアが訪ねてきた。
あたしはパジャマのままでアメリアを出迎える。
「どうしたんですか、リナさん。具合でも?」
心配するアメリア。
でもあたしは、何故か説明する言葉が出てこない。
俯いていると、アメリアはしばらく黙っていたが、やがて立ち上がり、暖かいココアを入れてくれた。

「元気出して下さいね、リナさん。何だか、リナさんらしくないですよ?」
「あたしらしくない、か。」
浮かんでくるのは、冷笑ばかり。
「何があったか話して下さいませんか。わたしで良ければ、力になります!」
「・・・・」
「あ。その目つき。思いっきり信用してませんねっ?こう見えても、昔からよく相談事を受けたものなんですよ!」
「あ・・・・アメリアが?」
「そうです!そしてわたしが誠意を込めて、熱く正義と愛と友情を説くと、皆、涙を流して喜んで帰って行くんです!」
「・・・・・それ・・・・『涙を流して嫌がって、慌てて退散してる』のと、違う・・・・?」
「何か言いましたか?」
「いいええええ。なんでもおおお。」


「ガウリイさんが、家を出てる!?」

アメリアの強硬な押しに対抗するには、いかんせんあたしが寝不足とパワー不足だった。
最近、ガウリイがよく外出するという話をすると、アメリアは一気に深刻そーな顔になった。
「それは・・・・結構、大事ですね!」
「そう?」
「そうですよ!結婚したばっかりの可愛い奥さんを置いて、1人でこっそり家を出るなんて、フツーじゃありません!」
「そ・・・そうかな。」(可愛い奥さん・・・・・・かあああっ)
「そうですよ!これは、何か裏があるに違いありません!」
「う・・・裏って?」
「表に載せられない、危ない小説や絵を置いてあるページのことです。
・・・・・・って、ち・が〜〜〜〜〜うっ!そおじゃなくてえ!」
「あんた、自分で言ったんだよ、アメリア・・・。」
「こほん。つまりですね。」
「つまり?」

こしょこしょ。
こしょこしょ。





気がつくと、お昼のチャイムが街の方角から聞こえてきた。
アメリアが帰ってから、ぼおっと座ったままのあたしは、その音で我に帰った。

・・・・・。
・・・・・。
何か、しなくちゃ。
洗濯とか、お掃除とか。
夕飯の買い物とか。
あ・・・・その前に着替えなくちゃ。
あたし、まだパジャマのままだし。
えへ・・・・。
笑っちゃうよね・・・・。

あたしはかくかくと階段を上がり。
のろのろと着替えた。
何もやる気が起きなかった。


『もしかして、ガウリイさん。浮気でもしてるんじゃないですか?』

帰る前に、アメリアの言った一言が。
部屋の天井からぶら下がっている気がした。





こんこんこんっ!
こんこんこんんっ!

その時だ。
またもドアを叩く、今度は複数の音。

あたしは目をこすり、慌ててドアへと向う。
誰だろ、こんな時間に。

出てみると、驚いた。
玄関先に、前に洗ったことのある胴衣を来た男の子が、10人ほど立っていたからである。
ガウリイの仕事先、道場の生徒達に違いなかった。
「あの・・・・?」
何か、用?
と聞こうと思った。
するとその子達は、口を開くと一気にまくしたて始めた。

先生の奥さんですよね?
知ってましたか?
今朝、道場に綺麗な女の人が、先生を訪ねてきましたよ?
とっても仲が良さそうでした。
美人で、スタイル抜群で、先生も鼻の下伸ばしてました。
きっと先生の彼女ですね。
先生、フリンしてるんですよ?
奥さん、知ってるんですか?

顔を真っ赤にして。
言うだけ言うと、その子達はくるっと踵を返して、ばたばたと走り去った。
1人だけ、たった一度だけ振り向いたが、すぐに仲間の後を追って行った。






夜だった。
何もしないまま、一日が終わっていた。

キッチンの椅子に座ったまま、窓の外を眺める。
部屋の中は真っ暗だったので、星が見えた。
不思議ね。
星は綺麗だ。
いつでも。
どんな時でも。

テーブルの上には、何も並んでいない。
夕飯も作る気がしなかった。
ガウリイが帰ってきたら、どうしようとか。
そんなことも考えていなかった。

椅子から立ち上がる。
星はホントに綺麗。
このまま、いつもの服に着替えて。
いつもみたいに。
翔風界で、好きなところへ飛んで行ってしまおうか。
メンドくさいこともない、
くよくよ考え込むこともない、
1人で気楽な旅の空へと。

結婚って、なんだろ。
ずっと一緒にいること。
と、あたしは思ってた。
でもそれは、とんだ間違い。
一緒にいる時間は、すごく少なくなった。
同じ屋根の下にいても、会話も少ない。
何だか、実感なんて何にもない。
ホントにあたし達、結婚したのかな。


居間に入ると、星明りの中、見えたのはソファ。
ガウリイがここのところ眠っていた場所。
そのまま、くるっと振り返って。
脇目も振らず。
玄関から、飛び立つことだってできるのに。

あたしはそうしなかった。
ソファの上に、ぺたんと座り込んだだけ。


ガウリイ、どこにいるの?
ガウリイ、何で帰ってこないの?
ガウリイ、何を考えてたの?
ガウリイ、会いたいよ。
ガウリイ。




きいぃぃぃぃぃぃ・・・・・。

ドアの蝶番がこすれる音。
続いて、ひっそりと忍ばせた、ブーツの足音。
居間に入ってきて、それはぴたりと止まった。

「リナ・・・・?」

ガウリイの声だ。

ごそごそと気配がして、やがてテーブルの上にキャンドルが灯された。
あの結婚式の日に、誰かが飾ってくれたキャンドルに、ガウリイが火をつけたのだ。
「どうしたんだ・・・・。眠ってたんじゃ、なかったのか。」
キャンドルの明りに浮かび上がるガウリイは、まるで知らない人みたいで。
隣に座り、頭を撫でようとしたその手を、あたしは払いのけてしまった。

ぱしっ。

「あ・・・・あたしに不満があるなら、そう言ってよね・・・。」
声。どうして震えるの。
「不満・・・・?何を言ってるんだ。オレは別にそんな・・・。」
「じゃあどうして、いつもあたしを置いてどこかへ行っちゃうの?今日なんて、夕飯にも帰ってこなくて・・・・。」
「ごめん。今日は・・・・オレも、どうかしてた。まっすぐに帰ろうと思ってたんだけど・・・。」
「思ったけど・・・家に帰るのが嫌だったのね?」
「ちが・・・・。」
はっきりと言わないガウリイの態度に、あたしのイライラは頂点に達した。
「あたし・・・・。ガウリイに結婚しようって言われた時・・・・ホントは凄く嬉しかった。だから・・・・結婚したら、きっと楽しくて、幸せで、そういう毎日が来るんだって思ってた。でも・・・ガウリイは違うんだね・・・。」
「何を言ってる。オレだっておんなじだぜ?リナがオレのプロポーズを受けてくれた時、どんなに嬉しかったか。結婚したら大事にして、絶対に幸せにするって・・・・。」

ガウリイが言い淀む。
そう、あの日。
あの晴れた、熱くも寒くもない日。
誰に誓わなくても、あたしに誓うと言ってくれたガウリイは、どこにいっちゃったのかな。

「でも・・・・あたし・・・・。コドモで、ちゃんと奥さんになれないし・・・。」
「それは待つって言ったろ?」
「その言葉に甘えてたのよね・・・・。ガウリイが我慢してたってことにも全然気付かなくって・・・・。」
あたしが悪いのかな?
あたしが、ちゃんとしないから?
だから、ガウリイ?
「でもだからって・・・・他の女の人がいたなんて・・・・・。」

「へっ!?」
ガウリイの意外そうな声。

「毎晩・・・いなくなると思ってたら・・・・。他の人がいたのね・・・。」
「ちょ、ちょっと待て、リナ。あのな?」
「聞いちゃったの・・・。あなたのところに他の女の人が訪ねて来たって・・・。一緒にいるところを見たって・・・。あたし・・・・全然、わからなくって・・・あ・・・・あたしが、ちゃんとしてあげられないからだよね・・・・。奥さん失格だよね・・・・。だ、だから・・・・。け、結婚解消するなら、は、早目に言って欲しいなって・・・・。」

そうよ。
もうこんな苦しい思いはイヤ。
1人でもやもやして、イライラするのはご免よ。
言い捨てるあたしに、あたしは自分で問い返す。
ならどうして、さっき。
ガウリイなんかほっといて、玄関からさっさと出発しなかったの?

「あ・・・・あのな?リナ。どっからそんな話を聞いたか知らんが・・・。オレは、他に女なんていないし、お前と結婚の解消をするなんて、これっぽっちも思ってないぞ?」
「慰めてくれなくてもいいのよ・・・。ホントのこと言って。」
「気休めを言ってるんじゃない!ホントもホント、まっさらのホントだ!オレはリナを愛してるし、愛してるから結婚したんだし、これからも、この先も、一生ずっとリナだけを愛してる!これだけは絶対、間違いない!」
「うそ・・・。」
「嘘なんか言うもんか。オレの言葉が信じられないなら、他のヤツに聞いてもいい。オレはリナにぞっこんで、食べちまいたいくらいに惚れ込んでて、やっと結婚できて涙が出るほど喜んでるってな。」
「うそばっか・・・。」
「だから。何で嘘だと思うんだ。オレはなあ・・・・。」
「だって・・・。あの子達が・・・。」
「へ?・・・あの子??」
「夕方・・・・来たのよ、ここに。10人くらいの子供が。」
「子供・・・・・?」
「笑いながら言ったの。今日、先生のとこにすっごい美人が訪ねて来ましたよ?って。胸ば〜〜んの、腰きゅっの。奥さん、知らないんですか?って。」
「・・・・・まさか・・・・あいつら・・・・。」
「先生、男前だからモテて大変ですねって。笑って、行っちゃったわ。」
「許さねえ・・・・。明日っから素振り600回ずつだ・・・。」
「ガウリイ?」

ガウリイが、じっとあたしの顔を見つめた。
どこかよそよそしいと思っていた雰囲気が、少しずつはがれる感じがした。

「あのな。今日訪ねて来たのは、アメリアだ。」
「え・・・・?」
「お前が心配してるからと、オレを怒りに来たんだよ。それを、面白がったあいつらがわざわざお前を冷やかしに来たんだ。」

確かに・・・今朝、アメリアが来たけど・・・。ほ、ホントに・・・?

「嘘だと思うなら、明日、アメリアに聞いてみな。アメリアは嘘をつかないと思うぜ?」
「そ・・・それじゃ・・・・。」
「他の女なんて、真っ赤なウソだ。オレが素振りばっかさせるもんで、あいつらは仕返しをしようとしたんだ。明日行ったら、とっちめてやるからな。」
「・・・でも・・・・じゃあ・・・・毎晩、どこへ行ってたの・・・・?」

するとガウリイは、そおっとあたしを抱き締めた。
初めは抵抗しようと思った。
でも。
この腕には逆らえない。
この暖かさには逆らえない。
あたしを、安心させてくれるのは、この腕だけだもの。
他の誰でもないもの。

ガウリイはあたしの髪に頬ずりをし、優しいキスをひとつすると言った。
「ごめんな・・・・。不安な気持ちにさせてばっかで。オレこそ、夫失格だよな・・・。」

じゃあ・・・ホントなの?
ホントに?
ガウリイは、今まで通りのガウリイなの?
あたしの知らない、別の人になってしまったんじゃなくて?

「どこ・・・・行ってたの・・・・?」

ガウリイは腕を解き、あたしの手の平を取って、自分の頬に当てた。
ガウリイの頬は冷たかった。
まるで、ずっと外にいたみたいに。

「森の中でな・・・。走ってた。」
「は????」
「走ったり、腕立て伏せしたり、素振りをしたり。いわゆる・・・その、筋トレってやつかな・・・。」
もしもし?
「あのな・・・・リナ。ゼルに言ってたことな・・・・。あれ、全部ホントなんだ。」
ガウリイが恥ずかしそうに告白した。
えっと。
ゼルに言ってたことって・・・・何だっけ。
「バカバカしいかもしんないけど。男ってそんなもんだよ。好きならキスしたい、抱き締めたい、もっともっと相手に近付きたい。愛してるなら相手の全てを知りたい、確かめたい。な?単純だろ?」
「・・・・。」

ガウリイは、今、自分のかっこ悪いところをさらけ出そうとしてくれていた。
あたしは耳を傾ける。
ガウリイの一言一言に、注意する。

「だから・・・ホントは、辛かった。オレはリナが好きだし、愛してる。もっと一緒にいたくて、結婚したいと思った。だけど、お前はまだ恐いって言うし、オレは待つって約束しちまうし。正直、限界だった。」
どきん。
あたしが、びくりと震えると、ガウリイは強く言った。
「怒ってるんじゃないよ。ただ、無理強いは嫌だったから、リナがその気になるまで待つってのは、勿論オレの本心だった。だけど頭でわかってても、そばにお前がいたら、どうしても触れて、抱き締めて、それ以上のことをしちまいそうで。・・・だから、外へ出たんだ。」
ガウリイの手は、ずっとあたしの頭を撫でてる。
「だけど・・・後悔してる。」
「え?」

見上げた先に見えたものは。
いつもの、ガウリイ。
まっすぐに。
何も隠さず。
思った通りに、思ったままの言葉で、話してくれるガウリイ。
あたしにとって。
一番、安心できて、一番、信じようとする努力もいらずに信じていた、ガウリイだ。
あったかい腕。
真昼の空のような瞳。
ガウリイだ。
何も、変わってなんか、いない。

「外へなんて逃げないで、言えばよかった。」
頬にキス。あたしを抱き締めると、ガウリイが言った。
「なにを・・・・?」
囁くあたしに、ガウリイが囁き返す。
「お前は怖がるかも知れないけど・・・。オレは、欲しくてたまらないって。」
「ガウ・・・・・」
「リナを愛してる。世界中でたった一人、リナだけを。欲しいのはリナだけだし、他には何もいらない。お前が望むなら、明日っからオレは、これを大声で言いながら仕事に行くぞ。誰に聞かれたって構うもんか。」
あたしは慌てて身を離そうとする。
「ちょっ・・・・やめてよ、恥ずかしいじゃないっ・・・。」
「何が恥ずかしい?オレはいっつもそう思ってるぜ?胸の中で。」
「ガウリイ・・・。」

ガウリイの腕に、ぎゅっと力がこもった。
それは、気持ちを伝えようとしているようで。
言葉よりも。
視線よりも。
何より心に刺さった。


なんてばかばかしい騒ぎだったんだろう。
あたし達。
ガウリイは、我慢して。
あたしは、疑って不安になって。
お互いがもうちょっとだけ、素直な自分をさらけだしていれば、こんな誤解は起きなかった。
何のために結婚したの、あたし達。
何よりも、誰よりも。
近いところにいるためじゃないの?
こんな些細なことで、心が遠く離れてしまうこともあるんだね。
ならもっと、一緒にいよう。
もっと、近くにいこう。
恐いなんて言ってないで。
あたしは、ガウリイに近付こう。
もっとよく、お互いを知るために。
そしてゆっくり。
ホントの夫婦になっていくんだね。


「愛してるよ、オレの奥さん。」

ガウリイがそう耳に囁いて。

降りてきた唇が、頑になっていたあたしの心を融かし始めると。

あたしはもう、何がなんだかわからなくなっていた。

ガウリイはずっと、何事か囁いていたけれど。

意味も内容も、自分の受け答えすら。

肌の上を、滑っていった。




それからのことは、それこそホントの、ナイショ、である。








ある日、訪ねてきたアメリアがこう言った。
「リナさん、この間は、余計なことを言って心配させてしまって。
大丈夫ですよ、ガウリイさんは絶対、浮気なんかしませんとも!
このアメリアが保証します!」
そしてあたしの顔を覗き込むと言った。
「顔色悪いですよ?もうそんなに心配しないで下さい。」

あたしは、ぽっと赤くなるとこう答えた。

「うん。大丈夫よ。
ガウリイの身の証は、ホントにアメリアが立ててくれたんだから。
それに、顔色悪いのは、ただの寝不足。」

アメリアはにぱっと笑った。
「そうですか、それは良かったです・・・・・・・・・・・?
(ぐるっ!)

ね、ねぶそくううううううっ!?


























ちゃんちゃん(笑)
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お待たせいたしました。「結婚物語」のリナさいどをお送りします。
ひたきさん、謎の解明になりましたか?(笑)一体、何の研究をしてたんでしょうねえ。
あっ・・・・変な想像をしちゃいました(爆笑)あああっ、ヤバすぎるっ(笑)
ここでは言えないっ!(何を想像した、何を!)
同じ場面でも、ガウリイとリナが全然違うことを考えているあたり、笑ってやって下さい(笑)
しかし、羨ましい(笑)そーらんちには、新婚生活なんてありませんでしたわよ(おほほほ)だからアレは経験(爆)じゃなくてソーゾーです(爆笑)

では無事に新刊の入稿も終え(笑)後はどうなるか運(出来)を天(印刷所)にお任せ状態のそーらより、皆さんにできたてほやほやのあま〜〜〜〜い愛を♪
そーらがお送りしました。

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