「離れたいのに?」


静かだ。
犬の遠ぼえすら聞こえない。
現代社会なら、部屋に一つはありそうな時計のチクタク音も聞こえない。



ふああ、とあくびをしたのはリナだった。
ガウリイは笑って、ソファで先に寝るように言った。
リナはころり、とソファに寝転がる。
ガウリイは、片付けたテーブルの上に腰掛ける。

「何だか、さ。」
毛布の下から、顔だけ出してリナが呟いた。
「ん〜?」
明後日の方向を向いていたガウリイが、生返事をよこす。
「ん〜ん。何でもない。」
何を慌てたのか、リナの顔が毛布の下にさっと消えた。
ガウリイは振り返る。
「何だよ?」
「・・・・・・。ん・・・何だか、さ、その・・・・」
「・・?」
誰かに手をつないでもらって寝るのって、すっごく久しぶり・・・。
毛布の下から、思いきり照れたようなくぐもった声。
ガウリイは微笑んだ。
「離せったって、離せないから。いいから、眠っちまえ。」
「ん。」
寝息が聞こえてきたのは、それからすぐだった。



ガウリイはテーブルに腰掛けたまま、毛布の端をめくる。
現れたのは、無邪気な寝顔。
自分の手の中の、小さな手を今さらながらに意識する。

さっき、クモをよく見ようとリナに顔を近付けただけで、彼女が緊張したのがわかった。
毛布の下にいたせいか、少し上気した、ふっくらとした頬に触れてみる。

こうしても、身構えたりしなくなるのは、いつのことかな。
こうして手をつなぐみたいに、自然に触れ合えるのは。
・・・当分、無理かもな、と一人で苦笑い。
ただ、一緒にいることはできる。
他愛のない会話や、食事の取り合いも、二人にとっては自然な事で。
長い道のりを歩いて行くうちに、そういう自然が、どんどん増えることをガウリイは祈った。

もしかしてオレって、『自然を愛する同好会』に入れるかも、とガウリイはくすりと笑った。





っっごおおおおんん!!

「な、なに!?」リナが跳ね起きる。
ガウリイはすでに剣を抜いていた。
「行くぞ、リナ!」
ぐん、と手を引っ張られ、リナは寝惚けまなこをこすりながら付いて行く。


工場に隣接した倉庫に火の手が上がっているのが見えた。
急いでリナは呪文を唱える。

「氷結弾!」(フリーズ・ブリット)

氷のつぶては火を直撃。急激に温度を下げ、火は消える。
周囲からどよめきの声が上がった。
「またあんた達なの、自然を愛する同好会さん?」
リナが投げたライティングの明かりに浮かび上がったのは、昼間情けなくも逃げ出した首謀者格の男。
「て、てめーら・・・・!」
こちらを見て、何故か小刻みに肩を震わせている。

「お、俺達をよっぽどバカにしてるな!?昼どころか、こんな夜中でも仲良く手をつないで来やがってぇ・・・・!」
泣くなよ(笑)
「あ、あたしだって好きでこんな事やってんじゃないのよ!」
「じゃあ、なんだ!」
「そ、それは・・・・」と口ごもるリナ。
「は〜〜〜い。それは、せっちゃくなんとかでくっつけられたからで〜〜す」
思いきし無邪気に答えるガウリイ。おい・・・・。
「せ、せっちゃくなんとか?」律儀にも聞き返す男。
「接着剤ですよ。僕の発明した、ね。」
暗がりから、男に声をかけた者がいた。

「だ、誰だ!」
「いやだなあ、会員の顔を忘れたんですか、会長さん。」
暗がりから進みでて来たのは、誰あろう、工場でリナとガウリイの手に接着剤をつけた研究員その人であった。

「あ、あんた・・!」
気付いたリナが絶句する。
「思い出したぞ、お前は会員番号13番!今のはどおいう意味だ!」
がなる会長。
「ですから。」研究員こと、自然を愛する同好会メンバー、会員番号13番は、眼鏡のズレを直しながら答えた。
「昼間、僕が細工しといたんですよ、こいつらに。僕の発明した、ウルトラ凄い発明品、アロンベータ1号で、こいつらの手をぴったりくっつけといたんです♪彼等は、今、おふざけやラブラブで手をつないでるんじゃなくて、僕の付けた接着剤のおかげで、片手がふさがってるんですよ。」

『おふざけとラブラブ』のコメントに、リナのこめかみがぴくりと引きつる。
「へ・・・へええ。そぉーいうことだったのね・・・・」
ぴくぴくぴくぅっっっ!
ガウリイは、嫌な予感に不安な笑いを浮かべつつ、すすす、と心持ちリナから離れる。

気を取り直した会長は、会員番号13番に確認する。
「そ、それじゃあの二人、離れたくても離れられないって訳だな!」
「そおいう事です。」
「つないだ手を離そうと思っても、離せないって訳だな!」
「そおぉおいう事です。」
「なるほど。」にやり。
「よおっしゃああ!そうならそうで、やり方があるわあ!お前ら、気を入れてかかれ〜〜〜!」いきなし強気。
お〜〜〜〜。
わらわらと、また闇から小グモのごとき他の会員達。
「あいつらは、手をつないだまま離れられなくなってやがるんだ。てめーらで囲んじまえ!」
お〜〜〜〜!

「ちっ!」
ガウリイは舌打ちし、円に囲まれないよう、壁を背にして立てるところまで移動しようと走り出した。
が。
かっくん、とその動きが止まる。
「り、リナ!?」
暗雲立ち篭めたリナが、ぴくりとも動かないでそこに立っていた。
ガウリイの嫌な予感が当たり・・・そう?

「さっきから黙ってれば言いたい放題言ってくれて・・・。
あんたたち、タダで済むとは思って無いでしょーねぇ・・・」
ぴくぴくぴくぴくぅっ!
賊の一団はびくびくびくうっ!

「ひ、ひるむなあ!」と会長。
「それからあんた!」びし、と指差されたのは会員番号13番。
「な、なんですか。」
「よくも、んな会の為だか何だか知らないけど、こんなことしてくれたわね!お陰で丸一日、不自由極まりない生活を強いられたのよ、こっちはあ!」
「わ、わ、我々の会をバカにするなあ!」
復活した会員番号13番。

「オレ達はなあ、オレ達は・・・ここの森で育ったんだ。オレ達の遊び場だったんだ、この町の森が!ところがどーだ!この工場が出来たおかげで、森は半分に減っちまった!オレはなあ、森を、いや自然を守りたいんだ!」
はあはあ。ぜいぜい。
「・・・・・。」リナのじと目。
「あんた・・・・・・言ってて恥ずかしく無い?」
「う・・・ちょっぴし・・・って、んなことはいいいいい!僕らの会を邪魔するなら、好きにするがいいさ!」

リナとガウリイの前に、緑のバンダナをどこかしらに身につけた一団が、目を潤ませながら一列に並ぶ。うるうる。

ぽしぽし。
リナは頬を掻き・・・・ガウリイと目を合わせる。
はあ。
重なるため息。



「も〜〜〜い〜〜〜わよ・・・・・・・」
「は?」
「もーいーって言ってんのよ。」あきれ顔のリナが手をさっさっと振る。
「この場は見逃してやるから、さっさと消えて。」
「そ、そうはいかん!」リキむ会長。
「これも会の活動の一部だ!だが、例えこの場を辞しても、またわれらはやってくるぞ、それでもいいのか!」
あら。ちょっぴし弱気。
「あのねえ・・・・」
リナは頭を振りながらため息。
やおら顔をあげると、びし、と会長を指差す。
(こらこら。人を指差しちゃいけないよ・汗)

「あんたたちねえ・・・。自然を愛する同好会ってのは、名前を変えた方がいーわよ!どぉこが自然を愛してんのよ?あんた達がやってるのは、どっちかとゆーと、自然破壊じゃないの。」
指差した先は、少し焦げ目のついた倉庫。
リナの放った氷の呪文で、あちこちまだ凍っている。
「し、しかしこれは・・・!」
「あんた達が真に自然を愛し、森を守りたいなら、他にやる事あるでしょ!」
「え・・・・」
「例えば、一年に伐採する木の数を制限するよう役所に申請するとか、樹齢何年以下の若い木は切らないようにして貰うとか、一番簡単で手っ取り早いのは・・・」
「な、なんだ?」会長の目は真剣である。
リナはこんな単純な事も知らないのかと呆れてみせる。
「植林よ。苗木を植えるの。すぐに森にはならないけど、あんた達の子孫には、少なくとも森を残せるかもしんないじゃない。」
「あ・・・・」

ぽかん、と口を開けた、同好会の面々。

しばしの沈黙が流れる。

「そ・・・・そうか・・・・・そうだよな・・・」
会長が呟くと、つられた会員達がお互いに顔を見合わせ、照れくさそうに笑いあった。(ちょっと恥ずかしい光景かも・笑)
「俺達、まだできる事が他にあったんだな♪」
「っそおか、植林かあ♪」
「俺、役所に知り合いがいるんだ、申請の件、聞いてみるよ。」
「俺は裁判所も当たってみてもいいぞ。」
ざわざわ。
わきあいあい。



はああ。
ため息をついたリナとガウリイは、熱く語り合う彼等をその場に残し、そそくさと退散したのだった。





「しっかし・・・・何だか、疲れたなあ・・・・」
休憩室のソファに腰かけたガウリイ。
「ホントね・・・・」
同じく、隣に座ったリナ。
「結局、あたし達のこれって・・・・何だったわけ・・・」
つないだ手を掲げてみせる。
「さあな・・・・」
「はあ・・・・・」
リナのため息は終らない。

「いつになったら取れるんだろ・・・これ・・・」
「取りたいのか?」
「そりゃそーよ・・・・だって・・・・」
リナが顔を赤らめる。
「と・・・・トイレの時、どーすんのよ・・・・・」
「あ、もしかしてお前、ずっと我慢してたのか?」慌てるガウリイ。
真っ赤になるリナ。
「しょ、しょーがないでしょ!あんたと連れシ◯ンなんて絶対に嫌よ!」
「なあんだ、そっか・・・。なら、早く言えば良かったのに。」
あっけらかん、と言い放つガウリイに、一瞬リナが黙り込む。
「ど・どーいう意味・・・?」
「ん?」
「これ、取れる方法があるの・・・・?」
「ああ。ある。」

ぺしこ〜〜〜〜ん!!!
「いってぇえええええ!」
「殴られてとーぜんの事するからでしょ!早く言え〜〜〜〜!」
「わ、わかったからスリッパで殴るなあ!さっきお前さんの呪文見て思い付いたんだよ・・・」

ずきずきと痛むガウリイが説明したところによると。
接着剤の部分を凍らせれば、簡単にはがれるんじゃないか、という事だった。
「よおっしゃ♪いっちょ試してみっか♪」

そしてリナは氷の呪文を唱え・・・・

ガウリイが凍った。
かちこ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
またしても御愁傷様である。





「は、はあっくしゅ!」
街道を行くガウリイが、ひときわ大きなくしゃみをした。
前を歩いていたリナが、笑いながら振り返る。
「だぁいじょうぅぶぅ?がぁうりぃ〜〜〜。」
「大丈夫じゃない!お前のせいだろーーがぁ!」
鼻をすすりながらガウリイが文句を垂れる。
リナの呪文で凍らされたガウリイは、しっかり風邪を引いてしまったらしい。
っくしゅん!くしゅん!
ぐずぐず。

当然、歩みも遅くなる。
しょーがないなあ。
リナは笑って、ガウリイの手を掴んだ。
ガウリイが顔をあげる。

「ほらほら、急いで急いで。次の町に着いたら、魔法医を捜してあげるから♪」
言って楽しそうに歩き出した。
つないだ手を見て、ガウリイは一瞬立ち止まり・・・・・次に微笑した。
ぐいっと引っ張られ、彼はよろめきつつも彼女の後について駆け出す。


「自然が一番、かな。」
「あ?なんか言った?」
「んにゃ。別に。」
と彼は答えたのだった。


























=================================================おしまい♪
予定よりとんでもなく長くなって・・・しかも説教は入るわ・・(笑)
最近、短くまとめられないそーらです(笑)
テロリストってヤツは、破壊するだけで建設的な考え方をしない輩だとそーらは思ってます。爆弾作るヒマがあったら、花のひとつでも植えなさい。
某王国の姫君の説教を思い出しました。エヴァ姫好きだなあ・・・。
花ゆめコミックス、遠藤淑子さんの初単行本です。わかるかな?

今回、またもセリフに仕掛けしました。
二人が言ったセリフは、そのまま二人の関係を表わして・・・いるつもり(笑)

では、ここまで読んで下さった方に、目の体操を。
はい、右見て、下見て、左見て、上見て、これを3回ほどやりましょう♪
少し痛かったら、目が疲れてますね(汗)
愛を込めて♪そーらより♪


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