「目が覚めたら」


夢を見ていた。
おそらく、たぶん、まず間違いなく、夢だろう。

辺りの風景はぼんやりとしていた。
ただ日射しの暖かい、お天気のいい日。
雲がゆっくりと流れて行く。
あたしは、街道を歩いている。
でも何だか地面がふわふわだ。
歩いているというより、跳ねてる感じ。
だから、夢だと思ったのだ。

付け足しておくと、あたしは一人で歩いているわけではない。
誰かと一緒だ。
しかも・・・あたしは、その、え〜〜と、ひじょ〜〜〜に言いにくいのだが。
その誰かの、腕にぶらさがって歩いているのだ。
うう。
何でだよ・・。
夢の中のあたしは、いじょ〜にご機嫌らしい。
鼻歌なんぞかましている。
ひええ。

今、あたしはえへへへへへ、とか言いながら、ぶら下がってる相手の腕に顔をすりすりした。
・・・おいおいおいおいおいおい。
これはホントにあたしなんか!?
すると相手の、もう片方の手が伸びてきて、あたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。
てへ、と笑うあたし。
・・・う〜〜〜〜〜ん。
何だかよくわかんないけど。
これだけは何となくわかった。
あたしは。
夢の中のあたしは、今、嬉しいんだ。
この人と並んで歩くことが。
この人と一緒にいることが。
腕を組んで頭を撫でられて、嬉しい、楽しい、って感情が湧いている。
何だかくすぐったい。
恥ずい。
無茶苦茶恥ずかしーけど。
でも、悪い気分じゃない・・・・・んだ、これが。

まるで子供みたいに素直なあたし。
普段だったら絶対にしそうにない。
でも、それは何故だか心地よい時間だった。

でも、誰だろう?
あたしの隣にいるのは。
よく見えない。
わかるのは、その腕がすごくあったかいってことだけ。
夢の中のあたしは、その時、その相手の方を見上げた。
太陽を背に、こちらを見下ろしている顔は影になっている。
あたしは、にっこりと笑って、相手に呼びかけた。

『ガウリイ。』





「うひぃぇええっ!?」
あたしは突然目を覚ました。
額を汗が伝うのがよくわかる。

目が覚めたんだから、やっぱ今のは夢だったんだ。
ははは。
はは・・・・・(だらだらだら)
何であんな夢を・・・・・・

・・・・ってっ、ええええええええええ!?

「ガ、ガ、ガ、ガウリイ!?」
「おう。目が覚めたか。」
「あ、あ、あ、あ、あ・・・・」
「ん?どーかしたか。」
「あ、あ、あ、あんた何やってんのよ!?」
「何やってって・・・」
きょとん、という顔をガウリイがした。
「・・・膝枕だけど?」
「ひっひっひっ!?」

失礼。笑ってるわけじゃないのよ。

だって。
何だかばかに柔らかい地面だなあと思ったら!!
木陰で昼寝してたはずが、いつのまにかガウリイの膝で寝てたんだから!
と、取り乱してもしょーがないってもんでしょ!?
「い、い、い、いつのまにそーいうことになったのよ!?」
「あのな・・・・。」
ガウリイが、ジト目でこちらを見ている。
「それはこっちのセリフだぜ・・・。」
「い・・・?」
「オレが気持ちよく昼寝してたら、お前がいきなり叩き起こしたんだぜ?
地面が固くてねむれな〜〜〜〜いっっとか言ってさ。
オレが起き上がると、お前、すたすたとマントを持ってオレの膝に転がり込んで来たんだからな。」
「え・・・・・・。」
「覚えてないのかあ?おかげでこっちは目が覚めちまうし、足はだんだんシビれてくるし・・・。」
「そ、」
「そ?」
「そ、そんなバカな・・・」
「・・・どうでもいいけど、起きたんなら降りてくれ。」
「ひえ!?は、はい、すいませんすいませんっ」

慌てたあたしは謝り倒して、ガウリイの膝からばっと離れた。
「お〜〜〜〜〜。足の感覚がね〜〜〜〜。」
そろそろと足を伸ばすガウリイ。
「ねえ。」
「ん?」
「そんなに長いあいだ、寝てた。あたし。」
「ん〜〜〜。さあ、どうだかな。」
あたしはちらっと太陽の位置を確認した。
最後に見た時より、だいぶ西の方に降りてきている。
「・・・そ、そんなに重かったら、起こしてくれれば良かったのに・・・」
思わず呟く。
するとガウリイはこちらを振り向いて笑った。
「や、それがあんまり気持ち良さそうに寝てるもんだから、起こす気にならんかった。」
ぼっ。
い、今、あたしの顔、火がついた・・・?

「何だかいい夢見てたんじゃないのかあ?」
言われてあたしは、夢を思いだして、さらに顔から火を吹くハメになった。
「お、お、お、女の子の寝顔見てるなんて、え、え、えちけっと違反よっっ」
「え?そういうもんか?」
「そ、そ、そ、そういうもんよ。」
「だってなあ。お前の寝顔、面白くって。」
「な、な、なあんですってええええええ!?」
「最初はむずかしそ〜〜〜な顔してたなあと思ったら、突然にこにこしだしてさ。」
だらだらだらだらだら。
「なんて〜のか、見てるこっちがほほえましくなるくらい・・・・・・って!?
お、おい、リナ!?
や、やめろっっ首絞めるなあああっっ!」
「忘れなさい忘れなさい忘れなさいいいいいいいっっっ!!!」
「た、たんま!ま、マジで苦しいぞ!!」
「酸素が薄くなれば脳の活動が鈍るわ〜〜〜。過去の記憶が消えるかも〜〜〜〜」
「な、なんちゅ〜〜〜おそろし〜〜ことを・・・」
「忘れてもらうためなら、何でもするわあっ。」
「なら言うけど。」ごほんとガウリイが咳ばらいをした。
「・・・何よ。最後の言葉なら聞いてあげるわ。」
「・・・。お前、寝言も言ったんだぜ?」

ぴっき〜〜〜〜〜〜〜〜ん!

「な、なんて・・・・・?」
ガウリイの首に組み付いたまま、低い声で問うあたし。
「首絞めるのやめてくれたら教える。」
「う。・・・ど、ど〜せ大したこと言ったわけないわ!」
そう言いつつも、一筋の汗は隠せない。
するとガウリイはいつもの調子で答えた。
「最初にな、名前を呼んだんだぜ。」
「い・・・・?」
ぎぎくうっっ。
「だ、誰の・・・?」(おそるおそる)
「オレ。」

えぇえええええぇっっっ!?
「ガ、ガウリイの・・・?」
だらだらだら・・・・
脳裏には、夢の内容が・・・
「そ。確かにオレの名前を呼んだぜ?」
マズい!
マズすぎる!!
「そ、その次は・・・?」
さらにだらだらだら。
「その次は・・・」
もうひとつおまけにだらだらだら。
思わず手が緩む。
マズい。
ひっじょ〜〜〜〜にマズすぎる!
だって夢の中のあたしは。
モーローとした記憶の中で。
腕を組んだ誰かに向かって『ガウリイ』と言った後。
確か・・・・

『大好き』って・・・・・・

どどどどどどどどどどどどどおおおおおおおおしよおおおおおお!!
リナちゃん、ぴ〜〜〜〜〜んち!!

「どうした?リナ。」
地面にへたりこんだあたしに、のんびりとしたガウリイの声がかかる。
どおしよ・・・
続きを聞きたいような、死んでも聞きたくないよ〜〜な・・・
ああっ。
恐いよおお!
「で、その後な。」
うっ・・・
「なんて言ったと思う?」
神様ガウリイ様。やるなら一思いにやってくれ・・・・
そんなあたしの焦りを知ってか知らずか、ガウリイは可笑しそうにしている。
くっそ〜〜〜〜
「それがな。思わずオレもこけたんだけど・・・」
へっ?
『お願い・・・・・・・・・・・リンゴ剥いて♪』
なんだぜ〜〜〜〜〜〜〜。」


ほ〜〜〜〜〜〜〜っっっ。

あたしのため息は、きっと大きすぎたと思う。
肩の力を抜き、思いっきり安堵しているあたしの傍らで、ガウリイは爆笑している。
い〜わよい〜わよ、好きに笑ってちょ〜だい。
今のあたしはすんごく寛大な気持ちなのよ・・・。

「お前らし〜寝言だと思ってなあ。あ〜〜〜〜笑った。」
そーかい。
「ちったあ背も伸びて、少しは成長してるかと思ったけど、まだまだ中味はお子ちゃまだなあ。もう少し色気が出ても、誰も文句は言わんと思うが?」
ほ〜〜〜。
「にこにこ笑ってたとこ見ると、大量の御馳走を目の前にした、とか、大量のお宝を発見した、とかそんなとこだろ。」
ふ〜〜〜ん。
「お前さんくらいの年頃には、皆ちっとは女らしくなるもんだがなあ。
お前さんに色恋はと〜ぶん無理な話かな、こりゃ♪」
ふ。ふふふふふふふ・・・・

「ガウリイ。」
「ん?」
急に立ち上がったあたしが、自分の足元に回ったので、ぐるりと首を回すガウリイ。
「シビれてるの、こっち?」
「ぎょわああああああっ!?」
感覚がない、と言っていたガウリイの足を、つんつんと指で突っ突いたのだ。
どうやら感覚は戻ったらしい。
シビれてはいるけどね。
「お、おま、おまえぇ!」
「人が悪いと思って下手に出てれば、好き勝手な事言ってくれちゃって。
このお礼はど〜〜したらいいかしらね?」
「や、やめ、うおわ!さ、触るなあっっ!!」
「あら。こっちもかしら?」
「ひっ!ひゃめろおおおおおおお!!!」
「んふふ。」
「やめろっリナっっ!オ、オ、オ、オレが悪かったあああ!」
「あっま〜〜〜い。あら?こんなとこにゴミが。」
「ぎえええええっ!!」
「こっちにもホコリが♪」
「あぎゃああああおうおうおうっ」
「うふふふ〜〜〜。」

あ〜〜〜〜〜。
楽し。
ふつふつと笑顔が湧いてくる。

・・・夢の中の、あたしと同じくらいにね。





























=======================================えんど♪
お目覚めしり〜〜〜ず。
本の2.0でも『羽根』しり〜ずで使いましたが、ある朝目が覚めたら・・・って
いうシチュエ〜ションはとても使いやすいです(笑)
そう言えば、『浮気の輪』とかもそうだったなあ♪
てなわけで、きっとまた使うでしょう(笑)

では、こんなしょーもない話を読んで下さった方に愛を込めて♪
そーらがお送りしました。

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