「レプリカントは電気クラゲの夢を見るか」


リナがさわられた
せきこんで食堂に入ってきたのはゼルガディスだった。
眠け覚ましのコーヒーを飲んでいたアメリアとガウリイが吹き出す。

「リナさんがさわられた!?」
「そんな勇気のあるヤツが、まだこの世にいたのか・・・・。」
ゼルガディスが額に青筋マークをつけて怒る。
「誰が触られたと言った!第一、そんなことで俺が大騒ぎすると思うのか!」
「十分騒いでもいいことのような気がするが・・・」
うんうんと頷くガウリイ。
アメリアはきょとん、と問い返す。
「それに、ゼルガディスさんが最初に『さわられた』って言ったんですよ?」
「え・・・・・・・(冷汗)」

ぴたりと動きの止まったゼルは、いつのまにか食堂の片隅に逃げ、背中を丸めてうじうじを始める。
「お、俺だってパニックになったんだ。ただそれだけなんだ。決して事態を面白おかしくしてやろうとか、文頭の出番だから目立ってやろうとか、意外性のある一言でさらにファンを増やそうとか、そんなことは決して考えてないんだ。そうなんだ。誰も信じちゃくれないだろうが、ホントにただの言い間違いなんだ・・・・・・」ぶつぶつぶつ。

「お〜〜〜〜〜い。」
「ゼルガディスさあん。帰ってきて下さいよ〜〜〜〜」

さて。
二人に宥められ、ようやく席に戻るゼルガディス。
「それで、さっきの騒ぎの正体は、一体なんだったんです?」
いきなりミもフタもない話の切り出し方をするアメリアだった。
「う・・・・」
「ほれほれゼルガディス、落ち込んでる場合じゃないって。」
汗をだらだらと流すゼルガディスを、同性のよしみ?で励ますガウリイ。
「じ・・・実は・・・・」



「ええええええええええ!!!????」
「どひいいいいいいいいいい!!!!」


ゼルガディスの言葉に、返ってきた二人の返答である。
「じゃ・・・さっきのはホントに単なる言い間違いで、リナさんが攫われたっていうのがホントなんですね!?」
「う・・・うそだろ・・・」
「ウソじゃない。その証拠に・・・・」
ゼルガディスは懐に手を入れた。
「・・・証拠?」
二人の視線がゼルの手に集中。

ぴこ。

ぴこぴこ。

「・・・・・・・これは・・・・・・・」
「なんなんだ・・・・・・これは・・・・・・」

「見ての通りだが?」至って平静なゼルガディス。
「見ての通りって・・・・・。リナさんのミニさいずの人形に見えますけど・・・・・・・」
「ホントだ・・・・・。細かいとこまでよく似てる・・・・ムネのないとこまで・・・・・・」
「どこを見とるんだ。」
「でもこれ、どうしたんです?」
「俺が部屋から出たら、廊下をぴこぴこと歩いていたんだ。」
「歩いて!?じゃ、これ動くんですか!」

アメリアの言葉に反応したかのように、目の前のテーブルにちょこん、と座っていた手のひらサイズのリナのレプリカが立ち上がり。
「ぴこ。」
ぷいっとそっぽを向いた。

「うひえええええええ・・・・・・」
想像の限界を超えたのか、ガウリイが口を開けて見守る。
「でもこれだけでどうしてリナさんが攫われたって・・・・」
「これがついていた。」

次にゼルガディスが懐から取り出したのは一通の手紙。
「読んでみろ。」
渡されたアメリアが、かさこそと手紙を開く。


『前略 
この度、リナ=インバース殿を誘拐させて戴く仕儀と相なりました。
どちら様も宜しく御高配を賜りたく存じます。
つきましては、リナ殿と精神を結合させたこのレプリカを誘拐の印として残させて戴きます。
これをお連れになり、下記の場所までお越し下さるようにお願い申し上げます。お忙しいこととは存じますが、万障お繰り合わせの上、必ず期日までにお越し下さること、固くお願い申し上げます。

草々』


読み終わり、呆然とするアメリア。
「・・・・・・つまり・・・・・」
突然、黙って聞いていたガウリイが口を開いた。
ぴく、とゼルの頬が緊張する。
「・・・・どういうことなんだ?」
あくまで本人は真剣である。
ぴくぴく。
ゼルの頬はチックを起こしていた。懐に手を入れ、彼はそこからリナのようにスリッパを取り出して彼の頭を叩きたくなる衝動を堪えた。
「つまり・・・だな・・・・」
「つまり、リナさんが誘拐されたってことです。」
「なんだ、それならそうと言ってくれって・・・」頭に手をあて、にっぱり笑ったガウリイの動きが止まる。
「い、今・・・・なんて?」
「ですから。リナさんが攫われたんですってば!」
「なにぃいぃいいいい!!!!???」


どひゅん!!



「・・・・おいアメリア・・・・」
「はい。なんでしょう、ゼルガディスさん。」

依然食堂の椅子に静かに座っているゼルガディスとアメリア。
彼らの周りには、何故か埃がたっている。
「ガウリイはどこに消えたんだ・・・」
「知りません。いきなり叫んだかと思うと、目にも止まらない竜巻きみたいなのが起こって、気がついたらガウリイさんはもう・・・」
「それに、」
ゼルガディスが、とんとんとテーブルの上を叩く。
「リナのミニさいずもいない・・・・」
「そうですね・・・」
唖然必然呆然自失。

「でもあいつ・・・・。手紙は忘れて行ったぞ・・・・」
ぽつり、とゼルガディス。
「はい・・・。場所と期日、わかるんでしょうか・・・」
「野生のカンで辿り着くかもな・・・」
「はは、はははは・・・・。ガウリイさんならやりかねませんね・・・」
乾いた空気が食堂を支配する。

「アメリア・・・」
「はい、ゼルガディスさん・・・」
「ここで俺たちの出番も終わりかな・・・」
「はい・・・・そのようですね・・・」






その頃。
ガウリイは一陣の風となり?
んな訳はないが、ともかく常人の倍のスピードで移動中。
夜も昼もほとんど休みなく走り続ける。
目ははるか彼方を見つめ。
ちらりと目に入った地図が頭に浮かぶが。
彼はほとんど野生のカンで行動していた。

小さなリナは、ガウリイの襟元にそっとしまわれていた。
時折、それがもがもがと暴れる。
そんな時、しばし彼は立ち止まり、リナを出してやる。
手のひらの上で、ばたばたと暴れるリナ。
どうやら手を後ろでに結ばれているようだ。
自由のきかない体で、それでも懸命に暴れている。

その様子に、ふっと笑ったガウリイだった。
「今頃、相当暴れてんだろーな。おとなしく掴まってるヤツじゃないし。」
言うと、唇の端をきゅっと引き締め、しまうとまた走り出すのだった。






「ちょっと!いつまでこんなとこに閉じ込めておくつもり!?」
一方。
本物のリナは・・・・やはり暴れていた。

両手首を鎖で縛られ、その先は壁につながっているというのに、じゃらじゃらと鎖を鳴らしながらあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
攫われた最初の日、リナが閉じ込められている部屋は、調度品もそれなりに揃ったちょっと立派な客室だった。
リナも手首を縄で縛られているだけで、どこにもつながれていなかった。
だが今となっては。
部屋は見る影もない。
オーク材のテーブルも、作者の銘入りの椅子も粉々にたたき壊され、破片が未だに床に散らばる。壁にかかったそれなりに凝ったタペストリーが全て剥ぎ取られ、丸められ、見るも無惨な様子になっていた。どうやったのか、壁にぼこぼこと穴まで空いている始末。

次の日、リナの縄は頑丈な鉄製の鎖になった。
その日の午後、鎖は壁につなげられた。
それでもリナの元気は止まるわけではない。
さすがに初日の晩から食事を抜かれて、少しおとなしくなったようだが。

「やれやれ。相当元気が余ってるみたいだな。」
扉の向こうから、リナにとってはここ2日で聞き飽きた声がした。
かちり、と扉ののぞき窓が開かれ、黒い目がこちらを覗き込む。
「いつまで閉じ込めておくつもりなのかって、聞いたのよ!」
ふん、とそっぽを向くリナ。
「いつまで?それはあんたの連れ次第だな。期日は明日。期日までにここへあんたの仲間がこなきゃ、あんたは一貫の終わり。」
「何言ってんの。」
リナはない胸を張る。

「あたしが死んだりしたら、世界の損失よ?危機よ?そんな状況、神サマがほっとくわけないっしょ?第一、あたしが主人公なわけだから、このスレイヤーズ!しりーずは。主人公が死んじゃったら、そこでお話は終わりになるのがお約束ってもんでしょ!」
「何ワケのわからんことを言ってる。」
黒い瞳は容赦ない。
リナはそれでも怯まない。
「だいじょーぶ。絶対あたしの仲間は来るわ。」
「ほう。大した自信だな。仲間とやらをよっぽど信じてるんだな?」
その声に自嘲するような響きがある。
「自信はないわ。でも、これだけは言えるわね。」
「なんだ。」
「もし来なかったりしたら、あたしがあいつらをぷちのめすってことよ。」
「お前が無事にここを出れる保証がどこにある。」
今度は、リナに対する嘲りの響き。

「今のお前は、呪文が使えない。少なくとも、あと1日はダメだろう。」
リナが真っ赤になる。
「やらしいわね!なんでそんなこと知ってるのよ!」
「なんででもいい。」
攫われた当初、リナは魔法を使えない状況になったばかりだったのだ。
でなければ、リナを2日も閉じ込めておくことなど。
到底無理な相談である。

「明日、明日の期日に仲間が来なければ。お前は・・・・」
「おい。殺しちまうのか?」
その時、黒目の男の仲間らしき声が聞こえた。
かちり、と扉の窓が閉まり、言い争いの声が遠ざかっていった。

一人になり。
ぺたん、と床に座り込み。
呟くリナ。
言い争いの原因を聞いて、少し、リナの心が波立つ。
「はやく来なさいよね・・・・・・。でないと、スリッパよ・・・」

ふっと笑うリナ。
誰に対する笑みだろうか。







「ふぐふぐ。」
「?」
「ふぐふぐ。」
「??」

喉元で何か変な音がすると思い、立ち止まるガウリイ。
(ききき、と起こるハズのないブレーキ音。)
「???」

音の原因はレプリカ。
持ち上げ、目の高さに持ってくる。
人形は左右にかすかに揺れながら、小さな偽物の口を開いてこう言った。
『スリッパ、スリッパ』と。
「へ・・・・?」
ガウリイはまじまじと人形を見る。
かたかたと口が動く。
『スリッパ、スリッパ、スリッパ・・・・』

ガウリイは立ち上がる。
襟元に乱暴にレプリカを突っ込み、全速でダッシュ。







辿り着いたのは、貴族の屋敷のように立派な佇まいの一軒の屋敷。
鞘を払い、ガウリイは抜き身を放つ。
空いた片手で、レプリカを取り出す。
ぐったりとそれは寝ていた。

「ほう。ホントに来たなあ。」
屋敷の陰から出てきたのは、同じく抜き身をひっさげた人相の悪い男。
黒い目だけが、印象を裏切る。
どこか悲しげな、それでいて悲しさ故の疲れたような優しさが滲んでいる。

「リナはどこだ。」
かつてリナが聞いたこともない低い声で、ガウリイは問いただす。
「安心しろ。命は無事だ。」
命は、という部分が微かに強調されており、ガウリイが眉をひそめる。
「あのお嬢ちゃん、魔法が使えなかったなあ。」
まるで隙だらけの姿勢で、近付く男。
「なんでこんなことをする。」
構えた剣を油断なく、移動する相手に向けて方向修整。
「復讐さ。」
「復讐?」
「そうだ。あの女には恨みがあってな・・・・」
そう言いながら、目は屋敷の二階の端へとさまよう。
ガウリイはそれを見逃さなかった。

「復讐なんてバカなことはやめろ。・・・と言って、聞くようなヤツではなさそうだな・・・・。」
「まあね。」
男がたたえる不敵な笑み。
ガウリイは剣を一旦鞘に納める。
「ところで・・・。ひとつ、聞いてもいいか。」
「答えられることならな。」
「じゃあ聞くが。」
ずいっとガウリイが身を乗り出す。

「あの手紙、あんたが書いたのか?」
じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
視線に耐えられず、男が赤くなる。
「そ。そうだと言ったらどうだと言うんだ。」
じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「お前って実は・・・」
「な、なんだ。」
余裕しゃくしゃくの相手のペースが崩れる。
「結構、育ちがいいんだろ!」
びし。
ぎくう。
男が釘を刺されたようにびくり、と震えたが、急いで持ち直す。
「な、なんのことだ。」
「だってさ。あの手紙。なんだか小難しーことばっか書いてあって、さっぱり要点が掴めなかったぞ。」
がた。
男がコケる。
「な、なんだと!こっちは家庭教師じこみの「手紙の書き方」テキスト通りの書き方をしたと言うのに!」
「・・・・」

し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。

「やっぱしお前か。」
「あああ。」
「この屋敷、お前んだろ。」
「な、何故それを!?」
「盗賊や悪者がわざわざ、町中のそれも立派な目立つお屋敷に、アジトを構えるかよ。」
もしここにリナがいたら思いっきりひいたかも知れない・・・
(ガウリイが、頭使ってる〜〜〜って。)

「そんなお坊っちゃんが、リナに何の恨みがあるって言うんだ。」
「あ、あいつが・・・・」
ぼそ、と言いかけた男がはっとする。
「ええい、そんなことをお前にとやかく言われる筋合いはないわ!
俺はともかく、あの女に復讐したいだけなんだ。」
考えてみれば人相は悪いが、べらんめえ口調がどこかぎこちない。

「それじゃ、オレは何しに呼ばれたんだ。」
「女が傷ついたところを見せたくてな。」
無理に作られた、下卑た笑いがガウリイに嫌な予感を強いる。
「リナに何をした。」
「いやあ。ちょっとね。俺は止めたんだが、仲間がどうしてもって・・・」

まるで合図を待っていたかのように、二階の窓が開いた。
バルコニーに二人の人影。
一人は小さい。
こちらを見て、息を飲んだ気配が伝わった。
リナ。

「何をした!」
ガウリイが剣を再び抜き放つ。
「だから。ちょっとばかし、楽しませてもらったのさ。」
「なに・・・」
「いやあ。いい声で鳴いたぜ・・・・・・」


風に乗って、下の声がリナの耳にも届く。
途端に真っ赤に茹で上がるリナ。
「な、な、な・・・・・・!!何をバカなこと言ってんのよ!?
あ、バカ、ガウリイ、信じるなあああああああ。」


階上で叫ぶリナをちらりとも見ないで、ガウリイは笑った。

「まさか。あいつはそんな女じゃない。」
「え・・・・・」
たじろぐ男。
「信じないのか。泣いて許しを請い、俺に詫びたんだぞ?」
「ありえないな。」
必死の説明にも、彼は全く耳を貸さない。
「不本意にもそういう事態に落ち入ったとしても。泣いて相手の許しを請うような、そんな安っぽい女じゃない。」

声は、風に乗って。

真っ赤なリナに。

「それで少なく見積もっても、10倍にはして返すヤツだぞ。そん時になって後悔しても、遅いと思う。」
マジメな顔でうんうんと頷くガウリイ。
黒目の男は考える。
この男、どこまでマジメなんだ・・・・・・。

「で、どうする。」
「・・・・・・・・・・は?」
「は、じゃないだろ。リナを返すのか返さないのか。返答によっては・・・」
ちゃき、と剣の刃が返される。

立場がまるで逆転したかのような錯覚に捕らわれる男。
が、すぐに我に帰る。
「こ、こっちには人質がいるんだぞ!」
合わせてリナを押さえているもう一人の仲間が、ナイフを取り出す。
ぴたり、とそれはリナの首にあてられる。

「人質、ねえ・・・・・・」
今度はガウリイが隙だらけ。
「あれほど人質に向かないヤツはいないと思うんだけど。」
「なんだと・・・・」
ガウリイは口の周りに手をあてがい、即席のメガホンとする。
「お〜〜〜〜〜いリナ〜〜〜〜。この男が、お前の胸は陥没クレーターだって〜〜〜〜〜〜。」言いながら、黒目の男を指差す。
「お、おい!!」

「ぬわんですってえええええええ!!!!!」
ぶちぶち、と鎖が引きちぎられる。
「クレーター・・・・・・・???」
じゃらじゃら。足の間にわだかまる鎖。
「陥没・・・・・・・?」
「お、おい、おとなしくしろ!」リナを押さえていた男が慌てる。
だがリナは一喝。
「うぅるさいわね!!」
めこし。
リナちゃんパンチ炸裂!!

ナイフは宙を舞い、仲間の男がバルコニーから突き落とされる。

「ほら。」
言わんこっちゃない、と上を指差すガウリイ。

「ガウリイ!」
かけ声とともにリナが空から降ってきた。




どささ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
「リナ。」
腕の中に、落ちてきた本物を抱きかかえ。
ガウリイは微笑む。
「ないすきゃっち♪」
親指を立て、ウィンクをしながら。と同時に照れくさそうなリナ。
ごそごそ、とガウリイの襟元からレプリカ。
ミニさいずまでピースサインを出していた。

「さてと。」
振り返る、リナ。
「復讐とやらの、訳を聞きましょうか。」
黒目の男は。

突然泣きだした。
「うわあああああああん。お前が悪いんだぞおお。」

「?」
「どーなってんの?」顔を見合わすガウリイとリナ。
「おい・・・・。」
「ちょっと。その情けない行動は今すぐやめて、訳を説明しなさい、訳を。」「そうだぞ。お上にも慈悲はある。」
「お上って誰・・・・・?(汗)」
「実は・・・・・・・」
泣きベソをかきながら、人相の悪い、でも目は優しい、口は乱暴なふりの生まれもお育ちもいいお坊っちゃんはぽつぽつと話し出したのだった。





「しっかし。フザけた話よね・・・・」
ぽかぽかと日射しが出てきた街道を、ゼルガディスとアメリアが待つ町へと帰る途中。
リナは疲れたように言った。
「まったくだぜ・・・・。」
ガウリイがあいづちを打つ。

男の復讐は。
まさかウソだろそんなこと!?というようなもんだった。

どういう訳か、リナを攫った男の婚約者が、突如リナにかぶれたらしい。
これからは女は強くあらねば!とか言いながら、黒魔導士の修行を始め。
『世界を見てくる』と言って家を飛び出した。
たまたまリナの噂を聞いただけなのだが。
『僕と結婚するって、あれほど約束したにぃ・・・』
人相の悪いお坊ちゃまは、責任はリナにあると考えたようだ。
リナにとっては迷惑千万な話である。

自由になった手足でぼこぼこにした後、割って入ったガウリイに押さえ付けられながらリナは言った。
『彼女が好きで、一緒にいたいなら。あんたも黒魔導士の修行をするか、他の、たとえば剣士とかになって、一緒に旅をすればいいじゃん。』
ぽん、と手を叩くお坊ちゃま。
『その手があったか・・・・!』
ありがとうありがとうと握手をせがまれ、坊ちゃんの家を後にした次第。



「もちょっとぎたぎたにしとくんだったわ・・・」
「おいおい。」
苦笑するガウリイ。
「それにあのミニさいずのふざけた人形!」
ミニさいずのれぷりかは、本体に出会うと溶けてしまった。
何となくそんなやり方にも腹が立つし。
何より、ガウリイの目が寂しそうに見えたからだ。

「リナ。」
「え?」
ガウリイが突然、リナの名前を呼んだ。

立ち止まり、こちらを真剣に見つめる眼差しに、リナは足が自然に止まる。
「な、なによ・・・・」

「これ。」
ガウリイがリナに差し出したものがあった。
「え・・・・・・・。」
「思いっきりやってもいいぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・」

目の前に差し出されたものは。
刺繍も豪華な、高価そうなスリッパ。

「これ・・・どーしたの?」
ひくひくしながらリナが尋ねる。
「ん?あいつんちから失敬した。これで、」
ガウリイはリナに、スリッパを手渡す。
そして頭を垂れた。
「叩きたかったんだろ?」


扉の向こうで、黒目の男とその仲間が、言い争っていたのを耳にした時。
殺すのは勿体ない、その前に・・・。
と、意味ありげな下品な声に、身震いが出たこと。
イマイチ押しの弱そうな、一応首謀格の黒目の男は頼りになりそうもない。
そして自分は鎖につながれたまま、魔法も使えない。
無力な自分に気がついた時、頭に浮かんだのは。


「なんで・・・・?」
スリッパを持つ手が、かすかに震えていた。
地面を見ているガウリイには見えない。
「なんで、わかったのよ?あたしが、あんたの頭をスリッパで叩きたかったって・・・・・。」
「わかるさ。リナの考えてることくらい。」
その優しい声に、リナはぐっと咽がつまった。
でも口から出るのは、いつもの憎まれ口だけ。
「・・・・もっと・・・・・早く来なさいよね・・・・」
「ああ。悪いと思ってる。だから、好きなだけぶっ叩いていいぞ。」
頭はずっと垂れたまま。

かなわないな。
ガウリイには。

「も、もーいーわよ・・・・」
「へ。」
「ちゃんと来たから、勘弁してあげる。もし来なかったら、ドラグスレイブだかんね。」
「は、わかってるって。」
顔を上げたガウリイには、柔らかな笑みが浮かんでいた。
ぽんぽん、とリナの頭を叩く。
「ま、とにかく、無事で良かったよ。」
「・・・・ん・・・・・」

照れくさそうに笑ったリナが、ふらっとふらつく。
「お、おい!?」
慌てて抱えたガウリイに、リナのひとこと。
「お腹すいたあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
「おいおい。どうりでおとなしいと思ったら、メシ抜かれてたのか?」
「そ〜〜〜よ〜〜〜〜〜。も、死ぬ〜〜〜〜〜」
「よし。おぶされ。町まで全速力で飛ばしてやる。」
ガウリイはしゃがむ。
「よっしゃあ。ガウリイ号、最大戦速〜〜〜!!」
「ほい来た♪」


黒目の男の屋敷がある町では、その日、3日も飲まず食わずだった二人が食堂の棚を空にしたのは言うまでもない。
勿論、ツケでね。

























===============================おしまい♪
「レプリカント」です。映画にもなったF・K・ディックの『レプリカントは電気羊の夢を見るか。』(映画のタイトルは『ブレードランナー』)からタイトルを流用させていただきました。何で電気ネズミかって言うと(笑)ポケモンでリナをあてはめたら、ピカチュウになっちゃったからです(笑)ガウリイは?メノクラゲ(笑)
ガウリイばーじょんを先に書き始めたのに、こっちのが先に出来てしまいました。秋月さんと同じネタなのに気がついたのは、エンディングにかかる前(笑)
仲良くカップリングでアップロードさせて貰いました♪
どうも13巻のダメージ(?)が大きくて、ガウリイがホワイトのままです・・・。

でわここまで読んで下さった方に、愛を込めて♪
そーらでした。

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