「レプリカントは電気クラゲの夢を見るか」


「しっかし・・・。ガウリイみたいな大男をさらって、どうする気なんだ?」
風を切る結界の中でゼルが呟いた。

レプリカントの指が知らせた文字は、次のような言葉だった。
『偽物。誘拐。7人。アジト。東。森。1日。』
「つまり、ガウリイさんは誘拐され、残されていたガウリイさんは偽物で、敵は7人。」
「アジトは東に1日行ったとこにある森の中ってことよね。」

リナはレプリカントを背後から抱えていた。
「しっかし・・・。いつも思うんだけど。」
ぷるぷると震えながら、リナ。

「なんですか?」とアメリア。
隣を飛ぶゼルとアメリアに、ぎぎぎっと首を向け。
「どーしていつもいつも、ガウリイを運ぶのはあたしな訳?」
「それ、ガウリイさんじゃありませんよ。」
「そーじゃなくて!いつもの話よ。」
「そーでしたっけ?」
「そーよ!」
「気のせいでしょう♪」
「それで片付けるつもり・・・・?」
「ああっ、ゼルガディスさんっ、リナさんが睨むんですうぅ!」
「ったく。いいか、リナにはボケずにずばりと突っ込むんだ。『リナさんこそぉ、どうしていつも自分から、ガウリイさんを運ぶんですかぁ』?ってな。」
ゼル、拳を小さく握って左右に振りながらお目めをぱちぱち。
リナ、思いっきり脱力。
「な?するとリナのやつ、真っ赤になって何も言わなくなるから。」
「なるほどお♪」
アメリア、どこからかメモ帳とペンを出して、ふむふむとメモる。
「メモるなああっ!」



1日とは、おそらく馬に乗って1日行ったあたりだろうと、ゼルは見当をつけた。
ガウリイを担いで歩いていける男がいるなら別だが、たぶん馬か馬車で運んだのだろうということになったのだ。
目標らしき森が見えてきた。

「いい、あたしが偵察に行ってくるわ。あんた達は待ってて。」
ざくざくと歩き出そうとしたリナのマントを、ゼルが踏んづけた。
「ふぎゃっ!」
びたん!!
「ら、らにすんのよほっ!」
「待て。」
「言葉でそう言ってからにしてよっ!」
「言わせる隙を与えないだろーが。おまいは。」
「うっ・・・」
「偵察はアメリア、お前が行け。」
「は?わたしですか?」
「そうだ。リナに行かせたら、やたら大事になりそうな、イヤな予感がする。」
「あんたは火星人か〜〜〜〜っ!」
「『むむむ、予感がします・・・・』って、何やらせるんだっ!んなまた、若い世代にわからんネタを振るんじゃないっ!」
「てへ♪」
「わかりました。アメリア、いきま〜〜〜す♪」

しゅたたっ。
ぱっ。
しゅたったたっ。
ぱっ。
小走りに走り、おもむろに木の影に隠れ、そしてまた小走りに走り出す。

「あれって・・・。誰か見てたら、おもいっきし怪し〜んじゃ・・・」
「う・・・・う〜〜〜む。」
「ゼル、あんた人選を間違っちゃいない・・・・?」
「う〜〜〜〜むむむむ。」
悩めるゼルの背後には、ぬっと立っているレプリカント。
リナはちらりと見るとため息をつく。
「んっとに・・・。あんなの攫って、どーするってのよ・・・?」


アメリアが偵察から帰ってきた。
森の奥に、柵に囲まれた、見るからにあやしそ〜な掘ったて小屋があるとのこと。
果たして、その中にガウリイがいるのかどうかは、わからなかった。
そこでリナは一計を案じ、ゼルとアメリアとともに、レプリカントガウリイを引き摺って、そっと小屋に近付いた。


「用意はいい?」
「はいっ。道具はばっちりです!」
「おし。ゼル、小屋の方に注意しててね!」
「わかった。」
小屋に近付くと、適当な茂みに隠れ、三人は計画を実行。
「やって。アメリア。」
「はい♪」

アメリアは、レプリカントが頭にくっつけて帰った鶏の羽根を取ると、それでおもむろに、レプリカントの鼻をくすぐり始めた。

こしょこしょこしょこしょ・・・・・・

はあっくしゅん!!

「小屋の中からくしゃみが!」
「やっぱりね。」にやりとリナ。
「ええと、どういうことですか?」
鶏の羽根を手にしたアメリアは首をかしげる。
「そのレプリンカント、ガウリイの動きを真似るのよ。ってえことは、レプリカントに刺激を与えれば、本体であるガウリイにも影響が出るとあたしは踏んだわけ。」
「なるほど♪リナさんってば、冴えてますう♪」
「ふっ。もっとほめてほめて♪」
「馬鹿やってないで、中にガウリイがいるとわかったんだ、次はどうする?」
「馬鹿で悪かったわね・・・・・。とにかく、人質であるガウリイの命が心配だわ。」
リナはもの思わしげに、ふっと視線を外し。
「だから、こうするの・・・・・」



「いきなり火炎球(ファイヤーボール)!
どがあああああん!!

「な、な、なんだっ!!」
「なにがどーしたっ!!」
「何だ、今の爆発はあっ!!」

リナが放ったファイヤーボールは、掘ったて小屋を囲む即席の塀に命中。
燃え盛る炎の中、小屋から数人の男達が飛び出してきた。
「お前はっ!?」
男達が目にしたのは、炎の壁の途切れた空間に、腕組みをしてこちらを不敵に睨み付けている、小柄な少女の姿だった。
「ちょっとちょっと、あんたたちぃ!よくもウチのガウリイを攫ってくれたわねえぇっ。」

「リナさん、リナさん。」
アメリア、リナのマントをくいくいっ。
「何よアメリア、今いいとこなんだから、邪魔しないでっ!」
「あのぅ・・・・小屋まで飛び火してますけど・・・?」
「これの一体どこが、人質の命が心配なんだ・・・・?」

「た、助けてくれえっ!」
「ひいいいいっ!」
その時、ばらばらと小屋から残りの男達が逃げ出してきた。
その中から出てきたのは、黄金色の髪、とぼけた表情、長身の男。
誰あろうガウリイ本人である。

リナ達を見つけると、彼はにぱっと笑い、
「よ、リナ。」と声をかけてきた。
ただし、椅子に全身を縄でぐるぐる巻にされ、かろうじて足の先でちょこちょこと歩いて出てきたのだ。
背中に椅子を背負ったまま。

ぷっ。
思わずリナが吹き出す。

「なによそれっ!?あんた、おかしいよ?」
「ガウリイさんっ!!よく御無事でっ!」
「いやあ、火がついたって見張りも全員逃げちゃったから。そのあとについて、出てきただけだなんだけど。」
「リナ、お前、これを狙ったのか。」思わず尋ねるゼル。
「ふっ。とーぜんよっ。」
「・・・・・そう言われると、全然まったくこれっぽっちも信憑性がないぞ、お前・・・。」ゼル、額に手を当てる。

「あっ!!人質がっ!!」
ようやく、ガウリイが逃げ出したことに気づいた男達は、慌てて取り囲む。
身動きもやっとのガウリイの喉元に、数本の剣の切っ先があてられる。
「ガウリイさんっってばぁ。さっさとこっちに来ればよかったのにいい・・・。」

「さあ!ガウリイなんかを誘拐した理由はなにっ!?」
リナ、腰に手を当てて声を張り上げる。
「オレなんか・・・?」男達に囲まれ、ぼそっとガウリイ。
「ガウリイは黙ってて!あたしは、あんたに聞いてんのよ!」
ひときわ体格も大きく、一番いい剣を持っている男を、首謀者と目をつけたリナはびしっと指差す。
「お・・・・おでは・・・・。」
いかにも人相悪そうな、傷だらけの顔の大男は、リナを見て顔を赤らめた。
「さてはっ!ガウリイが髪が長くて女顔だから、お嫁さんにするつもりで攫ったとかっ!」
びしっ。
「そっ・・・・そったらことは・・・・!」と首領。
「お前な・・・。」と脱力するガウリイ。
「でなきゃ、お姉様になって欲しかったとかっ!」びしびしっ。
「ち、ちが・・・・」
「リナ・・・。」
「さもなくば、死んだお母さんにうり二つだったとかっ!!」
「おでのおっかあは、まだ生きとるだが・・・・」
「リナ・・・、お前、オレを男と思ってないだろ・・・・。」
ガウリイ、疲れたよーに呟く。
「どうなのよっ!はっきり言いなさいよっ!!」
ガウリイを完全に無視し、リナ、首謀者を責め立てる。
「お・・・おでは、ただ・・・・」
男の顔は真っ赤だ。
その時。

火炎球(ファイヤーボール)!

「なにっ!?」
男達の中に、魔道士が隠れていたに違いない。
この種の攻撃が、来るとは思っていなかったゼルやアメリアは、咄嗟に左右に飛んで、これをかわした!
リナは大きく後ろに飛んで、よけようとした。
が!
「リナっっ!!」
囚われのガウリイが叫ぶ!
リナの背後には、ぬべっと立ったままの、レプリカントが!
リナ、レプリカントにぶつかりそれ以上後退できない!
迫る火炎球!



ふわりと、上がる腕。
かかえこみ、しゃがみこむ。
大事な宝物を抱くように。
刹那の瞬間、リナはレプリカントの目を見た。
そして、熱と爆風が襲った。


「リナっ!?」
「リナさんっ!!」
「リナっっ!!」

レプリカントは、熱で溶けていた。
粘土の固まりのようなそれを、アメリアとゼルが必死でかきわける。
ようやく栗色の髪が見え、二人は手を早めた。
「リナ・・・?」
「リナさん、大丈夫ですかっ!」
「ごほっごほっ・・・・・・だ、だいじょぶよ・・・・っ」
リナはよろよろと立ち上がる。
身体中にまとわりつく、レプリカントであった名残り。

「ちっ」
火炎球を放った男がその場を逃げ出そうとする!
「霊縛符(ラファスシード)!」

「氷霧針(ダストチップ)!」
アメリア、ゼルがそれぞれ呪文を放った!
「おうわっ・・・動けな・・・・いて、いて、いてててててててっ!!」
金縛りを受けた男は、その場で身動きもできずに、ゼルの呪文が生み出した無数の氷の針にちくちくと刺されまくる。
いたそ。

すると首領格の男は、思わず他の手下が後ずさるような、鬼気迫る表情でのしのしと歩き出した。
ゼル、アメリア、リナの前に立ち身構える。
が、首領は動けない男の傍に行くと。
どかばきしっ!!
男の頭を思いっきし殴ったのである。
「お前はなんつーことするだっ!リナさんに当たったらどうすんだ、このタコっ!」
ぼかっ。
目が点になっていたゼル、アメリアは思わず呟く。
「リナさん・・・・?」

首領はくるっと振り返ると、その場に土下座した。
「すまね!おでのせいでおめに恐い思いさせちまって!」
「・・・・・へ?」
呆然とリナ。
「実は、おで・・・・」
リナの視線を浴び、首領はぽっと顔を赤らめた。





「ったく。ふざけんじゃないっての!!」
リナは毒舌をやめなかった。
リナに抱えられているガウリイは、それを耳にして苦笑を浮かべている。

首領の話はこうだった。
実は彼は、盗賊の間では伝説に近い、リナの存在に秘かに憧れていたらしい。
何とかして、自分の盗賊の仲間になってもらいたかった。
だがリナは、盗賊殺しとして名高いのだ。
生半可な手では仲間にはなるまい。
そこで、リナの連れを誘拐し、その命と引き換えに、仲間になってもらうことにしたのだが。

「まったく!このあたしが、そんな簡単に盗賊の仲間に、なると思うのかしらね!ぢょーだんぢゃないっての!」
「だからオレを攫ったんだろ。」
「そっ・・・・」
言葉の意味を測ろうとして、リナはぼっと赤くなる。
首領を頭ごなしに叱り飛ばし、その上、ホントに呪文でぶっ飛ばし、怒り心頭という感じでリナはアジトを飛び出したのだ。
怒り狂っていたので、自分からまたガウリイを抱えて飛んでいることを失念している。
飛び立ったリナを見て、ゼルとアメリアが、目くばせしたことにも気づいていない。

「しかし、何であんなものを作って置いていったんだろうな?」
同じく翔風界で飛びながらゼルが言う。
「時間稼ぎってことらしいぜ。しばらくそれでごまかされて、オレが誘拐されたことに気づく頃には遠くまで逃げられるだろうって。」
「その割に近くにいたじゃない。」
「そりゃあ。」
リナに抱えられたまま、ガウリイは胸を張る。
「途中、馬車の中の見張りを三回眠らせたし、扉を破って逃げ出したのも三回。大声で歌を歌ったり、トイレにも何十回も行った。その他にもいろいろと、手間をかけさせてやったのさ。」
「今回は、ただの囚われのお姫様じゃなかったって、言いたいのね・・。」
「は、ははははははは。」
「でも、ガウリイさんを人質に取って、仲間に入るように説得するつもりだったなら、何で逃げる必要があったんでしょう。」
アメリア、首をかしげる。
「思わず反射で逃げちまったんじゃないのか・・・。」ぼそりとゼル。
「あ、それ、納得です。」とアメリア。

「なんかな、あの人、オレを見て青ざめてたぞ。」ガウリイが言った。
「え?どゆこと?」リナが聞き返す。
「さあ。即席のアジトで、根掘り葉掘りきかれたぞ。」
「何を?」
「身長とか、体重とか。生まれはどこだ、とか、得意なものは何だ?とか、いつからリナと一緒にいるんだ、とか、何でだ、とか。それから・・・・」
ふと、思いだしたのかガウリイが黙り込む。
「それから?」
「う〜〜〜〜〜ん。」ガウリイ、腕組み。
「忘れた。」

ぽろっ。
ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ
「わあああっ!!リナ、手を放すなああっ!!」
「ったく。意味深なセリフはいて、結果が忘れた、じゃしょーがないでしょっ!!」
危うく地面に激突する寸前に、リナが急降下してガウリイをつかまえる。
「今度から、大事なことはメモしておきなさい!」
「紙とペン持ってない。」
「わたしのメモ帳貸してあげましょうか?」
アメリア、胸の膨らみから可愛らしいピンクの花柄のメモ帳を取り出す。
ゼル、それを見て慌てて目を逸らす(笑)

「しかしあの場所がよくわかったなあ。」
自分を抱えているリナを見上げながら、ガウリイが言った。
「そりゃあ。あのレプリカントが、あんたの意志通りに手掛かりをくれたからよ。」
リナは、呪文を浴びる寸前の、レプリカントの目を思いだしていた。
それは、とてもよく、似ていた。
本体に。
「やっぱりな。あれ作るのに、オレ、髪の毛抜かれたし。オレとそっくりだったし、なんかつながりがあるんじゃねーかと思って。」
うんうん、と頷くガウリイ。
「えっ!?じゃ、あんた、あのレプリカントが自分の意志通りに働くの、知らなかったの・・・?」
リナは、あっけにとられて、眼下のガウリイを見下ろす。
金色の頭は、ふるっと横に振られた。

「それを知ったのは、あいつがリナをかばった、あの時さ。」























============================おわり。
なんつーか、ギャグです(笑)らぶらぶなくてごめんなさい(笑)
ゼルが言ってた「むむむ、予感がします・・・」は、古いテレビねたです(笑)プリンプリン物語(笑)
ガウリイが言わなかった首領の質問とは、「リナのことをどう思ってるのか。」でした。首領はリナに憧れるだけじゃなく、ホレていたんですね(笑)で、ガウリイを見て不安になっちゃったんです。こいつ、まさかリナさんの恋人!?って(笑)
本来は本文中に入れなくちゃいけないんですが(笑)言い訳の後書きになってしまいました。
小腱反射は膝蓋腱反射と言うそうです。(漢字間違ってたらごめんなさい・汗)
学校の体力測定の時にやった覚えがあります。この反射行動が鈍いと、「脚気」という病気だそうで。しばらく男子の間で「かっけ。」と言って人のひざをトンカチで叩くコント(?)流行りました(笑)


さて、夏は今まっさかりです。
暑さのため、バテている方も多いと思います。
皆さんの健康を願って♪
そーらがお送りしました。

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