「そらにおひさま」

 
ぼくのなまえはガウリイ。
とうさんとたびをつづけている。
きょうきたまちは、とてもにぎやかなところだ。
まだあさなのに、ひとがたくさんあるいている。
 
「ガウリイ?」
 
おとこのひとのこえがした。
ぼくはじぶんがよばれたのかとおもって、いそいでふりむいた。
「ガウリイ様っ?」
こんどはおんなのひとのこえだ。
さま?
ぼくみたいなこどもに、さまをつけるなんておかしいよねえ?
だれだろう?
 
とうさんがたちどまって、びっくりしたかおになった。
「ゼル・・・・シルフィール!?」
「お久しぶりです、ガウリイ様っ!」
なんだ。
とうさんのことだったのか。
ぼくととうさんは、おんなじなまえだから。
 
くろいながいかみのおんなのひとが、とうさんにかけよってくる。
とうさんのしりあいかな?
「驚いたな。ゼル、お前まで。」
「まさかこんなところでお前に会うとはな。」
おんなのひとのうしろに、しろいふくのひとがたっていた。
ぼくはどきりとした。
そのひとがかおをかくしていたのを、とったからだ。
あ。
かみのけが。
ほっぺたとか。
ちがうよ、にんげんじゃない。
こわそうだな。
ぼくはおもわずとうさんのかげにかくれる。
 
「で。それがお前の子供か。」
 
はっ。
みつかっちゃった・・・!
とうさんがぼくのあたまをぽん、とたたいた。
「ほら。隠れてないで、挨拶しなさい。」
えへへ。
 
 
 
 
「そうか・・・。やはり、あの日のままか・・・。」
 
おとなたちは、むずかしいかおをしている。
ぼくととうさんと、ゼルってよばれたおとこのひとと、シフ・・・シル・・・シルフィールってよばれたおんなのひとと、いっしょのやどにとまることになったんだ。
ごはん、まだかな。
「・・・の手掛かりはないのか・・・。」
「・・・ああ。」
「セイルーンでも・・・」
なにをはなしてるんだろ。
でも、おとなのはなしには、はいっちゃいけないっていわれたことがあるし。
とうさんじゃないけどね。
だからぼくは、だまっていすにすわってる。
でもタイクツ。
 
「・・・ね。ぼく、お名前は?」
びっくりした!
だって。
めのまえにすぐ、おんなのひとのかおがあるんだもの!
おんなのひとはぼくをみて、にっこりわらってる。
やさしそうだなあ。
それに、なんていうのかな。
きれい。
こんなきれいなひと、みたことない。
なんだかはずかしいや。
かおがまっかになってるみたい。
「ぼ・・・ぼく。」
おもわずとうさんのほうをみた。
 
とうさんはちょっとこわいかおをしてたけど、ぼくにきがつくとわらってくれた。
ぼくはほっとする。
あたまをくしゃくしゃされた。
どうしてだろう。
ぼくはとうさんにあたまをくしゃくしゃされると、すごくあんしんするんだ。
「こら。名前くらい、自分で言うんだぞ。」
「うん♪」
だからぼくはこたえた。
「ぼくのなまえは、ガウリイ。」
おとこのひとと、おんなのひとが、ふたりともちょっとへんなかおをした。
どうしてかな?
ぼくは、このなまえがだいすきなのに。
だってとうさんとおなじだもん。
とうさんとおなじって、なんだかうれしいから。
 
 
ごはんがきた。
いいにおい。
おなかがぺこぺこだよ。
おにくがきれなくて、ぼくがうんうんしてると、とうさんがきってくれた。
とうさんもたべてる。
ぼくもまけないくらい、たくさんたべなくちゃ。
あれ。
おとこのひとと、おんなのひとはたべないのかな?
「お前ら。早く食わんと冷めちまうぞ。」
ほら、とうさんにちゅういされた。
「そうだよ。さめたらおいしくないよ。」
ぼくもちゅういした。
ぼくととうさんは、ふたりでわらった。
 
おとなたちはまた、むずかしいはなし。
ぼくはたべながら、ほかのおとなのかおをみていた。
ゼルってひとは、さいしょちょっとこわいかんじがしたけど。
とうさんがこういったら、きゅうにあかくなったんだ。
「お前ら、いつ結婚するんだ?」
「へ?・・・お、俺は別に・・・」
おかしいの。
おとなでも、あんなふうにまっかになったりもじもじしたりするんだ。
なんだ、あのゼルってひと、ぜんぜんこわくなんかないや。
 
「まあ。お口の周りが・・・」
「えっ・・・」
ぼくがスープをのんでたときだ。
おんなのひとがまた、ぼくのほうをのぞきこんできた。
ぼくはまた、かおがまっかになったきがした。
そのひとはポケットからハンカチをだすと、ぼくのくちのまわりをふいてくれた。
 
ふわん、とハンカチからいいにおいがした。
たべもののにおいじゃないよ?
なんだか、いいにおいだったんだ。
おんなのひとって、みんなこういうにおいがするのかなあ?
「はい。綺麗になりましたよ。」
なんてやさしそうにわらうんだろう。
 
ぼくは、ぼくのかあさんのかおをしらない。
どんなひとだったのかも、あんまりきいたことがない。
だから、かあさんってものがどんなのか、よくわからないんだけど。
こんなかんじなのかな?
それとも、ぜんぜんちがうのかな。
 
 
 
ぼくととうさんはへやにもどった。
おなかがいっぱいで、くるしいや。
 
ぼくはパジャマにきがえて、とうさんにおやすみなさいをいった。
とうさんはぼくのおふとんをなおして、ぽんぽん、とたたいてくれた。
「とうさんはねないの?」
「もう少ししたら、な。」
ねむくてめをあけていられない。
ふわふわ。
ねむるまえに、あのおんなのひとのかおをおもいだした。
きれいなひとだったなあ。
それに、やさしそうだし。
「ねえ、とうさん。」
「ん?」
「かあさんって・・・・おんなのひとだよね?」
とうさんがこけた。
「ごほっごほっ・・・・あ、当たり前だろ?どうしたんだ、急に。」
「うん・・・。あのね?」
だめだ、もうねむい。
「かあさんって・・・どんなかんじかなっておもって・・・・・・ぼく・・・・」
「ガウリイ?」
「あのひとみたいなのかと・・・おも・・・・・」
く〜〜〜〜〜〜。
 
ぼくはそれっきりねむっちゃった。
だから、そのあととうさんがだれとはなしをしたのかも、どんなことをおもったかも、ぼくはしらなかったんだ。
 
 
 
つぎのひ。
あさごはんをたべおわると、あのおんなのひとが言った。
「ガウリイ様。お話があるんですが・・・・。」
とうさんはうなずくと、ぼくにめであいずをした。
まってろ、ってことかな。
ぼくのとなりにたったゼルってひとをみあげると、そのひともうなずいた。
まってるけど。
とうさんとはなしってなんだろう。
 
「・・・・・」
ぼくはテーブルにすわっている。
「・・・・・」
ゼルってひともすわっている。
なにもしゃべらないひとだ。
ぼくはなんとなくおちつかない。
きのう、みためよりこわいひとじゃないってことは、わかったけど。
「・・・・・」
「・・・・・」
なんだかいきがつまるよ。
「お前・・・。」
「?」
「いや、なんでもない。」
「・・・・・。」
「お前・・・」
「ガウリイだよ?」
ぼくが、ぼくのなまえをおしえてあげると、おとこのひとはびっくりしたかおになった。あれ。
きのうもいったはずなんだけどなあ。
わすれちゃったのかな?
ぼくがじっとみていると、そのひとはわらった。
そのわらいかた。
やっぱり、このひとはみためとなかみが、ちがうひとなんだとおもった。
「ガウリイ。お前、父さんが好きか。」
「?」
なんでそんなあたりまえのこときくの?
「うん。だいすき。」
「そうか。」
 
そのひとはただうなずいただけで、あたまをなでてもらったとかじゃないけど。
なぜだかそのひとことが、ぼくになにかあったかいものをくれたようなきがした。
 
とうさん、おそいなあ。
ぼくはたちあがった。
とうさんがしんぱいだ。
ようすをみにいかなくちゃ。
そうっと、おとこのひとをみると、そのひとはなにもいわなかった。
ただ、ぼくをじっとみて、ちいさくくびをふった。
それはダメっていうんじゃなくて。
いけっていってるみたいだった。
ぼくはドアにむかってはしった。
 
 
いどのまえで、おんなのひとがとうさんになにかいってる。
 
「あなたが信じるのは勝手です!でも、それは奇跡でも起こらなければ無理でしょう!?」
「・・・・」
とうさんがこたえて、なにかいった。
そのかおは、ぼくがみたこともないかおだった。
おんなのひとは、とうさんにつかみかろうとしてるみたいにみえた。
「だからって!次の奇跡が起きるまで、そうして待ちつづけるつもりですか
!?いつまで?」
 
やめて。
 
「わたくしは・・・・!」
 
やめて、やめて、やめてよ!
 
ぼくはかけだす。
ぼくはとうさんのまえにでる。
とうさんのまえにでて、てをひろげる。
やめてよ!
とうさんをいじめないで!
ぼくのとうさんだよ?
 
おんなのひとは、えっというかおをした。
「あの・・・ね、わたくしは別に、あなたのお父様をいじめていたわけじゃ・・」
「だってとうさん、こまったかおをしてたよ!」
ぼくがいうと、おんなのひとはとうさんのかおをじっとみた。
とうさんはだまっていた。
 
とうさんはやさしいから。
だから、いじめないでっていえないんだ。
だから、ぼくがいうよ。
かわりに、ぼくがとうさんをまもるから。
ね?
とうさん。
 
 
おんなのひとは、ゆっくりとくびをふった。
くるっとせなかをむけてはしっていっちゃった。
ないてるみたいだった。
 
ぼく、わるいことしたかな。
でもとうさんのほうが、なきたかったかもしれないじゃないか。
でもとうさんはおとこだから、なけないんだ。
あのおんなのひとは、とうさんになにをいってたんだろう?
ぼくはとうさんをみあげた。
とうさんは、おんなのひとのいっちゃったほうを、じっとみていた。
とうさん。
ぼくはここにいるよ?
ねえ、ぼくをみてよ。
ぼくがいるから。
とうさんのそばには、ぼくがいるから!
 
「とうさん・・・」
とうさんのあしにかじりつくと、とうさんのおおきなてがおりてきて、ぼくのあたまをくしゃくしゃした。
くしゃくしゃ。
くしゃくしゃ。
くしゃくしゃ。
とうさん、だいすきだ。
 
 
 
やどやのまえで、ぼくたちはさよならした。
シルフィールってひとはいなかった。
むねがちくんとした。
ぼくのせいかもしれない。
でも、ぼくにはとうさんのがだいじだったから。
ごめんね、おねえさん。
ゼルってひとは、おねえさんをおっかけていくそうだ。
あっというまに、せなかがみえなくなった。
 
ぼくはおねえさんがしんぱいになり、とうさんにきいた。
とうさんは、だいじょうぶだといってくれた。
そうだといいな。
 
とうさんがいきなり、ぼくのまえにしゃがんだ。
とうさんがこうやって、ぼくとおんなじたかさになるときは、だいじなはなしのときだ。
ぼくは、きをつけ、をしてきく。
とうさんはいった。
ぼくに、かあさんがひつようかって。
そんな。
わからないよ、とうさん。
だってぼくは、かあさんがどんなものかよく、しらないんだもの。
でも、これだけはわかる。
 
とうさんのなかに、かあさんはすんでる。
いまも、いつも、これからもずっと。
 
とうさんのなかから、かあさんをとりあげたりしたら。
それはもう、とうさんじゃなくなっちゃう。
きっとちがうとうさんになる。
だって、いまのとうさんは、はれたそらみたいにあったかいもの。
どんなにくらいよるだって、とうさんがいればこわくないもの。
それは、とうさんのなかに、かあさんがいるからだ。
と、ぼくはおもう。
まるで、そらにおひさまがうかんでるみたいに。
だから、とうさんのなかから、おひさまをとっちゃったら。
とうさんはきっと、まっくらなよるになっちゃうよ。
そんなの、とうさんじゃない。
ぼくのだいすきな、とうさんじゃないんだ。
 
「だから。ぼくのために、かあさんをあきらめないでね、とうさん。」
「ガウリイ?」
「ぼくはそんなとうさんだから、だいすきなんだからね。」
「ガウリイ。」
「ぼくがまもってあげる。かあさんにあえるまで、ぼくがまもってあげるから。だから、あきらめたりしないで、がんばろうね、とうさん。」
「ガウリイ・・・・」
 
ぼくはみる。
とうさんのなかに。
やさしいとうさんのなかに。
たたかってるときの、こわいとうさんのなかに。
ごはんをたべてるときや、よる、おふとんをぽんぽんしてくれるときの、とうさんのなかに。
かあさんの、すがたを。
かおもしらない、でもきっといる、かあさんの、すがたを。
 
だから、ぼくがひつようなのは、ぼくのかあさんだけ。
とうさんのなかにいる、かあさんだけ。
ほかのひとじゃダメなんだ。
ね?
とうさん。
 
そういうと、とうさんは、つかんでいたぼくのうでをはなした。
それから、じぶんのてで、むねをぎゅっとつかんだ。
かあさんとつながってるところだって、おしえてくれたばしょを。
 
したをむいてしまったとうさんのあたまを、ぼくはみていた。
そして、とうさんがいつもしてくれるみたいに、こんどはぼくが。
 
とうさんのかみを、くしゃくしゃ、した。
 
 
 
 
 


























***********おしまい。
子供さいどをお送りしました。時期的には最初のお話のちょっと後、「滴の音」の前という感じになります。あいかわらずひらがなばっかりで、ごめんなさい(笑)
待ってる間、ゼルがちびガウにいいかけた言葉は、深夜の親ガウとの話の蒸し返しでした。
でも言わなくて正解だったと、いうことにしておきましょう(笑)
あと1本、この状態でお話ができたら、母が帰還するお話も書いてみたいです。
頭の中でどういう風に帰還するかシミュレーション中(笑)
では、そーらより、読んで下さった全ての方に、愛を込めて♪
 

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